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[GDC 2016]FOMOって何だ? 日本のお家芸であるイベント運営型・基本無料ゲームの構造が,GDCで語られる。
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印刷2016/03/16 22:24

イベント

[GDC 2016]FOMOって何だ? 日本のお家芸であるイベント運営型・基本無料ゲームの構造が,GDCで語られる。

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 日本と海外のソーシャルゲームの違いとして,「日本のゲームはイベントで,海外のゲームはPvPで回る」という点が語られる傾向がかつてあった(さもなくば「日本のゲームはガチャ依存,海外のゲームは時間短縮依存」など)。
 だがモバイルゲームの現状を見ると,もはや「海外のゲームだからPvPが中心で,イベントは行われていない」などと言うことはできない。イベントにしてもガチャにしても,海外作品においてそれらを見ることは,まったく珍しくなくなっている。

 それでもまだ,少なくともアメリカにおいては,基本プレイ無料(以下,F2P)のモバイルゲーム内の「イベント」でゲームや課金に刺激を与えるというのは,「事実としてはわかっていても,どうしたら効果的なのか確信が持てない」,さもなくば「そもそもどういう効果があるのかわからない」ものであるようだ。

 F2Pゲームの開発に興味のあるアメリカの開発者にとって,「イベント」はいまどのような理解の段階にあるのか。GDC 2016で行われた講演をもとに,その現状を探ってみたい。


この道はいつか日本が通った道。FOMOを刺激する「イベント」


 結論から言ってしまうと,「Adapting Event Design for Casual F2P Titles」(カジュアルな基本プレイ無料ゲームにおける最適なイベントデザイン)という講演を行ったRunaway社のTim Nixon氏は,自社のゲーム開発において,ディー・エヌ・エーと協力している。そして実際,講演内容の多くは,ディー・エヌ・エーやグリーのような,日本のソーシャルゲームの中心となっていたメーカーあるいはコミュニティで議論されていた「イベント運営の常識」を振り返るような内容となった。

 Nixon氏はまず,モバイルのF2Pゲームにおけるイベントには,3つの特徴があるとする。「限定された期間」に「特別な内容」を「特定のテーマないし物語」と一緒に提供する,というものだ。

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 イベントは,ゲームの収益に対して大きな影響を与える。例えばNixon氏がデザインした「Flutter: Butterfly Sanctuary」という蝶の育成・収集ゲームにおいては,イベント時の収益が全体の6割を超える。イベントごとに売上が跳ね上がるので,定期的にイベントを打つことで,売上全体を伸ばせるのである。

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 またゲームにとっても,イベントには良い効果がある。イベントによってプレイヤーに短期的な目標を与えることができるし,ゲームが活発に動いているという感覚をもたらすこともできるからだ。

 その上で,重要になるのは「欠乏している」という感覚を醸造できるということだ。
 アメリカではSNSによる情報共有が進んでから,FOMOという概念が流通している。これはFear of Missing Outの略で,「何かを見逃してしまうことに対する恐怖」と翻訳できる。FOMOはゲームだけでなく,テレビ番組から飲み会まで,「何かについていけなくなっている」という感覚として,アメリカのインターネット社会では広く見られる現象だ。

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 このFOMOが効果的に機能しているゲームとして,Nixon氏は日本の「ねこあつめ」iOS / Android)を例に挙げた。このゲームでは,プレイヤーがゲームにアクセスしていない間にやって来て,そして去ってしまった猫を「見逃している」ことになる。これに対してプレイヤーは,自分が見逃した猫がどんな猫なのかと想像し,また猫を見逃したことに欠乏感を感じる。
 イベントはこれと同様に,「得られたはずなのに(あるいは得られるかもしれなかったのに),得られなかった」という欠乏感を作り上げる原動力ともなる,というわけだ。

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 また,イベントを行っている(今しか得られないものがある)ということは,プレイヤーがゲームに戻ってくる契機となるだけでなく,そもそもプレイヤーがそのゲームを起動しようというモチベーションにつながる。現代においては,プレイヤーは複数のゲームを端末にインストールしているのが一般的であり,ストアから自分のゲームが選ばれた後も,「起動してもらう」ための競争は続くのである。

