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セッション「圧倒的なファンを獲得し,魅了し続けるモバイルゲーム戦略」 をレポート。ゲームに対するユーザーの期待や評価を高める方法とは?
本稿では,その中で実施されたセッション「圧倒的なファンを獲得し,魅了し続けるモバイルゲーム戦略 〜LTV最大化のための取り組み,ユーザーから長く愛される秘訣とは〜」をレポートする。
セッションでは,ゲームに対するユーザーの期待や評価を高める方法が,いくつかの事例と共に紹介された。なお本稿でたびたび登場するLTV(Life Time Value)という言葉は,通常「顧客生涯価値」と訳されるが,今回はより分かりやすく「ユーザーの期待,評価,満足の結果」と定義づけられ,話が進められた。
●「圧倒的なファンを獲得し,魅了し続けるモバイルゲーム戦略 〜LTV最大化のための取り組み」参加者一覧
■スピーカー
DeNA 執行役員 ゲーム事業本部 副本部長 井口徹也氏
ミラティブ 代表取締役 赤川隼一氏
WFS 代表取締役社長CEO 柳原陽太氏
■モデレーター
MOTTO 代表取締役 佐藤 基氏
セッションの最初のテーマは,「LTVを高める『タイトルリリース前』の取り組み」。ゲームにおけるLTVは,ローンチ後の指標とされることが多いのだが,佐藤氏によると必ずしもそうではないケースが見られるという。その1例が,WFSが開発を手がける「ヘブンバーンズレッド」(iOS / Android。以下,ヘブバン)で,柳原氏は「既存のIPを使わない新作は初動が厳しいので,ロケットスタートにかなりこだわった」と説明した。
その大きなポイントは3つあり,まず1つめは,WFSが掲げる「新しい驚きを,世界中の人へ。」というビジョンのもと,“新しい驚きをゲームに入れ込むこと”と“ユーザーの安心感”のバランスに配慮したこと。2点めは,ゲームに絶対の自信が持てるまでリリースしないこと。そして3点めは,横着をせず,マーケティングに工数と予算を使うことだったそうだ。
新しい驚きについては,スマートフォン向けに本格的なRPGを作ることを掲げた「アナザーエデン 時空を超える猫」(iOS / Android / PC)の成功体験と,Key・麻枝 准氏のシナリオ,ゆーげん氏の描くキャラクター,シンガーソングライターのやなぎなぎさんの歌唱力を組み合わせれば実現できると考えたと柳原氏は語る。
そうしたクリエイター陣の強みを消さないようにするために,ヘブバンはKeyの得意とするノベルゲームのように,基本的には時が流れ状況が変わり続けるという,運営型のゲームではあまり見ない仕組みを採用しているのだという。
一方で,ユーザーテストやクローズドβテストから得られたデータをもとに自動周回などスマホゲームとして必要な要素を増やし,ユーザーの不満や不安を解消していくことも進められた。
柳原氏は「Keyの持つ『日常から始まり,時が進み次第にシリアスになって,切ない物語になる』というよさを消さないよう,試行錯誤した結果,今の形になった」「成功体験をベースにクリエイティブを信じて,そのうえでデータを使いこなして新しい驚きを提供すると同時に,ユーザーの安心感も軽視しなかった」と語った。
自信が持てるまでゲームをリリースしなかったことについては,WFSの経営陣が成功体験よりも多くの失敗体験をしてきたことを理由として挙げた。柳原氏によると,部長職の9割がヘブバンにコミットしており,その全員が「仮にヘブバンがヒットしなかったら,自分のせいだ」という思いを持って取り組んでいたそうだ。残りの1割も,ヘブバンがリリースされるまでWFSを支えられなかったら,やはり自分のせいだと考えて業務に取り組んでいたとのこと。
柳原氏は,経営陣各自に「忘れられない,あのときの失敗」があるとし,その例として「コンテンツ不足で,リリース翌月に売上が半分になった」「コミュニティマネジメントをリリース前からやっておくべきだった」「クリエイターを前面に打ち出さなかった」という過去の失敗談を挙げた。
ほかにも運営上のミスや組織の不安定さ,大きなチャンスを逃すなど,さまざまな失敗が経営陣にはあり,その反省が生かされた結果,「自信が持てるまで,やるべきことをやった」状態でヘブバンはリリースされたという。
マーケティングについては,「特効薬がない」ということを改めて感じたという。とくにコミュニティマネジメントには手間暇かけたとのことで,ヘブバンはリリース前に10回も公式生配信を行っている。
