紹介記事
スウェーデン生まれのTRPG「Tales From The Loop RPG」を紹介。ノスタルジーとSFマインドに溢れた世界で繰り広げられる,少年少女達の冒険譚
耳馴染みのない人のために軽く紹介しておくと,ナラティブとは2013年頃からゲーム開発者の間でもてはやされるようになったキーワードで,単語としての意味を引くなら,シンプルに「物語」を意味する。ただゲームの文脈でこの語が用いられる場合,いろいろな尾ひれがくっついて,ざっくりというと「ゲームの中で物語を表現するための方法論」くらいの意味になってくる。定義が明確に決まっている言葉でもないので大雑把ではあるが,そう大きく外れてもいない。4Gamerにも記事はいろいろとあるので,実態はそちらを参照してみるのもいいだろう。
というわけで,そんな風に始まったナラティブのムーブメントが,デジタルとアナログの双方で広がりをみせているのだが,日本のテーブルトークRPG界隈で聞かれるようになったのは,冒頭にも書いたように,比較的最近のことだろう。
ではテーブルトークRPGにおけるナラティブとは,いったいどういうものなのだろう。そもそもテーブルトークRPGは,物語を包含する形で生まれ,進化を遂げてきたジャンルなので,いまさらナラティブと言われても……と思わなくもない。
そんなことをつらつらと考えるなか,個人的に最近強烈にナラティブを感じるタイトルに出会ったので,本稿ではその紹介をしてみたい。そのタイトルは「Tales From The Loop RPG」(以下,Loop RPG)という名前で,付け加えると未訳の作品である。前置きが長くなったが,同作の魅力をじっくり紹介していこう。
「Tales From The Loop RPG」公式サイト(英語)
もう一つの1980年代を遊ぶ,欧州発のテーブルトークRPG
やがて,僕は,古びたロボットの手の中で泣いている妹を見つけた。
この島に建設された粒子加速器「The Loop」の番人だ。僕はロボットが暴走して妹を傷つけないように,ゆっくりと近づいていった。
「Loop RPG」の舞台は架空の1980年代後半,スウェーデンの小さな島・メーラレン湖諸島だ。島に建設された巨大粒子加速器「The Loop」の影響か,島には何か不思議なことが次々と起こるようになった。大人達は島が便利になったことばかりを気にして,不思議な出来事やその噂のことなど気にも留めていないが,敏感な子供達は感づきはじめた。
例えば,The Loopの敷地を守る日本製の警備ロボットが不可解な動きをしているとか,存在しないはずの恐竜が街に現れるとか,郊外の沼地に,軍の秘密兵器が墜落した噂があるとか。こうした現象に気づいてしまったキッズ達は,謎(Mystery)を解明するため,小さな冒険に出向くことになる。
ノスタルジーとSF,ファンタジーとホラーが入り混じった世界観が魅力となり,2016年にリリースされたこのタイトルは,テーブルトークRPGを対象としたファンベースのアワード,ENnie賞にて,2017年度のベストゲームやベストセッティングなど5部門を受賞したゲームとなった。
Simon Stålenhag氏のイラストから生まれた,不可思議な世界観
Loop RPGの魅力は,まずその世界観だろう。
海外ドラマ「ストレンジャー・シングス」を思わせるような,ノスタルジーとSFマインドに溢れたビジュアルと,濃厚なジュブナイルの香り。日本でいうなら,「大長編ドラえもん」に「少女終末旅行」のポストアポカリプスのニュアンスを付け加え,「スタンド・バイ・ミー」で味付けしたような……とでも言えば伝わるだろうか。
ベースとなったのは,スウェーデンの新鋭アーティストSimon Stålenhag(シモン・ストーレンハーグ)氏が2014年に発表したストーリー付きのイラスト集「Tales From the Loop」だ。元々は本人のウェブサイトで公開されていたが,そのノスタルジーとSFマインドに溢れた世界観が評判を呼び,Kickstarterを通じて書籍化が行われたという。
2016年には続編となる「Things from the Flood」,2018年には第3弾の「The Electric State」も発表され,海外では“ストーレンハーグ現象”と呼ぶ人もいるくらい,話題になったそうだ。
Simon Stålenhag氏の公式サイト
