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印刷2022/08/26 20:31

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[CEDEC 2022]「グランツーリスモ7」実在サーキットとゲームオリジナルサーキットの外観デザインについて語られたセッションをレポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」で行われた講演“「グランツーリスモ7」のコース制作における測量技術と外観デザインの事例”の聴講レポートをお届けする。

 本講演は前半と後半に分かれており,前半は現実の世界に実在するサーキット(以下,実在サーキット)をゲーム内で再現するための測量技術および測量データの応用が,後半はゲームのみに登場する架空のサーキット(以下,オリジナルサーキット)の制作で行われた,現実に則ったデザインのアプローチについて語られた。

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スピーカーは,ポリフォニー・デジタル 景観デザインチームの北田祐平氏と尾崎太郎氏
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実在するサーキットを再現するための測量技術および測量データの応用


 実在サーキットの事例では,フォトグラメトリー(Photogrammetry)でサーキットを作成する流れが説明された。
 まず現地には,主に景観デザインチームのCGアーティストを中心とした10人前後のメンバーが行き,ヨーロッパやアメリカの現地スタッフのサポートのもとで安全かつ円滑に取材が行われるという。
 ミーティングののち,少人数のグループでサーキット内外の取材を開始し,ガードレールや縁石,草木に至るまで細部をスチール撮影を進める形だそうだ。

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 スチール撮影のほか,車載パノラマ動画撮影やレーザースキャン計測(車載型 / 据え置き型),UAV測量(ドローン撮影),そして対象地域によっては,航空レーザースキャン計測やヘリでの空撮も行われる。

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 サーキット全域を網羅した形状情報の再構築で重要なのが,地面の高さやオブジェクトの位置関係を正確に把握することだ。
 路面であれば,その形状がクルマの挙動にどう影響を与えるかを理解する必要がある。また,現実と変わらないドライビング体験を提供するために,視界に入る背景の情報も重要となる。
 走行路面やランオフエリア,ガードレール,近距離の建物などは車載型のレーザースキャン計測を,パドックや中景の地形などはUAV測量を用いるという。

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 サーキットの取材には,座標値の取得のほか,現実世界からテクスチャを取得するという目的もある。これらは,ゲーム内でリアルな世界を表現するうえで重要な,タイヤ痕や土壌汚れ,オイル汚れの跡,落書きといった,走行視点から見える路面の豊かな表情を作り出すためのもの。

 路面のテクスチャ制作には,UAV測量と車載パノラマ動画からの画像抽出といった方法を用いる。UAV測量は高解像度のテクスチャが得られるものの,航空法などの条件によって実施困難なケースがある。
 一方,車載パノラマ動画撮影は,比較的安定して実施できるそうだ。サーキット内外を網羅的に撮影するため,漏れが少なく構造物の確認や把握に重宝するという。

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 車載動画からの画像抽出方法についても語られた。時速15Kmで走行しながら30fpsで前後左右を撮影し,5fに1枚くらい画像を抽出する。そのデータは膨大なものとなり,例えばスパ・フランコルシャンの場合は,3日の取材で8TBにもなったが,これぐらいのデータサイズになることは珍しくないという。

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 なお事前準備として,撮影画像の調整も必要になる。フォトグラメトリーのカメラ位置推定に悪影響を与えるのが,人や車といった“動きもの”だ。ほかにも雲や車のフロント部分,建物の窓やガラスなどの反射物があり,それらにすべてマスクをかける必要がある。さらにフォトグラメトリーの精度をあげる方法として,カメラキャリブレーションの実施例も紹介された。

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 フォトグラメトリーによるカメラ位置推定を行ったら,ジオリファレンスの更新でさらに位置の精度をあげ,路面メッシュに対してカメラからテクスチャを転写。さらにグラデーションをかけて,フルネル反射を打ち消していく。
 最大解像度がアサインされるマスク量を探ったり,足りない部分は横カメラを有効化するといった最終調整を行ったりすることで,必要な画像が完成することになる。

