任天堂の宮本 茂氏が功労賞，「スト6」「Pokémon Sleep」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が優秀賞を受賞した，「第28回AMDアワード」授賞式をレポート

　デジタルメディア協会（AMD）は昨日（2024年3月5日），デジタルメディア業界の発展を目指し，優れたデジタルコンテンツ等の制作者を表彰する「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー'23／第29回AMDアワード」の授賞式を帝国ホテルで開催した。

デジタルメディア協会（AMD）公式サイト

　「AMDアワード」は日本のコンテンツ産業発展のため，その中核であるデジタルコンテンツの制作者側の立場から，作品の質的向上，ならびに人材育成の促進を目的として設立されたものだ。
　その2023年の功労賞に任天堂株式会社 代表取締役 フェロー 宮本 茂氏が，また優秀賞に映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」と「ストリートファイター6」（PC / PlayStation 5 / Xbox Series X|S / PlayStation 4），そして「Pokémon Sleep」（iOS / Android）が選出された。本稿では，本人または代表者が表彰された会場の模様をお伝えする。

襟川恵子氏

　授賞式の冒頭，主催者を代表する挨拶にてAMD理事長の襟川恵子氏は，国際経営開発研究所が発表した2023年の世界競争力年鑑の総合ランキングで，日本が35位になったことを指摘。こうした状況下で大きな飛躍の鍵となるのはエンターテイメント分野であると語った。
　また今やAIやロボットが人間に代わって24時間365日稼働するようになり，人々が働かなくてもよくなる半面，ベーシックインカムなどの公的制度を使って国民に生活資金を配布しないと経済が破綻することにも言及。ここでもエンターテイメントが重視されているとして，会場の受賞者達に「今後も素晴らしいコンテンツを作り出して，世の中の皆様に喜びを与えていただきたい」と話していた。

　今回受賞の運びとなったのは，以下のとおり。

●デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー'23／第29回AMDアワード 受賞タイトル一覧（敬称略）

＜大賞／総務大臣賞＞
・日曜劇場「VIVANT」（TBSテレビ日曜劇場「VIVANT」）

＜AMD理事長賞賞＞
・THE FIRST SLAM DUNK（THE FIRST SLAM DUNK Film Partners）

＜優秀賞＞
・新しい学校のリーダーズ
・アニメ【推しの子】（【推しの子】製作委員会）
・ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー（Illumination／任天堂株式会社）
・将棋チャンネル（株式会社AbemaTV）
・STOP! 海賊版「ありがとう，君の漫画愛。」（一般社団法人A B J）
・ストリートファイター6（株式会社カプコン／「ストリートファイター6」プロデューサー 松本脩平）
・「PARCO HAPPY HOLIDAYS 2023」生成AI広告（株式会社パルコ）
・Pokémon Sleep（株式会社ポケモン）

＜功労賞＞
・宮本 茂（任天堂株式会社 代表取締役 フェロー）

＜江並直美賞（新人賞）＞
・加藤 創（株式会社MIERUNE グラフィックデザイナー）

＜リージョナル賞＞
・みんなで創る！ 佐賀市公式スーパーアプリ SAGACITY（佐賀市／株式会社オプティム／一般社団法人コード・フォー・ジャパン）

大賞／総務大臣賞のプレゼンターは，松本剛明総務大臣（写真左）が務めた

宮本 茂氏

　功労賞の表彰で登壇した宮本氏は，これまでの40年間を振り返り，「一緒にものを作ってきたたくさんの人達を代表していただいている」とコメント。任天堂に入社した当時は，自身にそれまで縁がなかったアミューズメントマシンの技術者，次にゲームのプログラマー，3Dグラフィックス時代になるとさらにハイエンドな技術者，そしてインターネット時代には通信技術者といったように，新しいジャンルの人達との出会いの繰り返しだったそうだ。

　それらの出会いの中で宮本氏は，新しいジャンルについて学んだことではなく，自身がそれまで経験して蓄積したノウハウをもとに相手にアイデアをぶつけてきたという。「非常識」「未熟」と指摘されることもあるが，そうやってぶつかっていくことにより，それぞれのジャンルにイノベーションが起きるということを繰り返してきたとのこと。「自分のできることでしっかり考えて提案することを繰り返せば，独創的なものにつながっていく」とし，「これからも引き続き新しいジャンルの人達と仕事をしていきたい」と意気込みを見せていた。

　また宮本氏は，優秀賞を受賞した「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の表彰にも登壇した。宮本氏は，自身とイルミネーション代表のクリス・メレダンドリ氏が，「どちらかが止めると言ったら止める」という前提で制作をスタートしたことを明かす。

　当初は任天堂サイドも初めて映画制作に乗り出すため，シナリオについても検討したりしていたとのこと。しかし，自分達の強みはゲームをよく理解していることであるため，上記の宮本氏の考え方に基づいて，ゲームの遊びやプレイヤーの喜び，キャラクターがどうあってほしいかなどに主眼をおいたところ，ゲーマーにも喜ばれる内容に仕上がったという。

　一番幸いだったのは，監督をはじめイルミネーションのスタッフがマリオの大ファンだったそうで，宮本氏は「40年間遊んでもらった中でクリエイターの中にマリオが浸透して，こんなに素晴らしい映画を作ってくれたことは本当にラッキー。皆さんに感謝します」と話していた。

松本脩平氏

　「ストリートファイター6」の表彰で登壇したのは，プロデューサーを務めるカプコンの松本脩平氏だ。松本氏は，本作の開発を2018年から進めてきたとし，「チーム全員がずっと『ストリートファイター』を遊んできた人間で，そういった人達が5年間かけて『ストリートファイター』の歴史をリスペクトしつつ，『6』の開発に誇りを持って取り組んできた。その結果，ありがたいことに300万人の皆さんに遊んでいただけている」と感謝の意を示していた。

小杉 要氏

　「Pokémon Sleep」の表彰で登壇したプロデューサーの小杉 要氏は，まずポケモンの社是である「ポケモンという存在を通して，仮想世界と現実世界の両方を豊かにすること」を紹介。「Pokémon Sleep」を3か月以上プレイすると，睡眠時間が約1時間10分増えるという調査結果にも言及し，「睡眠不足が社会課題となる中，このアプリが人々の行動変容につながり，仮想世界だけでなく現実世界にも影響を与えたことをとても光栄に思う」と語っていた。

夏野 剛氏

　授賞式の総評にて審査委員長の夏野 剛氏は，今回の優秀賞に選出されたコンテンツについて，「どれが大賞に選ばれても本当に不思議ではない。それくらい個性豊かで，世界的に広がったものばかりだった」とコメントし。「ストリートファイター6」や「Pokémon Sleep」，「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」など，グローバルに受け入れられるコンテンツを日本が続々と発信できることを証明したと語った。

　また現在，世界的に日本のコンテンツがブームになっていることを指摘し，「日本が仕掛けたわけではなく，世界が勝手に盛り上がっている。これは日本にとって大事なことで，次に続く人達がどんどん出てくる」とも話していた。

デジタルメディア協会（AMD）公式サイト