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そうだ アニメ,見よう:第130回は「スーパーカブ」。トネ・コーケン氏原作の“何もない”少女とバイクが紡ぐ青春物語
1950年代に誕生し,その優れた耐久性や燃費で世界最多の生産台数を誇るオートバイ「スーパーカブ(Super Cub)」。最近では少なくなってきたが,いわゆるラーメン屋の出前などで見かけるアレである。その名作バイクをモチーフにした,トネ・コーケン氏原作の小説「スーパーカブ」(角川スニーカー文庫刊/既刊7巻)のアニメ化作品が,2021年4月にスタートしている。
というわけで,「そうだ アニメ,見よう」第130回は,少女とバイクが紡ぐ青春物語「スーパーカブ」。アニメ制作はスタジオKAI,シリーズ構成・脚本は根元歳三氏が担当。監督は「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」や「18if」の藤井俊郎氏が務めている。
「スーパーカブ」
山梨の高校に通う女子高生の小熊(CV:夜道 雪)は,両親も友達も趣味もなく,何もない日々を送っていた。通学にはママチャリを使っていた小熊だったが,ある日,一念発起して中古の“スーパーカブ50”を手に入れる。
原付免許を取り,バイクショップの店主にあれこれレクチャーされた小熊は,おっかなびっくりバイクに乗り,初めてのバイク通学を始める。深夜のコンビニへスーパーカブで足を運び,ガス欠でパニくったりするが,それすら新鮮で,ちょっと冒険した気分になる小熊だった。
そんな小熊に,ある日クラスメイトの礼子(CV:七瀬彩夏)が声をかけた。スーパーカブを見せて欲しいという礼子に,困惑しながらも「放課後なら」と渋々承諾する小熊。実は,礼子自身も郵政カブに乗る“カブ仲間”だったのだ。
これをきっかけに,昼食を一緒にとるようになる2人。その後も小熊のカブに収納箱を増設したり,風よけのゴーグルを手に入れたりと,2人で行動を共にするようになる。
そして,スーパーカブに乗り始めて初めての夏。礼子は夏休みにでっかいことをしたいと言い,小熊は学校書類の運搬業務をすることに。初めてのアルバイトを前に,小熊はオイル交換をするため再びバイクショップを訪れる。
スーパーカブ1億台記念作品
ホンダのスーパーカブは,2017年10月時点で1億台という,乗り物の1シリーズとして世界最多の生産&販売台数を記録しているバイクだ。本作は,そんなスーパーカブの“1億台記念作品”と銘打たれた作品で,ホンダこと本田技研工業の全面的な協力・監修により,部品の1パーツからエンジン音にいたるまで忠実に再現されているという。
とはいっても,主人公となるのは,ごく普通の女子高生。初めて乗るバイクにドキドキしながら,制限速度以下のスピードでゆっくり走る彼女は,スピードに酔いしれるわけでなく,マニアックな改造に手を出すわけでもない,どこにでもいる“バイク初心者”だ。
作中では,バイク初心者の少女・小熊の目を通して,道路で自動車に抜かれるときの恐怖感や,ガス欠の戸惑い,ちょっとだけスピードを上げたことで感じる高揚感など,バイク乗りの“あるある”を詰め込んでいる。ふとした1シーンに,かつての自分を思い出し,懐かしさを感じる人も多いはず。
ありふれたバイク,スーパーカブを手に入れたことをきっかけに,少しづつ成長していく少女の姿を描いたのが本作「スーパーカブ」なのだ。
“何もない少女”がヒロイン
物語は,テレビはおろか漫画や小説といった娯楽がまるでない小熊の部屋からスタートする。昼食には毎日,冷たいままのレトルト食品を食べるという切り詰めた生活をしている小熊には,両親もいなければ,近しい親類もいない。お金もなければ,礼子と知り合うまでは友達すらいなかった。なぜそんな“何もない”生活なのか。
その原因は,今のところ明らかにされていないが,スーパーカブを手に入れるまでの小熊の生活が,まさに“灰色の世界”であったことは想像に難くない。
本作では,そんな彼女の感情の動きをカラーグレーディングという手法(実写映画などで映像の色を調整する手法)で表現し,モノクロの世界が徐々に色を取り戻していく様を画面の色で演出している。
口数が少なく,表情も乏しい小熊が,スーパーカブに乗った時だけ楽しげに笑い,その風景が色鮮やかに変化する。極力抑えられた劇伴曲に,ドビュッシーをはじめとしたクラシックを使用しているのもニクイ演出だ。“ただ少女が笑っただけで,なぜこんなに胸が詰まるのだろう”と思っていたが,こうした制作サイドのこだわりが本作の独特の世界を生み出しているわけだ。
独特の空気感に癒される
“バイクと少女”という組み合わせは,これまでの数多くアニメやコミックなどで取り上げられてきたが,本作はそれらとはまたひと味違う作品だ。エネルギッシュな少女達の活動ではなく,小熊という一人の少女の生活を,独特の空気感で描いている。
それは,ゆったりとした田舎のスローライフだったり,他人と関わらない小熊の距離感だったりがもたらしているとも言えるが,ともあれ,その空気感は雑然とした都会の喧騒や人間関係に疲れた心を癒してくれる,一服の清涼剤となりそうだ。
バイクファンはもちろん,バイクに乗ったことのない人,そして慌ただしい生活に疲れ気味の人にオススメの作品だ。
TVアニメ「スーパーカブ」公式サイト
TVアニメ「スーパーカブ」公式Twitter
放映データ |
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2021年4月〜 |
キャスト | |
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小熊:夜道 雪 | |
礼子:七瀬彩夏 | |
恵庭 椎:日岡なつみ |
スタッフ |
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原作:トネ・コーケン/イラスト:博(角川スニーカー文庫 刊) |
監督:藤井俊郎 |
シリーズ構成、脚本:根元歳三 |
キャラクターデザイン:今西 亨 |
色彩設計:大西峰代 |
美術設定:多田周平 |
ボード制作:横山淳史 |
背景:草薙【KUSANAGI】 |
3DCG制作:スタジオKAI |
3DCG制作協力:TypeZERO |
2Dデザイン・特殊効果:チップチューン |
撮影監督:浅川茂輝 |
撮影:Raretrick |
編集:齋藤朱里 |
音楽:石川智久・ZAQ |
音楽制作:バンダイナムコアーツ |
協力・監修:本田技研工業株式会社 |
制作:スタジオKAI |
製作:ベアモータース |
■Blu-ray情報
スーパーカブ Blu-ray BOX
2021年8月25日(水) 発売予定
品番:KAXA-9840
価格:25,000円(税抜)/27,500円(税込)
【BD2枚+DVD1枚 3枚組】
収録内容:全12話
毎回特典
(1)キャラクター原案:博描き下ろし三方背BOX
(2)キャラクターデザイン:今西亨描き下ろしデジジャケット
(3)特製ブックレット
・原作:トネ・コーケン書き下ろし小説
・コミカライズ:蟹丹メッセージ入り描き下ろしイラスト
(4)オーディオコメンタリー(第1話・第12話)
(5)DLカード(劇中音楽+EDテーマ収録)
(6)映像特典
・ロケハン映像
・PV・CM集
・ノンテロップOP&ED などを収録
※商品仕様・価格などは予告なく変更になる場合がございます。
(C)Tone Koken,hiro/ベアモータース
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