インタビュー
「『聖剣伝説』25th Anniversary Concert」の開催に向け,作曲家の伊藤賢治氏,菊田裕樹氏,下村陽子氏に作曲当時のことを振り返ってもらった
大きく評価された「FF外伝」の楽曲を
どのように捉えていたか
4Gamer:
菊田さんと下村さんは,伊藤さんが最初に作った「FF外伝」の音楽をどのように捉えていたのでしょうか。
菊田氏:
これは有名な話ですが,当時のスクウェアは1タイトルに一人の作曲家と決めていて,誰がどれを担当するかは植松さんが決めていたんですよね。つまりそれは個人のセンスに全部任される半面,責任も個人で取るというスタイルだったんです。
だからほかの人が何をやっているのかは,あまり考えなかったような記憶があるんだけど……。
昔は,CDに添付したアンケートハガキの回答とか,せいぜい社内の評判くらいでしか,ゲームの音楽に対する世間の評価って分からなかったんですよね。
でも私が「LEGEND OF MANA」の曲を作っていた頃は,もうインターネットが普及し始めていたので,世間でいかに伊藤さんや菊田さんの作った曲の評判が高いのかが分かっちゃうんですよ。
だから「聖剣伝説」ファンの思いを裏切ることになったらどうしよう,という心配のほうが大きかったんです。
菊田氏:
それにしては下村先生,個性全開だったじゃない(笑)。
下村氏:
そこはほら,私が菊田さんみたいな曲を作ろうとしても無理だから(笑)。
でも伊藤さんや菊田さんの曲を意識しなかったと言ってしまうと嘘になりますよね。だからと言って意識しすぎるのも違うので,お二人の作った曲をリスペクトする気持ちがあれば,変な音楽にはならないだろうと自分を奮い立たせていました。
伊藤氏:
まあリスペクト云々は置いといて……。
下村氏:
なんで置いちゃうんですか! そこが今の発言の一番いいところじゃないですか(笑)。
伊藤氏:
まあまあ(笑)。
僕は「Sa・Ga2」がありましたけれども,「FF外伝」が作曲家としてのソロデビューでした。そして菊田さんもスクウェアの作曲家としては「聖剣伝説2」が初めてのタイトルです。
でも下村さんは,スクウェアでは「ライブ・ア・ライブ」や「パラサイト・イヴ」などを経て,「LEGEND OF MANA」の作曲を手がけることになりましたよね。ほかのタイトルとどうやって差別化しようと考えたんですか。
下村氏:
これは何度も言っていることですけれども,私は“ファンタジーなRPG”を作りたくてスクウェアに入ったんです。私自身,「FINAL FANTASY」や「ロマンシング サ・ガ」のファンでしたから。
入社後は,私が想像してた“ファンタジーなRPG”をなかなかなれなかったので……その意味では「LEGEND OF MANA」は悲願が叶ったということで,初心に返って「やりたかったことをやろう」「作りたかったものを作ろう」と思っていましたね。
菊田氏:
逆に伊藤先生はどうだったの? 2作めでソロデビューなんて,すごくプレッシャーがあったんじゃないかと思うんだけど。
伊藤氏:
当時は嬉しさのほうが上回っていましたね。「Sa・Ga2」のときは植松さんのお手伝いという意識があって……それにしてはやたらバトル曲を作らされたな,という感じでしたけれども(笑)。
そのあと「聖剣伝説」を一人で任されて,確かにプレッシャーもあったかもしれませんが,「独り立ちできるチャンスが来た」とか「一人でいろいろ試せる」といった嬉しさのほうが強かったです。ネガティブな気持ちは一切ありませんでした。
菊田氏:
ゲーム開発の序盤って,音楽に対する世間からの評判は当然一切ないし,かと言ってチームのスタッフから感想が返ってくることもそうそうない。その中で,孤独に黙々と音楽を作るには,「これだ!」と自信を持って作業を進めるほかなかったんじゃないかと思うんだけど。
伊藤氏:
「どんな色にも染められる!」と思いながらやってました。だからこそ,逆に責任感が多少なりとも生まれて。
菊田氏:
責任を持つという点については,繰り返しだけれど本当にスクウェアの良かったところだよね。僕はほかの会社の経験がないので分からないんだけど,下村先生は前の会社と比べてどう思っていた?
