「スマホゲーム四半期報告書」第4回を掲載。2021年上半期は「ウマ娘 プリティーダービー」が圧倒的な強さを見せる

　幅広い年代にスマートフォンが普及した結果，スマホアプリの利用動向は今や世の中の“映し鏡”になっている。新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の拡大で人々の生活様式が大きく変わり，オンラインでの消費やコミュニケーションの移行も進む中，スマホゲームをはじめとするアプリのユーザー像をデータから捉え，顧客との接点や新たなビジネスの創出を図る動きも活発化している。

　筆者が所属するフラーでは，ユーザーから許諾を得たうえで匿名化したアプリの利用データを独自に蓄積し，サブスクリプション型のスマホアプリ分析ツール「App Ape（アップ・エイプ）」などを提供している。このデータからスマホゲームにまつわるさまざまな動きを分析・解説するのが，本連載「スマホゲーム四半期報告書」だ。

※諸事情により半年分のデータをまとめて掲載する形になり申し訳ございません。

　今回もイレギュラーな形となるが，2021年上半期（1月〜6月）の各月を対象に，App StoreとGoogle Playのセールスランキング平均順位上位20アプリを独自に算出した。そこにApp Apeで蓄積するデータを掛け合わせ，半年間の動向と特筆すべきトピックをまとめたのが以下の表となる。

　新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化してから1年が経過したゲームアプリの売り上げ上位タイトルは，どのような顔ぶれとなったのだろうか。さっそく見ていこう。

「App Ape」公式サイト

ゲームアプリセールス平均順位ランキング（2021年1月〜6月）

　2021年1月〜6月の各月のゲームアプリセールスランキング平均順位は以下のとおりだ。
　データは，フラーがApp Apeの約15万のサンプルユーザーの利用記録をもとに推計した。これまでは10代〜50代の男女を調査対象としたが，新たに60代の男女を追加している。
　各データは，iOSとAndroidの合算となり，iOSに関してはAndroidのデータをもとに推計している。また，サンプル数が少ないアプリは一部のデータが「0.0％」となっている。


※これらのデータは，フラー株式会社（App Ape）が約15万のサンプルユーザーの起動ログをもとに推計を行ったものです。
※データの無断転載を禁じます。
※利用頻度別ユーザー割合，性別比，性年代別比はパーセンテージは小数点第2位を「切り捨て」としているため，合計は100％となりません。


＜トピック（1）：2021年上半期の傾向＞
　セールス平均順位ランキングを見ると，2021年1月〜6月の期間中に1回でも上位20位以内にランクインしたアプリは計32本。このうち，ランキングに入ったアプリを回数別に見ると6回（14本），5回（0本），4回（3本），3回（2本），2回（3本），1回（10本）だった。2021年上半期の調査で6か月連続ランクインしたアプリは以下の14本だ。

「Fate/Grand Order」	「プロ野球スピリッツA」	「モンスターストライク」
「パズル＆ドラゴンズ」	「原神」	「ポケモンGO」
「ドラゴンクエストウォーク」	「マフィア・シティ-極道風雲」	「LINE：ディズニー ツムツム」

「LINE ポコポコ」	「ホームスケイプ」	「荒野行動 -Knives Out-」
「あんさんぶるスターズ！！Music」	「放置少女〜百花繚乱の萌姫たち〜」

　上記14本のうち，2016年12月以前にサービスを開始したのは7本。長期運営タイトルが売り上げ優位な状況は前回の調査（2020年7月〜12月）と変わらない。


　また，今回ランクインした計32本のアプリをサービス開始年別に仕分けると，2014年以前が5本，2015年が4本，2016年が2本，2017年が4本，2018年が4本，2019年が3本，2020年が8本，2021年が2本となった。サービス開始から5年以上経過したものは11アプリで全体の約4割を占めた。
　パブリッシャの国，地域別に見ると，日本が最多の19本で，以下，中国8本，ロシア2本，アメリカ・トルコ・韓国が各1本と続く。日本と中国メーカーの存在が相変わらず大きく，売り上げ上位層に定着した感があると言える。

　一方，2021年1〜6月中に新規で配信されたアプリからランクインしたのは2本。2020年下半期には6本のタイトルがあっただけに，この数字だけだと新作に勢いがなかったかのように見えるが，実はそうではない。「ウマ娘 プリティーダービー」（以下，ウマ娘）のサービス開始で，ランキングに大きな変化があったのだ。こちらは以下のトピック（2）で解説しよう。