「Tales From the Loop」は先にも軽く紹介したが,スウェーデンにある実在の場所,メーラレン湖諸島を舞台としている。大規模な円型粒子加速器・The Loopが奇妙な歪みを与えた“もう一つのスウェーデンの田舎町”で,少年少女達が冒険を繰り広げる。
一方,第2弾である「Things from the Flood」は1990年代末に時代を移し,The Loopが停止したあと,ティーンエイジャーに成長した少年少女達の物語が描かれる。とある企業が引き起こした実験が奇妙な事象を引き起こし,湿地帯に住み着いた奇妙な人型ロボット達と共に,その謎を追いかけるのだ。
なお「The Electric State」については,前二作に先んじてグラフィック社より翻訳版が先頃出版され,すでに日本語で読むことが可能だ。幸いながら出足も好調なようで,未訳の前二作についても翻訳が決定したとのこと。「Tales From the Loop」は2019年11月, 「Things from the Flood」は2020年1月発売予定だそうで,個人的にも非常に楽しみである。
原作の空気を再現するゲームシステム
「Loop RPG」は,Simon Stålenhag氏のこの「Tales From the Loop」の世界観を元に,スウェーデンのデベロッパであるFree League Publishingが企画/制作したテーブルトークRPGだ。デザイナーはNils Hintze氏で,パブリッシングを担当したFria Ligan ABがKickstarterで資金調達を行い,出版に漕ぎつけている。英語版は,イギリスのパブリッシャであるModiphius Entertainmentが制作し,販売を行っている。
「Loop RPG」が目指しているのは,原作の世界観を皆が共有し,それを楽しむスタイルのテーブルトークRPGだ。厳密さやリアリティを突き詰めるのではなく,ゆるやかな語りを中心に,皆で物語を作っていくことを重視している。ルールブックの最初の方に書かれた「Principals of the Loop(The Loopの原則)」の6か条には,それがよく表れている。
- あなたの故郷の街は,奇妙で不思議なもので一杯です。
- 日々の生活は,退屈すぎて我慢できそうにありません。
- 大人達は僕らと関係ないし,理解しようとさえしません。
- The Loopの地は危険ですが,キッズ達が死ぬことはありません。
- ゲームプレイは,シーンを追うことで進行します。
- 世界の描写は,協力して行いましょう。
ゲームシステムはライトで,行動の成否を決める判定は,「Attributes(能力値)」と「Skills(技能値)」の合計に等しい数の6面ダイスを振って,規定数以上の6の目を出せば成功,というシンプルなもの。通常は1個出せばよく,困難な挑戦で2個ないし3個の成功が求められる。
プレイヤーキャラクター(以下,PC)となり得るのは,10歳から15歳のキッズ達だ。キャラクターメイクも比較的シンプルで,デフォルトで以下の8つの「Type(タイプ)」が用意されている。「Type」はほかのゲームでいうところのクラスのようなもので,それぞれに得意/不得意がある仕組みである。
- Bookworm(本の虫)
- Computer Geek(コンピュータ・オタク)
- Hick(田舎者)
- Jock(運動部員)
- Popular Kid(人気者)
- Rocker(ロッカー)
- Troublemaker(トラブルメーカー)
- Weirdo(変人)
Attributes(能力値)は「Body(身体)」「Tech(技術)」「Heart(感情)」「Mind(精神)」の4種類で,これに12種類の技能を組み合わせることで,先の得意/不得意が肉付けされる。能力値は各1〜5ポイントの割り振り制だが,割り振る元の総計ポイントはキッズの年齢に等しいので,年上のキャラクターほど,能力値が高くなる。
ただ,15歳を下回った分だけ「Luck(幸運)」というポイント(いわゆるヒーローポイントだ)が得られるので,イザというときにはちびっ子の方が活躍できる……かもしれない。
その後はキャラクターシートにある各項目――「Iconic Item(象徴アイテム)」「Problem(厄介ごと)」「Drive(動機)」「Pride(自負)」「Anchor(拠りどころ)」「Relationship(ほかのPCやNPCとの人間関係)」を埋めていけば,キャラクターは完成だ。