下村氏:
先生はやめてください(笑)。前の会社では,一つのタイトルの作曲を数人で手がけることが多かったんですけれど,その中で音楽をどうするかとか話し合うことはあまりなかったですね。
それよりも最初は,デモ音源を企画担当に聴かせたときとか,実際にゲームに合わせて音楽が鳴ったときのチームの反応が気になりましたね。自分が「これでいいのか」と悩みながら孤独に作ってきたものが,チームの人達に「いいね」と言ってもらえる。それがあって初めて,プレイヤーの皆さんにもいい音楽だと言ってもらえそうだと意識し始めて。これは昔からずっと変わりません。
最初の1曲をほかのスタッフに聴かせるまでは
常に迷いが付きまとう
4Gamer:
下村さんのおっしゃるような「これでいいのか」という迷いは,皆さん経験されているんですか。
下村氏:
菊田さんは,常に「これでいい」と思って作業している感がありますよね。
菊田氏:
確かにそうだけど,迷いかもしれないところはありましたよ。と言うのは,当時のスクウェアは,シナリオも設定も絵もない状態で,音楽担当も含めたスタッフ全員でゼロからゲームを作り上げていたから。そこから設定やシナリオが上がってくるまでに,だいたい半年掛かるんです。その半年間は,自分自身何をやっていいのか分からない。それを迷いと言うなら,迷いですね。
下村氏:
それに音楽は,個人の趣味に合う合わないがありますからね。私がゲームにバッチリ合った曲を作ったと思っても,聴いた人の趣味や感覚に合わなくて「違う」と言われてしまう可能性だってあります。そう考えると,「じゃあどうしよう」という迷いにつながることもありますね。
だから今でも最初の1曲を聴いてもらうときは,新人の頃に曲を提出したときと同じように,「違うって言われたらどうしよう」と思いますね。「ベテランなのに何言ってんの」と思われるかもしれませんが,この気持ちはこれからも永遠に変わらないと思います。
伊藤氏:
自分が良かれと思っていても,他人にとっていいものではないということは往々にしてありますよね。「違う」と言われたら,それに対して別のアプローチでテイク2,テイク3と作っていくわけですが,そもそも「何が違うのか」が明確じゃないと,事態は一気に難しくなります。
下村氏:
余計に迷走することもありますよね。
伊藤氏:
とくに新人の頃はそういった苦労が多かったですね。ただキャリアを積むにしたがって,そのものズバリではなくとも,「この人はこういうものを求めているんだろうな」というベクトルが分かるようになるんですよ。歳は取るもんだな,と思います(笑)。
菊田氏:
昔の「サガ」シリーズの作曲とか,大変そうだったもんね。
伊藤氏:
当時の「サガ」シリーズは作曲家に自由に曲を作らせて,それを河津さん(スクウェア・エニックス 河津秋敏氏)が聴いてからいろんな場面に当てはめていくというスタイルでしたからね。あれは確かに大変でしたが,作曲家としての経験値を得るという意味では,良かったと思っています。
下村氏:
もういい歳だから,そういうツラいのはイヤだなー(笑)。
伊藤氏:
ちなみに最近は,「この曲はこういう感じで」みたいなオーダーが河津さんから来るようになったんですよ。それだと僕のほうからも,「だったらこういうアプローチはどうでしょうか」という提案ができますから嬉しいですね。
4Gamer:
ずっと皆さんのお話を聞いていたいところですが,時間が来てしまいました。最後に,「聖剣伝説」25th Anniversary Concertに期待している人に向けて,聴きどころなどを教えてもらえますか。
下村氏:
この3人の曲で一つのコンサートを開催するというのは初めての試みです。三者三様でありつつも,一つの「聖剣伝説」という世界を作り出すべく情熱を持って取り組んでいますので,ファンの皆さんに喜んでいただける仕上がりになると思います。
残念ながら私は当日,会場に行くことができないんですが,私の作った曲がこのお二人の曲と一緒に演奏されることは決まっていますので,ぜひ当日は,会場にいらして楽しんでください。
菊田氏:
