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[GDC 2023]これからはブラジルがアツい!? 大きな存在感を示す南米のゲーム大国から,才能を感じるインディーズゲーム3作品を紹介
筆者がブラジル産ゲームを身近に知ったのは,2012年にBehold Studiosがリリースした「Knights of Pen & Paper」だったと思う。モバイルゲームメーカーのWildlife Studiosが,2011年の起業から10年弱の2020年に,30億ドルの資産評価で“世界10大モバイルゲームメーカー”に名を連ね,2022年4月にデベロッパのAquiris Game StudiosがEpic Gamesの支援を受けることを発表するなど,近年で急速に注目が高まっている。
ブラジルパビリオンで入手した業界白書によると,全人口(2.14億人)の74.5%が「モバイルやPCでカジュアルにゲームをプレイする」という,若者の多い国らしい潜在性を持ったゲーム市場となっている。
市場規模は23億ドル(約2507億円)と,中南米諸国最大,世界でも第10位にまで成長。そんなムードに後押しされるように,現在1009社というゲームスタジオが登録されているが,そのうちの31%が過去5年以内に設立されたものとのことで,このあたりも伸び盛りで活気がある印象を受ける。
政府も,Brazil Games Export Program,ABRAGAMES,そしてapexBrazilなどの機関を通じ,新興産業として後押しを始めており,8月にドイツで開催される世界最大規模のゲームイベントgamescom 2023では,公式国家パートナーとして大きな存在感を示すことになる。
6月28日から7月2日かけて開催される予定の自国のゲームイベント,BIG(Brazil's Independent Game)Festival 2023も,12回目を迎える今回が過去最大規模になる見通しだ。前年(2022年)の開催では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の渦中でありながら,3万人の集客と,120という開発者会議のセッション数を記録。さらにイベントをとおして提携された国外メーカーとのビジネスディールは10億ドルに達したということで,そこからさらに規模が拡大する2023年の盛り上がりは相当なものとなるのではないだろうか。
そんな“次のゲーム市場”になりそうなブラジルのパビリオンにて,インディーズゲーム開発者たちが手掛ける3本の有望な作品を見せてもらったので紹介しよう。
Kriophobia(firasoft)
開発者のエドゥアルド・フレイレ(Eduardo Freire)氏によると,「バイオハザード 2」や「サイレントヒル」に大きくインスパイアされた固定カメラ視点や,アイテムマネジメントなどを重視したゲームスタイルとのこと。3Dグラフィックスに強めのトゥーンシェイダーを用いることで,オールドスクールなコミックノベル風に引き立てたというアートスタイルも注目のポイントだ。
閉じ込められた軍事基地にて,凶暴なモンスターに追われたり戦ったりしながら,その深淵にて秘密裏に行われていた研究の真相を解き明かしていくことが目的になるようだ。
本作の大きな特徴となるのが“寒さとの戦い”。マップはいくつもの部屋に分かれた構造になっており,暖房が効いた場所とそうでない場所がある。探索が重要なゲームプレイとなるが,余りにも遠くへ行ってしまったりモンスターに追われたりして帰還に時間がかかると,画面の淵からモニターが徐々に凍り付いていくようなアートで視界が狭まり,やがてはアンナも命を落としてしまうという。
フレイレ氏は,「冷戦期のソビエト連邦を舞台にしていることで,現在の紛争を肯定していると思われるのが心配」と話していたが,寒さ対策の時間やリソースマネジメントというゲームシステムがユニークで,日本語化にも期待したいホラータイトルとなっていた。
Lux Ex - Legacy / OUTT(Ilex Games)
2022年6月に,“バレット・ヘル”とも呼ばれるトップダウン・シューター「Lux Ex - Legacy」(PC)をリリースしたIlex Gamesは,サンパウロ近郊カンピナスで活動する国際独立開発者組織IGDA Campinasのリーダーでもあるマルセロ・リゴン(Marcelo Rigon)氏が率いる開発チームだ。
「Lux Ex - Legacy」はAIサーバーをアストラル体に見立て,そのなかを主人公がバグやグリッチを取り除いていくシューティング。これまでも“精神的要素”にこだわったゲーム開発を行っているというだけに,面白い発想だ。セーブはできず,敵の攻撃は自動生成される仕組みで,小さいゲームながらも何度もプレイできるのが魅力だ。
もう1作,現在開発中の作品として見せてもらったのが「OUTT」(PC)だ。「Ominous. Ultimate. Time. Tech.」の略となり,ゲームシステムとしては「Lara Croft GO」や「Hitman GO」のように,アクションポイントに合わせてタイル上で分岐する道筋を通っていくというパズル的要素のある作品だったが,今回のデモでは戦う相手や回避すべき敵はおらず,特定のポイントに来ると何らかの会話イベントが発生するような,よりアドベンチャーゲームに近いものとなっていた。リゴン氏は「プレイヤーを混同させないために,道筋を示す点と線は取り除こうかと思っている」と話していた。
本作の特徴は,こちらもサイバーパンク風の世界観ながらも「易」をテーマにしていることで,8つあるゲームのアクト(章)を八卦に見立て,そのテーマのストーリーが展開していくそうだ。
まだSteamストアページや公式サイトも公開されていない段階なので,続報にはしばらく時間がかかりそうだが,どのようなテイストのゲームに仕上がるのか,名前を憶えておきたい作品だ。
BlackThrone Keep - Chronicles(Limiar Studios)
「The Elder Scrolls V: Skyrim」や「ウィッチャー 3: ワイルドハント」よりは,どこか「キングダムカム: デリバランス」のような作風を感じさせるリアル嗜好なゲームという印象だ。
ストーリーは,これまで平和な統治を続けてきた王家が惨殺の上に乗っ取られてしまい,その生き残りとなった主人公のトマス・ブラックソーン(Thommas Blackthorne)が主人公となり,王家の復興を目指して紛争することになるという。
大きな特徴となるのが,ガルシア氏が意識したという「For Honor」で,プレイヤーは1回ずつの戦闘でどのように剣を振り下ろしたり,身構えて相手の攻撃を跳ね返すかといったストラテジックな剣技にフォーカスしているという。複数のグループを盟友とすることによってプレイスタイルを習得でき,それによって戦い方の変化を楽しめそうだ。
自分が受け継ぐはずの城という固定された拠点をいかに攻略していくのか。ゲームプレイとしてはもちろん,ストーリーの展開という意味でも重要となるユニークな設定に期待できそうだ。
- 関連タイトル:
Kriophobia
- 関連タイトル:
Lux Ex - Legacy
- 関連タイトル:
BlackThrone Keep - Chronicles
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