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PUBGの生みの親は,Modderからいかにしてゲーム開発者になったのか。GDC 2018の講演をレポート
ある意味でゲームに新たな1ジャンルを確立したとも言えるPUBGだが,その根底にはMODがある。GDC 2018において,PUBGへとつながっていくMODを開発したModderであり,いまではPUBG CorporationのCreative Directorを務めるBrendan “PlayerUnknown” Greene氏が,「PLAYERUNKNOWN: FROM MOD CREATOR TO CREATIVE DIRECTOR OF PUBG」と題された講演を行った。
もともとはリアル志向のFPSが好きなゲーマー
ブラジルで暮らしていたGreene氏は,もとからゲームの開発者を目指していたわけではなかった。彼はDJをしたり,写真を撮ったり,あるいはチラシのデザインをしたりといった仕事を生業にしていた,いちゲーマーだったのだ(ちなみにチラシのデザイン仕事で得たノウハウは,MODを作っていくにあたって役立っているという)。
ゲーマーとは言っても,氏曰く「ものすごいコアなゲーマーというわけではなかった」とのこと。
ある日Greene氏は,「DELTA FORCE: BLACK HAWK DOWN」というFPSに,すっかり魅了されてしまった。
この作品はいわゆるリアル寄りのFPSで,弾丸の弾道もクリアすべきミッションもリアル志向だった。またマップエディットが可能だったり,MODフレンドリーだったりといった側面も,氏の心を強く捉えたという。
「DELTA FORCE: BLACK HAWK DOWN」がゲームとして下火になってからは,Greene氏は「America's Army」の2と3にハマる。これまたリアル志向のFPSだが,氏はとくに「リスポーンがないこと」「ミスと結果の関係がはっきりしていること」に夢中になったそうだ。
そんなGreene氏にとって大きな転機となったのは,「DayZ」との出会いだ。
「ARMA 2」のMODとして作られていた「DayZ」は,PvPとPvEが一体化した,オープンワールドのゾンビサバイバルと言える。プレイヤーはゾンビから生き延びねばならないが,ほかのプレイヤーという脅威からも生き延びねばならない(ときに協力したり,裏切ったりもする)。
オープンワールドにおいてたくさんのプレイヤーとインタラクションしながらゲームが進んでいく「DayZ」に,Greene氏はどっぷりとハマったという。
だがGreene氏はここで,「DayZ」をひたすら遊び続けるコアゲーマーというところからも,少しズレていくことになる。
映画「バトル・ロワイアル」を参考にMODを開発
「DayZ」にハマったGreene氏は,MODを作ることにした。そもそも「ARMA 2」のMODである「DayZ」のMODというのも不思議な感じではあるが,それはともかく,氏はPvPにフォーカスした「DayZCHERNO+」を作り上げる。このMODは人気を博し,Greene氏はModderとしてさらに深入りしていくことになる。
しかるにこの頃,世界では「ハンガー・ゲーム」が大流行していた。大雑把に言えば,抑圧された民衆から選抜された24名が殺し合いをする(バトルロワイヤルをする)という筋書きのテレビドラマで,映画化もされ,世界的なムーブメントにまで広がっていたのだ。
当然ながらこの流れは「DayZ」のMODコミュニティにも押し寄せ,「ハンガー・ゲーム」的なゲームができるMODがリリースされていった。
そんな中,Greene氏もまた,「ハンガー・ゲーム」型のバトルロワイヤルMODを作り上げる(参加プレイヤー数は24名だ)。当時すでに存在していた「Survivor GameZ」というバトルロワイヤルMODを踏まえ,さらに映画「バトル・ロワイアル」からもイメージを取り込んだこのMODは,3〜4か月の開発期間の後,「DayZ Battle Royale」としてリリースされた。
このMODについてGreene氏は,「ウケた。ヤバいくらいウケた」という。リリース直後は,サーバー関係で技術的なトラブルも起こり,Modderであっても技術者ではないGreene氏は,かなり必死になって対応したと話していた。
「PLAYERUNKNOWN」として次々にMODをリリース
大きな成功を収めたGreene氏だが,「DayZ」がスタンドアロン化していくなかで,Modderとしての活動の軸足を「ARMA 3」へと移していく。そこで氏が作ったのが「ARMA 3 Battle Royale」だ。この段階で,PUBGの原型はほぼ仕上がっていたと言えよう。
