プレイレポート
[プレイレポ]「Marvel's Spider-Man 2」は前作の完成されたシステムから,さらに進化。スパイダーマンが辿ってきた悲劇的側面に一歩踏み込んだ物語
今回,SIEから事前に提供されたレビューコードにより,メインストーリーをクリアした時点でプレイレポートを執筆している。また,掲載している画像はすべて「パフォーマンス優先」設定で撮影したものだ。
なお,本稿では基本的に物語の核心となるネタバレには配慮しているものの,前作「Marvel's Spider-Man」およびスピンオフ「Marvel's Spider-Man:Miles Morales」の物語や,インタビューやトレイラーなどで公開されている情報について触れている。この点を理解したうえで読み進めてほしい。
「Marvel's Spider-Man 2」公式サイト
とことんスパイダーマンになりきる
前段で触れたとおり,「Marvel's Spider-Man 2」は「Marvel's Spider-Man」(2018年発売)および「Marvel's Spider-Man:Miles Morales」(2020年発売)に続く,ヒーローアクションシリーズの最新作である。
一連のシリーズ作品において,主人公を務めるのはスーパーヒーロー「スパイダーマン」。クモのようなマスクを被り,超人的な身体能力とクモの糸,天才的頭脳によって数々の犯罪者と戦う,その姿は世界的にヒーローとして認知されている。
スパイダーマンはスーパーヒーローの中でも,とくにゲーム化の機会に恵まれているが,ずば抜けて高い評価を受けたのが「Marvel's Spider-Man」だった。その評価の最も大きな要因は,「スパイダーマンになりきる没入感」をゲームプレイを通じて実現していた点にある。
「Marvel's Spider-Man」の主なゲームプレイは,「探索」「戦闘」「物語」の3つに区切られている。まず,スパイダーマンとして摩天楼が並ぶマンハッタンを飛び回る「探索」を行い,犯罪者やテロリストを発見次第「戦闘」に移り,その結果として「物語」が進展する。
この3つのゲームプレイ,いずれにおいても本作は「スパイダーマンになりきる没入感」を徹底的に追求している。
「探索」はシリーズの目玉と言える要素で,クモの糸をビルからビルへと飛ばし,振り子運動──「ウェブ・スウィング」によって快適に移動できる。漫画や映画で知っている「スパイダーマン」そのものの動きを,プレイヤー自身の操作によって容易に追体験できることは非常に画期的だった。
「戦闘」においても,不殺を貫こうとするスパイダーマンと,銃で容赦なく応戦する犯罪者という原作の設定がよく活かされている。
普通に戦っていると,スパイダーマンは一瞬でハチの巣にされてしまう。そのため,「ウェブ・ストライク」で瞬時に距離を詰めたり,「パーフェクト・ドッジ」で銃弾をことごとく回避したり,「ウェブ・シューター」で目つぶしをして投げ飛ばしたりと,スパイダーマンならではのアクションを駆使して活路を開いていく。
そして,昨年で60周年を迎えた「スパイダーマン」サーガから繰り出される,膨大にして魅力的な登場人物が展開する「物語」に関しては言うまでもない。ただ有名キャラクター同士の掛け合いというだけではなく,スパイダーマン個人がさまざまな人物と心を交わし,ヒーローとして成長していく物語もまた大きな魅力だ。
このように「探索」「戦闘」「物語」,いずれにおいても「スパイダーマンになりきる没入感」をプレイヤーに与え続けることによって,「Marvel's Spider-Man」は他のアクションゲームにはない「スパイダーマン」ならではの,独自の体験を味わえる。抜群の一体感や没入感こそ,同作が傑作と評される理由だった。
完成されたシステムから,さらに進化
続編となる「Marvel's Spider-Man 2」でも,前作で確立された「探索」「戦闘」のサイクルと,それぞれにおける「スパイダーマンになりきる没入感」を支えるシステムは踏襲されている。ウェブ・スウィングで街を探索し,犯罪者を見つけ次第,ウェブ・ストライクでカチこむという流れは変わらない。
しかし細部に目を凝らすと,さまざまな進化が見られる。
ゲーム全体における大きな変化は,ピーター・パーカーとマイルズ・モラレスの「W主人公」になったことだろう。前作では主人公ピーターが,父親を殺されたマイルズをスパイダーマンとして育て,さらにスピンオフ「Miles Morarels」では成長したマイルズが,ピーター不在のマンハッタンを守る姿が描かれた。このような経緯を経て,本作では2人のスパイダーマンを交互に操作し,ヴィランの陰謀に立ち向かうことになる。
「探索」に目を移すと,大きな追加要素として「ウェブ・ウィング」と呼ばれる一種のグライダーが挙げられる。これは飛行中にいつでも展開可能なガジェットで,周囲にビルのない川や森も探索できるようになった。
ここで興味深いのは,ウェブ・スウィングの振り子運動で生じた加速を使えば,ウェブ・ウィングでも最大限に滑空できるという点。このウィングとスウィングを併用することによって,前作以上に快適な移動が可能になっている。
前作までの探索は基本的にウェブ・スウィングを連打するだけだったが,本作の探索は2つの移動技をうまく使いこなすほど,より早く,より広くマンハッタンを探索できるというわけだ。
「戦闘」においては,豊富なアクティブスキルが追加された。これは「Miles Morales」から踏襲されたものだが,マイルズは前作と同じくヴェノム・パワーを使ったスキルを,そしてピーターは背中に搭載されたピンサーを使ったスキル,また後述するブラック・スパイダーマンとしてのスキルをそれぞれ使える。こうしたスキルは使用後のリチャージに時間を要するものの,視覚的にも派手で使っていて楽しい。