具体的には,視聴している1000人前後のコアなファンに向けて,1回の配信につきキャラクター1体を掘り下げて紹介するとともに,改善点やテストの結果などを伝えていったそうだ。また,事後にはデータから視聴数が減ったポイントなどもチェックし,配信のクオリティを高めることにも注力した。
そしてヘブバンのリリース直前には,タレントの齋藤飛鳥さんを起用したTVCMの放映や,VTuberグループ・ホロライブとのコラボで,一気に認知を広げた。
一方で,急激な露出増によりコアなファンが今後の展開に不安を抱くのではないかと考えた開発陣は,プロデューサーと開発統括の2人が開発秘話を語る番外編の公式生配信を行ったとのこと。柳原氏は,「認知を広げつつ,コアファンにも丁寧に向き合い続けた」と話していた。
また,ヘブバンの事例のように,「ゲームのリリース前にLTVを上げるためにやっていることがあるか」と問われた井口氏は,「DeNAは,運営面でじわじわ伸ばしていくスタイルが多い」としつつ,「とあるタイトルでは,リリース前に生配信を何回か行い,どんなコメントが投稿されたかを分析し,離脱させるべきではないユーザーへの対応を丁寧にやっていた」と回答。具体的には「難しそう」「物足りない」といったコメントがあったら,次回の配信で必ずその点をフォローするといった地道なことを繰り返していたそうだ。
以上の事例から,佐藤氏は「リリース前に,ユーザーから適切な期待をしてもらえる状態を作ることが重要。それにより実際にゲームに触れたとき,期待どおり,もしくは期待以上だと思ってもらえる」とまとめた。
また,柳原氏は期待を煽りすぎて失敗した例も挙げ,誇大広告にならないよう,等身大の自分達をきちんと説明し,改めて丁寧にコミュニティマネジメントをすることの重要性を説いた。加えて赤川氏も,コミュニティマネジメント上で重要なのは熱量であるとし,「期待を煽るのも短期的には悪い手段ではないが,ユーザーと真摯に向き合ったり,誠実に情報を開示したりするほうが熱量が高まる」と話していた。
セッションの2つめのテーマは,「LTVを高める『タイトルリリース後』の取り組み」だ。ここでは,「逆転オセロニア」(iOS / Android)が,ゲームとしての面白さはもちろん,心地よいユーザーコミュニティの形成を目指していることを,井口氏が紹介した。
具体的には,ユーザー同士が単にゲームの攻略について情報を交換するだけでなく,イベントやアップデート,新コンテンツなどについて忌憚なく語り合えるコミュニティを目指しているとのこと。極論,「正直,今回のイベントはビミョーだったかも」といった発言が普通に出てくる場を目指しているそうで,井口氏は「そうしたコミュニティの形成も,ゲームのサービスに含まれる」と語った。
また,リリース直後は現状の把握が重要だと井口氏は語る。それは開発に注力した部分が意外とウケていなかったり,逆にそれほどでもないと思っていた部分が評価されていたりと,開発中の予想と異なる展開が結構あるからだ。
現状把握ができていないと,ユーザーに合わせて方向修正するのかしないのか,前者であればどのように修正するのかといった判断ができないわけである。
そうした判断は,アンケートを通じて得られた「どういうところが面白いか」というユーザーの意見,運営がキーだと考えるユーザーの行動から推測できるモチベーション,そして注力した部分について「ユーザーはここに気づいていない」という仮説を踏まえて下すのだという。
昨今のゲームはアセットが多く,簡単に方向修正ができず,修正するにしても時間がかかるため,このリリース直後の判断がその後のLTVを決めるといっても過言ではないそうだ。
例えば,ユーザーの反応が良いからそこを伸ばすことは比較的簡単にできるが,「そんなに反応が良くなくとも,開発チームが考える発展性とユーザーが求めるものが一致しているケースでは,その実現を目指すのもアリ」とのこと。
一方,サービスがある程度続いた段階では,「うまく波を作る」ことが重要になるという。井口氏はそのときどきのイベントとは別に,「振り返って,今月はあれが面白かった。来月はあれが面白そう……半年後に来るだろう,あれも面白そう」と思ってもらえるゲームはうまく波が作れているとし,「今後,こういう発展があるということを,ユーザーだけでなく開発チームにも明示していくことが重要」と語った。
