インタビュー
[インタビュー]競馬ゲームならではのレースシーンを表現する。「Winning Post 10」で目指したところをプロデューサーに聞いた
家庭用ゲーム機ならではの競馬ゲームを作り,競馬界を盛り上げていくのが「Winning Post」シリーズの使命
4Gamer:
今回「Winning Post 9」の系譜ではなく「Winning Post 10」となったのは,ナンバリングを進めてやりたいテーマがあったところに,シリーズ30周年が重なったという感じでしょうか?
山口英久氏(以下,山口氏):
どちらかと言うと,シリーズ30周年のタイミングなのでナンバリングを進めた形です。とは言え,「Winning Post 10」でやりたいと思っていたことはちゃんとあって,一番が「レースシーンを強化したい」ということでした。これはずっと課題だったのですが,今回は周年タイトルですし,思い切ってゲームエンジン自体を変え,迫力のあるグラフィックスを導入しました。
4Gamer:
確かに動画を見るだけでも,グラフィックスの向上や,レースシーンの迫力も増していることが分かります。ずっと課題だったということは,今まではやりたくでもできない状態だったんですか?
山口氏:
ええ。「Winning Post」は慣れるとレースシーンを飛ばしがちになってしまうゲームなので,開発リソースを注ぎ込みにくいという事情がありまして……。
4Gamer:
ああ……育てる馬の数がどんどん増えていくと,気に入った馬の大一番だけを見るみたいな形になりがちですからね。
山口氏:
そうなんですよ。けれどそのままではいけない。「ユーザーのみなさんがレースシーンを見なくなってしまうから,仕方ないよね」ではなく「見たくなるレースシーンを作るべきだろう」と意識を切り替えました。加えて,これまでシリーズを作ってきて,開発チーム側にもモデルの表現や馬の筋肉の動き,カメラワークなど,レース中でやりたいこと,見せたいもののアイデアが溜まっていたというのもあります。
4Gamer:
単純にグラフィックスがキレイになった,というだけではないんですね。
山口氏:
はい。例えば,これまでは馬が真っ直ぐ前だけを見て走っていましたが,本作では首を動かすなどの動きが加わって,生き物らしさが感じられます。また,騎手も進路を変える際に一瞬後ろを振り返るなど,人間らしい動きをします。
また,現実の競馬中継では不可能な,馬の足元から追いかけたり,走ってくる馬を正面から捉えたりといった,競馬ゲームだからこそできるカメラアングルも取り入れました。
4Gamer:
現実では見られないアングルのレースというのも面白いですね。実際のレースで,足元にカメラを仕込んだりするわけにはいかないでしょうし。
ところで,本作でよりリアルになった馬のモーションは,どのように作られているのでしょう? 今の時代,人間の動きにはモーションキャプチャが使われることが多いですが,馬だと難しそうです。
山口氏:
CGデザイナーが手作業で作っていますね。実は以前,馬のモーションキャプチャも考えたことはあるんですよ。いろいろなところに聞いてみたんですが「技術的には可能ではあるけれど,モーションキャプチャできる場所がないし,ましてやサラブレッドの全力疾走は難しい」という判断になってしまって。
4Gamer:
なるほど。確かに,競走馬が走れるスタジオなんてないですからね。
山口氏:
そうした事情もあり,グラフィックスチームが資料映像を見ながら,一生懸命にモーションを付けているんです。ただ,これが難しくてですね。記憶の中にあるモーションと,正しいモーションが違うなんてことはザラにありますし,開発スタッフはみんな競馬にはうるさいので,上がってきたモーションにいろいろな意見が出てくるんですよ。
4Gamer:
リアルになればなるほど,開発としてはこだわりを反映したくなりそうですね。
本作では,グラフィックスを向上させる方向に行きましたが,例えばレースシーンをある程度簡略化して,モバイルに展開するといった選択肢はなかったのでしょうか?
山口氏:
スマートフォンでゲームをする人は増えていますが,「Winning Post」シリーズを買い支えてくださっている皆さんは,やはり長時間プレイし続ける競馬ゲームを求めている方です。その期待に応え,お手軽ではなく本格競馬ゲームを出し続けることが我々の使命だと考えています。かつてはいろいろな競馬ゲームがありましたが,今やシリーズが継続してコンスタントに作品をリリースしているのは「Winning Post」くらいになってしまいました。
4Gamer:
コンスタントとなると,そうですね。今,競馬ゲームというと,ほかは「Winning Post」とは方向性の違うタイトルになりますし。
山口氏:
そういったほかのタイトルで競馬を知ったことをきっかけに,「家庭用ゲーム機で本格的な競馬ゲームを体験できる」「自分が推している馬が見られる」と,実はかなりの方に「Winning Post 9」シリーズを遊んでいただきました。もちろんスマートフォンへの展開をまったく意識していないわけではありませんが,今回は家庭用ゲーム機に全力投球しています。
さまざまなシステムで,馬の個性を細やかに表現する
4Gamer:
本作のゲームシステムについても詳しく聞かせていただければと思います。「Winning Post 10」で新しいシステムを作るにあたり,まずはどういったところからスタートしたのでしょう?
