政情不安定な国で編集長がニュースを操作すると何が起こる？ 「ヘッドライナー：ノヴィニュース」プレイレポート

　2019年12月12日，コーラス・ワールドワイドからアドベンチャーゲーム「ヘッドライナー：ノヴィニュース」（PlayStation 4 / Nintendo Switch / Xbox One）が発売された。2017年にUnbound Creationsがリリースし，インディーズゲーム界隈にインパクトを与えた「HEADLINER」の続編にあたる作品だ。PC版の登場から約1年，いよいよ日本語でプレイできるようになった。

ダウンロード版（PS4 / Nintendo Switch / Xbox One）は1600円（税込），オリジナルサウンドトラックSONOCAカードが付属するパッケージ版（PS4 / Nintendo Switch）は3980円（税別）で発売中。なお，パッケージには東京ゲームショウ2019にて，4Gamerが選出した「INDIE PRIZE」のロゴが記載されている（関連記事）

　「ヘッドライナー：ノヴィニュース」の舞台は，近未来の架空国家・ノヴィスタン。この時代，多くの人々は遺伝子改良により，従来の遺伝病を克服したり，現代より高い能力を発揮したりしている。
　だが同時に，原因不明の奇病が蔓延し始め，人々の心は不安定となり，うつ病や不安障害に悩まされる若者も多い。
　そんな中，経済不振にあえぐノヴィスタンは，隣国レアリスへの干渉を強めようとしていた──。


　プレイヤーはノヴィスタンの新聞社・ノヴィニュースのヘッドライナー，すなわち編集長として，記者から提出された記事を承認するか，却下するかを決めることになる。
　言い方を変えれば，世の中にどんな情報を流布するのか，あるいは握りつぶすのか。一切の判断を任される立場だ。

一応，会社側からの指示もあるが，無視しても構わない

主人公の外見はエディット可能。気骨のあるジャーナリスト風の見た目にもできる

ロード画面のテキストもスパイスが効いている。「事実を歪曲中」「醜聞を流布中」「虚報を拡散中」といった場合も

　編集長の仕事はとてもシンプルだ。目の前のニュースを読んで承認するか，ボツにするか，ボタンを押して決めるだけ。日によって掲載枠の都合から承認できるニュースの数が変化したり，2つの記事のうち，どちらかを選択して報道局の立場を鮮明になければならなかったりする場合もあるが，システム自体は複雑なものではない。すぐに把握できるだろう。


　ただ，為すべきことはシンプルでも，判断することはなかなかに難しい。例えば，政府の方針に関する記事，局のスポンサーの利害に関わる記事，警察が捜査中の事件の記事。いずれも扱いを間違えれば，とんでもない事態を招きかねない。


　ノヴィニュースはWebでも配信しているのか，記事を承認してから市民に伝わるまでのスピードがものすごい。日中に承認した記事の反応が，帰宅の途中に街の噂話として聞けてしまう。
　それどころか，ニュースの影響によって街の風景までも変化していく。

街を歩いているとヒソヒソ声とともに“世論”が伝わってくる

主人公の家の窓から見える広告も変化していく

　例えば，政府の政策や首相を支持し，隣国レアリスに対して厳しい姿勢のニュースを承認していると，反対勢力によるデモや暴動が発生することもある。政情が安定している国に暮らしていると想像しにくいが，こんな物騒な変化をも呼んでしまうのだ。

遺伝子改良ビジネスからレアリス企業の排除を求めるデモが発生

すると，レアリス系の大型小売店が襲撃されてしまった

　そして世情の変化により，主人公にとって身近な人々の運命もまた大きく左右される。

毎日，主人公に指示を出すボス。基本的には「ページビュー数が伸びる」「金になる」記事が大好きだが，局員の身を案じる父親のような一面もある

同僚のエヴィは隣国レアリスの生まれの海外特派員で，遺伝子改良に由来する疾病を抱えている。成功を求めてノヴィスタンで働いているが，この国の優れた医療サービスを受けることも目的のひとつ

主人公の兄・ジャスティン。コメディアン志望の気さくな青年で，料理が趣味。周囲の人々にとっては意外なことだが，彼は不安障害を抱えており，その苦悩は深い

主人公が行きつけの商店の店主ルディ。海外資本の進出に脅威を感じており，対外的に強行な姿勢をとる現政権を支持する。彼には自閉気味の娘がおり，その将来を心配している

　本作は，報道するニュースを選ぶゲームであると同時に，ひとりの私人として，彼らと関わっていくゲームでもある。1回のゲームプレイで描かれる期間はたったの2週間だが，その間にノヴィスタンの情勢は大きく変化し，彼らの人生もまた大きな影響を受けることになる。

　もし国民全員に医療を行き渡らせる法案を肯定的に報じ，その後，法案が通過すれば，兄ジャスティンはセラピーを受けることができ，彼のメンタルは好転する。だがそれは，同時に一人あたりの医療の質を低下させることでもあり，高度な医療を必要とする同僚エヴィにとっては「いいニュースではない」というわけだ。
　1回のゲームプレイは2時間前後。何度も繰り返し遊ぶことで，納得のいく結末を探してみよう。

逆に法案が通らなかった場合，兄は必要なセラピーや投薬治療を受けることができなくなる

スポンサーに不利益な報道をしたため，局員全員が減給に。そのため，同僚が必要な薬を買えなくなる展開も

会社に無断で兄のライブを宣伝することで，コメディアンとしての道が開けるかもしれない

　筆者も情報を伝える側の端くれなので，本作が扱っているテーマは普段から頭の片隅に意識している事だったりする。例えば，下のスクリーンショットをご覧いただきたい。


　2つの記事は同じソースを元に書かれたようだが，「最新報告」と「予備調査」，「6人に1人」と「わずか15%程度」といった言葉の選び方によって，読者の印象がまったく異なるものになっている。2人のライターの高い見識と技術が伝わってくる“作品”だ。

　確かなソースを元にして，誠実に伝えているように見える記事であっても，情報を誇張したり，伏せることによって，印象を操作することは容易というわけだ。情報の受け手にリテラシーが問われるのは，一見もっともらしい情報に触れたときこそ，なのだろう。


　さて，ここまで記事を読み進めてくれたあなたに問いたい。本稿の内容を素直に信じられるだろうか？
　無論，筆者や編集者には「情報を伝えるプロ」としての矜持がある。だが，「素晴らしい作品を世に伝えよう」という気持ちが昂じ，バイアスが働いている可能性があるかもしれない。
　また，これはあってはならないことだが，万が一，記事に事実誤認が含まれていれば，期せずして「フェイクニュース」となることもあり得よう。少なくともネタバレに配慮するため，知り得た情報のすべてを明かさず，いくらか伏せてあることは認めざるを得ない……。


　それほどまでに「情報」とは，伝え方や受け取り方に気を使わなくてはならないものだが，幸いなことに本作は発売中だ。その気になれば，読者は「実物」を確かめることができて，率直な意見をSNS上に発信することも可能である。　
　それでもなお，「ヘッドライナー：ノヴィニュース」はプレイする価値のある作品だと伝えたい。報道や倫理，そして社会のあり方について，楽しみながらも考えさせられる契機になるはずだ。

「ヘッドライナー：ノヴィニュース」公式サイト