柳原氏は,WFSも基本的にユーザーの動向を見て,予測を立てながらサービスを展開しているが,「アナザーエデン」に関しては,それほど舵取りを必要としないとした。その理由として,「アナザーエデン」がクオリティに妥協することなく開発されていること,ユーザーとの良好なコミュニティ構築を目指していることが挙げられた。
また,コンシューマゲームのRPGのように,いつ中断したり,いつ再開したりしても同じように遊べるよう設計されており,イベントも基本的に無期限で,期限があるイベントも5年間と長期にわたることも,その理由だという。柳原氏は,「そうした変わらないことも,強みの1つ」と話していた。
3つめのテーマは「ゲームコミュニティサービスから見えるLTV」で,赤川氏がゲーム配信サービス・Mirrativの事例を紹介した。赤川氏は,柳原氏と井口氏の話が本質的なものであるとしたうえで,「コミュニティを盛りあげるには,自分事化してもらう,自分の物語にしてもらうことが重要。そのためにはユーザーにSNSなどで発信してもらう必要がある」とする。
そうした観点でMirrativからLTVを見ると,「友達(同じ意見を持つユーザー)がいると,どんなコンテンツでも続けられる」「自分事化すると続けられる」という2つの解が導き出されるとのこと。Mirrativはユーザーの母数が大きいため,あるゲームについて何か発信すると,たいていの場合は数人から反応を得られるので,MirrativのLTVもそのゲームのLTVも高まるというわけである。
井口氏も,「ユーザー同士がゲームを通じて,価値観を共有しあうことを重視している」とし,Mirrativを含めたSNS上での発信が,LTVを高めることに貢献しているとした。また,柳原氏は「WFSのゲームは,1人でプレイするものが多い」としつつも,「生配信のような場を通じて運営とユーザーとコミュニケーションする機会を作ったり,ユーザー同士で意見を交わしてもらえるような内容にしたりすることが,LTVを高める一番の方法」と話していた。
ユーザーに発信してもらうためにゲーム側からできることを問われた赤川氏は,「発信してもいいというハードルを下げること」を挙げ,例えばゲームのプロデューサーが,1人のユーザーとして毎日のように配信し,そのゲームを楽しんでいる姿をアピールすることを紹介した。
そして最後のテーマは,「日本と海外のアプローチの違い」。井口氏は,海外でのユーザー調査にて,「ゲーム内のテキストを読む習慣がない」「明確な目標を提示する必要がある」といった特徴が判明したため,それらに対応したところ継続率が明らかに伸びたという事例を紹介し,「ゲームの分かりやすさに対する感覚が日本と違うと感じた」と語った。
また海外拠点でユーザーコミュニティを作り,ヒアリングしたところ,その反応はSNSの投稿などを収集・分析するソーシャルリスニングとほとんど変わらなかったことも明かされた。ただ,どうすれば面白いと思ってもらえるところまで持って行けるかについては,ユーザーと直接対話しないと分からないとのこと。
一方かなりの課金ユーザーであっても,「Pay to Winが明らかに強い」というゲームには拒否反応を示すという。それを踏まえて,キャラクターの性能や,ステージのレベルデザインを決定しているそうだ。
柳原氏も,井口氏とほぼ同じ考え方で「現地のユーザーに向き合っていることが伝わるように意識している」とし,具体的にはローカライズとコミュニティマネジメントに配慮していると語った。
セッションの最後には,井口氏が「ユーザーの顔を思い浮かべられるチームが,LTVを伸ばすチーム」,柳原氏が「WFSが大事にしているのは,失敗しても執念で成功に結びつけること,成功しても淡々と要因を内省してより高みを目指すこと」と語った。そして赤川氏が,「LTVにはコミュニティが大事」として,セッションをまとめた。
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(C)VISUAL ARTS/Key(C)WFS
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オセロ・Othelloは登録商標です / TM&(C) Othello,Co. and Megahouse
(C)DeNA Co., Ltd. All rights reserved.
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