山口氏:
成熟したこれまでのパラメータシステムに加えて,「いろいろな形で馬を表現していきたい」と考えました。ここから生まれたのが「ウマーソナリティ」です。「Winning Post 9」シリーズでは馬と自分,自分と調教師など,関係性で競馬界を描いていました。一方,ウマーソナリティでは馬一頭一頭の個性を表現しています。馬は生き物ですから,わがままだったり,負けず嫌いだったり,さまざまな内面的個性を持っています。そこを成長させていくことで,苦手を克服したり,得意分野をさらに伸ばしたりできるんです。
4Gamer:
「Winning Post 9」シリーズの「絆コマンド」は,プレイヤーが育成コマンドを入手することで,ひいきの馬をより強くできる仕組みでした。ウマーソナリティは,それとはまた違った働きになるんですか?
山口氏:
ウマーソナリティは生まれつき持っているものや後天的に獲得するものがありますが,史実調教やレースの結果に応じて克服できたり,あるいは進化したり,さまざまに変化していきます。
例えば,成績にムラがあるとそのときの気分で気合乗りが乱高下するようなウマソナ(ムラっ気)を獲得することがありますが,うまくレースに使って安定した成績を挙げたり,史実調教を活用したりすることで克服できます。こうした変化はランダム性というよりは,自分で育成した結果によるものであり,「自分が馬と向き合ったからこそこうしたウマーソナリティを持っているんだ」と感じられるものになっています。
4Gamer:
となると,ちゃんと勝たせてあげることが重要になりそうですね。
山口氏:
そうですね。逆に負け続けるとウマーソナリティにもマイナスの効果を持つものが付き,デフレスパイラルのような状態に陥ったりもします。ただ,手がかかるからこそ可愛く感じられる馬もいるんですよね。調教の効果がなかなか上がらない馬のウマーソナリティを克服しレースに勝たせることができれば,喜びもひとしおですし。
4Gamer:
お気に入りの馬が弱点を克服してくれるとエモいですね。
ウマーソナリティはその馬が潜在的に持っているものが発現する……ゲーム的な言い方をすればマスクされたものがアンロックされるだけでなく,調教やレースの結果に応じて発生したり変化したりするという認識で合っていますか?
山口氏:
そうです。仮に同じ馬を違うプレイヤーが育てたとして,最終的な育成結果やウマーソナリティはまったく異なるものになると思います。
4Gamer:
もう一つの新要素である「史実調教」はどういったシステムになるのでしょうか。
山口氏:
日本競馬史上,馬を強くするうえで重要な働きをした調教をコマンド化したものです。例えば,今でこそ当たり前になった「馬なり調教」(馬を追わず走る気に任せる)ですが,これは藤沢和雄調教師が日本競馬界に持ち込んだものです。本作ではこうした調教が,育成の手段として使えるようになっています。
4Gamer:
史実調教は,自分の牧場で開発するのではなく,コマンドを手に入れていく形になるのでしょうか。
山口氏:
自分で開発するわけではないですね。重賞を勝利したり,調教師と仲良くなることで教えてもらえます。実際の競馬史と近い年代だと入手しやすくなりますが,異なる年代でも教えてもらえるので安心してください。史実調教を使うと,馬の能力を上げられるのはもちろん,特定の血統やウマーソナリティを持つ馬に特に有効な効果(大成功確率がアップする)も持っています。そうした馬との関係性も,史実に基づいて設定していますので,競馬や調教技術の歴史を知るのにも役立つかと思います。
4Gamer:
本作には絆コマンドがないので,調教師と仲良くなるには良い馬を預けて勝たせていくのが基本ですよね?
山口氏:
そうですね。絆コマンドのなかった「Winning Post 8」の頃と同じ形です。
4Gamer:
新システム以外で,本作でパワーアップしている部分はありますか?
