インタビュー
前を向いて試行錯誤する。角川ゲームス 安田善巳社長が語る2016年の展望,そしてリリース予定の3タイトルに込められた挑戦とは
前者の2作はいずれもKADOKAWA GAME STUDIOによる開発で,角川ゲームスの代表取締役社長である安田善巳氏自らが制作総指揮とプロデュースを手がける完全新作タイトルである。そして「デモンゲイズ2」は,2013年1月にリリースされたヒット作「デモンゲイズ」の正統続編で,ファンの期待も高い作品だ。
これらの新作の発売が予定される2016年は,まさに角川ゲームスにとって大きな勝負の年であると言える。そこで4Gamerでは,上記3タイトルの概要や狙い,開発の進捗状況,2016年の展望について,安田氏にじっくりと話を聞かせてもらった。
「GOD WARS 〜時をこえて〜」公式サイト
「√Letter ルートレター」公式サイト
「デモンゲイズ」公式サイト
ゲーム産業の一つの節目となるであろう2020年に向けて
準備を進めていく
4Gamer:
よろしくお願いいたします。
今日はお聞きしたいことがたくさんあるのですが,まずは2016年に創業から8年めを迎える角川ゲームスが次に目指すところを教えてください。
安田善巳氏(以下,安田氏):
今の角川ゲームスは,事業の安定性が高まっており,収益力もそれなりに付いてきました。つまりスタートアップからリスク成長期を経て,安定成長期に入っていると言えます。
そうした中で感じるのは,創業時の危うさと隣り合わせで輝いていた“挑戦者の情熱”を失わずに,今後もやっていきたいということです。僕達ならではのやり方で,ゲームの新しい価値を生み出したり,ゲームの可能性を広げたりしていきたいですね。
4Gamer:
これまでの7年間で,創業時の目標をどれだけ達成できたと評価していますか。
ヒットしたタイトルの続編制作や,新規タイトルのパブリッシングのオファーをたくさんいただけるようになっていることを考えると,この7年間は周囲に鍛えられつつ円熟味を増してきた期間だったと捉えています。
ただ,多くの経験値を得られたのは確かですが,まだまだ成長途上ですから,僕自身,自分に対して物足りない部分があります。最近はとくに自分の視野が狭くなっているので,将来を考えると懸念を感じますね。
4Gamer:
どんなところに視野の狭さを感じているのでしょうか。
安田氏:
僕は経営者という立場ですが,物作りに集中したがる傾向があるので,実際には7割以上開発の現場にいます。お話したとおり,会社としては順調ですから帳尻は合っているのですが,もしかすると「中長期的な会社の方向性を変えなければならない」というミッションが疎かになっているかもしれません。
4Gamer:
安田さんがそこまで現場に関わるのは,それだけゲームに対するこだわりが深いからでしょうか。
安田氏:
こだわりと言うよりも,良いゲームを作らないと仕事が続けられないからです。今や,どんなにゲームの出来が良くても売れないケースは珍しくありません。ビギナーズラックのようなものも,ほとんど期待できないでしょう。
そうなると,まずは良いゲームを作り,そのうえでマーケティングを含めて,最適なタイミングで提供するということをやっていくほかないのではないかと。
4Gamer:
安田さんの考える良いゲームとは,どんなものですか。
安田氏:
やはり触ったときに,素直に「これは楽しい!」と思えるゲームですね。ただ,ここ数年のスマートフォンゲームの影響で,僕の中の基準もそれまでとは大きく変わりました。具体的に言うと,チュートリアルがなくともゲームをスタートできる丁寧な作りで,直感的に遊べて,しかも奥が深いゲーム。そして目立たなくとも,ディレクターの挑戦が垣間見えるゲームということになりますね。
4Gamer:
そうした良いゲームを作るために,安田さんが日々考えていることや試行錯誤していることを教えてください。
安田氏:
開発者としての時間の使い方です。と言うのも,開発責任者としてのスケジュール管理力や見通しの甘さなどによって,あとから後悔することが多いからなんです。物作りに対する自分なりの理想像と現実は,残念ながらかけ離れています。それが目下最大の悩みです。
4Gamer:
それでは少し話題を変えて,日本における今後の中長期のゲーム市場について,どのように予想されていますか。
今の日本のGDPにおけるゲーム産業の比率は約0.1%です。これは僕が考えるに,決して小さな数字ではありません。その一方で,ゲーム産業がほかの産業に与える影響力や波及効果はあまり大きくない。つまり,ゲーム産業はほかの産業との交わりが薄いんです。そこがゲーム産業の弱点かなと。
