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オーバー16コアCPU頂上決戦「Core i9-10980XE」対「Ryzen Threadripper 3970X/3960X」 ゲームが速いのはどれだ?
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印刷2019/12/07 00:00

レビュー

オーバー16コアCPU頂上決戦。ゲームが速いのはどれだ?

Core i9-10980XE
Ryzen Threadripper 3970X
Ryzen Threadripper 3960X

Text by 米田 聡


 2019年11月30日,IntelとAMDから,High-End Desktop(HEDT)向けCPUの新製品が発売となった。Intelから登場したのは,LGA2066プラットフォームに対応するCore Xシリーズの「Core i9-10980XE Extreme Edition(以下,i9-10980XE)。AMDからは,Zen 2マイクロアーキテクチャを採用する「Ryzen Threadripper 3970X以下,TH 3970X)と「Ryzen Threadripper 3960X」(以下,TH 3960X)の2製品である。

Core i9-10980XE(左)
メーカー:Intel
実勢価格:13万8000円前後(税込,※2019年12月7日現在)
Ryzen Threadripper 3970X(右)
メーカー:AMD
実勢価格:25万8000円前後(税込,※2019年12月7日現在)
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 理解している読者も多いだろうが,HEDT向けCPUは,必ずしもゲーマー向きとは言えない。極めて高価なわりにゲーム性能はそれほど高くないので,ゲーム用途だけを目当てにHEDTを導入しようというのはナンセンスだ。
 しかし,仕事や趣味でHEDTを必要として,ついでにゲーム性能も気になるという人はいるはずだ。また,実況動画編集などのために高いマルチスレッド性能が必要というゲーマーもいるだろう。HEDT向けCPUとデスクトップ向けCPUの間に,どの程度の性能差があるか知りたいかもしれない。

 そこで今回は,11月末に登場したの3種類のプロセッサを揃えて,そのゲーム性能を定番のテストで調べてみた。はたして,新しいHEDT向けのCPUは,ゲーム用途にも十分な性能を発揮できるのだろうか。


LGA2066向けの新製品 Core i9-10980XE


 各プロセッサの説明に先立ち,今回のテストのために用意したCPUの主なスペックを表1にまとめておいた。先に説明してしまうと,比較対象には第2世代「Ryzen Threadripper 2990WX」(以下,TH 2990WX)と,16コア32スレッド対応のデスクトップPC向けCPUである「Ryzen 9 3950X」を用意している。

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 表1の順番どおり,まずはi9-10980XEを見ていこう。といっても,この製品について,語るべきことはそれほど多くない。

 i9-10980XEは,LGA2066プラットフォーム向けに発売されたCore Xシリーズの最上位モデルとなるプロセッサで,Cascade Lakeアーキテクチャを採用する開発コードネーム「Cascade Lake-X」と呼ばれている。
 Cascade Lakeアーキテクチャは,前世代に当たるSkylakeアーキテクチャの改良版とでも言えるもので,14nm++プロセスで製造しつつ,動作クロックの向上を計ったと言われている。
 また,Cascade Lakeベースのサーバー向けXeonシリーズは,「3D XPoint Technology」を採用した不揮発性メモリモジュール「Optane DC Persistent memory」(以下,Persistent Memory)をサポートするアーキテクチャであると,Intelはアピールしている。同社は,2019年9月に行ったイベントにおいて,「2020年にはワークステーションでPersistent Memoryを使えるようにする」と主張していたので,Cascade Lake-Xでも利用できるようになるのだろうか。

i9-10980XEで確認したCPU-Zの表示
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 そんなCascade Lakeアーキテクチャを採用するi9-10980XEは,18コア36スレッド対応のCPUである。LGA2066向けの18コア36スレッド対応CPUとしては,2017年にSkylakeアーキテクチャベースの「Core i9-7980XE」(18C36T,定格クロック2.6Hz,最大クロック4.2GHz)が発売済みだ。それに比べると,i9-10980XEはTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が同じ165Wのままで,定格クロックが3.0GHz,ブーストクロックも4.6GHzに向上しているのが主な違いと言える。このクロック差が,Cascade Lakeアーキテクチャによる恩恵ということなのだろう。

 既存のLGA2066向けプロセッサなので,i9-10980XEの外見は,従来の製品と何ら変わりがない。対応チップセットも既存のIntel X299なので,すでに多数が出回っているIntel X299搭載マザーボードなら,BIOSさえ対応すれば大半がi9-10980XEを問題なく利用できるとIntelは説明している。

テストに使用したi9-10980XEの評価用サンプル。LGA2066向けの製品なので外見は見慣れたものだ。なお,ヒートスプレッダ側には事情によりモザイクをかけてある
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 といったわけでで,新型CPUではあるものの,従来のLGA2066対応CPUと同じように使えるのがi9-10980XEであるとまとめてしまっていいだろう。


ソケットがsTRX4に変わった第3世代Ryzen Threadripper

扱い方は従来とほとんど変わらず


 続いては,AMDから発売になった32コア64スレッド対応のTH 3970Xと,24コア48スレッド対応のTH 3960Xを見ていこう。両製品は「Castle Peak」というコードネームで開発されていたCPUだ。