山口氏:
馬の個性を表す「特性」が大幅に増えていることです。これまでは24種類でしたが,本作では,特性が進化した「上位特性」や,歴戦の名馬のみが持つ「固有特性」を含めて,130種類以上になりました。そして,1頭の馬が持てる特性も最大5個から10個に増えています。特性の中にはドバイで実力を発揮する「ドバイ巧者」のようなものもあるので,世界制覇への新たな攻略要素にもなると思います。
4Gamer:
本作の馬は,特性でも個性が出るようになっているわけですね。
山口氏:
また,「レース経験」という概念も新しく登場し,「輸送競馬」「スローペース」「ハイペース」など,その馬が今までにどんなレースを経験したかが記録されるようになります。経験するごとに,該当する項目に少しずつ経験値が蓄積されていき,同じシチュエーションでより能力を発揮しやすくなります。また,ウマーソナリティによって,どのレース経験に経験値が入りやすいかも決まっています。
4Gamer:
どのレースに出したかによっても,馬の個性が際立っていくわけですね。
ところで,本作のシステムで1つ気になったのですが,今回は最初から結婚が用意されているんですね。
山口氏:
はい。結婚はもともと「Winning Post 8」限りと考えていた要素だったので,「Winning Post 9」で最初は入れなかったんですが,シリーズファンの方々からもの凄く怒られたんです。それで「Winning Post 9 2020」で復活させましたから,今回は最初から入れてあります。
4Gamer:
本作の秘書,すごい可愛いですね。
山口氏:
これまでのシリーズと方向性の違う雰囲気ではありますが,キャラクターデザインチームががんばってくれました。
ファンの方々からの要望で最初から入れた要素としては,条件を満たせば海外の牧場を早期に開設できるのも,前作と同様ですね。コアユーザーの方々は,海外制覇を視野に入れて3拠点で100頭くらいを育成されますから。
4Gamer:
コアすぎてとても真似できない(笑)。
山口氏:
それと要望といえば,シリーズの熱烈なファンから「もっと歴史を遡ってほしい」というお声をいただいたのをきっかけに,前作でなんとか1976年スタートのシナリオを入れました。しかし,本作でナンバリングが上がるのに前作で同じでいいのかと,新たに1973年シナリオを追加しています。わずか3年なんですが,これがかなり大変で……。
4Gamer:
50年前となると,開発スタッフも競馬を知らなかった時代ですよね。生まれてない方もいらっしゃるでしょうし。
山口氏:
そうなんですよ。競馬好きとして,TTG(1970年代に活躍した,トウショウボーイ,テンポイント,グリーングラスの頭文字を取った表現)の話は知っていても,自分で観戦できていたわけではないので,正直,1970年代に手を出すこと自体を躊躇していました。そもそも,資料やデータが全然残ってないんですよ。残っているのは「競馬四季報」のような記録くらいです。これが海外競馬となると,さらにない。
4Gamer:
となると,ゲーム中で表現されている馬は,何を根拠にしているんですか?
山口氏:
とにかく古い資料を探しては調べての繰り返しでしたが,変わったところでは,記念切手にも助けられました。海外では,意外と馬の記念切手やポストカードが発行されていて,そこから毛並みの色や白徴(顔や足の白い毛の部分)などを調べました。あとは新聞記事をチェックしたりもしています。白黒の資料でも,顔の特徴や脚の白徴は分かりますから。
4Gamer:
何もかもネットに記録が残る現代とは大違いですね。とくに本作はグラフィックスが向上していますから,余計に姿はしっかりと調べる必要がありそうです。
山口氏:
開発スタッフも,前作の時点で「もうこれ以上は無理!」と言っているんですが……ファンの皆さんからは「シンザンまでがんばってください!」と応援されているんですよね(笑)。
一応,シンザンが三冠を獲得した1964年のあたりは,資料が整理されているようではあるのですが……。
4Gamer:
では,最終的にはそこまで……?
山口氏:
いやあ,なかなか厳しいですねぇ(笑)。開発チームとしては,今回のハイセイコーまでは遡りたいと思っていました。1972年にデビューした第一次競馬ブームの立役者,スポーツとしての競馬観戦という楽しみ方を作ったアイドルホースです。いわば,現代日本競馬のスタート地点ですから,ここまではがんばらないと。
4Gamer:
1973年までは遡ったんですから,次のナンバリングで1960年代に,という話になるのでは?
山口氏:
検討します(笑)。
4Gamer:
それでは最後に,ナンバリングも上がった30周年タイトルの本作を楽しみにしているファンに向けて,メッセージをお願いします。
山口氏:
これまで楽しんでいただいた「Winning Post 9」シリーズのシステムをベースに,新しい要素を取り入れたのが「Winning Post 10」です。安心して遊びつつ,新たな体験ができると思います。また,プレイしていただいたみなさんのお声は,ゲームシステム上で可能かを精査しますが,なるべく取り入れようと考えています。我々がこうしたいという希望だけでなく,みなさんのお声のバランスを取りつつ開発を進めていきますので,ぜひプレイした感想をお送りいただけると嬉しいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
「Winning Post 10」公式サイト
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