これらの項目は「Type」ごとに2〜3の選択肢が用意されているので,単純にその中から選ぶだけでよい。例えば「Bookworm(本の虫)」なら,「Iconic Item」は,「プルータンという名前の犬」「百科事典」「拡大鏡」の3択となる(もちろんGMが認めるなら自作してもいい)。
というわけで,筆者が試しに作ってみたキャラクターはこんな感じになった。
ちなみに,ほかのPCからのRelationship(関係性)はこんな感じ。
リンダ=マリアから:彼女は風変わりだが,そこが気に入っている。
アンナ=レーナから:彼女は,こちらが彼女を愛しているとは知らない。
なんだか修羅場の予感しかないが,まあ気にしないでおこう。
こんな感じで人間関係を最初に作るので,これから起こる物語のちょっとした味付けには困らない。例えばキッズ同士の些細なケンカシーンなんかも,お手軽に表現できそうだ。
……かくしてこの4人のキッズ達は,この後おかしなメッセージを残して家出したコンピュータオタクのベンジャミンを探すべく,The Loopのある立ち入り禁止地域へと足を踏み入れ,おかしくなったロボットと遭遇することになるのであった。
圧倒的なビジュアルから生まれる,想像力豊かなゲーム体験
例えばBully Pulpit Gamesによるインディーズ作品「FIASCO」は,その極北とも呼べるタイトルの一つだろう。最小限のルールと大まかなテーマだけが用意され,何が起こるかはプレイヤーの発想力とダイスの出目次第。GMさえ不要で大惨事のドタバタ劇が展開される同作は,“ナラティブ系”テーブルトークRPGの代表的な存在といえる。
あるいはOne Seven Designによるスチームパンクもの「Lady Blackbird」は,場面とシチュエーションを大きく限定することで,物語やロールプレイの“余白”を持たせたタイトルである。政略結婚を逃れ,飛行船で恋人の元に辿り着かんとする貴族,レディ・ブラックバード嬢をめぐる謎と冒険が展開されるが,その真相は不定である――つまり参加者全員で“なぜそうなったのか”を考えなくてはならない。
こうしたタイトルは,これはこれで自由度が高すぎて人を選びすぎたり,単にテーマが限定されてすぎて,継続的なプレイがしにくかったりといった欠点もあるが,まあ刺さる人に刺さるゲームといえるだろう。
一方で,ここ10年ほどの「クトゥルフ神話TRPG」の流行もまた,ナラティブの文脈にあると筆者は感じている。もちろん同作の初出は1981年だし,現行の第6版にしても2003年の作品なので,今現在のナラティブブームなど影響するべくもないのは明らかだ。
しかし動画サイトという場を通じて再評価されたのは,適度に軽く使いやすいシステムと,現代を舞台とするに適した諸要素――つまり同作の汎用性の高さが持つ,ナラティブの器としてだったのではないだろうか。
ゲームシステムも軽量で扱いやすい。「クトゥルフ神話TRPG」と比べて汎用性には欠けるが,その分,洗練されているともいえる。まあ,40年近くも前のゲームと比べるなという話ではあるが。「Problem」や「Drive」「Relationship」によって,物語が自然に紡がれていく作りはモダンだし,これもまた,ナラティブの一つの形であろう。ルールブックには,イメージ描写のたっぷり詰まったキャンペーン用連作シナリオも掲載されているので,英語が苦にならないのであれば,まずはここから遊んでみるのが良さそうだ。
なお海外では原作第2弾の「Things from the Flood」を再現する続編が発売されており,これを導入すれば15歳以上のティーンをPCにして遊べるようになる。ドラッグやセックス,家庭問題などが物語に絡むようになり,こちらはさながらデジタルゲームの「Life is Strange」のような雰囲気,といったところだろうか。
テーマ的にはやや重たくなりそうではあるが,成長したキッズ達の活躍を見たい向きには,相応しい拡張と言えるかもしれない。
というわけで,ぜひ日本語版を出してほしいところなのだが……どこかに心の広い出版社はないものだろうか。もしいれば,ぜひお声がけいただきたい今日この頃である。
「Tales From The Loop RPG」公式サイト(英語)
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