CPUの製品ボックス(左)。箱の中には,台座の上に置かれたCPUを半透明の樹脂素材が囲む内部ケースが出てくる(右)
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樹脂素材を外した状態(左)。左側に見えるノッチを外すと,オレンジ色のリテンション枠ごとCPUをボックスから引き出せる(右)
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左はTH 3970X,右はTH 3960Xで確認したCPU-Zの表示
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 第3世代のRyzen Threadripper(以下,第3世代Threadripper)は,CPUコアを実装した「CPU Complex Die」(以下,CCD)と,メモリコントローラやPCI Express(以下,PCIe)コントローラをまとめた「I/O Die」という2種類のシリコンダイからなる。
 CCDには,最大4基のCPUをひとまとめにした「CPU Complex」(CCX)が2基あるため,CCDあたりのCPUコア数は最大8基だ。デスクトップPC向けのRyzen Desktop 3000シリーズは,1〜2基のCCDと,デスクトップ向けに設計したI/O Dieをパッケージ上に収容したプロセッサで,最大16コアのCPUを可能にしていた(関連記事)。

 HEDT向けの第3世代Threadripperも,Ryzen Desktop 3000のアーキテクチャをそのままHEDT向けに応用した製品だ。具体的には,4基のCCDと,HEDT専用に設計されたI/O Dieを組み合わせてある。

第3世代Threadripperの構成図
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 TH 3970Xは,4基のCCDに組み込んだ計32コアのCPUをフルに使った構成だ。一方,TH 3960Xは,歩留まり向上のためにCCDあたり2基のCPUコアを無効化してあるので,CPUコア 6基×CCD 4基=24コアCPUとした構成というわけだ。

 一方,HEDT向け専用に設計されたI/O Dieは,DDR4-3200をサポートする4chのメモリコントローラと,64レーンのPCI Express(以下,PCIe) Gen 4コントローラを組み込んでいる。PCIeが3.0から4.0に変更されたのもの第3世代Threadripperの特徴だ。ただ,チップセットとのリンクに8レーンを使用するので,ユーザーが利用できるPCI Expressのレーン数は56レーンである。

こちらは第2世代Threadripperの構成図。メインメモリは2基のCCDにつながっており,メインメモリがつながっていないCCDもある
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 なお,Zen+アーキテクチャを採用する第2世代Ryzenまでは,メモリコントローラを各プロセッサダイ上に実装していたので,CPUコアから見るとメモリ空間のアクセスレイテンシが一様ではない,つまり異なるプロセッサダイにあるメモリコントローラにつながっているメモリ空間は,アクセスレイテンシが大きいのが特徴であった。

 そこでAMDは当初,UMA(Uniform Memory Access)とNUMA(Non-Uniform Memory Access)という2種類のメモリアクセスモードを用意した。しかし,アプリケーションに応じていちいち切り替えるのは面倒という問題があったため,最終的にWindowsのスケジューラを最適化して,自動的に適切なメモリ空間にアプリケーションとワーキングメモリを割り付ける「Dynamic Local Mode」という仕組みを導入し,第2世代Ryzenまでの,一様ではないメモリアクセスレイテンシに対応したという経緯があった。

 それに対して第3世代Ryzenでは,I/O Dieにメモリコントローラを移したことにより,CPUコアから見てメモリアクセスレイテンシが一様ではないという第2世代Threadripperまでの欠点は解消されている。厳密に言うと,内部的には依然として複数のメモリアクセスモードを持つようだが,少なくともユーザーが意識して何かをする必要はない。
 そのため,第3世代Threadripperでは,第2世代までのThreadripperが持っていた,やや扱いにくい癖がなくなっている。この点は歓迎するユーザーが多いのではないだろうか。

製品ボックスに付属のトルクレンチと液冷ヘッド用アダプタ,ロゴシール。付属品は第2世代Threadripperまでと変わりがない
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 もう1つ,第3世代Threadripperでは,従来の「TR4」に代わり「sTRX4」という新しいソケットが導入されたのもトピックだ。sTRX4はTR4と電気的な互換性がないが,sTRX4におけるCPUやソケットの取り扱い方は,TR4とまったく同じだ。
 CPUをマザーボードに取り付けるには,製品ボックスから取り出したCPU取り付けられている樹脂製の「リテンション枠」ごとソケットに装着したうえで,3か所ある固定用のネジを,CPUパッケージに同梱されているトルクレンチを使い,1,2,3と書かれた刻印の順で締めて固定する(※外すときは3,2,1の順)。この手順も第2世代Threadripperと変わらない。

リテンション枠を外したTH 3970Xの外観。第2世代までと見た目はさほど変わりがない。なお,実際にはCPUソケットに取り付ける前にリテンション枠を外してはいけない
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TH 3970Xのテスト風景。TR4用のENERMAX Technology製簡易液冷クーラー「LIQTECH TR4」(型番:ELC-LTTR360-TBP)を使用している
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 なお,sTRX4ソケットにあるクーラー固定用のビス穴の位置と大きさも,TR4とまったく同じだ。そのため,TR4用のクーラーを第3世代Threadripperでもそのまま利用できる。

 というわけで,TR4を使ったことがある人や,TR4の取り扱い方の記事を読んだことがある人なら,sTRX4でも迷わず利用することができるだろう。新ソケットと言っても,とくに心配する必要はないわけだ。


Ryzen 9 3950Xを含む5製品をテスト


 では,テストのコンフィグレーションに移ろう。
 TH 3970XとTH 3960Xでは,AMD提供の評価キットに付属していたASUSTek Computer製のTRX40チップセット搭載マザーボード「ROG ZENITH II EXTREME」を利用した。このマザーボードは,AMD X399チップセット搭載の第1〜2世代Threadripper向け「ROG ZENITH EXTREME」の後継にあたる製品だ。