とはいえ,戦闘がヌルくなったわけではなく,むしろ前作から一層難しくなっていると感じた。そもそも前作の難度は低いわけではなかった。本作に登場する宿敵「クレイヴン・ザ・ハンター」と,彼が引き連れている「ハンター」は,前作の終盤に現れた「セーブル」以上に脅威で,ハイテク兵器や屈強な肉体によってスパイダーマンを追い詰める。
また,本作ではタイミングよく入力すると攻撃を弾く「パリィ」も導入されたが,前作のようにドッジを連打するだけでなく,パリィも検討しなければならないため,防御が難しくなっている。
一連の調整は,前作までの戦闘を物足りないと感じる上級者にとっては嬉しいはずだ。もちろん,「スパイダーマン」の物語を楽しみたいが,アクションゲームの腕に自信がないという人は,難度の調整を検討してみるといいだろう。
「奴ら」が還って来た物語
すでにシステムが確立されていたがゆえに,順当な進化となった「探索」「戦闘」とは異なり,大きな変化を迎えたのが「物語」である。冒頭で述べたとおり,事前に公式から発表されている情報のみに言及するが,本作の物語は前作の方向性から大きく変化している。
そもそも「スパイダーマン」で展開される物語と言えば,マーベル公式サイトでは「やんちゃな高校生ヒーロー」と紹介されるようなピーター自身の天真爛漫さ,軽快な掛け合いもさることながら,同時に精神的に不安定な少年が突如ヒーローの力を得たことによる「大いなる力と大いなる責任」に翻弄される,ややビターな側面もまた魅力だった。
これに対し,前作「Marvel's Spider-Man」の物語は,比較的分かりやすいものだった。主人公のピーターは23歳の社会人であり,ヒーロー歴は8年。かなりのベテランだ。精神的にもかなり安定しており,「大人」になったピーターがヴィランに立ち向かうという点で(中盤にやや驚くターニングポイントこそ用意されているものの),全体的には王道かつシンプルな「ヒーローもの」の物語が通底している。「成熟した青年スパイダーマンによる,安定した物語」と言い換えることもできるだろう。
そして,スピンオフ「Marvel's Spider-Man:Miles Morales」では,まだ高校生のマイルズがスパイダーマンとして成長することで,スパイダーマンの持ち味であるティーンエイジャーの揺れ動く心情を描いた。とくに宿敵ティンカラーの正体とその顛末は(マイルズ自身のアフリカ系アメリカ人としてのアイデンティティと絡めて),単純な善悪の対立では片付けられないほろ苦いものであり,徐々にゲーム版においてもスパイダーマンの二面性が描かれるようになっていた。
このように前作では「スパイダーマンについての予習/復習」,スピンオフでは「少年がヒーローとして覚醒する悲劇性」を踏まえたうえで,最新作「Marvel's Spider-Man 2」はスパイダーマンが辿ってきた悲劇的側面に一歩踏み込んだ内容になっている。
最初に物語上のインパクトとなるのが,前述したクレイヴン・ザ・ハンターの存在だ。クレイヴンは自ら軍隊を率い,スパイダーマンだけでなくヴィランまでも「ハント」の対象とする,明らかに格の違う強敵だ。
クレイヴンのカリスマ性は本作の物語における重要なエンジンであり,クレイヴンは一体何を目的に「ハント」しているのか,そしてどうすればクレイヴンを倒せるのか。こうした焦点が大きなドラマを作り出している。
そして,本作最大のキーパーソン(?)となるのが,寄生生物シンビオートとヴェノムである。トレイラーなどで何度も明かされているこれらの存在は,かつてのスパイダーマン作品でピーターを含む人間に寄生し,その本性を引き出すことで,シリーズ中でも最も印象深く描かれてきたスーパー・ヴィランだ。
PlayStation.Blogにおいて,シニア・ナラティブディレクターのJon Paquette氏は「ヴェノムのストーリーを書き上げようと決めたとき、全体のトーンが変わることは理解していました。最高のシンビオートの物語は暗喩として機能します。それは、”人々はみな闇を抱えている──でももしその闇を解放したらどうなるのか?”というものです。シンビオートをこのシリーズに導入したことで、ヒーローたちはさまざまな闇と戦うことになります」と語っている。
つまり,前作やスピンオフとはまったく異なるトーンで,スパイダーマンを再構築しているというのだ。
PlayStation.Blog 『Marvel’s Spider-Man 2』最新のストーリートレーラーを公開!
何より驚かされたのは,シンビオートがカットシーンのみならず,ゲームプレイにも「寄生」することである。PlayStation Showcase 2023でも明らかにされたように,シンビオートがピーターに寄生した「ブラック・スパイダーマン」をプレイヤーは実際に操作できる。
そしてブラック・スパイダーマンは,従来のスパイダーマンにはなかった強力無比なスキルを多く持っている。これを戦闘中に使うことで,ピーターだけでなくプレイヤーまでもシンビオートの力に酔いしれ(それがピーターとスパイダーマンの良心を奪っているとも知らずに),徐々に心を奪われていく体験は,まさにビデオゲームにしか成し得ない「スパイダーマン」だった。
結局,シンビオートとは何か。そのシンビオートが一体,どのようにマンハッタンを混乱に陥れるのか。そしてヴェノムの正体は──そうした疑問はネタバレになるため,一旦脇に置こう。
本作はヴィランを狩るクレイヴン,そして人々の心を揺さぶるシンビオートを通じ,前作以上に内省的に一歩踏み込んだ物語になっていると同時に,操作しているキャラクターがシンオビートに侵食されてしまうことでプレイヤーもまたシンオビートの力に惹かれていく。「Marvel's Spider-Man 2」は前作から一歩踏み込んた,ゲームならではのスパイダーマン的体験を実現している。
「Marvel's Spider-Man 2」公式サイト
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