たとえばロボット産業であれば,医療やサービス分野での利用も含めて米国から多くのオファーがあり,広がりを見せています。しかしゲーム産業に,そういった広がりはありません。
ですからゲーム産業も,もっとさまざまなところに顔を出していくべきだと考え,角川ゲームスでは,先日発表したように日本の各地域社会とコラボレーションしたゲーム作りを始めたわけです。おそらく,そういった取り組みをしていかないと,日本のゲーム産業は2020年頃をピークに緩やかなマイナス成長局面を迎えるのではないでしょうか。
4Gamer:
2020年までの景気が上向いたとしても,それ以降の持続は難しいのでしょうか。
安田氏:
僕個人としては,今の日本の空気感は1985〜1990年頃のそれに近いと感じています。あの当時を振り返ると,日本は内需型のまま経済成長していけるという空想に近い空気感がありました。実態と乖離した空気の中,金融も株式市場も成長していけると信じて疑わなかったわけです。
2020年の東京オリンピックに関連する産業の発展や,そこに向けた取り組みに後押しされている現在の日本の空気感は,当時のそれに近いです。おそらくゲーム産業の将来も,2020年が大きな境目となるでしょうね。そこに向けてきちんと準備しておく必要があります。
4Gamer:
そうした準備の一つが,安田さんのおっしゃる他産業との取り組みということですが,地域振興のほかにどんなものが考えられるでしょうか。
安田氏:
新しい方向性を見出して,実際にやってみる。そうした試行錯誤の中で,見えてくると考えています。まだお話できないのですが,角川ゲームスでは地域社会との取り組み以外にも,水面下でいくつかの企画を進めています。
4Gamer:
分かりました。
ところで安田さんは,KADOKAWAグループ傘下となったフロム・ソフトウェアの代表取締役会長でもあります。今さらなのですが,同社の代表を務めることになった経緯などを教えてもらえますか。
僕が代表を務めることになった大きな理由は,フロムの創業者である神さん(フロム・ソフトウェア 相談役,前代表取締役社長 神 直利氏)よりあったご相談を意気に感じたからです。
フロムがKADOKAWAグループに入ったのは2014年5月ですが,その2年以上前から,僕と神さんとで話し合っていました。それはフロムの将来や世代交代についてであり,もっと言えば開発者である宮崎(フロム・ソフトウェア 取締役社長 宮崎英高氏)を経営者として育てましょうという話だったんです。
僕自身,経営者を12年間務めてきましたし,ゲームの開発についても知っていますから,そのお手伝いをしましょうと。ですから宮崎自身がスタッフを鼓舞し,会社全体を邁進させられるようになることをサポートするのが,僕の仕事です。それが神さんとの約束であり,ひと言でまとめると心意気ということなんです。
4Gamer:
ちなみに安田さんは代表として,フロム・ソフトウェアで具体的にどのような役割を担っているのでしょう。
安田氏:
まずは経営会議や取締役会における決裁ですね。合わせて,今お話したとおり宮崎が社長として会社を邁進させ,軌道に乗せられるように縁の下でサポートしています。
また,角川ゲームスとフロム・ソフトウェアは役員を共通化していますので,両社が一丸となってさまざまな経営上の課題に取り組んでいます。
4Gamer:
いちユーザーとしては,角川ゲームスとフロム・ソフトウェアそれぞれが得意な部分を持ち寄って,一つのタイトルに取り組むのではないかという期待もあるのですが。
安田氏:
そういった意味では,今はっきりとお話できる取り組みはないですね。でも,お互いに新しい目標を決め,それに向かうことを前提とする中で何か一緒にやるのはいいことだと思います。そんな取り組みが生まれることは僕も期待しています。
「GOD WARS 〜時をこえて〜」は
“ニッポンのルーツの再構築”に挑戦
4Gamer:
それでは,ここからは先日発表された2016年発売予定の角川ゲームス各タイトルについてお聞きしたいと思います。
まず「GOD WARS」ですが,古事記とお伽話をモチーフとした世界観が大きな特徴となっていますよね。
安田氏:
本作では,神話やお伽話を取り込んだ古代史を描きたいと考えました。それは,僕自身が超コアな古代史ファンで,この30年で縄文時代に対する歴史的評価が変わってきたことに直面し,それに共鳴したからなんです。
4Gamer:
なるほど。
