連載
[E3 2016]西川善司の3DGE:E3 2016で見えたMicrosoftのXbox戦略(2)「Project Scorpio」のスペックを予測する
本連載「西川善司の3Dゲームエクスタシー」ではこれまで何度となく,「PlayStation 4とXbox Oneは,x86アーキテクチャというか,PCアーキテクチャそのものを採用しているため,PCハードウェアの進化に合わせて,従来の据え置き型ゲーム機よりも短いスパンで性能が強化され得る」と繰り返してきたが,6月10日の記事でお伝えした4K解像度対応版PlayStation 4,そして今回の性能強化版Xbox Oneといった具合で,立て続けにその存在が明らかとなった次第だ。
Xbox E3 2016 BriefingでMicrosoftは,「開発プロジェクトの関係者がScorpioの性能や存在意義について語り,そこにイメージ映像と思われる基板の画像が挟まる」という,これぞティザー(teaser,じらし)というビデオを公開しただけ。その全容を明らかにはしなかった。
ただ,そのビデオにはいくつか重要なキーワードが登場し,基板イメージからもいくつかヒントが読み取ることができたのは確かである。今回は,得られたヒントを最大限に活用し,向こう1年半以内に登場するであろうScorpioの正体を推測してみたいと思う。
CPUアーキテクチャが刷新され,シェーダプロセッサ数は3倍に?
さていきなりだが,Scorpioが2017年の10〜12月頃に発売となる以上,AMD製のカスタムAPUが,14nm FinFETプロセス技術を用いて製造されるものになることは確実だ。
Xbox E3 2016 Briefingにおいて流れた映像には「CPUは8コア」という発言があったので,統合するCPUコア数は現行モデルと同じ8基と見られるが,CPUコア自体は進化していると考えるのが妥当だろう。現行モデルのXbox One(やライバルのPlayStation 4)は,「Jaguar」(ジャガーもしくはジャギュア)と呼ばれる,低消費電力デバイス向けのCPUマイクロアーキテクチャを採用していたが,これが新しいマイクロアーキテクチャのものへ刷新される可能性が高い。
映像では「最新の技術を惜しげもなく採用する」というキーワードがあったので,個人的には,2016年中に採用製品の出荷開始が予定されている「Zen」(ゼン)マイクロアーキテクチャベースとなる可能性も十分にあると考えている。
AMDは,Zenマイクロアーキテクチャ世代初のPC用APUとなる「Raven Ridge」(レイヴンリッジ,開発コードネーム)を開発中とされるが,もしかすると,そうした開発技術のフィードバックがScorpioに反映されるかもしれない。
GPU関連では,「GPUの理論演算性能値が6 TFLOPSになった」と明言されたのが,最大の注目ポイントとなる。
16nm FinFETプロセス技術を用いて製造されたNVIDIAのGPUコア「GP104」を採用するGeForce GTX 1000シリーズは,高い動作クロックで話題を集めたが(関連記事),14nm FinFETプロセス技術を用いるScorpioにおいても,GPUの動作クロック向上を期待できる。おそらくは1GHz超級を実現することだろう。
統合されるGPUの規模を推測するのは簡単なことではないが,オリジナルXbox Oneとの間で100%の互換性を確保する以上,高スペック化にあたっては,元々のアーキテクチャ原形に大きく手を入れることなく,規模だけを大きくするはずだ。
そこでオリジナルXbox Oneの仕様を振り返っておくと,カスタムAPUが搭載するGPUは,AMDの「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャを採用し,12基の演算ユニット「Compute Unit」を統合している。そしてGCNアーキテクチャの場合,複数のCompute Unitをまとめて,そこにジオメトリエンジンやレンダーバックエンドをセットにしたクラスタ(≒ミニGPU)としての「Shader Engine」として管理するようになっている。
それを踏まえると,ScorpioのGPUは,「6基
速報記事でお伝えしているとおり,Scorpioの理論演算性能値は,オリジナルXbox Oneの1.31 TFLOPSに対してざっくり4.5倍以上。それを高クロックと演算ユニット数の増強によって実現することを考えると,演算ユニット数は36基(6 Compute Unit
GCNアーキテクチャを採用するGPUの場合,Compute Unitあたりのシェーダプロセッサ数は64基なので,仮にScorpioの統合するGPUが36 Compute Unit構成だとすると,総シェーダプロセッサ数は2304基。この規模のGPUで理論演算性能値6 TFLOPSを実現すると,動作クロックは約1.3GHzという計算になる。
ただ,AMDの単体GPUは基本的に,Shader Engineの数が4基までで抑えられてきた。なので,「Shader EngineあたりのCompute Unit数は6基」ということにこだわらず,Shader Engineあたり10基のCompute Unitとして,これを4基まとめて総シェーダプロセッサ数2560基を実現し,約1.17GHzで動作させるという可能性も大いにあり得るだろう。
いずれにせよ,ScorpioのGPUが持つスペックは,PC市場の2016年下半期におけるミドルクラス程度と言えるのではないかと考えている。
Scorpioのメモリインタフェースは384bitで,メモリ容量は12GBか?