＜トピック（2）：ピックアップアプリ＞
　2021年上半期のデータを集計し分析したところ，ウマ娘が強烈な存在感を示したことが分かった。サービス開始翌月の2021年3月からセールスランキング平均順位トップに飛び出し，3月から直近の7月（速報値）の5か月連続で首位をひた走っている。ゲームのユーザー規模を示すMAU（Monthly Active Users，月間利用者数）も4〜5位をキープしており，人気タイトルが名を連ねるランキング上位に風穴を開けた形だ。

　ゲームの魅力やヒットの背景についてはさまざまな記事が各種メディアに掲載されているので，ここではユーザーの利用動向データを交えて，筆者の考察をお伝えしよう。

　ウマ娘の特殊性は，配信開始から現在に至るまで“ぶっちぎりのトップ”を独走していることにある。2021年3月〜7月のウマ娘の売り上げランキングは平均順位1.26位という結果になった。これは，上半期の売り上げランキング1位をほぼ独占したと言っても過言ではない。
　参考までに，2021年1月に首位を獲得した「Fate/Grand Order」は平均2.27位，2月の首位「モンスターストライク」は平均3.62位という結果だった。

　App Apeが独自にまとめる推定売り上げでも，ウマ娘は2021年3月以降首位をキープしている。具体的な金額は公開できないが，その額は2位にダブルスコアの大差をつけていることを確認できている。


　起動率（アプリをインストールした人の数に対し，実際に起動したユーザーの割合を示した数）も突出している。配信から半年近くが経過した2021年7月時点で77％という非常に高い数値を叩き出している。同月でMAUの上位トップ20に入ったアプリのうち，起動率70％を超えたのは，「プロ野球スピリッツA」「プロジェクトセカイ カラフルステージ！ feat. 初音ミク」「放置少女」の3タイトルだが，いずれも77％には及ばなかった。

　また，ウマ娘をインストールしたユーザーが，どのようなアプリを利用しているかを調査したところ，「プリンセスコネクト！Re:Dive」（同時所持率47.9％）や「アズールレーン」（同33.1％），「Shadowverse」（同30.3％）などの存在を確認できた。面白いのは，これらゲームアプリに混じって，競馬情報アプリ「netkeiba」（同28.7%）が利用されているところだ。ウマ娘をきっかけに実際の競馬に興味を持ったユーザーの存在がうかがえる。


＜トピック（3）：ゲームを含む世の中全体のアプリ利用動向＞
　2021年の上半期は，新型コロナウイルスの感染拡大の第4波，第5波と重なる。1年以上もの巣篭もり，インドア化という生活様式の変化は，アプリ利用の増大をさらに加速させている。

　2021年6月のゲームを含むMAU上位500アプリの合計MAUは前年同月比23.1％増となった。6月に緊急事態宣言が一時的に解除されて人々が外へ目を向けたことを加味しても，オンラインでの行動やコミュニケーションは，コロナ禍以前と比べて活発化している様子が見えてくる。

　一方で，同時期にMAU上位200に入ったゲームアプリの合計MAUを確認したところ，前年同月比で3.0％の減少となっていた。言うまでもないが，アプリを利用する人々の可処分時間には上限がある。いつかは頭打ちとなり，時間の奪い合いになることから，ゲームを遊んでいた人たちが別のジャンルに移ったという見方もできるだろう。

　ただ，ゲームの場合，ユーザー規模が重要なことはもちろん，ゲームをやり込む“ロイヤルユーザー”をいかに取り込むかが成否を大きく分ける。可処分時間の利用が多様化する中，ゲームがどのような立ち位置で人々と関わっていくのか，今後の動向に注視していきたい。

著者紹介：日影耕造（フラー株式会社）
　2021年2月にリリースされた「ウマ娘 プリティーダービー」が絶好調で，今後の動向が気になっています。本作を手がけるCygamesの親会社，サイバーエージェントで代表取締役を務める藤田 晋氏は馬主として競馬界に参入していますが，仮に藤田氏の競走馬がウマ娘に登場することがあれば，ゲームと競馬，両方で盛り上がりそうですね。

「App Ape」公式サイト