古代史を振り返ると,一般的には縄文時代から弥生時代,出雲王朝から邪馬台国,そして大和朝廷へという歴史的変遷が知られていますよね。
ゲームに登場する富士国は森の文化を守っており,縄文を象徴しています。そして鉄の文化を広めながら,緩やかな連合国家を作ろうとするのが出雲国(=出雲王朝),中央集権国家を作ろうとするのが日向国(=大和朝廷)です。
これら3つの国は,中国における三国志のように戦いながら栄枯盛衰を繰り広げただけでなく,お互いに良いところを学びながら融合していったのではないか。そこが僕の最も伝えたいことです。そこには日本の成り立ちや文化の源泉があるのではないか,どこかで折り合いを付け,相手の立場で物事を考えられる,そういった日本人の原点があるのではないかと考えたのです。
4Gamer:
歴史的事実を下敷きにしつつ,独自の解釈を加えてゲームの設定として取り入れたというわけですね。
安田氏:
それは僕が作ったお伽話に過ぎないという指摘もあるかもしれません。しかし遺伝子工学の最新の研究によると,縄文人と弥生人が完全に融合し,新しい日本人が生まれたことが示されています。その新たな日本人は,遺伝子工学的に中国や朝鮮半島の人達とも異なっており,むしろチベットやアンダマン諸島(インド)の人に近い。
そのことを踏まえて,なぜ古事記には全体の3分の1を割いて“大和朝廷が滅ぼした出雲国”についてが記されているのか,あるいはなぜ出雲大社のような大きな建造物を遺したのかを考えると,あながち古事記はフィクションではなく,歴史を考察するうえでの重要な資料なのではないかと。そういったことをベースに,「GOD WARS」の世界観と設定,ストーリーを構築していきました。
4Gamer:
安田さんが,そこまで古代史に惹かれた理由は何でしょうか。
安田氏:
僕自身が,国宝に指定されている,島根県にある神魂(かもす)神社の近くの生まれなので,そういった古代の文化と触れ合いながら育ったからではないでしょうか。親から何となく教えてもらっていたことや自然に触れ合っていた文化が,大人になってその地から離れたときに,とても魅力的に見えたんです。
4Gamer:
幼い頃に身近だったものの本質が,日本人のルーツと関係していることに大人になってから気づいたと。
それではゲームに登場する3つの国について,もう少し教えてください。
安田氏:
本来の歴史の流れでは,富士国が最初に栄え,続いて出雲国,そして日向国が台頭します。ただ「GOD WARS」はフィクションですから,紀元2世紀くらいに3つの国が存在していたという設定にしています。
富士国 |
出雲国 |
日向国 |
4Gamer:
富士国にはカグヤ,出雲国にはオオクニヌシ,日向国にはモモタロウと,それぞれ神話やお伽話に紐付く王女や王子が登場しますね。
日本に伝わる神話やお伽話は,大きく3つに分類できます。まず突出しているのは,英雄・大国主の神話ですね。大国主は,いわばスーパースターの色男で,でも女性に弱く,また子どもの頃は力も弱かった。現代で言えば,ルパンIII世のようなイメージです(笑)。
もう一つは,桃太郎や浦島太郎,一寸法師のような英雄像が登場するお伽話です。こちらはストーリーを通じて何かを伝えようとするタイプですね。そして最後は,かぐや姫やコノハナサクヤに代表される女性信仰です。
「GOD WARS」では,これら3タイプの話をうまく歴史の中に組み込もうと考えたんです。
4Gamer:
古代史を描く中で大国主が出てくるのは理解できるのですが,たとえばかぐや姫や桃太郎は,「GOD WARS」の時代にまで,そのルーツを遡れるのでしょうか。
安田氏:
これは僕の推測ですけれども,古事記と個々のお伽話は根っこでつながっていると考えています。
たとえば桃太郎は,犬と猿と雉(きじ)と共に鬼を退治するという話ですよね。これは今の岡山県である吉備国の言い伝えですが,犬や猿,雉は安芸国や備前国など,その周辺の国の人々を指しています。一方,退治する対象の赤鬼は,鉄を精錬しているために顔が赤くなっている人達,また青鬼はちょっと変わった岩などを目印にして,どこに鉱山があるのかを探す人達のことを指しているという説があります。
確かに,そうした話は聞いたことがあります。
安田氏:
それらをザックリまとめると,桃太郎とは大和朝廷のことであり,鉄の文明を持っていた出雲国を滅ぼすということにつながっていくわけです。
このように断片的ではありますが,お伽話は歴史上のエポックメイキングな出来事を後世に伝えるものですから,古事記と重ね合わせてもあながち外れてはいないというのが僕の考えですし,同じような説を唱える学者も少なからずいます。