 一方,i9-10980XEでは,ASUSTek Computer製のマザーボード「Prime X299-A II」を利用した。ASUS製マザーボードでは,スタンダードモデルに位置づけられるPrimeシリーズの製品で,既存の製品である「Prime X299-A」の後継に当たる製品だ。4万5000円前後という,X299搭載マザーボードでは比較的手頃な価格ながら,12フェーズの強力な電源回路やIntel製のGigabitイーサネットを搭載するなど,上位モデルに匹敵する機能を持つのが特徴であるという。

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ROG ZENITH II EXTREME
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Prime X299-A II

 テストでは,メモリモジュールとしてG.Skill International Enterprise製の「F4-3200C14D-16GFX」を使用している。DDR4-3200に対応する4枚組のメモリモジュールで,メモリアクセスタイミングは,メモリモジュールの定格である14-14-14-34固定とした。
 ちなみに,第3世代Threadripperの評価キットには,DDR4-3600メモリの4枚組が付属していた。AMDはレビュワーに,DDR4-3600の利用を推奨しているのだが,比較対象のX299プラットフォームでは利用できないため,普段使っているDDR4-3200で検証したことをお断りしておく。

 3製品の新CPUと合わせて,先述したとおり,比較対象として第2世代ThreadripperのRyzen Threadripper 2990WX(32C64T,ベースクロック3.0Hz,最大クロック4.2GHz,以下 TH 2990WX)と,デスクトップPC向けのRyzen 9 3950X(以下,R9 3950X)を用意した。
 なお,R9 3950Xはメモリアクセスチャネルが2chしかないので,他の4製品と条件を揃えるのは不可能だ。そのため,今回はあくまでも参考という位置づけである。

 そのほかの使用機材については,表2を参照してほしい。注意点として,TH 3960XとTH 3970Xでは,AMDからレビュワーに配布された「19.20.28」というバージョンの特別なチップセットドライバを用いている。このドライバは,AMDのWebサイトで公開しているチップセットドライバとはインストーラが異なっているので,おそらくレビュワー専用のバージョンであるようだ。

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 なお,表2には記載していないが,CPUクーラーには先述したとおり,TR4とsTR4プラットフォームではENERMAX Technology製の「LIQTECH TR4」(型番:ELC-LTTR360-TBP)を使用した。また,LGA2066プラットフォームとSocket AM4では,Corsair製の「Hydro Series H150i PRO RGB」を使っている。両製品ともラジエータサイズは同じなので,おおむね同じ冷却能力を持つだろうという判断である。

 今回も,ゲーム系と一般的なアプリケーションの2種類でテストを行う。
 ゲームのテストでは,4Gamerベンチマークレギュレーション22.1から「3DMark」と「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG),「Fortnite」,「PROJECT CARS 2」の4タイトルを選択。それに加えて,次期ベンチマークレギュレーションを睨み,「Tom Clancy’s The Division 2」(以下,Division 2)と「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FF XIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク)の2タイトルを加えた,合計6タイトルでのテストを実施した。
 なお,今回は「Far Cry New Dawn」のテストを割愛しているが,これは16コアを超えるCPUでFar Cry New Dawnのベンチマークモードを実行すると,40fps台という異常なフレームレートしか得られないので除外せざるを得なかったためである。

 ゲームの解像度は,CPU性能差が出やすい2560×1440ドットと1920×1024ドット,および1600×900ドットの3パターンだ。また,ゲーム録画性能のテストとして「OBS Studio」(Version 24.0.3,以下 OBS)を用いて,プレイ動画の録画テストも行った。

 一方,一般的なPC利用におけるアプリケーションの快適さは,以下のベンチマークプログラムおよびアプリケーションによりテストしている。

  • PCMark 10(Version 2.0.2144)
  • ffmpeg(Nightly Build Version 20181007-0a41a8b)
  • CINEBENCH R20(Release 20.060)
  • DxO PhotoLab 3(Version 3.0.2 Build 4266)
  • 7-Zip(Version 1900)


3DMarkのスコアは,第3世代Threadripperやi9-10980XEでは荒れ気味


 では,3DMarkの結果から見ていこう。DirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものがグラフ1だ。

 描画負荷が高いFire Strike Ultraは横並びに近いが,描画負荷が低めのFire Strike ExtremeやFire Strikeでは,違いがはっきりと出ている。どのプリセットでも傾向は同じで,トップがR9 3950Xとなり,それにi9-10980XEが続き,TH 3960X,TH 3970X,そしてビリがTH 2990WXの順だ。どうしてこのような順になったのかを,個別スコアで検討してみることにしよう。

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 グラフ2は,Fire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアをまとめたものである。Graphics testは,GPU性能の比重が高いテストなので,4K解像度相当のFire Strike Ultraのスコアは横並びと言っていいが,Fire Strike ExtremeやFire Strikeでは,ここでも差が大きくなっている。順位は総合スコアとまったく同じであるため,この結果が総合スコアに反映されたと見ていいだろう。

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 ただ,どのプリセットでも,i9-10980XEとR9 3950Xはほぼ横並びと言っていい。Graphics testはGPU性能で横並びになるのが妥当であり,R9 3950Xとi9-10980XEのスコアがGPU性能を表すものと考えてよかろう。となると,それ以外のCPUでは,GPU本来の性能を発揮できていない可能性がある。
 R9 3950Xを基準にすると,TH 3960Xは約95%,TH 3970Xが約83%のスコアにとどまっている。TH 3970XのスコアがTH 3960Xよりも低い理由としては,CPUコアが32基もあるためプロセッサ内部バスの輻輳が起きやすく,それがGPUを駆動する足を引っ張っている可能性が考えられるものの,この結果だけで断定はできない。
 R9 3950Xの約71%のスコアしか出せていない前世代のTH 2990WXに比べれば,第3世代ThreadripperのGraphics testスコアは改善していると言えるが,価格に見合った結果と言えないのは確かだ。

 グラフ3は,CPUベースの物理シミュレーションによってCPU性能を測る「Physics test」のスコアだ。本来ならCPUのコア数に応じてスコアが伸びるテストだが,3つのテストいずれも,トップを取ったのは16コアのR9 3950Xだった。i9-10980XEがそれに続き,TH 3960X,TH 3970X,そしてTH 2990WXという順位はこれまでのテストと同じである。
 ベースクロックやブーストクロックが多少異なるとはいえ,16コアのCPUに18〜32コアCPUが及ばないということは,Physics testで16コア以上のCPUがうまく扱えていない可能性を示唆する。この結果を持って,HEDTの3製品を評価するのは危険かもしれない。

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 さらに奇妙な結果になったのが,GPUとCPUへ同時に負荷をかけて性能を見る「Combined test」(グラフ4)だ。
 描画負荷が高いFire Strike UltraやFire Strike Extremeは,ほぼ横並びと言えようが,Fire StrikeではCPUごとに大きな差がついた。トップは,ここまでふるわなかったTH 3970Xで,以下R9 3950X,TH 3960X,TH 2990WXと続き最下位がi9-10980XEという順位である。
 Graphics testやPhysics testの結果とは大きく異なるので,なぜこうなったのかよく分からないが,少なくともTH 3970Xに関しては,32コアのCPUがうまく機能したのかもしれない。一方で24コアのTH 3960Xや18コアのi9-10980XEが16コアのR9 3950Xのスコアを下回るのもよく分からない点だ。

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 以上のように,DirectX 11ベースのFire Strikeでは,i9-10980XEやTH 3970X,TH 3960Xのスコアが乱れ気味で,どうしてこうなったのかを容易に説明できない状況だ。もしかするとFire Strikeでは,16コアを超えるCPUをうまく扱えていないのかもしれない。

 それならばではDirectX 12ベースのTime Spyはどうだろうか。グラフ5が,Time Spyの総合スコアをまとめたものだ。
 Time Spy Extremeは,僅差だがTH 3970Xがトップとなり,TH 3960Xがそれに続く。以下,i9-10980XE,R9 3950X,TH 2990WXの順で,差は小さいものの第3世代Threadripperが上位を占めるというここまでになかった形だ。
 だが,描画負荷が軽いTime Spyになると,R9 3950Xがトップになり,続いてi9-10980XE,TH 3960X,TH 3970X,TH 2990WXの順と,Fire Strikeで何度も見た順位になった。上位3つのCPUと,TH 3970XおよびTH 2990WXの間に大きな差がついているのも注目に値する。個別スコアから,その理由が見えるだろうか。

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 Time SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアをまとめたのが,グラフ6だ。Time Spy Extremeは,5300台で横並びだが,Time Spyは総合スコアと同じ傾向を示している。つまり,Time Spyの総合スコアは,「Graphics test」の結果が反映されたものだったわけだ。
 なぜこうなるのかを推測するのは難しいが,32コアのCPUをうまく扱えていないのか,あるいはコア数が多くなると,なんらかのボトルネックが顕在化してしまうのか。そういった理由でTH 3970Xのスコアがふるわないのかもしれない。

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 グラフ7は,Time Spyにおける「CPU test」の結果だが,こちらもかなり乱雑な結果になった。
 描画負荷が高いTime Spy Extremeでは,TH 3970XとTH 3960Xが他のCPUに大差をつけている。同じZen 2系のR9 3950X比では,TH 3970Xが1.83倍,TH 3960Xでも1.54倍と,大雑把に言えばコア数比に近いスコアを叩き出している。一方,3番手のi9-10980XEのスコアは,R9 3950Xに対して1.04倍程度でしかない。
 だが,描画負荷が軽いTime Spyでは様相が変わる。R9 3950X,i9-10980XE,TH 3960Xがおおむね横並びで,TH 3970Xは上位に対して約90%のスコアに留まる。描画負荷で大きく順位やスコア比が変わっており,Fire Strike同様にスコアは乱れ気味だ。

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 3DMarkの結果を見てきたが,TH 3970X,TH 3960Xに関しては,テストによってスコアがかなり乱れており,3DMarkの結果を信用していいのか疑問がある。その一方で,i9-10980XEは,第3世代Threadripperに比べれてスコアの乱れが少ないものの,安定して好スコアを残すR9 3950Xに比べれば,やはり乱れ気味ではある。
 以上を踏まえたうえで,実ゲームにおける成績を見ていくことにしたい。


i9-10980XEやTH 3970Xはまずまずのゲーム性能

R9 3950Xには及ばず


 まずはPUBGの結果(グラフ8〜10)から見ていこう。PUBGは,オンラインでプレイしながらフレームレートを計測するためスコアが荒れやすいが,今回は比較的,ブレが少ない分かりやすい結果が得られた。
 解像度2560×1440ドットではi9-10980XEがトップとなり,続いてR9 3950X,TH 3970Xの順だ。一方,1920×1080ドットでは,トップがR9 3950Xとなり,i9-10980XE,TH 3970Xの順となる。順位は入れ替わったが,トップ3は2560×1440ドットと変わっていない。ただ,R9 3950Xの平均フレームレートは,約150fpsとなり,2番手に対して10fps以上の差をつけており,頭ひとつ抜けたスコアと言えよう。

 この傾向が1600×900ドットでは極端になる。トップのR9 3950Xは196.5fpsなのに対して,2番手のTH 3970は157.5fpsで,大きく差が開いているのだ。
 つまり,解像度が下がるほどR9 3950Xが有利となり,HEDT向けのCPUではフレームレートが頭打ちになっているわけだ。原因としては,4chのメモリバスによる大きなレイテンシが,描画負荷の低下によって顕在化するのではないかと推測している。

画像集 No.030のサムネイル画像 / オーバー16コアCPU頂上決戦「Core i9-10980XE」対「Ryzen Threadripper 3970X/3960X」 ゲームが速いのはどれだ?
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 続いてはDivision 2の結果を見ていこう。Division 2もゲームにベンチマーク機能が組み込まれているので,テストにはこれを利用した。標準のテストでは,平均フレームレート,典型的なフレームレート,そしてスコアしか得られないのだが,フレームタイム(※フレームの描画時間)を記録したCSVファイルを出力できるので,フレームタイムからスクリプトを使って最小フレームレートを算出し,スコアとして利用している。
 グラフィックス設定は,CPU性能差が出やすいDirectX 12モードを今回は使用し,描画負荷が最も高い「ウルトラ」プリセットを利用した。快適にDivision 2をプレイする目安としては,平均で60fps,最小でも50fpsは超えたいといったところになる。

 結果はグラフ11〜13のとおり。まず2560×1440ドットでは,平均,最小とも1fps程度の差で,横並びと言っていい。GPUのスループットがフレームレートを抑えているものと思われる。1920×1080ドットも差は小さいが,2560×1440ドットよりはばらつきがでた。トップはi9-10980XE,TH 3970X,R9 3950Xの順だ。
 1600×900ドットもトップがi9-10980XE,ついでTH 3970X,R9 3950Xの順と順位は変わらないが,スコアのばらつきはさらに大きくなっている。以上から,Division 2のDirectX 12モードは,i9-10980XEがやや有利で,TH 3970XやR9 3950Xもまずまずのフレームレートが出せると結論できそうだ。

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 続いてFortniteを見ていくが,今回はテスト方法をレギュレーションから少し変えている。Fortniteのプレイヤーならご存知と思うが,2019年11月最終週の大型アップデートで,グラフィックス品質の設定が大きく変わったうえ,β版ではあるが,新たにDirectX 12モードが加わったのだ。
 プリセットも,これまでは高負荷よりとしてベンチマークで利用してきた「エピック」がなくなり,高品質のプリセット名が「最高」に変更されている。

アップデート後のFortniteにおけるグラフィックス設定
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 これらの変更を反映し,本稿では,CPUのコア数が効きやすいDirectX 12モードで,プリセットは「最高」に設定してテストすることとした。
 なお,DirectX 12モードでは「Fraps」を用いたフレームレート計測が行えないので,計測にはAMDのオープンソースプロジェクトであるGPUOpen製のツール「OCAT」を用いる。OCATでは最小フレームレートが記録されないのだが,ログにフレームタイムが記録されているので,そこから最小フレームレートを算出するスクリプトを作成して算出することにした。

 その結果がグラフ14〜16だ。2560×1440ドットは,R9 3950Xが2fps程度高いのを除くと,ほぼ横並びと評していいだろう。一方,1920×1080ドットは,i9-10980XEとR9 3950Xが150fps台で並び,TH 3970XとTH 3960Xが148fps台という形だ。
 1600×900ドットになると,R9 3950Xが183fps台と有意な差を付けてトップとなり,続いてi9-10980XE,TH 3970Xの順となっている。最下位のTH 2990WXは151fps台と,他より平均フレームレートが顕著に低いのも1600×900ドットの特徴だ。

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 以上の結果から,FortniteのDirectX 12モードは,R9 3950Xが全体に好結果を出しやすく,i9-10980XEもまずまずと見ていいだろう。DirectX 12を用いるからと言って,コア数に比例してフレームレートが上がることはない。そうなるとFortniteでは,16〜18コアあたりが性能面の上限になるのかもしれない。

 続いて,FFXIV漆黒のヴィランズベンチの「最高品質」における総合スコアをまとめたのがグラフ17となる。このテストでは,R9 3950Xが全解像度で比較対象を圧倒した。
 FFXIVのゲームエンジンは,CPUが実行できるスレッド数だけスレッドを起動する設計であるが,スレッド数が増えすぎると,逆に性能を落とすことはかなり前からテストを通じて確認できていた。今回もその傾向が出たと言っていい。
 一方。R9 3950X以外は大きく差を付けられているものの,スコアのパターンはどの解像度でも共通しており,i9-10980XE,TH 3970X,TH 3960X,TH 2990WXの順となった。

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 グラフ18〜20は,FFXIV漆黒のヴィランズ ベンチの平均および最小フレームレートをまとめたものだが,総合スコアを踏襲した結果で,特筆すべき点は見当たらない。FFXIV漆黒のヴィランズのように,HEDT向けCPUでは,フレームレートがまったく上がらないタイトルもあるということは,ゲーマーとして押さえておきたいところだろう。

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 実ゲームによるテストの最後は,PROJECT CARS 2だ(グラフ21〜23)。
 2560×1440ドットでは,TH 3970Xが僅差でトップとなり,i9-10980XE,R9 3950Xが続いている。ただ,各CPUの差は小さく,おおむね横並びと言っていい。1920×1080ドットや1600×900ドットではR9 3950Xがトップでとなり,TH 3970X,i9-10980XEの順と,2560×1440ドットから順位の入れ替わりはあるがトップ3の面子は変わらない。

 ただ,TH 2990WXは,他と比べてフレームレートを落としており,2560×1440ドットよりも1920×1080ドットの平均フレームレートが低いという妙な結果になっている。TH 2990WXは,PROJECT CARS 2において描画負荷が軽くなると,フレームレートのばらつきが大きくなる傾向があるようだ。

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 以上,ゲームによるテストを見てきたが,やはりゲーム性能で安定しているのはデスクトップ向けのR9 3950Xという結論になってしまう。TH 3970XとTH 3960Xは,前世代のTH 2990WXに比べるとゲームも安定してこなせる傾向にあるのだが,デスクトップ向けCPUと同等の性能が出ていないタイトルが多い。
 一方,i9-10980XEは,まずまずのゲーム性能を見せているが,それでもFFXIV漆黒のヴィランズ ベンチのように,デスクトップ向けCPUに届かないゲームもあることは承知しておくべきだろう。


TH 3970XではSlowプリセットでもゲームのリアルタイム録画が可能


 ゲームの性能検証に続いては,OBSを使ったゲーム録画性能を見てみる。
 このパートでは,R9 3950Xでの検証は割愛する。R9 3950Xのレビュー記事でゲーム録画を試した結果を掲載済みであるためだ。そのテストでは,R9 3950Xでも,解像度2560×1440ドット,x264のmediumプリセットを使った条件で,スムーズとは言えないまでも,リアルタイム録画がある程度できることを確認できた。つまり,HEDT向けCPUでは,R9 3950Xを上回る負荷に耐えることが条件となりそうだ。

 そこで今回は,解像度2560×1440ドットでエンコーダに「x264」を用い,ビットレート12Mbps+Animationチューニングという定番の設定を使いつつ,プリセットとして「medium」と「slow」の2種類を試すことにした。slowプリセットは画質重視のプリセットで,以前ならリアルタイム録画に使うなどナンセンスもいいところだった。だが,新しいHEDT向けのCPUなら可能かもしれない。

 まずはmediumプリセットの録画結果から見ていこう。mediumプリセットでは,TH 2990WXでコマ落ちがかなり目立つが,それ以外のCPUでは,おおむねコマ落ちのない録画が可能だった。i9-10980XE,TH 3970X,TH 3960Xのスムーズさはおおむね同等だが,左上に表示しているフレームレートを見ていると,i9-10980XEのほうがやや高めに推移しているようだ。
 フレームレートが高いからと言って,録画がよりスムーズというわけではないのだが,ゲームに与える録画の負荷はi9-10980XEがやや軽めということかもしれない。


 続いてslowプリセットの結果だが,TH 2990WXは実用にならなかった。また,mediumプリセットで力を見せたi9-10980XEも,slowプリセットではかなりコマ落ちが大きく実用ならない動画しか録画できなかった。18コアの限界だろう。
 TH 3960Xは,i9-10980XEよりもややましに見えるが,それでもコマ落ちが多発しているので実用レベルではない点は変わりがない。だが,TH 3970Xは,かなり良好な録画ができている。コマ落ちは起きているものの,TH 3960Xよりは目立たないことが確認できるだろう。画質重視のslowプリセットで,リアルタイム録画が曲がりなりにもできるというのは驚くべきことで,HEDT向けのCPUもここまで来たかという感慨がある。


 リアルタイム録画の結果を持って,「HEDT向けCPUがゲーマーにお勧め」とはとても言えないのだが,TH 3970Xが,とんでもないマルチスレッド性能を持つことは間違いない。また,第3世代Threadripperが第2世代Threadripperから大幅な性能向上を実現していることも,これらの動画ではっきりと確認できるだろう。


第3世代Threadripperのマルチスレッド性能は期待どおりだが,Ryzen 9との差は大きくない


 次に,非ゲーム用途におけるテスト結果をまとめていこう。
 まずは,UL製の総合ベンチマーク「PCMark 10」からだ。今回はCPUの性能テストなので,すべてのテストを実行する「PCMark 10 Extended」を選択したうえで,OpenCLアクセラレーションとGPUビデオアクセラレーションを無効化してテストを実行した。カスタム実行となるため,総合スコアは得られず,テストグループ単位のスコアとなることはいつもどおりだ。
 なお,今回はテストグループ「Game」のスコアは割愛した。Gameは,3DMarkのFire Strike相当をウインドウモードで実行するのだが,すでに見たとおり,Fire Strikeは16コアを超えるCPUをまともに扱えていない可能性があるためである。

 PCMark 10の結果はグラフ24のとおり。Webブラウジングやアプリケーションの起動や終了といった日常作業の快適さを見るEssentialsと,オフィスアプリケーションの性能を測るProductivityは同傾向で,トップはR9 3950Xだった。ついでTH 3960X,i9-10980XE,TH 3970X,TH 2990WXの順だ。
 どちらもCPUコアが多いほど快適になるという性質のアプリケーションではないので,不思議ではない結果だが,TH 3960Xは日常作業でもそこそこ快適に使えそうだ。
 一方で,3Dレンダリングや写真の加工といったクリエイター系アプリの快適さを見るDigital Content CreationでもR9 3950Xがトップになったのは少々不自然だ。2番手はTH 3970XだがTH 3960Xとほぼ横並び。ついでi9-10980XE,TH 2990WXとなった。
 なぜこうなったかだが,Digital Content CreationでCPUコア数が効くRendering and Visualization Scoreを抜き出してみるとR9 3950Xの17413に対してTH 3970Xが14241,TH 3960Xが15143と,CPUコア数どおりのスコアが得られていなかった。PCMark 10側の問題で第3世代ThreadripperのCPUコアをうまく使えていない可能性が疑われる結果だ。

