プレイレポート
「A列車で行こう はじまる観光計画」プレイレポート。新要素の「観光」は,プレイに新しいモチベーションをもたらす
ちなみにA列車シリーズは,鉄道要素のディテールを重視したナンバリング作と,親しみやすさを重視した携帯機用シリーズの2系列が存在しており,今回の「A列車で行こう はじまる観光計画」は,携帯機用シリーズの流れを組む作品となる。
ゲーム内では,「世界樹の迷宮」で知られる日向悠二氏がデザインした華やかなキャラクターが,プレイをナビゲートしてくれ,シリーズを初めて遊ぶ人にも親しみやすい雰囲気が作られているのだ。
そんな本作でプレイヤーは,鉄道会社の社長となり,自分の任された都市を発展させていくことになる。都市の発展に必要なのが鉄道の整備であり,駅を作ってその周辺を開発していくことで利用者が増え,それに伴い会社の収入も増えていく。そこで得た資金を元手に事業を拡大することで,さらなる発展を目指せるわけだ。
本稿では,本作から加わった新しい要素「観光」にスポットを当てて,ゲームのインプレッションをお届けしよう。
ところで,観光と聞いて思い浮かぶのはなんだろうか。筆者なら寺や城といった歴史的建造物だが,温泉や遊園地といった娯楽施設という人もいるだろう。本作では,そういった観光名所となり得る場所がマップに点在しており,これを活用して観光客を呼び込めれば,街の発展を狙えるというわけだ。
ただし,観光名所はクセのある場所に建てられていることが多いので,そこにいかにして“観光ルート”を開くかは,プレイヤーの腕の見せどころとなる。
例えば,お寺の周囲に発展が見込めそうな街があるならば,思い切って駅を建てる。駅から遠い場所にレジャーランドがあるなら,駅からバスを出して観光客を輸送する。名城が山に囲まれていたら,山を迂回するルートを考えるか,トンネルを掘る技術を研究する。周囲に鉄道がまったくない秘湯を見つけたら,とりあえずバスを通して様子を見るのもいいだろう。
バスは鉄道よりも安く通せるが,輸送能力が限られている。増便を繰り返してピストン輸送してもいいが限界はあるし,状況次第では渋滞を起こしてしまう。観光地によくある,最寄り駅からの長くて辛いバス旅を自分が強いてしまうことを考えると,観光客に申し訳ない気持ちにもなる。
一方で鉄道はバスの逆で,多くの観光客を運べるものの,駅や線路の設置に多額の資金を要する。とくに山が絡むと厄介で,経費が大きく跳ね上がってしまう。また,周囲が発展すると増改築が難しくなってくる。発展させたことによって高くなった土地代を払ったうえで,せっかく建った建物を壊さなければならないのだ。街の発展を加速するための「資材」を隣町から買い付けてくるにしても,貨物列車用のホームを増やすのが難しい……。
といったように,これまでのA列車は街の発展を駅に任せっぱなしだったが,本作では観光名所とバスの停留所が登場したことで,プレイヤーがさまざまな選択を取れるようになった。観光名所の立地条件もさまざまなので,良い意味で悩みどころが多くなった印象だ。
具体的には,「街を発展させていく」という大きな目標のほかに,「さまざまな条件を持つ観光名所に,いかにして観光ルートを開くか」という目的が加わったわけで,プレイに新しいモチベーションが生まれている。「まずはこの観光名所をどうにかしよう」といった感じで,プレイに集中しやすくなっていると感じられた。
また,シナリオに出てくるお寺や名城,温泉といった観光名所は,春には桜が咲き,冬には雪が舞い散るといった演出もあり,見ているだけでも楽しい。自分が旅行したときの記憶とも重ねやすく,なかなかにエモーショナルだ。
電車やバスの車窓から街を眺められるモードもあるので,ちょっとした旅行気分に浸るのもいいだろう。街が発展しても,自分が取り壊さない限り観光名所はそのままというのも,景色を楽しみたい人にとっては嬉しいポイントだ。
もちろん「A列車」シリーズとしての面白さもそのままだ。自分が作った街を眺めるジオラマ的な楽しさは,観光名所の登場で増しているし,そういった観光名所に似合う蒸気機関車も存在している。電車のカスタマイズも幅広く,カラーリングや外装も自分で決められるので,いろいろな車両を走らせてみるのも1つの醍醐味だ。
ダイヤグラムを調整してバスのピストン輸送を渋滞なく回せたりすると,それだけで大きな達成感が得られる。街では人々が歩き回り,電車に乗って出かけたり,観光名所を行き来したりする。苦労して開通させた観光ルートに観光客が殺到しているところを見ると,何か込み上げてくるものがある。
また本作は観光や鉄道だけでなく,株式や土地売買,子会社経営など,鉄道会社がするようなビジネスにも携われる。土地を発展させて値上がりした時に売却したり,株の売買で利益を出したり,木材や農産物といった「資源」を隣町に売ったりなど,資金を調達する手段はたくさん用意されている。街の発展にはとにかくお金が必要なので,余裕が出てきたらこういった細かいところに手を出してみるのも面白いだろう。
都市開発系のシミュレーションというと,なんだか難しそうなイメージが付きまとうが,本作には丁寧なチュートリアルのほか,プレイスタイルに合わせた難度選択や,社員達による行動指針のアドバイスが用意されていて,この手のゲームが初めての人でも遊びやすい。
また,ダイヤグラムのコピーや駅の発着メロディの設定といったディープめな機能は「拡張機能」としてON・OFFが可能になっており(デフォルトはOFF),メニュー画面が整理されているのも取っつきやすさの向上に一役買っている。
社員たちのトークも健在で,アドバイスはもちろん,シナリオの年代に合わせた時事ネタや選択肢付きの会話などで,これまで以上の存在感を発揮してくれている。日向氏のキャラクターデザインと合わせ,雰囲気がぐっと華やかになった感がある。
また,本作はタッチパネルを使って操作でき,コントローラと併用できる辺りはNintendo Switchならではの良さといえる。地形を自動生成して自分だけのシナリオを作れるモードも健在なので,慣れた人であればこちらでいろいろなマップを作るのも楽しいだろう。「フリーモード」を使えば自由に街を開発できるため,ゆっくり都市開発を楽しみたい人はこのモードを使うのもオススメ。
自分の手で鉄道を敷き,発展していく街をジオラマのように眺める。その傍らで会社経営をしたり株取引をしたりと,本作には都市経営シム好きが反応しそうなワードがたくさん散りばめられている。シリーズ初心者でも社員のアドバイスを参考にプレイすれば,途中で引っかかることはないので,この機会にA列車シリーズに飛び込んでみてはいかがだろうか。
「A列車で行こう はじまる観光計画」公式サイト
- 関連タイトル:
A列車で行こう はじまる観光計画
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