4Gamer:
誰もが知っているお伽話であっても,その裏には複雑な背景があると。
それでは「GOD WARS」は,古事記のどの部分を取り上げているのでしょうか。
安田氏:
古事記の上巻は出雲神話を中心に書かれており,「GOD WARS」では出雲国の興亡を取り上げています。仮に続編を作る機会があれば,さらにそのあとに続く,邪馬台国から大和朝廷に向かう歴史的な流れも描いてみたいですね。発表会では富士国までのマップを公開しましたが,実はその東にある武蔵国にまで出雲国の文化がおよんでいた……といったところも,ぜひ表現してみたいです。
ゲームのストーリーは,3つの国の王女と王子を中心とする群像劇ということですが,主に誰の視点で物語が描かれるのですか。
安田氏:
メインの主人公はカグヤです。そこにモモタロウとオオクニヌシそれぞれの視点が入り交じってきます。その中で親子兄弟や,対立する国々との関係を描いていくわけです。
4Gamer:
ちなみに,本作に登場するモンスターはどういった存在なのでしょうか。
安田氏:
彼らは,いわゆる荒神(あらがみ)です。荒神は八百万(やおよろず)の神々ですから,もともとは穏やかな存在で,人間と敵対しているわけではありません。ただゲーム中では,人間の行いが良くないことに怒り,懲らしめようとしています。
すでに公開している「火の鳥」はストーリーの根幹に関わるため,すべてをお話することはできないのですが,最後まで存在感のある荒神です。もう一体,今回新たに公開した「狐」は,縄文時代の古き教えに固執しており,カグヤと因縁が深い存在として登場します。
4Gamer:
どちらの荒神の額にも,鳥居のマークが刻まれていますが,その意味するところを教えてください。
安田氏:
日本には縄文時代より,神が降臨する場所として神社を祀る文化がありますが,そこには「神は姿を現さず,かつ鳥居より先には出て行かない」というルールがあります。つまり鳥居は,神の領域と人間の領域の境界線というわけです。
ゲーム中では,人間の行いに怒った神々が鳥居を越えて荒神として人間界に姿を現します。その証として,額に鳥居を刻んでいるというわけです。
火の鳥 |
狐 |
4Gamer:
敵対するモンスターとして登場するのは,荒神だけなのでしょうか。たとえば妖怪などはどうでしょう。
安田氏:
マニアックな話になってしまうのですが,妖怪は仏教の影響を受けている存在なんです。「GOD WARS」は仏教伝来以前の世界観ですから,妖怪は一切出てきません。荒神以外に敵として登場するのは,人間達です。
4Gamer:
ああ,言われてみれば。
ところで「GOD WARS」は,角川ゲームスのタイトルとしては「NAtURAL DOCtRINE」(PS4/PS3/PS Vita)に続くシミュレーションRPGになりますが,再びこのジャンルを選んだことには何か意図があるのでしょうか。
安田氏:
もともとKADOKAWA GAME STUDIOでは,シミュレーションRPGをメインに据えて開発していこうと考えていたんです。理由は,僕自身がシミュレーションRPGというジャンルが大好きだからなんですけど(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。
安田氏:
それだけだと身も蓋もないのでもう少し説明しますと,やはりゲーム開発スタジオを設立するからには,得意分野を持ったほうが良いだろうと考えました。シミュレーションRPGと言うとニッチだと思われる方もいるかもしれませんが,世界的に見ると市場のサイズが大きく,しかもRPGに比べれば競争がそれほど激しくないジャンルなんです。たとえば任天堂さんの「ファイアーエムブレム」シリーズは世界中にファンがおり,ミリオンセラーになっています。
4Gamer:
安田さんがおっしゃるような「GOD WARS」の壮大なストーリーを語るのであれば,RPGでも実現できますよね。何か,シミュレーションRPGのほうが適しているという部分はあるのでしょうか。
安田氏:
歴史を扱うゲームというと,僕の中にはコーエーテクモゲームスさんの「三國志」シリーズや「信長の野望」シリーズのようなシミュレーションゲームのイメージがあるんです。そういう意味では「GOD WARS」もただのRPGではなく,シミュレーションの要素を持たせたほうが違和感がないと考えました。
4Gamer:
分かりました。これまでに公開されている情報を見ると,「GOD WARS」は極めて王道を行くシミュレーションRPGという印象を受けます。その中で,ゲームシステム面でとくに力を入れている部分を教えてください。
安田氏:
やり込み要素です。これまでにリリースされたシミュレーションRPGの名作の伝統を継承しつつ,やり込み要素を盛り込んでいる感じですね。
4Gamer:
そのやり込み要素というのは,職業やスキルの多彩さという部分でしょうか。
安田氏:
そのとおりですが,ほかにもいろいろ用意していますよ。今お話できる範囲だと,僕自身が読めないような名前の武具もたくさん登場しますので,ほかのゲームと違う新鮮な気持ちで受け止めていただけると思います。
4Gamer:
そういった名前もまた,仏教伝来以前のものですよね。
ええ。なので徹底的に調べようとしたのですが,集まった文献があまりにも少なかったんです。そこで次に,仏教を研究しました。つまり何が仏教であるかを理解し,それを使わずに新たに名前を発明すれば,古来の日本文化になるだろうという逆説的なアプローチを取ったわけです。スタッフのミーティングでは「それは仏教だ」「いや違う」みたいな議論が延々と続きましたよ(笑)。
4Gamer:
職業にも,今とはまったく違った呼ばれ方をするものがありますよね。
安田氏:
そこはかなりフィクションを含んでいます。たとえば魔術なんて,そもそも現代にも古代日本にもないものですからね。基本的には,ゲームとしての大きな嘘はあっても,小さな嘘をつかないというアプローチで進めました。
4Gamer:
リリースは2016年予定ということですが。
安田氏:
今のところ変更はありません。情報は順次公開していきますので,ぜひご期待ください。
アドベンチャーゲームの可能性に挑戦する
「角川ゲームミステリー」
それでは「角川ゲームミステリー」と,その第1弾「√Letter」について教えてください。そもそも,なぜ今,アドベンチャーゲームの開発に取り組むのでしょうか。
安田氏:
「√Letter」の舞台は島根県ですが,地域社会を描くにあたって,映画や小説,テレビドラマに近い手法が分かりやすいのではないかと考えたのがその理由です。
4Gamer:
たとえばアドベンチャーゲームだと,背景に映り込むその地域の景色をじっくり見せられる,あるいは地域の特徴を文章でしっかりと伝えられるということでしょうか。
安田氏:
そのとおりです。テレビ番組を見るような感覚で遊んでいただけるようにと。
4Gamer:
それでは安田さんにとって,アドベンチャーゲームとはどういった存在なのでしょう。
僕のアドベンチャーゲーム原体験は,「ポートピア殺人事件」や「オホーツクに消ゆ」でした。また僕自身は,テクモ時代に「DSサスペンス」シリーズを手がけています。それらを踏まえ,今ではアドベンチャーゲームを“人間ドラマを描くジャンル”と定義づけています。
発表会の場でお話したとおり,「√Letter」に関しては人との出会いがきっかけで作り始めたゲームですから,人同士の交流を描いていきます。僕自身,人との交流を味わい,楽しみながらゲームを開発しています。
4Gamer:
こういったテキストを読ませるタイプのアドベンチャーゲームは,国内ではポピュラーですが,海外では徐々に認知が高まってきた段階です。「√Letter」の海外展開を視野に入れたとき,海外市場における可能性についてどうお考えですか。
安田氏:
たとえば「The Last of Us」や「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」のようなアクションアドベンチャーは,3Dグラフィックスやアクション要素がありますけれども,本質的にはテキストベースのアドベンチャーゲームと同じ文法を使って作られていますよね。そういう意味では,「√Letter」のようなゲームもグローバルに通用するのではないかと考えています。
4Gamer:
確かに,プレイヤー自身の選択によるストーリー展開や登場人物に重点を置いているという点で,共通した部分がありますね。
安田氏:
また,海外でヒットしているようなアクションアドベンチャーを作るとなると時間や手間を含め,莫大なコストが掛かります。でもアドベンチャーゲームなら,そこまでのコストが掛からないという事情もありました。
もう一つ,小説やライトノベルなど,本を読むのが好きな人をターゲットにできるという理由も大きいです。この点については,もし機会があればあらためてお話したいのですが,僕は無限の可能性を秘めていると考えています。
4Gamer:
発表会では,「√Letter」の発売地域を全世界としていましたが,日本のほかは,やはり欧米から展開していくのでしょうか。
安田氏:
実は先日行われたソニー・コンピュータエンタテインメントのアジア地域のミーティングで,「√Letter」に最も興味を示してくださったのは上海のチームだそうです。中国の市場には,まだ「√Letter」のようなゲームがないということで,非常に魅力的だというお話があったと聞きました。そういった意味では,アジアに向けた展開もかなり重要だと考えています。
4Gamer:
では「角川ゲームミステリー」の展開についても教えてください。「√Letter」はシリーズ第1弾ですが,すでに第2弾,第3弾の構想はあるのでしょうか。
安田氏:
もちろんです。日本には,目立たないけれど,すごく良い土地がたくさんありますから,どんどん取り上げていきたいです。
とくに「角川ゲームミステリー」に関しては,ビジネス的に大きなリスクを負っているプロジェクトではありませんので,長く続けることが大切だと考えています。
発表会では「ミステリー女優」の存在も明かされました。一人は「√LETTER」のヒロイン・文野亜弥のボイスを演じる日髙のり子さんとのことですが,残る2名はどのような形でゲームに関わるのでしょうか。
安田氏:
それは今後,順次発表していきます。また,すでに公開しているとおり,お三方には「√Letter」以降の今後のシリーズにも関わっていただきます。
4Gamer:
ミステリー女優に日髙のり子さんを起用した理由をあらためて教えてください。
安田氏:
まずはチームのスタッフ全員が日髙さんのファンだったことです。また「√Letter」のストーリーは青春回帰をテーマにしていますから,今やベテランや大御所と呼ばれる方に,再びヒロインを演じていただくと意図に沿ったものになるという狙いもありました。日髙さんにもすんなりOKをいただけましたね。
4Gamer:
発表後の反響はいかがでしたか。
安田氏:
「日髙さんといえば青春ものだよね」という感じで非常に好意的な反応が多く,狙いは当たったと捉えています。
4Gamer:
日髙さんが青春もののヒロインを演じていた頃をリアルタイムで知っている世代となると,すでに30代中盤以降の人達かと思うのですが,「角川ゲームミステリー」のメインターゲットもそういった層なのでしょうか。
安田氏:
そうですね。まずは30〜40代に注目していただきたいと。
4Gamer:
それでは「√Letter」について,いくつか教えてください。本作は安田さんの出身地である島根県を舞台にしており,企画/開発にあたっては,6か月以上におよぶ長期間のロケを行ったということですが。
安田氏:
ええ,ただ僕は自分が好きだからロケに行っていたんです(笑)。もっと言いますと,僕としてはキャラクターデザインの箕星太朗さんや,ディレクターの長谷川(角川ゲームス ディレクター 長谷川 仁氏)に,「島根はこんなにいいところなんだ」という自慢をしたかっただけなんです。半年間で島根県内のスポットを全部で30か所以上行きましたね。
4Gamer:
「√Letter」のプロモーションに関してはどうでしょう。たとえば島根の企業とのコラボレーションなどは考えていますか。
安田氏:
島根の企業からは,いくつか提案を受けています。一番多いのは,ミステリー女優の声優さんと一緒に何かできないかというものですね。あとは,島根のテレビ局から「√Letter」のイベントを一緒にやりたいというオファーもいただきました。
4Gamer:
作家の藤 ダリオさんがシナリオを手がけているということで,ノベライズなどのメディアミックス展開も考えられますね。
安田氏:
そうですね。ゲームを起点として,新たな領域を開拓することも視野に入れています。「√Letter」の発売に向けて,順次発表していけるのではないかと。
「デモンゲイズ2」はヒット作の単なる続編に留まらない
挑戦的な内容に
4Gamer:
続いて「デモンゲイズ2」についても教えてください。このタイトルに関しては,2014年に行ったインタビューで一度うかがっており,このたびようやく2016年発売と発表されたわけですが,ここまで時間が掛かったのはなぜでしょう。
安田氏:
前作の「デモンゲイズ」は,角川ゲームスとエクスペリエンスさんそれぞれのノウハウを持ち寄り,ダンジョンRPGの可能性を広げるというプロジェクトでした。いわば両者が自然体で作ったものであり,それが誰かに評価されたら嬉しいという気持ちで企画/開発を進めたゲームです。