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 続いては,ffmpegを用いたCPUによる動画トランスコードの結果を見ていこう。いつものように,FFXIV紅蓮のリベレーターでゲームをプレイした「7分25秒,ビットレート437Mbps,解像度1920×1080ドット,Motion JPEG形式」の録画データをソースとして用意。ソースの映像を「libx264」エンコーダによってH.264形式に変換するのに要した時間と,「libx265」エンコーダでH.265/HEVC形式に変換するのに要した時間を,それぞれスコアとして採用する。
 使用したバッチファイルは以下のとおり。slowプリセットにanimationチューニングを加え,可能な限り画質の劣化を抑えた変換を行う。

del avc.mp4
del hevc.mp4
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx264 -preset slow -tune animation -crf 18 -threads 0 avc.mp4} >MPEG4_score.txt
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx265 -preset slow -crf 20 hevc.mp4} >HEVC_score.txt

 結果はグラフ25のとおりで,TH 3970XとTH 3960Xでは,初めてH.264のエンコード時間が500秒を切った。また,H.265も1200秒前半と,これまでにない短時間でエンコードを終えることができている。
 ただ,TH 3970XとTH 3960Xの差が,極めて小さいのは気になるところだ。H.264はTH 3970XとTH 3960Xが横並びで,H.265でも,TH 3970XがTH 3960Xの差は約6秒である。H.264のエンコードに関しては,もしかするとストレージの速度で頭打ちになりつつあるのかもしれない。

 R9 3950Xとの比較では,H.264で約10%程度,H.265で約6%速いだけなので,価格対性能比が高いとはいい難い。少なくとも,リアルタイム録画ではないごく普通の動画エンコード目当てで,TH 3970XやTH 3960Xを導入するのは費用対効果でお勧めできないと言える結果だろう。
 一方,i9-10980XEのエンコード時間は,R9 3950Xにも及ばないという残念すぎる結果しか得られなかった。エンコードを主な目的にするのならR9 3950Xが最も費用対効果に優れる選択肢になりそうだ。

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 続いては,DxO PhotoLab 3を使ったRAW現像の所要時間を見てみよう。ここでは,ニコン製デジタルカメラ「D810」を用いて撮影した解像度7360×4912ドットのRAWファイル60枚に対して,ベンチマーク用のプリセットを適用しながらJPEGファイルとして出力し終えるまでの時間を計測し,スコアとして採用した。
 グラフ26にスコアをまとめたみたが,H.264のエンコードと同じような結果になった。トップのTH 3960Xと次点のTH 3970Xは1秒差でほぼ横並び。ついでR9 3950X,i9-10980XE,TH 2990WXの順だ。TH 3960XとR9 3950Xの差は1分ほどでなので,RAW現像で最もコストパフォーマンスが高いのは,R9 3950Xと結論せざるをえないようだ。

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 マルチスレッド性能がスコアに大きな影響を与える3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R20」の結果を,グラフ27にまとめた。
 コア数分だけスコアが上がる傾向が強いテストなので,結果はTH 3970XとTH 3960Xが圧倒的。R9 3950X比でTH 3970Xが1.85倍,TH 3960Xが1.48倍のスコアを叩き出している。第3世代Threadripperの面目躍如といったところだろうか。
 一方,i9-10980XEのスコアは,R9 3950Xにも及ばないという残念すぎる結果になった。HEDT向けCPUが,デスクトップ向けCPUにCINEBENCHで負けるというのは,少し前なら考えにくいことだったが,R9 3950Xのインパクトはそれだけ大きいということだろう。

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 非ゲームテストの最後は,マルチスレッドに最適化したファイルの圧縮・展開ツールである7-Zipのテストとなる。7-Zipの「7-Zip File Manager」組み込みベンチマーク機能を用いるテストで,「ツール」→「ベンチマーク」を開き,いったん[停止]ボタンを押してから「辞書サイズ」を「64MB」に設定したのち,[再開]ボタンをクリックして3分間連続実行した時点での総合評価をスコアとして採用する。

 結果をまとめたグラフ28を見ると,TH 3970XのスコアはR9 3950Xの1.87倍,TH 3960Xのスコアは同1.61倍と,圧倒的な速さを示した。また,CINEBENCH R20では分が悪かったi9-10980XEが,R9 3950Xを超えているのも目に付くが,これは7-Zipが開発にIntel製のコンパイラを使っているためと考えられる。
 7-Zipは,Intel製コンパイラによるIntel製CPU向け最適化を施したアプリケーションとして知られているので,この結果は妥当なものだ。逆にいえば,最適化されていないにも関わらず,16コアのR9 3950Xはかなり健闘したと言えよう。

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 非ゲーム用途の性能を一通り見てみると,TH 3970XやTH 3960Xは,R9 3950Xを上回る性能を見せることが多いものの,エンコードやRAW現像といったPCユーザーがマルチスレッド性能を求めるアプリケーションでは,R9 3950Xとの差がそれほど大きくはないことが見てとれよう。TH 3970XやTH 3960Xが高性能を発揮できるのは,CINEBENCHのようにマルチスレッドに最適化されたクリエイター向けのアプリケーションに限られるようだ。
 一方,i9-10980XEは,デスクトップ向けPCのR9 3950Xに及ばないケースが目立つのが気になる。少なくとも,アプリケーションにおけるマルチスレッド性能を目当てにi9-10980XEを新規に導入するのは,お勧めしかねる印象だ。i9-10980XEは,LGA2066対応マザーボードをすでに持っているユーザーのアップグレード対象として意味を持つ製品かもしれない。


