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創業300年のお香専門店「松栄堂」がゲームマーケットに参戦。3種の“香り”で遊ぶ新作カードゲーム「くんくんくん」を紹介
ブースの名前は「香老舗 松栄堂」。約300年前から12代にわたって続くという,いわゆる“お香”の専門店である。昨今のゲームマーケットでは,「なんでこの企業が?」といったブース出展も珍しくないが,さすがにお香の専門店の出展は初だろう。
同ブースでは,同社が得意とする香りを活用したというカードゲーム「くんくんくん」が出展されていて,試遊卓も用意されていたので,さっそく遊んでみた。本稿ではそのプレイレポートをお届けする。
松栄堂「くんくんくん」製品ページ
「ゲームマーケット」公式サイト
香りを使った4つの遊びを楽しめるカードゲーム
本作のパッケージには,それぞれ異なる香りが閉じ込められた「ピンク」「青」「黄」のカードが,各3枚ずつ含まれている。ルールは4種類あって,参加者の年齢層やプレイ人数に合わせて遊び方を変えられるとのこと。
名称 | プレイ 人数 |
プレイ 時間 |
ジャンル |
---|---|---|---|
くんくんトレーニング | 1人 | 5分 | タイムアタック |
おなそろ!くんくんくん | 2〜4人 | 5〜10分 | 対戦 |
ちがそろ!くんくんくん | 2〜4人 | 5〜10分 | 対戦 |
しつもん!くんくんくん | 2〜10人 | 10分 | 協力/会話 |
一番シンプルな遊び方は,伏せたカードの色を香りだけで当てていく1人用ルール「くんくんトレーニング」だ。カードが3枚だけなら当てるのは簡単だが,複数の同じ香りのカードが混ざると,これが意外に難しい。
光や音などと違い,匂いは境界線がハッキリとした感覚ではないので,連続して複数の香りをかぐと,どれがどれか分からなくなってしまいがちだ。しかし,さすがは松栄堂というべきか,カードごとの香りは明確に異なっていて,それぞれが“違う”ことだけはハッキリと感じ取れた。
先に覚えた香りを思い出し,「これだ!」とめくって当てられた瞬間はかなり嬉しい。ちょっと言葉にしづらいのだが,目を閉じて普段あまり使わない感覚に集中すると,なんだか超能力の訓練を受けているような気分になれる。
1人用ルールに慣れたら,今度は最大4人で遊べる対戦ルール「おなそろ!くんくんくん」「ちがそろ!くんくんくん」にチャレンジしよう。
基本ルールは変わらないが,伏せた3枚の手札を場のカードと交換しつつ,指定されたカードのセットを揃えるのが,このルールの目的だ。タイトルのどおり,「おなそろ!」は同じ香りのカードを揃えれば勝ち,「ちがそろ!」は異なる香りのカードを揃えれば勝ちとなる。
場のカードの香りを確認できるのは1ターンに1枚だけなので,それぞれの色がどんな香りを持っているのかは覚えておく必要があり,1人用とは違った難しさがある。一方,どのカードがどの香りだったかを覚えておけば,ほかのプレイヤーが取ったカードを見て色を推測できるなど,対戦らしい読み合いの要素もある。
そして,遊んだ中でとくにオススメなのが,多人数で遊べる協力ルール「しつもん!くんくんくん」だ。
協力ルールでは,プレイヤーのうち1名が「主役」,それ以外が「インタビュアー」となる。ゲームの目的は,インタビュアーが主役に対してさまざまな質問を投げかけ,主役が選んだ香りの種類を言い当てることだ。
質問の形式は自由で,「XXに例えるならどんな香り?」「季節で言うならどれ?」など,さまざまな方法でイメージをすり合わせていく。実際にやってみると,同じ香りでも人によってイメージが結構異なっていて面白い。
こういったフィーリング(感覚)を合わせるゲームは,絵画や音楽といったさまざまなジャンルで存在するが,香りはより曖昧な感覚であるぶんイメージを連想させるのが難しい。そのぶん,フィーリングが合った瞬間は嬉しいし,まったく異なる感覚と出会った瞬間の意外性が面白く感じられた。
カードはわずか3種類ながら,ワンパッケージで多彩な遊びを詰め込んだ本作は,想像以上に“ボードゲーム的”だ。パッと見は低年齢層向けのタイトルかと思ったが,これならコアなボードゲームファンが集まるゲーム会などでも盛り上がりそうだった。
ちなみに,本作には「拡張セット」がすでに存在していて,各ゲームに2つの異なる香りを持ったカードを追加できる。3枚のカードの香りをほぼ覚えてしまったら,新カードを導入することで長く遊べるようになるとのこと。カードの香りは約1年ほど持続し,公式サイトでは交換用カードの個別販売行われている。
