イベント
[SPIEL’16]心を鷲づかみにされる戦車ゲーム「TANKS:Panther vs Sherman」プレイレポート。シンプルなルールで激しい戦車戦を再現
そんな中,現代日本人の心をストレートに鷲掴みにする戦車戦ゲーム「TANKS:Panther vs Sherman」(以下,TANKS)をSPIEL'16の会場で見つけたので紹介したい。開発はニュージーランドのデベロッパ,Gale Force Nineである。
「TANKS:Panther vs Sherman」公式サイト(英語)
4Gamer内「SPIEL’16」記事一覧
簡単なルールで,エキサイティングな戦車戦を楽しむ
TANKSは,基本的に1対1でプレイする対戦型のタイトルだ。
各プレイヤーは1両以上の戦車を操り,基本的には対戦相手がコントロールするすべての戦車の撃破を目指す。もちろん,使うフィギュアは非常に緻密に作られたミニチュアだ。
なお,最も重要なことなので最初に補足しておくと,「TANKS: Panther vs Sherman」はこのシリーズの基本セットに相当し,パンター1両とシャーマン2両のみが入っている。これ以外の戦車はブリスターパックで提供されているので,欲しい戦車があればそちらで入手するのがよいだろう。
また,どうしても戦車フィギュアでなくてはプレイできないというわけでもなく,紙のコマで代用しても良いし,お菓子のおまけについているような戦車フィギュアでも良い。あるいは若干の追加工作は必要になるが,スケールを統一したプラモデルでのプレイも可能だ。
TANKSのルールは実にシンプルだ。
戦車にはそれぞれ,4つの能力値と,1つの特殊能力が与えられている。
能力値は「イニシアティブ」「砲撃力」「装甲」「耐久力」で,特殊能力は戦車によって異なるが,移動しながらの砲撃が得意だったり,ほかの戦車より機敏に移動できたりといった「いかにも」な能力である。
まず,イニシアティブが低い戦車から先に移動を開始する。III号突撃砲やSU100といった駆逐戦車のイニシアティブは低く,シャーマンやパンターといった中戦車のイニシアティブは高い。もし「World of Tanks」をプレイしているのであれば,視界と機動性に基づいた値と考えてもらえれば良いだろう。
なお,移動については後ほど解説する。
全車の移動が終了したら,射撃に入る。
射撃は基本的に,攻撃する戦車とターゲットとなる戦車の中央を結ぶ線が障害物で遮られていなければ,「射線が通っている」と判断される。戦車の一部が障害物からちょろっと出ているだけでは,有効な射撃を行えないというわけだ。
射撃の成否はダイスを用いて判定する。
攻撃側は,砲撃力に等しい数の6面体ダイスを振る。4以上が出たダイスは「ヒット」となる。
防御側は,装甲に等しい数の6面体ダイスを振る。このとき射撃側が移動していれば,このターンに移動回数(最大で2)に等しい数のダイスを防御ボーナスとして得られる。加えて,防御側がこのターンに移動した回数(最大で2)に等しいだけの防御ボーナスも付く。移動しながらの射撃は命中しにくいし,目標が移動しているときは命中させにくく,というわけだ。
さらに防御側には,防御ペナルティが発生する可能性がある。戦車の側面〜背面から攻撃を受けた場合,−1のペナルティを受けるのである。
防御側も攻撃側と同様,装甲+防御ボーナスに等しい数のダイスを振り,4以上が出たダイス1つごとに攻撃側の「ヒット」を無効化する。このようにして無効化できなかったぶんの「ヒット」がダメージとなり,砲撃を受けた戦車はヒット数に等しいダメージを受けることになる(ダメージはマーカーで記録する)。ダメージが耐久力以上になると,その戦車は破壊される。ないしは脳内で白旗を補完してもよい。
攻撃にはまた,「クリティカルヒット」がある。攻撃側が判定で6を出すと,その「ヒット」は「クリティカルヒット」になるのだ。
クリティカルヒットによって何が起こるかはカードで判定され,「履帯が破損して移動不能」「エンジンが炎上」といった,もらう方にとってみるとありがたくない効果が満載となっている。
なおクリティカルヒットは,防御判定で6が出れば,6が出た個数だけ打ち消せる。例えば攻撃側が4ダイスを振って2・3・5・6を出した場合「2ヒット(うち1クリティカル)」となるが,防御側が4ダイスで「3・3・4・6」を出せばクリティカルヒットは相殺される。逆に言えば,「ヒット数は打ち消したが,クリティカルヒットの効果だけは残る」という可能性もある。
