プレイレポート
Switch版「記憶 Path to Mnemosyne」プレイレポート。少女と挑む,観察力と記憶力のパズルアドベンチャー
記憶に自信はありますか?
タイトル画面でボタンを押してスタートすると,洞窟の中,トンネルのような場所で立ち尽くす少女の姿が映し出される。BGMはなく,心臓の鼓動のような音が鳴り続け,その不安を見透かしたかのように,「落ち着いて。君がここにいるのは,思い出すことを選んだからだ」と男性の声が響き渡る。少女は何かしらの記憶を求めて,「道」の先へと進む必要があるようだ。
少女ができることは3つ。「画面奥と手前への移動」「地面にある物を踏まないよう,ジャンプで飛び越える」「地面にマークがある場所での左右への移動」,これだけだ。「マークがある場所での左右への移動」は,少女の左右移動に合わせて画面が回転し,壁や天井が地面になったりする。静止画像だけでは分かりにくいかもしれないので,できれば,このゲームのPV動画も合わせて見てもらいたい。
「記憶」というタイトル名から察せるように,少なくとも現実世界ではない,不思議な世界を走る少女と,時折響いてくる謎の声。「ふうむ……ここは少女の精神世界か? だとしたら,この声は誰だろう……」などと,いろいろ想像してしまうところだが,ストーリーについて頭を悩ませる必要はまったくなく,ゲーム的には純粋なパズルとなる。
登場人物は,「少女」「謎の男性の声(CV:野澤英義)」「謎の女性の声(CV:丸山美紀)」の3名のみというシンプルさで,日本語字幕と日本語音声でしっかりとローカライズされているが,パズルはすべて,言語を必要としないタイプの謎解き。直感,観察力,記憶力が問われる。
本作がほかのパズルゲームと一線を画しているのは,ただ黙々とパズルを解いていくのではなく,さまざまな情報が同時進行でプレイヤーに襲いかかる点だ。
道の周囲を彩る不気味なオブジェクトには目を奪われるが,よくよく見ると,そんな中にもパズルのヒントが隠されていたりする。そのヒントを元にパズルで試行錯誤していると,謎の男性の声や女性の声が聞こえてきて,何やら気になる話をし始めたりする。
不気味な世界の探検,パズル,男性と女性が話している内容から想像する真相。これらがマーブル模様のように混ざり,常にプレイヤーの興味を引き続ける。記憶を追い求めているらしい少女を操作しながら,プレイヤーもまた,これらの情報を常に“記憶”していく必要に迫られる……というわけだ。
プレイ後に不思議な余韻を残す,老若男女問わず楽しめる良作パズル
このゲームのプレイ時間は非常に短い。とある条件でエンディングが分岐するが,真のエンディングを目指した場合でも,初見で2時間前後だろうか。パズルでどれだけ詰まったかでプレイ時間は多少変化すると思うが,とくにパズルが得意というわけでもない筆者でも,長時間詰まるような場所はなかった。
パズルの内容は,決して複雑になりすぎず,多くの人が挫折せずに先へ進めるであろう,ギリギリのラインを攻めている。
世のパズルゲームの中には,「難しい」というよりは「解き方は分かるけど,それを考えるのが面倒臭い」というようなものもあるが,本作はそういったものは一切ない。ちょうど,プレイヤーが疲れる前に気持ち良くクリアできる感じで,ゲームのボリュームも,その辺りを狙ったのかなと思う。
このゲームは,クリアしても,すべての謎に答えてはくれない。しかしそれは,「このパズルは,どうやればクリアなんだ」ということを教えてくれないまま試行錯誤することになるゲーム本編の如く,クリアしてからも頭を使えと言われているかのようでもある。「ひとりの少女が見た,なんだかよく分からない夢」だとしてもゲームは成り立っているが,ゲーム内で語られる情報から,いろんな解釈・想像ができるのだ。
たとえば,ゲーム中,謎の男性の声が何度も「レーテ」という単語を口にする。レーテとはギリシア神話に出てくる川の名前で,人が死して魂となり,新たな生を受けるにあたって,この川の水を飲むことで前世の記憶を失うと言われている。
一方,このゲームのタイトルになっている「Mnemosyne(ムネモシュネ)」も,ギリシア神話に出てくる川の名前だ。ギリシア神話では,記憶を司る女神の名前でもある。
ムネモシュネの川の水はレーテとは正反対で,すべてを記憶し,何一つ忘れることなく,そればかりか,この世のすべてを知る「全知」の力が得られるといわれている。
「Path to Mnemosyne(ムネモシュネへの道)」というタイトルや,ゲーム冒頭の「君がここにいるのは,思い出すことを選んだからだ」という謎の声から,少女は“忘却”を表す「レーテ」ではなく,“記憶”を表す「ムネモシュネ」を目指して,「道」をひた走ってパズルを解いている……とも想像できる。パズルのタイプも,“記憶”力を問われるものが多く,どこか暗示的だ。
昔と比べると,現代は「記憶しなければいけないこと」は激減したように思う。「とりあえずスマホで撮って保存しておけばいい」「あとでネットで検索すればいい」,今はそんな時代だ。
これは悪いことだと思わない。コンピュータに任せられることは任せるべきだし,人間の頭脳は,人間の頭脳でしかできないことにエネルギーを割くべきだ。
しかし人間の体というものは正直で,使用頻度の低い部位は確実に衰えていく。脳も例外ではない。酷使は良くないが,使わないのも良くない。
昔はくだらない内容でもいろいろと暗記していたものだが,このゲームを終えたとき,脳の最近使っていなかった分野をフル稼働したような気分だった。「いい汗かいた」的な充実感と同時に,「最近,こういう頭の使い方はあまりしなくなったな」という危機感のようなものも感じる。このゲーム自体が,そういった現代への警鐘にも思えてくる。
少女の手助けをすると言う割には「レーテ」へ誘おうとする男性の声や,表向きは男性と協力している風でありながら,実際はそうでもなさそうな女性の声を聞いていると,否が応にも想像力が働く。パズルと想像力の刺激によって,まんべんなく脳をマッサージしているかのような感覚があり,ゲームを終えた後も脳が活性化している気がした。
「記憶に関して何らかの実験をしている近未来の話なのでは……」とか,「ムネモシュネへの道を走る少女は脳の中を走る電気信号で,あのパズルや奇妙な風景は,人間の脳の中そのものを表しているのではないだろうか……」など,なんだかいろんな想像をさせられるゲームだった。何かを考えれば考えるほど,それは脳を使っているわけで,パズルが持つ本来の効能を「頭の体操」とすると,見事に開発者の術中にはまっている気がしてならない。
最近,「昨日の昼飯,何食べたっけ……」ということが多い筆者でもなんとかなったので,「パズルは嫌いじゃないけど苦手なんだよー」という人や,「記憶力には自信がないよー」という人にも,「多分これはいける,というか,きっとパズルに自信つくよ!」とオススメしておきたい。
──とあるパズルを録画によって切り抜け,「レーテ」と「ムネモシュネ」についてネットで検索した筆者より(邪悪な微笑み)。
「記憶 Path to Mnemosyne」公式サイト
- 関連タイトル:
記憶 Path to Mnemosyne
- 関連タイトル:
記憶 Path to Mnemosyne
- この記事のURL:
キーワード
(C)DevilishGames ? Spherical Pixel S.L. 2018 Published in Japan by COSEN
(C)DevilishGames ? Spherical Pixel S.L. 2018 Published in Japan by COSEN