大学・研究機関との共同研究から生まれた「くんくんくん」
ただ,やはり気になるのは,老舗のお香屋さんがなぜボードゲームを作り,ゲームマーケットに出展したのかという点だろう。本作の開発に携わった松栄堂の小池克弥氏に話を聞いてみたので,以下はその模様をお届けする。
4Gamer:
一番気になる部分から聞かせてください。どんな流れでカードゲームを作ることになったのでしょうか。
小池克弥氏(以下,小池氏):
松栄堂は300年もお香一筋で歩んできた会社で,その楽しみ方や文化を伝える活動も重要視しています。ただ,店舗にお越しになる方は,既にお香に興味を持っていて,松栄堂についてもご存知の方がほとんどです。
なので,お香の世界をまったく知らない人に,日本の伝統的なお香文化や,香りの良さに出会っていただく方法について,常に考えていました。そこへ卓を囲んで遊ぶアナログゲームとの相性の良さに気付いて,カードゲームという形で商品を制作した流れになります。
4Gamer:
ゲームマーケットに出展することにしたのはなぜですか。
小池氏:
私達は,昔からお客様と直接接しながら商品を販売することを大事にしています。香りは直接的な出会いが必須です。お香は文化的な側面もありますので,それを伝えるためにも直接魅力をお伝えしたい,という気持ちから出展を決定しました。
ただ,ゲームファン向けのイベントで本作が受け入れてもらえるかは,正直不安でいっぱいでした。今朝の3時くらいまで「誰も来なかったらどうしよう」と思っていたのですが,とても多くの方に来場いただいて本当に嬉しいです。
4Gamer:
ゲームのルールもキッチリと作られていて驚きました。「カードにお香を入れる」という発想は,どこから生まれたのでしょうか。
小池氏:
かなり複雑な経緯なのですが,大本は大学・研究機関などとの共同研究なんです。「脳の健康を数値化する」という取り組みをされているチームと連携して,脳の健康と香りの関係を調べる実験に協力していたんです。
4Gamer:
え,共同研究ですか。
小池氏:
はい。松栄堂では,その被験者さんにわたすトレーニングキットを作成していました。「香りを分類する作業を続けることで,脳がどんな反応を示すか」という研究だったんですが,香りを分類するのはゲームとしても面白いんじゃないか,という話が持ち上がり,それがこのゲームになったわけです。
4Gamer:
いつ頃のお話ですか?
小池氏:
3年ほど前,まさにコロナ禍に入ったタイミングだったと思います。オンラインでのコミュニケーションに注目が集まった時期だったので,今こそ提案したいゲームです。
日本のお香文化は,人が多く集まる場所で楽しむものとして,元来育まれてきました。リアルに集まってこそ楽しめるアナログゲームは,この文化を広める理念にも合致しています。……といった具合に,かなり色々な考え方が合流して生まれた企画なんです。
4Gamer:
なるほど。小池さんご自身は,元からボードゲームがお好きだったんですか?
小池氏:
正直に言うと,あまり詳しくはないんです。ゲームマーケットにお越しの皆さんと比べると,ほとんど知らないと言っていいかもしれません。幼少期に家族と遊んだ,素朴なアナログゲームの体験が元なので,「くんくんくん」もそうした遊びの一員になれたらと考えています。
4Gamer:
とはいえ,本作のルールはどれもシンプルで,モダンな作りだと感じました。
小池氏:
開発を進めていた3年の間には,ボードやコマを使ったルールを考えたこともありました。ですが,皆さんに遊び方を自由にアレンジしてもらえればと思い,カードだけで楽しめるようにしました。
4Gamer:
「香りつきのコンポーネント」というアイデアは,いろいろと応用が効きそうに思えますが,例えばほかのゲームの制作者さんが,自分でもそうしたコンポーネントを使いたいと考えたら,松栄堂さんに相談してもいいんでしょうか。
小池氏:
もちろん,ぜひお声掛けいただければと思います!
4Gamer:
最後に,ボードゲームファンに向けたメッセージをお願いできますか。
小池氏:
お香の専門店としては300年続いてきた松栄堂ですが,ゲーム制作は完全に初挑戦です。ぜひ多くの方に遊んでいただき,フィードバックをいただければと思います。年末年始に集まる機会がある人は,ぜひ「くんくんくん」の“香りでつながる体験”を楽しんでみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
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