 このようにして,イベントはゲームの収益を高める効果を発揮していくことになる。


後付けではなく,ゲームのコアの一部として


 イベントが収益化されるメカニズムを解説した次に,Nixon氏は自身が開発したゲーム2本について,その構造を解説した。1つは先ほど紹介した「Flutter」という,蝶を育ててコレクションするゲーム。もう1つは「Splash: Underwater Sanctuary」で,こちらは「Flutter」の魚版となっている。

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 Flutterは,ランダムに得られる蝶の卵を孵化させ,幼虫を育て,蛹をかえして,蝶に育てるところでループが1周し,ゲーム内通貨が得られる仕組みだ。そのゲーム内通貨を消費することで,プレイヤーはプレイ領域を拡大できる。
 「Flutter」におけるイベントは,「後から付けたもの」ではなく,最初からイベントありきの設計になっている。イベント展開は2〜3年先まで計画されており,計画的な運用が行われている。また「Flutter」には,ガチャも存在している。

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 イベントの運用にあたっては,イベントの難度(およびセールなどの時期)を調整し,プレイヤーにテンポを感じさせるような工夫がなされている。また,イベントの再利用(過去のイベントで獲得できた蝶をときおり再販する)によっても,収益を拡大している。

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 ゲームメカニクスを大幅に見直し,ゲームが前に進んでいる感覚(達成感)や,何が足りないかをはっきりと示す(欠乏感)など,彼が開発した作品は全体的により「わかりやすい」ゲームとして仕上がっている。
 課金トークンの使い先も見通しがよくなっているほか,ガチャがBOXガチャとなっているので,ここも透明性が増している。

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 また,イベント自体も改善されている。「Splash」のイベントは,プレイヤーがそれまで蓄えてきた資産とは基本的に無関係に,新人もベテランも同じ立場でプレイできるものとして設計されている。これによってソーシャル性は向上し,結果,収益も拡大している。


アメリカにおける「イベント運営型」の行方


 さて,日本人の目からは明らかな周回遅れに見えるこの講演だが,来場していた開発者達はメモを取りながら,熱心に講演を聞いていた。これをもって「アメリカの開発者はイベントを中心としたF2Pゲームの設計に対する理解度が低い」と言い切ってしまうことはできないが,この内容が聴衆に対してある程度刺さるくらいには,イベント運営型という考え方が一般化していない,とは言えるだろう。
 ちなみにこのことは,F2Pをテーマとした別の講演(「ドミネーションズ -文明創造-」の開発と運営を振り返る講演)においても見られた傾向で,その講演でも「イベントはとても重要だ」と強調されていた。

「Flutter」の売上グラフ。イベントのたびにグラフが跳ね上がる
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 ただし,この現状については,よく考える必要もある。まず何より,GDCという場において,イベント運営型マネタイズの基本的な考え方が講演されたということ,それそのものの意味を,考えねばならない。これはつまり,イベント運営型という方式はアメリカでも研究されてきたし,今後も研究され続けるだろう,ということだ。

 実際,アメリカ大手開発会社の作品の中には,すでにイベント運営型モデルを採り入れたものもある。
 また,GDCでイベント運営型のモデルが語られているからといって,欧米市場でもイベント運営型がウケるようになったかどうかは,なんとも言えない。先ほど例に出した「ドミネーションズ」の講演でも,「ドミネーションズ」がイベントを定期的に打つことで収益を安定させたのは,アジアでのサービスを開始してからのことであると明らかにされている。

「イベントによってライフタイムバリューを高める」といった懐かしいワードが並ぶ
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 今後,アメリカのモバイルF2Pゲームがどちらに向かって進んでいくかは,あまりはっきりとしない部分がある。実際アメリカでは,「最終的にいくら払うことになるのか分からない基本無料ゲームより,買い切りのアプリのほうが良い」という声が出るくらい,さまざまな事情が日本とは大きく異なっている。
 だがイベント運営型のF2Pゲームが持つロジックがアメリカの開発者の間で共有されていけば,最初からアジア市場を狙ってアメリカで作られたF2Pゲームが,日本でもヒットするという可能性も強まっていく。

 そういう意味でこの講演は最終的に,日本のゲーマーの心を掴むモバイルゲームの「産地」が増えていく,そのステップの1つになるかもしれない。
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