すべての射撃が終わったら,修理判定を行う。クリティカルヒットによって受けた特殊な損害(移動不能など)のうち1つ(のみ)に対してダイスを振り,4以上が出ればその損害は修理される(ただしクリティカルヒットによって発生したダメージまでは直らない)。
修理フェイズが終わったら,再びイニシアティブの低い戦車から順番に移動を開始する。これを繰り返して,敵戦車の全滅を目指すのである。
移動用のゲージに凝らされた工夫
本作が面白いのは,「移動」に工夫が凝らされている点だ。
まず,非常に大胆なことに,本作においては各車両に対して移動力の差を設定していない。「それでは高速機動できる戦車にメリットがないのでは?」と思うかもしれないが,そういった小回りの良さはすべて「イニシアティブ」で表現されている。そして実際,本作においては「後から動ける」ことは,どこまでも大きな意味を持つ……遮蔽が一つあれば,敵戦車から射線が通らないところにほぼ確実に逃げ込めるのだ(ちなみに遮蔽がある戦場において先手で移動すると,冗談抜きで後手戦車は絶対に攻撃されないポジションを確保できるので,真面目に勝負するときはターン数制限などをつけても良いだろう)。
その上で,移動に使うゲージがまた面白い。
移動ゲージは,ぱっと見るとこの手のアクチュアルゲームによくある,ただの定規だ。だがこの定規,先頭部分が矢印状になっている。各プレイヤーは戦車をゲージの長さぶんだけ移動させたあと,戦車を矢印が向いている方向のままで移動を終了させるか,それとも矢印の底辺にそって90度回転させて移動を終了するか,どちらかが選べる(どちらかしか選べない)。
たったこれだけの工夫なのだが,実際にプレイしてみると,これがなかなか効いてくる。移動先での回頭が90度単位でしか行えないため,移動先で無駄に側面を晒さないようにするためには,適切な移動ルートを考えねばならないのだ。結果的に,戦車の旋回半径のようなものがうまく表現される。
一方で,これがただ面倒なだけのルールになっていないのも評価が高い。というのも動き始める段階においては,360度自由な方向に移動を開始して構わないのだ。要は超信地旋回をして(あるいは信地旋回をして)から移動を開始している,という考え方である。
ちなみにゲージの長さはそこまで長くないので,一般的な日本の家庭でも,4人がけできる食卓くらいの広さがあれば十分にプレイできる。無論,家が広いというのは,この手のアクチュアルゲームにおいては常に正義だが。
大胆な省略とピリリとした誇張が効いた好ゲーム
ちょっと面倒そうに見える本作だが,随所に適切な誇張と省略が効いているため,実にスピーディな作品となっている。慣れが必要だとすれば,防御側が振るダイスの数を把握するところくらいだろうか。戦車の特殊能力によって防御側が得られるボーナスが変わったりするので,とくに最初は把握しにくいのだ。
ともあれ,普段はユーロゲームしかプレイしないという人であっても,本作のルールはすぐに飲み込めるだろう。というか本作より複雑なルールを有するユーロゲームは枚挙にいとまがない。
またこれ以外にも,本作には「ヒーロー搭乗員」のルールがあったりもする。まあなんだ,現代日本の我々が戦車戦を再現するゲームにおいて「やりたいこと」は,本作でだいたいできる,ということだ……若干の工作や,場合によっては戦車パラメータの自主的な設定などは必要にはなるだろうが。
戦車単体を扱うゲームというのであれば,現状ではWorld of Tanksを越えるタイトルとなると,かなり難しい。だが複数の戦車を指揮して戦うとなると,まだまだボードゲームにも利がある。
本作は1対1での対戦を前提とした作品だが,担当する戦車を分割して2対2や3対3のチーム戦にするのは,いたって簡単なことだ。本作の場合,各戦車はポイントでレーティングされており,ポイント合計が等しくなるようにチームを編成すれば戦力バランスがとれるようにもなっている。
フィギュアを揃えるのに若干のお金がかかるが,たくさんの戦車がぶつかり合う大戦車戦を指揮する醍醐味を味わいたいのであれば,本作は良い選択肢の一つとなるだろう。
TANKS用追加戦車のブリスターパック。プレイするにはほどよい大きさだ。日本なら「ワールドタンクミュージアム」のフィギュアを使っても良い(限りなく入手困難だが) |
:ボックスの裏書き。何度読んでも,フィギュアはシャーマン2両とパンター1両しか入っていない |
「TANKS:Panther vs Sherman」公式サイト(英語)
- 関連タイトル:
TANKS:Panther vs Sherman
- この記事のURL: