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  • Onion Games
  • 発売日:2019/10/10
  • 価格:1833円+税
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“アンチRPG”な「moon」をオリジナル版未経験者がプレイ。人は選ぶが,心に深く刺さる無二な体験ができる作品だ
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印刷2019/10/10 00:00

プレイレポート

“アンチRPG”な「moon」をオリジナル版未経験者がプレイ。人は選ぶが,心に深く刺さる無二な体験ができる作品だ

 本日(2019年10月10日),Onion GamesからNintendo Switch「moon」がニンテンドーeショップで発売された。moonはもともと1997年にラブデリックが開発し,アスキーからPlayStation用ソフトとして発売されたタイトルだ。
 当時の主流だった王道RPGの設定に疑問を投げかける“アンチRPG”というテーマや,プレイした人に強烈な印象を残す内容が評価され,現在でもコアな人気を誇っている。9月5日のNintendo Directで,22年の時を経て遂に実現した移植が,驚きを持って迎えられたことは記憶に新しい(関連記事)。

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 発表された瞬間からSNSでは「あの伝説の名作が!」「やったことない人はぜひプレイして!」という熱いファンの声がひっきりなしに聞こえるし,当時のプレイヤーは狂喜乱舞したことだろう。
 一方で,「今,プレイしてあの雰囲気が理解されるのか」とか「期待値が上がり過ぎてて,落とされるのが怖い」という不安を漏らすファンもいた。確かに期待値が上がり過ぎている感じはあるし,名作として語られるソフトも実際に遊んでみると「ちょっと古いなあ」と言う印象を受けることは多い。実際のところmoonは今プレイしても面白いのだろうか。

 というわけで,今回は「やったことないけど,興味はある」という人に向けて,未経験者の立場からプレイレポートをお届けしたい。
 ちなみに,編集部にいたmoon大好き先輩に「面白いんですか,このゲーム」と探りを入れたら「変なゲーム」とか「どうなんだろうねえ……」とか,とても好きな人の言葉とは思えないふんわりした回答しか返ってこない。どういうことだ……?


舞台はゲームの中の世界「ムーンワールド」。
頼れる人ではなく,迷惑な人として描かれる勇者


 筆者はmoonが「ゲームの中の世界を探索するゲーム」ということくらいは知っていたので,当然ゲームはそこから始まるのだと思っていた。しかし,最初に与えられたミッションは,主人公の少年が遊んでいるゲーム内ゲーム「MOON」(当時の書籍などではFAKE MOONと紹介されていたらしい)を攻略するということだった。

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 「MOON」の内容は,月を喰らったドラゴンを退治するべく旅立つ勇者の姿が描かれており,まさに“ファンタジーRPGのステレオタイプ”といった作りだ。
 街を歩けば「勇者様! 勇者様!」と大衆から歓迎されたり,タンスから防具が手に入ったり,物語後半で飛空艇が出てきたりと,いわゆる当時のファンタジーRPGのお約束を皮肉ったような演出が随所にちりばめられている。“アンチRPG”をテーマにした本作らしいプロローグだ。

ゲーム内ゲーム「MOON」のストーリー。長いよ!
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ファンタジーRPGのお約束的な演出の数々が「これでもか!」と盛り込まれている。ぶっちゃけてしまえば「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」が強く意識されており,セーブ画面のデザインはそのまんまといった感じ
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ちょうどいいところで,「ゲームなんかやめて早く寝なさい!」と,突然お母さんからお叱りの言葉が飛ぶ。しぶしぶテレビの電源を消して寝ようとする主人公だったが,ここで突如テレビが発光。またたく間にテレビの中に吸い込まれてしまう
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 「MOON」では,あれだけキャーキャー言われていた勇者だが,テレビの中の世界,ムーンワールドではちょっと様子が違う。というのも,勝手に人の家に忍び込むわ,人のタンスを探ってものを盗るわという,はた迷惑な奴として世間のひんしゅくを買っているからだ。
 しかも,「MOON」内では恐ろしいモンスターとして描かれていた生き物たちも,実は人畜無害の「アニマル」であり,勇者は経験値を稼ぐためにそれらを無差別に斬り殺していることが分かる。このように「テレビ越しに見ていた勇者が実は……」というメタ視点から物語が進んでいくのだ。

「MOON」では恐ろしい犬を退治しているかのように描かれていた勇者だが,この世界では人畜無害な犬を追いかけまわしていただけ。住民からも嘲笑の対象にされている
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無言で無差別にアニマルを殺しまくる勇者。死体がそのまま残るのが不気味
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上段が「MOON」プレイ時の画面で,下段がムーンワールドでの住民の様子。彼らもテレビ越しに受けていた印象とはまったく違い,皆人間臭く一癖も二癖もある
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大切なのは「ラブ」を集めること。たくさん溜めて動ける範囲を広げていこう


 本作でプレイヤーに与えられる唯一の目的は「世界中の『ラブ』を集めて,『光の扉』を開ける」ということだ。ラブは,ムーンワールドのいたる所に散らばっており,住民たちと交流したり,勇者に殺されたアニマルたちのソウルを「キャッチ」したりすることで集まっていく。

夢の中に出てくる謎の女性。主人公にラブを集めて光の扉を開けてほしいと頼んでくる
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住民たちとコミュニケーションを取ったり,アニマルたちのソウルをキャッチしたりしてラブを集めよう
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 ただし,序盤から世界を自由に歩き回れるかというとそういうわけでもない。主人公には「アクションリミット」と呼ばれるステータスがあり,これによって一度にムーンワールドで活動可能な時間が決まっているのだ。
 アクションリミットは,ラブを集めることで成長していくため,まずは,序盤の休憩ポイントである“おばあちゃんの家”を拠点に近場を探索し,ラブを集めていく必要がある。アクションリミットが成長して行動範囲が広がったら,新天地でラブを集めて,さらに行動範囲を広げ……ということを繰り返していく。

公式サイトで公開されているマニュアル(外部リンク)の画像。ムーンワールドには昼夜の概念があり,7日間で住民の生活サイクルが回るようになっている
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ゲーム開始時の活動可能時間は,ちょうど半日と非常に短い。アクションリミットがゼロになると問答無用でゲームオーバーなので,気をつけよう
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ラブが集まったら,おばあちゃんの家で眠ってラブレベルを上げれば,活動可能時間もどんどん延びていく。睡眠はセーブと回復を兼ねているので,こまめに立ち寄ろう
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 さて,筆者もさっそくラブを探しにムーンワールドを探索し始めたのだが,しばらくはmoonのとにかく“ゆっくり進むゲーム性”に慣れずにいた。
 特に気になったのは「主人公の移動速度が非常に遅い」という点だ。世界中のラブを集めるというゲームの性質上,各地を歩き回らないといけないのだが,主人公の移動速度ではあちこち移動しようと思うとかなり時間がかかってしまう。
 当然,ダッシュ機能なんてものはない。それどころかアクションリミットが減ってくると,主人公の元気がなくなって移動速度がさらに遅くなってしまう。特にラブが集まっていない序盤はアクションリミットも非常に少ないので,ちょっと離れたところに行くと,帰宅する余力が残っておらずゲームオーバーということが何度もあった。

主人公はどんな状況だろうとのんびり歩く。活動限界が近づいているのにマイペースに歩く主人公を見ていると,「そんなにのんびりしてる場合じゃないだろ! お前そろそろ倒れるぞ!」とついツッコみたくなる
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ゲームオーバーになると強制的にタイトル画面に戻される。再開地点は直前のセーブポイント,つまり前回睡眠を取ったタイミングとなるため,状況によってはかなりの巻き戻しを食らう。画像のようにベッドの直前で倒れたら目も当てられない
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毎日おばあちゃんから一時的にアクションリミットを増やすクッキーがもらえる。序盤はこれをバリバリ頬張りながら探索することになるだろう
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 本作の“ゆっくりさ”はほかにもみられる。ムーンワールドには昼夜の概念があり,7日間を1週間として住民たちの生活サイクルが回っている。そのため,夜にしか見られない住民の一面や,特定の曜日の特定の時間にしか見られない細かなイベントが多数存在する……が,このゲームには,家で寝るという手段以外に時間をスキップする方法がない。
 なので,家からちょっと離れたところで起きる出来事を観察する場合は,必然的に時間調整のために「待つ」という選択を取る場合が多くなる。また,乗り物などに乗って移動する際にも「一日半かかるよ」と言われれば,ゲーム内時間で本当に一日半かけて移動することになるのだ。本作では現実の10秒が約1時間。つまり,移動のために約6分間もジッと画面を見続けなければいけない。
 筆者はそんなにせっかちな人間というわけでもない(と思っている)のだが,最初の頃はこの何もしないでただ「待つ」という時間がかなり辛く感じた。

本作は,移動にかかる時間を本当にゲーム内で過ごさなくてはいけない。もちろん,乗ったときにアクションリミットが足りなければゲームオーバーである
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住民の営み,小鳥のさえずり……
ゆっくりと気ままに歩くからこそ見えるものがあった


 とまあこのように,筆者は最初の頃,本作をどちらかというと「不便なゲームだな」と思っており,あまり良い印象を持てなかったのが正直なところだ。
 最初は活動可能時間が短く,とにかく倒れまいとラブを集めることに必死だった。主人公の遅い歩みも「こっちは急ぎたいのに」という気持ちに干渉するわずらわしい要因でしかなかったし,「待つ」という行為に対しても面倒なこととしか思えなかった。