そんな「デモンゲイズ」は,喜ばしいことに思いのほか大きな反響をいただき,セールス本数も事前に予想した以上の大きな結果を残せました。
4Gamer:
「デモンゲイズ」は国内外での総出荷数が,約30万本のヒット作になりましたね。
安田氏:
ええ。しかし,今だからこそ言えますが,その結果には正直なところ戸惑いましたし,ビギナーズラックのようなものだとも感じていました。そのため,少し時間を空け,エクスペリエンスさんはほかのダンジョンRPGを,角川ゲームスは違うジャンルのゲームをそれぞれ作りながら,あらためて「デモンゲイズ」を分析することにしたんです。
4Gamer:
ヒットの要因や,解決すべき課題をきちんと把握しようと。
安田氏:
はい。そして分析して分かったことの一つは,「デモンゲイズ」で初めてダンジョンRPGを遊んだ方が多かったということです。そういった方からは,バトルややり込み要素が面白いという評価をいただきました。その一方で,ダンジョンRPGのコアなファンからは,やり込み要素が足りないという評価をいただいています。
双方の意見を踏まえてどうするかを検討し,ようやく「デモンゲイズ2」の開発に本格的に取り組み始めたのです。
4Gamer:
そうすると,2014年の時点で「デモンゲイズ2」を発表したのは,時期尚早だったのではないかと思うのですが……。
安田氏:
あの時点で,とにかく続編を作ることを宣言してしまわないと,今お話したような分析にまで至らなかったかもしれません。当時,実際に続編に向けた企画を進める中で,そのように自分達を追い込むという意味がありました。
また,もう一つ,続編の制作を発表したら「デモンゲイズ」ファンの皆さんがどんな反応をするのか知りたかったんです。
4Gamer:
なるほど。
それでは「デモンゲイズ2」は,ズバリどんなゲームになるのでしょうか。
間違いなく言えることは,今回も思いっきり挑戦するということです。
インタビューでは3部作構想もお話しましたが,前編と後編に挟まれた中編というような内容ではなく,ダンジョンRPGの歴史に爪痕を残すつもりで,完全な新作としてリリースします。
細かい仕様はあらためて公開しますが,あえて表現するなら「オペラ座のダンジョンRPG」でしょうか。
4Gamer:
オペラ座……ですか。
安田氏:
分かりやすく言うと,スケール感や華やかさにおいても,十分ご満足いただける作品を目指しています。
4Gamer:
核となる「デモン」との関係はどうなるのでしょう。
安田氏:
単純に新たなデモンを増やすだけでなく,新システムに挑戦しています。やり込み要素も,しっかりと用意していますよ。
4Gamer:
下宿での共同生活のシステムを始め,前作で人気のあった部分は継承されますか。
安田氏:
もちろんです。ご好評いただいたコンセプトに関しては,できる限り大切に受け継ぎ,よりパワーアップしてお届けするつもりです。
4Gamer:
発売時期は,2016年のいつ頃になりそうでしょうか。
安田氏:
今のところ,2016年上半期に発売日などの発表ができる見込みです。多くのPS Vitaユーザーの皆さんに手に取っていただけるような発売日を検討しています。
4Gamer:
続報を楽しみにしています。
それでは今回のインタビューの最後に,あらためて2016年における角川ゲームスの抱負をお願いします。
安田氏:
2016年は,新たな方向性を見出し,新たな角川ゲームスをデザインしていく年になります。その中で,今日お話してきた2016年発売予定の3タイトルをしっかり完成させ,良い形で皆さんにお届けしていきます。ぜひ2016年の角川ゲームスにご期待ください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「GOD WARS 〜時をこえて〜」公式サイト
「√Letter ルートレター」公式サイト
「デモンゲイズ」公式サイト
(2015年12月7日収録)
- 関連タイトル:
GOD WARS 〜時をこえて〜
- 関連タイトル:
GOD WARS 〜時をこえて〜
- 関連タイトル:
√Letter ルートレター
- 関連タイトル:
√Letter ルートレター
- 関連タイトル:
デモンゲイズ2
- この記事のURL:
キーワード
(C)2017 KADOKAWA GAMES
(C)2017 KADOKAWA GAMES
(C)2015 KADOKAWA GAMES
(C)2015 KADOKAWA GAMES
(C)2015 KADOKAWA GAMES/Experience Inc.