企画記事
「ジャックジャンヌ」声優インタビュー第2弾。高科更文役の近藤孝行さんと根地黒門役の岸尾だいすけさんに聞く,役への思いや作品との向き合い方
漫画家・石田スイ氏とブロッコリーによる“少年歌劇シミュレーションゲーム”ことジャックジャンヌの魅力の一つとなっているのが,登場人物の心境の変化や葛藤を“声の演技”で表現するキャストたちだ。2回目となる今回登場していただくのは,高科更文役の近藤孝行さん,根地黒門役の岸尾だいすけさん。作品との出会いや自身が担当する役への思い,役者としてどのように作品に向き合ったかなどを“多少のネタバレあり”で語ってもらった。
高科更文役の近藤孝行さん(インタビューは[こちら]) | |
根地黒門役の岸尾だいすけさん(インタビューは[こちら]) |
「ジャックジャンヌ」声優インタビュー第1弾。睦実 介役の笠間 淳さん,白田美ツ騎役の梶原岳人さんが語る,作品との出会いと自身が担当する役への思い
公式YouTubeで動画が公開されている,「ジャックジャンヌ」声優インタビューの“フルサイズ版”を全3回でお届けしよう。初回は,睦実 介役の笠間 淳さんと白田美ツ騎役の梶原岳人さんの2名。それぞれに作品や自身の演じるキャラクターとの出会いや思いについて“多少のネタバレあり”で語ってもらった。
「ジャックジャンヌ」声優インタビュー第3弾は,寺崎裕香さん,佐藤 元さん,内田雄馬さん。主人公とその同学年を演じた3人に,演技にかけた思いを聞いた
「ジャックジャンヌ」声優インタビューの“フルサイズ版”のラストを飾るのは,主人公・立花希佐役の寺崎裕香さん,世長創司郎役の佐藤 元さん,織巻寿々役の内田雄馬さん。クォーツクラスの1年生を演じた3人に,作品や自身の役への思いを聞いた。
「ジャックジャンヌ」公式サイト
■公開中の声優インタビューはこちら
・インタビュー(1)睦実 介役:笠間 淳さん
・インタビュー(2)白田美ツ騎役:梶原岳人さん
・インタビュー(3)高科更文役:近藤孝行さん
・インタビュー(4)根地黒門役:岸尾だいすけさん
・インタビュー(5)立花希佐役:寺崎裕香さん
・インタビュー(6)世長創司郎役:佐藤 元さん
・インタビュー(7)織巻寿々役:内田雄馬さん
インタビュー(3)高科更文役:近藤孝行さん
■フミくんのため,自分にできることは何でもやろうと思いました
4Gamer:
高科更文役が決まったときの気持ちを聞かせてください。
高科更文役:近藤孝行さん(以下,近藤さん):
「役をいただけたとしても,男らしいキャラクターになるだろうな」と思っていたんですが,まさか女性を演じる役者・ジャンヌ側で,その中でも主役のアルジャンヌを担うフミくんに決まるなんて,と。
4Gamer:
これは難しそうだ,みたいな不安はありましたか?
近藤さん:
いえ。意外だと思ったと同時に,自分の中ですごく気持ちが高まりました。難しい役で大変というより,「フミくんを何が何でも良いキャラクターにしたい」という思いがありましたね。自分に出来ることは何でもやってみようと。
それで,宝塚歌劇団の映像や,男性が女性を演じているミュージカル作品などを観て,楽しく勉強しながら気持ちを高めていきました。
4Gamer:
宝塚の舞台には,完全に気持ちが持っていかれるような感覚がありますよね。宝塚はどんな作品を観て参考にされたのか気になります。
近藤さん:
よく観ていたのは花總まりさんが出演されている作品ですね。「ファントム」や「エリザベート」などでしょうか。あと,私も過去に宝塚の歌劇を観劇したことがあるんですが,それが今回の作品に取り組むうえでつながっているところもあります。
「逆転裁判」のミュージカルなんですが,私が成歩堂龍一の声を担当しているので,原作のゲーム制作陣とご一緒に招待いただいたんですね。そのとき,成歩堂(舞台版の名前はフェニックス・ライト)を演じる主演の蘭寿とむさんが,舞台から降りて私の目の前にやってきたんです。そのときの仕草や眼差しがカッコよすぎて「失神する!」みたいになったのですが(笑),その体験を「ジャックジャンヌに落とし込めるといいな」と考えました。
■失敗や葛藤を経験して今があるところに親近感を覚えます
4Gamer:
演劇学校という作品の舞台についてはどう思いましたか?
近藤さん:
私はもともとミュージカル系の舞台出身で,10代後半から20代半ばまではダンスに明け暮れ,劇団のみんなと一緒にああでもないこうでもないと言いながら芝居を作っていたんです。そんな経験があったこともあり,「あれをもう一度,ゲームの世界でできる」ということにご縁を感じましたね。
あと昔,岸尾だいすけさん(根地黒門役)が所属していた劇団に,岸尾さんが退所されたあとに入れ違いで所属していたことがあって。そんな岸尾さんと同学年の役で共に舞台に向き合うというのも,なんだか意義深いものを感じました。
4Gamer:
更文の第一印象について聞かせてください。
近藤さん:
フタを開けてみたらけっこう真逆というか……器がすごく大きいし,周りのことをよく見ている大人で,ジャンヌ役なだけに舞台では女性らしさがあるのに,普段は男前な性格だったりと,第一印象とのギャップがすごかったですね。
4Gamer:
ご自身と似ていると感じたところはありますか?
近藤さん:
生まれながらの人格者みたいな人ではなく,過去に尖っていた時期があって,ちゃんと失敗や葛藤も経験して,大変な時期を乗り越えて今の人間性になっているところですね。 私は“人生は経験してなんぼだ”と思っているタイプなので,親近感を覚えました。彼の人間っぽいところが好きです。
4Gamer:
では,役者としての共通点についてはいかがでしょう。
近藤さん:
そうですね……ストイックな面でしょうか。自分自身ではそういう感覚はないのですが,私もよく現場で「ストイックだね」と言われることがあって,お互いにそういう面が根底にあるのかもしれません。ただ,彼の天才肌なところやダンスに懸ける情熱は,自分ではたどり着けないようなものを感じますね。
4Gamer:
ジャックジャンヌの物語は,先輩や後輩,同学年など,それぞれの立場によって異なる関係性が深く描かれています。そのなかでとくに印象に残っていることなどはありますか?
近藤さん:
具体的なエピソードではないのですが,フミくんは形式張ったものや体育会系のような先輩後輩の関係を嫌っているんだろうなって思いました。
後輩に対して「(呼び方は)フミでいいよ」って感じではあるのですが,でも,締めるところは締めるし,言うべきところではビシッと言ったりもする。とても柔軟で軽やかな人で,それが人との付き合い方にも現れているというか,理想的な先輩だなって。
4Gamer:
では,全ルートのなかでお気に入りのシーンを挙げるとしたらどれでしょう。
近藤さん:
ネタバレになるかもしれませんが,希佐の才能に目をつけたほかのクラスの生徒がやってくるところですね。
そこに居合わせたフミくんが希佐を守ろうとするのですが,これがけっこう強い口調で,すごく熱いんです。収録が続くと声がすり減っていくのですが,ここは最高のコンディションで挑みたいと思って,唯一「もう1回録らせてください」ってお願いしたシーンとなりました。相手に一歩も引かないフミのカッコよさが出ていた場面で,またあらためて挑みたいくらい好きなシーンです。
4Gamer:
更文となって劇中劇を演じるうえで,難しかった公演はありましたか?
近藤さん:
秋公演(メアリー・ジェーン)でしょうか。エキセントリックだけど内面は純粋無垢な役をアルジャンヌとして演じるのですが,これはけっこう悩みました。あと,まったく異なる役回りとなる冬公演(オー・ラマ・ハヴェンナ)も,どのように秋公演との差を出せるかという点で考え込んでましたね。
秋公演と冬公演の“差”というのは,実際にゲームをプレイして体験してほしいのですが,これについては演出の方と相談して取り組みました。
■“完璧”な印象だけど,心に揺れ動くなにかを持っている人
4Gamer:
では,お気に入りの公演を挙げるとしたらどれになるのでしょう。クォーツ以外にもあればぜひ。
近藤さん:
個人的に思い入れがあるのは,夏公演(ウィークエンド・レッスン)と秋公演ですね。夏公演は楽曲で心を鷲掴みにされたし,秋公演は台本を読んだ時点で涙が出ました。
クォーツ以外だと,アンバーの「我死也」(われしなり)が気になっています。作中で圧倒的だという表現が出てきますが,どんな舞台かまだ見られていないんですよ。まだゲームの完成版に触れていないので。
4Gamer:
笠間さんも「我死也」を挙げていました。
近藤さん:
そうなんですか! やっぱりみんな気になりますよね。よほどすごいんだろうなあ。
4Gamer:
舞台で使われている楽曲にもかなりの力が入っていますが,歌の収録で印象的だった曲を教えてください。
近藤さん:
リードボーカルを担当した「Compass line」ですね。
もともと勢いをつければ女性キーの曲が歌えるくらいの高音は出るんですが,フミくんはアルジャンヌだから,勢いではなく自然に高音を出さなければならないわけです。ファルセットを多用し,線の細い綺麗な声で歌う必要があり,そこはとても難しくて苦労したのですが,これに挑戦し,歌を完成させられたことは,自分の財産になりました。
4Gamer:
ほかのキャストの皆さんも,難しい楽曲が多かったと話していました。
近藤さん:
目立たないかもしれないんですが,私と梶原くん(白田美ツ騎役:梶原岳人さん)が高音域のコーラスなどで頑張っているので,「めっちゃすごい高音出してるよ!」「高音域でこまごましたことをしているよ!」っていうところは気づいてもらえると嬉しいですね。あと,どの楽曲も,ぜひゲームサイズだけでなくフルバージョンで聴いてほしいです。
4Gamer:
ゲームをプレイした人たちは,生歌で聴いてみたいと思うのですが,笠間さんが「ステージイベントがあるとしたら,アルジャンヌのメンバーは大変そう」とおっしゃっていました。実際に,自身が演じる役の服装で出演してステージに立つとしたら……という。
近藤さん:
だめでしょう,それだけは(笑)。10代のころにドラァグクイーン役を演じたりして,ヒールを履いた経験もあって。あのころはフミくんのように華奢でしたけど,いまアルジャンヌ役の高いヒールを履いてイベントに出るというのは……。
プロデューサーが「ありですよね」とか言っていて,「正気かな?」って思いました(笑)。もし「帝国劇場で舞台をやるよ」という話なら悩むかもしれないですが。
4Gamer:
「ヒールを履いてくれるなら帝国劇場に立てるよ」と言われたら……と?
近藤さん:
いや,それでもやっぱり難しいかな(笑)。帝国劇場の舞台にモニターを置いて,そこで演技をしたり歌ったりするフミくんに舞台の裏から声を当てるとかならいいんですけどね。
今でもシェネ(バレエのターンの1種)で2,3回転はできるんですけど,Seishiroさんが振り付けしたジャックジャンヌのダンスを踊るのは無理かなあ……。
4Gamer:
もし現実世界で更文と一緒に舞台に立つとしたら,どんな演目がいいですか?
近藤さん:
(即答で)やりたくないです(笑)。だって……あんなに美しくて完璧で,伝統芸能にも通じているフミくんですよ? そんな彼の隣で何かを演じるなんて……フミくんの舞台を間近で見たいというのはありますけどね。
4Gamer:
更文以外の誰かだったらどうでしょう。
近藤さん:
そうですね……一ノ前くん(ロードナイトの一ノ前衣音)と,丹頂先生(ロードナイトの担任兼歌唱講師の丹頂ミドリ)で,コミカルだけどちゃんと“魅せる”ミュージカルをやってみたいですね。
ああ,鳳くん(クォーツ1年の鳳 京士)もいいですね! 彼の濃いキャラクターも好きなので,一緒に楽しいことをしてみたいです。
4Gamer:
では,もし近藤さんがユニヴェールに入学するとしたら,どのクラスに入ってみたいですか?
近藤さん:
クォーツ一択ですが,クォーツ以外から選ぶとしたら,自分を追い込むっていう意味ではアンバーかなあ。
4Gamer:
同じクラスにいたら楽しいなと思う人を挙げるとしたら誰でしょう。
近藤さん:
スズくん(織巻寿々)と一ノ前くんですね。スズくんは飽きないし,一ノ前くんはマスコットみたいだし,彼らは絶対に近くにいてほしいです。
スズくん以外のクォーツのメンバーももちろんなのですが,とくに絆の強さを感じる3年生の3人も,ですね。根地くんも一緒にいたら飽きないだろうし,介くんは放っておけない何かを持っている。そこにフミくんがいるクォーツの3年生トリオはバランスが取れているなって感じます。
4Gamer:
収録を終えて,あらためて更文という人物について感じたことや,最初の印象から変わったところなどがあれば教えてください。
近藤さん:
主人公ルートのフミくんって完璧な人という印象があると思うんですが,個別ルートだと人間らしいところが前面に出ているんですね。人知れず抱えてる葛藤や悩みについて描かれているのですが,それはある種,主人公である希佐以上に揺れ動いているものがあるなという印象を受けました。
あとは,男前で硬派な人だということですね。軽やかでひょうひょうとしていて,色っぽいセリフも出てくるので軟派な人に見えるかもしれないですが,実は硬派で誰かを愛するとすごく一途で熱い男で。皆さんに知ってほしい彼の魅力です。
4Gamer:
フミを演じて,ご自身の中に残った影響があるとすれば,どのようなところでしょうか。
近藤さん:
作品のメインキャラクターの1人として“女性役を演じる男性”であるフミくんとなり,劇中劇で彼として女性役を演じ,ルートによって異なる面を見せる……そんな“七変化”しなければならないような場面が多く,この経験は役者としての自分自身の糧になったと思います。役者人生の中でも大事な役になっていると感じますし,これからもっとそれを実感していくのではないかなと。
4Gamer:
最後に,読者に向けてメッセージをお願いします。
近藤さん:
石田スイ先生が創造されたジャックジャンヌの世界は唯一無二で,こういった世界観や物語,ビジュアルの作品ってこれまであまりなかったんじゃないかなと思います。まだプレイされていないという皆さんに,この美しくて素敵な世界を体験してほしいですね。
絶対に心に響く部分がある物語となっているので,舞台や演劇を知らないという人も,ぜひ恐れず作品世界に飛び込んでみてください。
「高科更文」CHARACTERページ
(ジャックジャンヌ公式サイト)
インタビュー(4)根地黒門役:岸尾だいすけさん
■自分が演じるのは根地しかいないでしょ! と思いました
4Gamer:
台本を最初に読んだときの印象を教えて下さい。
根地黒門役:岸尾だいすけさん(以下,岸尾さん):
スイ先生の世界観を,いろいろな言葉を使って紡ぎ出されている物語だなと。その素晴らしい内容に負けないよう,演技に精一杯取り掛からなければと奮い立ちました。
4Gamer:
根地黒門との“出会い”について知りたいです。
岸尾さん:
オーディションの話をいただいたとき,「主人公以外にメインキャラクターが6人いて,そのどの役になるかは分かりません」と聞かされていたのですが,キャラクターの情報を見て「いや,根地しかいないでしょ!」って思ったところからですね。
僕は天才なので,ほかの5人の誰だって,お任せいただければできてしまいますよ? ……まあ,それはそれとして(笑)。役が決まったとき「でしょうよ」と確信するくらい,根地くんが一番バシッと自分にハマるなと思いましたし,何より「演じたいな」って感じる人物だったんです。
4Gamer:
運命的な出会いだったと。
岸尾さん:
そうですね。スイ先生の作品と言えば,僕は「東京喰種」のアニメで旧多二福(ふるた にむら)という役を担当しているのですが,この役も初めて見たときに電撃が走ったというか,「僕しかいない。絶対に自分が演じたい」と思ってオーディションを受けたキャラクターなんです。
根地くんもそれに近い感覚があって,またスイ先生の作品で運命と言えるキャラクターの役がもらえたというのは,役者冥利に尽きるって感じですね。
4Gamer:
石田スイ先生からは,根地黒門を演じるにあたって具体的にアドバイスなどは受けられたのでしょうか。
岸尾さん:
いやぁ,そうですね……もちろん説明は受けましたが,わりと自由に演じさせていただきましたね(笑)。
なんだか上から目線みたいに聞こえそうですが,「僕のために作ってくれた役なんじゃないか」ってくらいに最初からシンクロ率が高くて,「ここをああしましょうか。ここはこうしたらいいでしょうか」みたいな話をすることはほとんどなかったです。
「東京喰種」で培ったものをさらに花開かせた……みたいな感じだったので,スイ先生からも,ほぼお任せのような形だったというか。やりすぎちゃって,「ちょっと抑えましょうか」っていうのはありましたけど(笑)。
4Gamer:
(笑)。演じるに当たって悩んだり難しいと感じたところはありましたか?
岸尾さん:
作品によりけりですが,「このキャラクターは,この言葉をこう言うんじゃないか」と自分自身で考えて,あえて句読点を無視したり,ブレスが入らないところで入れてみたり,自分がやりやすい芝居をするといい形になるものがあるんですが,ジャックジャンヌの台本はそれとは逆で。
4Gamer:
その違いについて知りたいです。
岸尾さん:
僕が深読みしすぎているかもしれないのですが,「スイ先生のことだから,句読点や改行といった一つ一つに込められた意味も相当なものがあるんだろう」と感じたんです。
なので,例えば「句読点がないけど長セリフが続く」みたいなところは,ブレスを入れずに一気に畳みかけて台詞を言い切りました。このように自分自身に課題を課し,芝居に負荷をかけ,それに苦しめられながら根地という人間の話し方を作り上げました。
4Gamer:
たしかに,初登場からインパクトある,かなり印象的なしゃべり方ですよね。
岸尾さん:
この戦いによって,僕自身も役者としてレベルアップできたんじゃないかなと思います。大変なことが多くて自身にかけた負荷もそれなりにありましたが,演じることでそれが発散されるという楽しい音声収録でした。
4Gamer:
最初からかなりのシンクロ率だったというお話でしたが,どのあたりがご自身と似ていると感じたのでしょう。
岸尾さん:
あと,僕は,パブリックイメージとしてテンション高い人間みたいなのがあると思うんですが,実際は一人になったら部屋の隅で体育座りしているような男なんですね(笑)。そのあたりも,根地くんにも若干そういうところがあるんじゃないかなと感じますね。
4Gamer:
では,異なる部分は?
岸尾さん:
僕は根地くんみたいに全体を見渡して判断するとか,トップに立って指導していくっていうタイプではないので,そこが大きく違うかなと思います。
……それくらいかなあ。芝居に対する取り組み方や信念は違うんですけど,自分の持っている信念に従って芝居に向き合っているという点なんかは,本当にシンクロしているなと思います。
4Gamer:
劇中劇の役作りについてはいかがでしょうか。“舞台で黒門が担当する役を,黒門となって演じる”という芝居はもちろんですが,さらに根地黒門は作中では脚本家として舞台を作る側でもあるので,なかなか大変だったのではないかと。
岸尾さん:
そこはそうでもなくて,ほかのキャストと違ってあまり悩まずにできていたかなあと。
というのも,根地くんが劇中でやる役は,なかなかぶっ飛んでいて個性が強いんですよ。なので,いったん根地くんを挟まずに“岸尾として劇中の役を演じる”みたいにストレートに結びつけても問題はありませんでした。もちろん,根地くん自身も役者としていろいろな壁にぶつかることもあり,その表現もあるんですけどね。
■賑やかさと“背負っているもの”の落差を感じてほしいです
4Gamer:
物語では,先輩や後輩,同級生の関係性が緻密に描かれています。そのなかで印象に残った人間関係やエピソードはありますか?
岸尾さん:
後輩の美ツ騎(白田美ツ騎)との関係性は興味深いものでしたね。
ミッキー(美ツ騎)は後輩だけどとても辛口で,根地に絡まれてもクールな当たりで返してきます。それでも根地くんはからかうんですが,根地くん自身はどう反応されるか分かったうえで絡みに行っているんです。
それはなぜかというと,ミッキーにそのコミュニケーションをとおして殻を破って成長してほしいって想いがあるからなんだと感じるんですね。根地くんって,基本的に誰であろうと接し方が変わらない人で。ほかのみんなはみんなで「根地はこんな人だからしょうがない」という感じで優しく接してくれるんですけど(笑),その中でもミッキーとは少し違う関係性ができていて面白いなと思いました。
4Gamer:
お気に入りの公演があれば教えてください。
岸尾さん:
夏公演の「ウィークエンド・レッスン」でしょうかね。物語をかき回す役の根地くん自身の出番は非常に少ないんですけど。
クォーツの舞台ってファンタジー色が強いものが多いんですが,ウィークエンド・レッスンは現実に近い設定なだけにリアルで,ほかとは違う目立ち方をしているなあと。オフィスラブみたいな展開もあって「そういうの経験したことないし,やってみたいなあ」って……。あれ,なんか変な形で着地しちゃったな(笑)。
4Gamer:
役者として,そういう芝居をしたい……ということですよね(笑)。
公演と言えば,ここで使用されている楽曲も素晴らしいものが揃っていますね。
岸尾さん:
はい。楽曲自体はもちろん非常に力を入れて制作されたものですし,それを歌う演者も同じように力を入れて挑んでいて,相互作用が働いてとても良いものになっていると感じました。それだけに大変なこともありましたけどね。
4Gamer:
ほかの方々も,これまで歌ったことがないジャンルや曲調の楽曲に苦戦されたと話されていました。岸尾さんにも「この曲が難しかった!」という楽曲はあったのでしょうか。
岸尾さん:
「懺悔室で激しく懺悔」がまあなんというか……初めて聴いたときに「どうするんだ!?」と思いましたね(笑)。
4Gamer:
どのあたりが大変だったのでしょう。
岸尾さん:
あっ,あと,「懺悔室で激しく懺悔」が“動”という意味で大変だったとすれば,エンディング曲の「風が吹いたんだ」は“静”の大変な曲でしたね。
4Gamer:
それはどのような部分がですか?
岸尾さん:
透き通った繊細な印象を受ける曲で,僕もそういう風に歌いたいなって思って挑んだ楽曲なんですが,それが本当に難しかったです。
僕個人としては「歌」って心の叫びというか,力強く声を張って,シャウトする方が好きでやりやすいんですよ。でも「風が吹いたんだ」のように静かな曲は,思いっきり声を出してごまかす……みたいなことができないなと(笑)。
4Gamer:
最初のころと収録を終えたころで,根地黒門のイメージが変わったという部分はありますか?
岸尾さん:
根地くんって,トリッキーでテンションも高く,変幻自在な人だけど,その裏には絶対何か抱えているものがあるって人ですよね?
4Gamer:
はい。体験版をプレイして,初見でそれは感じました。
岸尾さん:
そこをもう少し詳しく話すと……いや,言えないな(笑)。
4Gamer:
“多少のネタバレあり”でも,お話できないことが多そうですね。では,そんな彼のルートの中でお気に入りのシーンがあれば教えてください。
岸尾さん:
「このルートで」とか「ここだ」っていうポイントではないんですけど,やっぱり長セリフを流暢にしゃべりまくって,周り……とくに希佐を「うわー,なんだろうこの人」ってドン引かせるような場面が好きですね。
4Gamer:
初登場から圧倒的なものを感じました(笑)。
岸尾さん:
そうですか(笑)。本当に,あの芝居を許容してくれた制作チームやスイ先生もすごいなって思うんです。あの感じがあるからこそ,ゲームを進めていくと見えてくる“彼が背負っているもの”の落差みたいなものが生まれ,それがギャップとして物語に深みを与えてくれるわけですから。
この落差を感じてほしいですね。僕もそこでやられちゃいました。
■1人の人間としてしっかり掘り下げ,演じきりました
4Gamer:
ちょっと話題を変えて,もし岸尾さんがユニヴェールに入学したら,どのクラスに入りたいか知りたいです。同じクラスにいたら楽しいと思う人はだれですか?
岸尾さん:
一緒にいて楽しいっていう意味なら,やっぱり根地くん一択じゃないですかね! 入りたいクラスはもちろんクォーツなんですけど,アンバー以外だったらどこでも大丈夫だと思います。
4Gamer:
なぜアンバーはNGなんですか?
岸尾さん:
田中右宙為くんとともにいい舞台ができるとしても,彼の手足となってがんじがらめの中で芝居するのはなあ……って。僕は自由を愛する男ですから(笑)。
4Gamer:
では,もし根地黒門と組んで何か芝居をするとしたら,どんなことをやってみたいですか?
岸尾さん:
そうだなあ。「あなたは声だけ,ナレーションだけやってくれればいいんです」みたいなのだったらうまいこといくんじゃないかな?
僕は声優としてはどちらかというと古いタイプというか,「見た目とか衣装も必要ない。声だけですべてを表現してそれを届けたい」という考え方なので。そう言いながら,動画インタビューに出演しているわけですけど(笑)。
4Gamer:
一緒に舞台に立つ役者というよりは,本来の声優としてなにかやってみたいと。
岸尾さん:
ただ2人だと「あれもやっちゃえ! じゃあこれもやっちゃおうか」って広がっていきそうだから,誰か止めてくれる人がいないと大変かもしれない。
4Gamer:
芝居を超えて,何か違うことにも発展しそうです。
岸尾さん:
料理番組とかやってもいいんじゃないでしょうか(笑)。根地くんは独創的だから,一緒に料理を作ってみたら面白そうだなあ。僕はあまり料理はしないんですけど,根地くんが生み出す新しい味を体験してみたいです。
4Gamer:
「実際に黒門がいたら」という話からはズレますが,ステージイベントで実現できそうですね。
岸尾さん:
映画や映像作品で,実写の人間とCGキャラクターが一緒に出ているものがありますが,それを舞台でやったら面白いかもしれないですね。ゲームのキャラクターと,ボイス担当の声優がステージに出てきて……。あれっ,これなかなか面白いアイデアなんじゃないかな?
4Gamer:
ブロッコリーに提案して実現しましょう(笑)。
そろそろ〆のお時間なので,あらためてご自身が担当された根地黒門というキャラクターについての思いを聞かせてください。
岸尾さん:
あれだけ“濃い”人間性と人物背景が描かれたキャラクターだったので,役者としてとてもやりがいがある役でした。
さっき話したことと矛盾してしまうのですが,彼のターニングポイントといえる場面で,句読点や改行にある“間”を無視して,自分の思うように演じてみようと思える箇所があったんですね。それくらい演技には細かな調整をしていたのですが,ここまで1人の人間を掘り下げ,演じきった感覚というのは久しぶりで,この作品に声を掛けてくれた制作チームとスイ先生には感謝しています。
4Gamer:
では,読者に向けてメッセージをお願いします。
岸尾さん:
真っすぐな青春物語の中で,たくさんの個性豊かなキャラクターたちが縦横無尽に走り回る作品です。その何人かの人生の一部を体験できるわけですが,「1人終わった。じゃあ次!」とはならず,しばらく引きずっちゃうようなハードで濃い物語となっているので,ぜひ実際にプレイして物語を追ってほしいですね。一度クリアしても「もう一度」と,何度も味わいたくなるような深みもあるので,そう簡単には遊び尽くせないですよ?
隅から隅までエンターテイメントが詰まった作品です。「ジャックジャンヌ」で,笑いあり涙あり感動ありの素晴らしい青春ストーリーを楽しんでください!
「根地黒門」CHARACTERページ
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(C)Sui Ishida/BROCCOLI