 しかし,ラブが集まってくると,1日どころか,2日や3日寝なくても平気になり,ゲームオーバーの心配がなくなってくる。そうして心に余裕ができ,世界を楽しめるようになると,moonを通して見えてくるものはだんだんと変わっていく
 ゆっくり歩いている最中も,ふと聞こえる音に耳を傾ければ,小鳥のさえずりに心を癒され,歩く場所によって変わる主人公の足音が心地よくなってくる。「待つ」という行為も,人々の往来する何気ない様子が目に留まったり,上空を移動中に変わる空模様がとてもきれいだったりと,いろいろなことに気づかされる。
 現実でも余裕がないときは,時間に追われて細かなところに目が向かなくなるものだ。ただ,ちょっと足を止めてみると,いつも通っている道でも感じる景色の印象が変わることがあると思う。moonのイメージもまさにそんな感じで変化していったのだ。

ラブ収集に追われる日々が落ち着くと,だんだんとmoonの“ゆっくり感”が心地よくなってくる。都会の喧噪を離れて,のんびりと一人で旅行に行ったときのような心情だ
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移動中にも空模様がどんどん変わっていく。最初は移動にかかる時間ばかり気にしていたが,「たまにはこんなのもいいかな」という気持ちになってくる
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 そこからは,心のおもむくままにムーンワールドを堪能する時間が続いた。あるときは住民たちの様子を後ろから追いかけて観察してみたり,路上で売っているMD(ムーンディスク)を買って好きな音楽をかけながら散歩したりとひたすらに自由を謳歌した。
 最初の城下町に戻ってみると事件が起きている,いたる所に世界の謎を読み解く情報がちらばっているなどなど,ムーンワールドは深く掘れば掘るほど,いろいろな顔を見せるため,本当に時間を忘れてプレイしてしまった。いつの間にか筆者もすっかりムーンワールドの住民になっていたのである。

住民は後をつけて様子を観察していれば意外な一面が見え,ラブが手に入ることもある。ストーキングして得られるラブってちょっと歪んでるんじゃ……と思わなくもないが,そこはご愛敬
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路上で売っているMD(ムーンディスク)を買って,音楽プレーヤーで再生すれば好きなBGMでゲームをプレイできる。あえて音楽をかけずにゲーム内の音だけで世界観を楽しむのもオススメ
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ゲーム内に散らばっている「奇盤」と呼ばれる謎のアイテム。この世界の謎を読み解く重要な情報が描かれている
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人は選ぶが,心に突き刺さる無二の体験ができる作品
興味があるなら一度は触れてほしい


 そんなわけで筆者は,たっぷりとムーンワールドに浸りながら,エンディングまでしっかりとプレイさせてもらったが,それを踏まえて,本作が万人に勧められるゲームなのかと聞かれたら,「NO」と答えるだろう。

 一番の理由は,ゲーム全体を通して“アングラ感”や“毒気”を強く感じるタイトルだからだ。
 冒頭のようないわゆる“王道RPGのお約束”を痛烈に皮肉った描写がかなり存在するし,それを苦手に思う人がいるのは想像に難くない。また,突然挟み込まれるサイケな描写や,「エコ倶楽部」というかなりギリギリを突く社会風刺などもアクが強く,ブラックなネタは人を選びそうだ。

現在はこういった“メタ”な作品は存在するが,本作が放つ毒気は結構強め。RPGに対する皮肉以外にも「これ大丈夫?」と思う風刺も
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 また,先ほども触れた“ゆっくりとしたゲーム性”が合わないという人もいるだろう。プレイし続けていると,その“ゆっくり”加減がだんだんとちょうどよく感じられてくるのだが,わずらわしいと感じる人には“ただただ遅いゲーム”である。
 総じて“良いところ”がそのまま“悪いところ”にもなる表裏一体なタイトルなので,合う人はとことん夢中になれるが,合わない人はすぐに止めてしまうくらい合わない。筆者がゲームを始める前に投げかけた「面白いんですか」という問いに対する先輩の回答は,結果的にはその通りだった。「変なゲーム」も「どうなんだろうねえ……」も,今なら分かる。

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 ただ,筆者自身は「いい体験ができた,プレイしてよかったな」とたしかに思っている。初めは眉をひそめながら進め,だんだんと引き込まれていったムーンワールドの旅には,本当にいろいろな体験があった。そして,旅路の最後に待ち受けるあのエンディングを見た後に湧き上がる思いは,「面白いか」「つまらないか」といった単純なものではなく,もっといろいろな感情が絡み合った形容しがたいものだったからだ。
 この感情は,実際に自分でプレイしたからこそ得られたものだと振り返ってみても思う。

 「発売当時の時代背景を知らないとね」とか「リアルタイムでやった人にしか良さは分からない」という言葉は,いろいろなゲームで聞かれる言葉だ。確かに本作にもそういった要素は多くあるが,発売から22年の時を経た今,初めてmoonをプレイするという人にしか感じ取れない何かもある。そんなきらりと光るものが見えるタイトルだと思う。
 もし,少しでも興味を持った人は実際に手に取ってプレイしてみてほしい。とても人を選ぶし,不便な点もあるが,波長がピッタリ合う人は心に突き刺さる無二の体験が得られるはずだ。

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「moon」配信ページ(ニンテンドーeショップ)

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