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Intel,デスクトップPC向けGPU「Arc A」のドライバ改善で性能が大幅向上とアピール。Arc A750純正モデルの値下げも実施
だがIntelは,もちろんArc Aシリーズをこのままで終わらせるつもりはないらしい。米国時間2月1日に,Intelは,Arc Aシリーズに関するアップデートを発表したので,概要を簡単にまとめておきたい。
ドライバの改善によって大幅なフレームレートの向上を果たす
Arc Aシリーズの上位モデルであるArc A770は,シェーダコア数4096基のGPUと,グラフィックスメモリとして容量8GBまたは16GBのGDDR6メモリを組みあわせた製品だ。一方でArc A750は,GPUコアの一部を無効化したシェーダコア数3584基のGPUと,容量8GBのGDDR6メモリを組み合わせた製品である。おおむねArc A770がミドルクラス市場向けで,Arc 750はミドル〜エントリー市場向けを狙う製品と考えていいだろう。
Arc Aシリーズは,ハードウェアレイトレーシングユニットやAI演算向け行列演算ユニット「Xe Matrix Engine」(XMX)を搭載しており,XMXを利用した超解像技術「XeSS」に対応するなど,先行するNVIDIAやAMDのGPUに引けを取らない機能を備えている。
それにも関わらず,ゲーマーの間での評判が芳しくないのは,Arc Aシリーズの性能が前宣伝ほど高くないからだ。とくに強く指摘されていたのが「DirectX 9世代ゲームの極端な遅さ」である。
DirectX 9は,固定グラフィックスパイプラインを前提にした非常に古い世代のAPIだが,いまでもプレイされている対応ゲームは少なくない。タイトル数だけを見れば,最新のDirectX 12対応タイトルと大差ないか,むしろ多いくらいなので,DirectX 9世代のゲームが遅いというのは,ゲーマーにとって大きなマイナスだ。
巷には,「遅いのはエミュレーションだからだ」という推測が流れていたようだが,そもそもDirectX 9世代の固定グラフィックスパイプラインをハードウェアとして完全に備える現行世代GPUはない。どのGPUも,多かれ少なかれドライバソフトによって固定グラフィックスパイプライン相当の機能を実現しているのが実態で,その点でArc Aシリーズが特別なわけではないのだ。つまり,DirectX 9世代のゲームが遅い原因は,ドライバソフトの完成度が低いからだろう。
そこが変わったというのが,「Q1'23 Arc Update」とIntelが呼ぶアップデートにおける最初の見どころだ(関連リンク)。Intelによると,発売時の初期ドライバソフトに比べて,最新版ではDirectX 9世代のゲームにおけるフレームレートが,平均43%も向上しているそうだ。
タイトルによってフレームレートの向上幅は異なるが,今でもプレイヤー数が多いとされる「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)やCS:GOといったタイトルでは,初期ドライバソフトに比べ実に77%ものフレームレート向上を果たしたそうだ。ちなみに,Intelが最新ドライバソフトとして例示しているバージョンは「4086」だが,本稿執筆時の最新は「4090」になっており,さらに性能が上がっているかもしれない。
たんに平均フレームレートが上がっただけにとどまらず,ゲームの快適さに大きな影響を与えるフレームタイムのばらつきや,最小フレームレートも大きく向上しているそうだ。
次のスライドは,CS:GOにおけるフレームタイム(1フレームの描画にかかる時間)のグラフである。薄い色で記されている初期ドライバソフトのフレームタイムは,ベースラインが8ms以上と高めで,なおかつ頻繁に20msを超えている。つまりカクカクしているわけだ。
一方,白の実線で記された最新ドライバソフトは,ベースラインが4ms前後になり,ピークでも12ms前後に収まっていることが見て取れる。ピークを記録する頻度も大幅に減っていることが分かるだろう。つまり,描画がスムーズになったわけだ。
次のグラフは,Arc A750におけるDirectX9タイトルの99パーセンタイルを,初期ドライバソフトを1として最新ドライバソフトと比較したものだ。ざっくり最小フレームレートがどれほど向上したかを記したグラフと考えればいいだろう。
平均フレームレートの向上幅が大きかったCS:GOやSkyrimでは,1920×1080ドット時に99パーセンタイルが100%を超えるほど向上したわけだ。
以上のように,最新ドライバソフトにおいて,DirectX 9世代のゲームが遅いという初期の問題が改善したとIntelは強調する。Arc Aシリーズに対するゲーマーの不安感を払拭する大きなニュースと言っていいだろう。
もちろん,Intelが力を入れているのは,DirectX 9世代の古いゲームだけではない。Intelによると,Arc Aシリーズ発売後に8バージョンのドライバソフトをリリースしており,その間に「21タイトル以上の新作ゲームに対応した」とのこと。Intelは,「本当に大変なペースで対応している」と自画自賛していた。
さらに,AIアクセラレータ「XMX」を使用した超解像技術XeSSに関しても,発売時は対応が17タイトルだったものが,現在では35タイトル以上に増えているそうだ。Intelによると「XeSSは(一般的なアンチエイリアシングである)TAAや,競合のDLSSに対応しているゲームなら,極めて簡単に対応できる」のだそうで,今後も対応タイトルが次々と増える予定とのことだ。
IntelによるとArc Aシリーズのドライバチームは,ハードウェアの性能をフルに発揮させる方法を研究し続けているとのこと。この努力を続けて,Arc Aシリーズの性能向上に今後も取り組むと述べていた。ちなみに,「Q1'23 Arc Update」という命名はIntelが四半期ごとにアップデートを発表していく計画があるからとのこと。今後もこうした情報がもたらされると期待していいではなかろうか。
価格改定よりライバルを蹴散らす価格対性能比を実現
アップデートの2つめは,Arc A750の価格改定である。
発売時,Arc A750のメーカー想定売価は289ドルとされていたが,これを249ドルへと40ドル引き下げるそうだ。ただ,価格が改定されるのはIntelブランドの純正品「Intel Arc A750 Limited Edition」のみで,OEM製品は含まれないそうである。
ちなみに,本稿執筆時点で国内における税込実勢価格は4万7000円前後だ。
ドライバソフトのアップデートによる性能向上と,この価格改定により,Arc A750は「圧倒的な価格対性能比を実現するに至った」とIntelはアピールしている。その根拠としているのが,1ドルあたりのフレームレートだ。
次のスライドは,Arc A750の競合とIntelが位置づけているNVIDIAの「GeForce RTX 3060」12GBモデルと,1ドルあたりのフレームレートを比較したグラフだ。DirectX 9世代から最新のDirectX 12世代までほとんどのタイトルで,Arc A750が圧倒しているという。Intelによると平均して「GeForce RTX 3060 12GBより,52%も優れている」とのことである。
とはいえ,PCゲーム市場で大きな存在感を持つNVIDIA製のGPUに比べ,後発のArc Aシリーズには,いろいろな意味で不安を感じるゲーマーがまだ多いだろう。Intelが今回のアップデートで強調していたように,今後も地道なドライバの改善や新規タイトルへの対応を続けていけば,ゲーマーの不安が着実に払拭されていくはずだ。GPU市場を活性化させるカウンター的な存在としてArc Aシリーズの今後の動向に注目したい。
IntelのArc Aシリーズ製品情報ページ
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Intel Arc(Intel Xe)
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