例えば僕の関わった「聖剣伝説2」と「3」のファン層は若干違います。これは「FF外伝」にも「LEGEND OF MANA」にも当てはまって,タイトルそれぞれにファン層は異なるでしょう。でも,シリーズのファンはみんな「聖剣伝説」の世界観が好きだという部分は変わらないはずです。
今回のコンサートも,同じ方向を見ながら,違うものを求める観客の皆さんが集まることになるでしょう。でも,ひょっとしたらそういったバラバラな人達が,音楽によって一つになれるかもしれません。
このコンサートに集まるのは,おそらく小中学生の頃に「聖剣伝説」を遊んで何かしらの影響を受けた人達だと思います。隣の席に座った人は,年齢も出身地も今住んでいるところも全然違うかもしれない。でも子供の頃に「聖剣伝説」を遊んだという共通点がある。このコンサートが,そういった人達同士で共有するきれいな宝物になるとしたら,それは素晴らしいことですね。
伊藤氏:
中野サンプラザのコンサートでは,菊田さんのおっしゃるような,会場が一体となる共有感に浸れたことがよかったという感想をさまざまな年齢層の方からいただきました。これは僕が音楽を手がけたほかのコンサートと比較しても,ことさら強い「聖剣伝説」ならではの傾向です。今回は,その共有感がもっと強まるんじゃないでしょうか。
僕自身としては,シリーズの生みの親である石井浩一さんの考え方の中に,「聖剣伝説」の唯一かつ確固たる根本的なテーマが存在していると感じています。その唯一のテーマがコンサートのオープニングからエンディングにかけてどうつながっているのか,当時「聖剣伝説」が何を伝えようとしていたのか,そして今我々が何を伝えようとしているのかといったところを,オーケストラで演奏される音楽を楽しみながら考えていただけると嬉しいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。
Music 4Gamer #1
「聖剣伝説」25th Anniversary Concert
Supported by SQUARE ENIX
【日時】
2017年3月24日(金)18:00開場 / 19:00開演
※開演30分前よりトークコーナーを予定
※未就学児童入場不可
【会場】
Bunkamura オーチャードホール
〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
【演奏】
東京交響楽団
【指揮】
柴田真郁
【チケット料金】
S席 8500円(税込)
A席 7500円(税込)
B席 6500円(税込)
4Gamer先行限定「真後ろの4Gamer席」 1000円(税込)
※会場3F最後列。25歳以下の方限定席となります
【チケット発売場所】
チケットぴあ http://w.pia.jp/t/seiken ※PC/スマートフォン共通
0570-02-9999
Pコード:316-661
セブンイレブン,サークルKサンクス,
全国のチケットぴあ店舗
イープラス http://eplus.jp/seiken ※PC/スマートフォン共通
ファミリーマート店内端末「Famiポート」
ローソンチケット http://l-tike.com/seiken
0570-000-407(オペレーター対応10:00〜20:00)
0570-084-003
Lコード:32193
Bunkamuraチケットセンター 03-3477-9999(10:00〜17:30)
MY Bunkamura http://my.bunkamura.co.jp/ ※PC/スマートフォン共通
Bunkamuraチケットカウンター Bunkamura 1F(10:00〜19:00)
東急シアターオーブチケットカウンター 渋谷ヒカリエ2F(11:00〜19:00)
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東京音協 03-5774-3030(平日11:00〜17:00)
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