「ARMA 3 Battle Royale」の作成にあたっては,Greene氏は「ARMA3」コミュニティの強さに支えられたと振り返っていた。ARMAシリーズは伝統的にMODが豊富で,ファンコミュニティも巨大だ。1つのMODを長期にわたって開発・メンテナンスするグループも多く,コミュニティ全体で「ARMA3」を楽しみ,支えているという状況がある。
この巨大かつ知見に満ちたARMAのMODコミュニティの協力を得ながら「ARMA3 Battle Royale」の開発を進めることで,Greene氏は「イテレーションを迅速に,多数重ねることができた」と語っている。コミュニティの規模が大きいということは,つまりテストプレイヤーも迅速かつ豊富に確保できるということであり,MOD開発にとってこれは大きなプラスとなるというわけだ。
その後もGreene氏は「PLAYERUNKNOWN'S STREET FIGHT」や「PLAYERUNKNOWN'S BATTLE ROYALE WAR」といったMODをリリース。巨大な都市マップを提供してみたり,戦車などの車両を投入してみたりといった形で,さまざまな試みを繰り返していった。
ちなみに,この時期のGreene氏は「ぶっちゃけると無職」であり,親に「あんた何してんの!」と聞かれたときは「ARMA 3のMOD作ってるんだ」と答えるしかなかったという。
Blueholeからの熱烈な勧誘でPUBGに着手
親御さんの手前では苦しい問答をするほかなかったGreene氏だが,この頃から徐々にプロのデベロッパとの接触が増えていく。
最初のコンタクトは「H1Z1」で,これは氏からコンタクトしたそうだ。「H1Z1」開発チームはGreene氏が「ARMA 3」で作っていたMODに関心を持っていたようで,やがて「H1Z1」にもバトルロワイヤルモードが加わることになる(「H1Z1」はゾンビサバイバルとして作られたものが,2016年に「H1Z1: Just Survive」と「H1Z1: King of the Kill」に分離している。後者がバトルロワイヤルモードだ)。
「H1Z1」のチームとは,最終的に物別れで終わってしまったGreene氏だが,この頃からすでに「バトルロワイヤルは絶対にすごいeスポーツのジャンルになる」と確信しており,TwitchCONでもそのように熱弁している。昨今のPUBGのeスポーツとしての成功を見ると,この確信は正しかったと言えるだろう。
それからもバトルロワイヤル系のゲーム開発に携わっていたGreene氏だが,あるとき韓国のBlueholeから「バトルロワイヤルゲームを作りたいと,10年以上夢見ていた」と語る熱烈なラブレターが届く。
かくしてBluehole社に加わったGreene氏は,PUBGの開発に本格的に携わっていくことになる。
ちなみにBlueholeは当初「9か月でPUBGを作る」という目標を掲げていたそうで,開発はなかなか過酷なものとなったという。Greene氏としても初めての「ガチでゲームを作る現場」であり,いろいろと慣れないことも多かったようだ。
一方でBlueholeは「とても水平な組織」を有しており,「バトルロワイヤルと一口に言うのは簡単だが,どんなバトルロワイヤルにするのか」という困難なビジョンの共有にあたっても,うまく乗り切れたという。Greene氏としてはPUBGを「今までとは違ったバトルロワイヤルにしたい」という思いがあり,最終的にそれは「リアル志向なバトルロワイヤル」というチャレンジとして結実していると話していた。
また,忙しい中でもDevlogの更新は自分達の手で行うようにしていたそうだ。このことについてGreene氏は「コミュニティとの接続は絶対に欠かせない。できる限りたくさんのプレイヤーとつながっていなくてはならない」と語る。
そんなこんなでリリースされたPUBGが大成功を収めたのは,詳しく語るまでもないだろう。小さな開発チームで始まったが,今では300人のスタッフを抱える会社へと成長している。
そんなGreene氏が次の目標にしているのは,「バトルロワイヤルという文化を作る」ことだという。「これには長い時間がかかるというのは,分かっている。けれどこの新しい文化を,世界に広げていきたい」と語っていたが,もしかしたらこの言葉は,「MOD文化」を守り育て続けているMODコミュニティの一員としてのものなのではないかと筆者は思う。
「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」公式サイト
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