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 CGで再現しようとしているサーキットは広域的なところが多いが,レースゲームという性質上,高精度な空間位置情報が重要であり,かつ高品質な素材を収集し,昨今のゲームの品質をクリアするクオリティのグラフィックス表現を行う必要がある。
 これを実行するために,レーザスキャンやUAVによる測量技術にフォトグラメトリによるコンピュータービジョンを交えたアプローチで,実在サーキットのグラフィックス表現の向上に取り組んでいるという。

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オリジナルサーキットの制作で行われた,現実に則ったデザインのアプローチ


 オリジナルサーキットは,実在するサーキットでは味わえない体験をプレイヤーに提供することを目標として制作されている。

 観客を楽しませることを重視してデザインされた現実のサーキットと異なり,オリジナルサーキットは,ドライバーであるプレイヤーの体験が重要になる。実在サーキットの景観を真似するだけではなく,ドライバーにとって価値ある体験になるよう景観をデザインしなければならない。

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 例えばトンネルは,現実のサーキットにはほとんど存在しないが,オリジナルサーキットには多く登場する。これは,ライティングが劇的に変化するため,シークエンスの変化をプレイヤーに強く印象付けることができるからだ。

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 しかし,オリジナルならではの部分を楽しんでもらう一方で,実在サーキットと同等のリアリティも求められる。コース選択時のマップなどでは,実在サーキットとオリジナルサーキットの両方が表示されるため,そういった意味でも現実的な部分は重要になるのだ。
 とくに路面の表現は,プレイヤーがよく目にするものなので最重要課題だ。また,ロケーションも重視し,サーキットのある地域の地形や植物は現実のものをスキャンし取り入れるなどして,本当にそこにあるようなリアリティを表現している。

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 講演では,京都ドライビングパークを例に,建築計画に則ったデザインについて語られた。京都ドライビングパークは,京都北山に囲まれた盆地にある設定で,以前のシリーズ作品にも登場している。「グランツーリスモ7」では,コースの形状やロケーションはそのままに,いくつかの建物を現実の都市計画や建築計画のアプローチで改修することにチャレンジしたという。

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 まず行ったのが,ゲーム内でコースを走ってみること。約7kmのコースを走行すると,あらためて1周が長く感じることに気づく。その理由は景観で,単調な風景が続くことにより,自分がいまどこを走っているか分からなくなるからだそうだ。これに変化を与えるため,現実的な計画で建物を増やすことにした。

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 建物は,実在するサーキットをリサーチし,位置を決めていく。建物を取っ払った一帯は,「造成前の表情を残す」というストーリーのもとで,森のエリアを作成する。土地の特徴である北山杉を植え,森深い道を抜けるとゴルフ場のような芝のある一帯にし,森を抜けると視界が広がる印象的なシークエンスを実現した。

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 現実の世界では,サーキットのような大規模開発には,常に行政の許可が付きまとう。京都北山という立地に,よりリアリティを持たせるため,実際の地図で条例などによる開発の規制を調べ,このサーキットが抱えている問題に向き合い,この土地に建てるにふさわしい建築物を模索していったという。

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 そうして導き出したのが,現代美術館と工芸館だ。ターゲットは観光客だけではなく,周辺住民への文化的貢献と啓蒙なのである。近郊に,本格的な現代美術を展示する場所が乏しいという潜在的な需要もその理由のひとつとしてあげられた。このように,現実にありそうなバックストーリーを描いていき,サーキットの開発計画を進めていったとのこと。

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 過去シリーズ作品から印象的だった片持斜張橋は,デザインや構造は大きく変えずに橋の支間長が延長されている。こうしてさまざまな建築物を改修し,構造的な説得力を持たせていく。
 これらは,あくまで一部に過ぎないということだが,レベルデザインや背景制作に,このような現実的な理由や建築的な知見を入れていくと,外観デザインがさらに深みを帯びるものとなるという,興味深い事例の数々であった。

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