第3世代Threadripperの消費電力は大人しい

i9-10980XEは少々厳しい結果に


 最後に,CPUのコア温度と消費電力を調べた結果をまとめていこう。
 グラフ29は,ffmpeg実行時に「HWiNFO64」で記録したCPUのコア温度における最大値を比較したものだ。
 最もCPU温度が高かったのはR9 3950Xの約90℃で,TH 3970XとTH 3960Xは約80℃台半ばに収まっていた。

 i9-10980XEはCPUコアごとの温度が得られるが,最大でも約63℃までしか上がらなかった。ただ,i9-10980XEは最大ジャンクション温度(Tjmax)が86℃で,第3世代RyzenのTjmaxは95℃と比べて9℃も低い。
 63℃に収まっているなら,上限であるTjmaxまでは十分に余裕がある。i9-10980XEのTjmaxは,これまでのHEDT向けCPUの中では,異例なほど低いという点は少し押さえておきたいポイントではある。

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 消費電力はどうだろう。4Gamerでは,ベンチマークレギュレーション20世代以降で,EPS12Vの電流を測り,12をかけて電力に換算する方法を採用している。この方法で,CPU単体のおおよその消費電力を推測しているわけだ。これに加えて,電気代を左右するシステム全体の消費電力もあわせて掲載しておこう。

 まずグラフ30は,各テストにおけるEPS12Vの最大値と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)におけるCPUの最大消費電力をまとめたものだ。
 i9-10980XE,TH 3970X,TH 3960Xのそれぞれがピークを記録したのは,CINEBENCH R20実行時だった。i9-10980XEが最も高い約267Wで,TH 3970Xが約256W,TH 3960Xが約248Wで続いている。
 TH 3970XとTH 3960Xは,TDPが280Wという電力モンスターなので,ピークがそれ以下というのは,むしろおとなしいと評価できる。また,TH 3960XとTH 3970Xは,アイドル時に10Wを切っている点にも驚かされる。
 一方,i9-10980XEの公称TDPは165Wなので,ピーク時の267Wはやや大きいと言えようか。

※そのまま掲載すると縦に大きくなりすぎるため,簡略版を掲載しました。グラフ画像をクリックすると完全版を表示します
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 次のグラフ31は,CPU単体の消費電力における中央値をまとめたものだ。「CPUでアプリケーションを実行したときの典型的な消費電力」と理解していい。
 i9-10980XEで最も高い中央値を記録したのは,RAW現像時で約200Wだった。公称TDPである165Wを大幅に超える中央値を記録するのはいかがなものかという気はする。一方,TH 3970Xは,ffmpeg実行時の約160Wが最大で,TH 3960Xも同じく141Wだった。公称TDPを遥かに下回るので,こちらは電力的にもかなり大人しいCPUといえる。

※そのまま掲載すると縦に大きくなりすぎるため,簡略版を掲載しました。グラフ画像をクリックすると完全版を表示します
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 消費電力パートの最後に掲載するグラフ32は,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をまとめたものだ。
 今回は,CPUとGPUが全力で動作するゲーム録画時が,最もシステムの消費電力が高くなった。最大を記録したのはTH 3970Xで,約634Wにまで達している。TH 3960Xも,ゲーム録画時に592Wを記録しているのが目を惹く。TH 3970Xは莫大な消費電力の代わりに圧倒的にスムーズなゲーム録画を実現していたので,納得できなくはないところだろうか。

 それよりもも気になるのは,アイドル時の消費電力で,TH 3970XとTH 3960Xが120Wを超えていたことだ。CPU単体の消費電力は,両CPUともアイドル時に10Wを切っていたので,大半がマザーボードやメモリモジュールなどによる消費電力と思われる。おそらくだが,PCIe Gen 4をサポートするための消費電力が高いのではないだろうか。

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第3世代Threadripperは純粋にクリエイター向け

i9-10980XEはX299ユーザーのアップグレードならアリ


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 今回のレビューでは,11月末に登場した3種類のHEDT向けCPUを見てきたわけだが,第3世代Threadripperに関して言えば,「ゲーマーが手を出す必要は一切ない」と断言していい。第3世代Threadripperは,3Dレンダリングや4K解像度のビデオ編集といったマルチスレッドに最適化されたプロユースのアプリケーションを使うクリエイターのためのCPUだ。
 一般のPCユーザーが,アプリケーションにおけるマルチスレッド性能を求めるのなら,R9 3950Xを買っておけば間違いない。ほとんどの一般向けアプリケーションで,第3世代Threadripperと遜色のない性能を得られるだろう。つまり,R9 3950Xが登場した現在では,PCユーザーが無理をしてまでThreadripperに手を出す必要は,これまで以上になくなったというのが今回のテストではっきりしたのではないだろうか。

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 一方のi9-10980XEは,12月初頭における実売価格が14万円前後とR9 3950Xよりも高価であるにも関わらず,性能面でR9 3950Xに及ばないケースが多いのが残念だ。先述したとおり,新規に導入するには費用対効果の悪い選択と言わざるを得ない。
 ただ,すでにLGA2066のプラットフォームを持っていて,2〜3年前に登場したSkylakeベースのCore Xプロセッサを使っているという人なら,アップグレードのためにi9-10980XEに手を出すのは悪くない選択だろう。動作クロックはSkylakeベースのCore Xより上がっているので,それなりの性能向上が得られるはずだ。

IntelのCore Xシリーズ製品情報ページ

AMDのRyzen Threadripper製品情報ページ

  • 関連タイトル:

    Core X(Skylake-X,Kaby Lake-X,Cascade Lake-X)

  • 関連タイトル:

    Ryzen(Zen 2)

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