映像中に出てきた,「メモリバス帯域幅が320GB/sに達する」という発言も,考察の対象としては極めて重要だ。
現行のXbox Oneは,メインメモリ兼グラフィックスメモリとしてDDR3 SDRAMを採用している。PC用ミドルクラスGPU並みとなる256bitメモリインタフェースを採用していても,DDR3 SDRAMの場合,データレートが動作クロック比で2倍となるため,実クロック約1.06GHz,データレート約2.12Gbps,メモリバス帯域幅は約68GB/sだった。
極めてアグレッシブにGDDR5 SDRAMをメインメモリ兼グラフィックスメモリとして採用したPlayStation 4の場合,GDDR5のデータレートが動作クロック比4倍となるメリットを活かし,同じ256bitメモリインタフェースを採用しながら,Xbox Oneを圧倒する約176GB/sものメモリバス帯域幅を実現したのは記憶に新しい。
では,Scorpioはどのメモリを採用するのか。速報記事ではGDDR5X採用の可能性について言及があったが,結論から言うと,筆者はGDDR5を採用すると見ている。
最大の根拠は,AMDのGPUアーキテクトが話していた内容だ。筆者は2016年5月に,AMDのコーポレートフェロー,コーポレート副社長兼CTO(最高技術責任者)であるJoe Macri(ジョー・マクリー)と話す機会があったのだが,そのとき氏は,NVIDIAが「GeForce GTX 1080」が,動作クロックの8倍データレートを実現できるGDDR5Xを採用したことに対し,コスト面からかなり辛辣な意見を述べていたのである。
もちろんこの業界,掌返しはよくある話なのだが,Macri氏がかなりきつく否定している以上,2017年に出てくるセミカスタムAPUがGDDR5Xを採用すると推測するのは楽観的に過ぎるだろう。
また,公開されたイメージ画像が仕様を正しく反映しているという前提に立った場合,HBM(High Bandwidth Memory)の可能性はない。また,実装コスト的にも,HBMは採用しにくいはずだ。
そこで考えたいのが,メモリインタフェースの拡充である。GPUの規模拡大に合わせて,ScorpioのセミカスタムAPUが384bitメモリインタフェースを採用したのであれば,実クロック約1.67GHz,データレートの約6.68GbpsのGDDR5で320GB/sを実現できる。この数字はけっこう現実感のあるものだと思う。
Xbox Oneは現行機でもメモリチップ片面実装であり,またゲーム機の場合,コスト削減のため,搭載するメモリチップの数をできるだけ少なくしたいという設計上の思惑があるため,24枚という可能性はまずない。
ではこのメモリだが,Samsung Electronicsが2015年1月に発表した,8Gbit品で32bitインタフェースを持つGDDR5メモリで,ほぼ確定だろう。
Samsung Electronicsがプレスリリースで,その用途として「最新世代のゲーム機用」を挙げていたため,PlayStation 4やXbox Oneの性能強化版がこのメモリチップを採用するであろうことは以前から予測できていたというのもある。
映像中のコメントで「4Kグラフィックスが60fpsでスムーズに動く」「最高品質でVRが動作する」という発言もあったので,速度だけでなく容量の強化があるのはまず間違いないだろう。4K解像度ではテクスチャ類の解像度向上が必須で,しかも,表示用のフレームバッファがフルHD比で4倍になるだけでなく,ディファードレンダリング(Deferred Rendering)を行うのに必要なG-Bufferの容量も4倍必要になる。
そうした要求仕様に応えるための容量12GBだと考えると,悪くない値だ。
GPU性能,メモリ性能の弱点が一気に解消するScorpio
現行のXbox Oneは,現行のPlayStation 4と比べてただでさえGPU性能がざっくり3分の2しかないうええに,メモリ性能は5分の2しかなく,これらが大きな弱点となっていた。それが,Scorpioでは一気に解決することとなる。
今回のE3 2016では,Sony Interactive Entertainment(以下,SIE)も自社イベントを主催したが,「存在を認めた」性能強化版PlayStation 4については,宣言どおり何も言及しなかった。SIEのイベント閉幕直後には「本当に何のアナウンスもないのか」と,場内がちょっとざわついたほどだ。
ちなみに,筆者が取材を通じて掴んだ情報によれば,5月のタイミングで,SIEはライセンシーとなるゲーム開発者達を招き,性能強化版PS4に関する技術的な解説を大々的に実施したという。
SIEが性能強化版PS4の存在を認めた背景には,「このクローズドな会合に参加したライセンシーからE3 2016のタイミングでリークされてしまうくらいなら,自ら認めてしまったほうが収まりがよい」という判断が働いたためだと筆者は考えているが,いずれにせよ,その絶対的な性能がScorpioと比較してどの程度かというのは,とても興味がある。
「ゲーム機は絶対性能ではない」とは言うものの,新ハードのアナウンスがあれば,関心はどうしても性能にいってしまうのは人情というもの。今回のScorpioのアナウンスで,非公式な性能比較論はますます加速することだろう。
関連記事:[E3 2016]西川善司の3DGE:E3 2016で見えたMicrosoftのXbox戦略(1)「Xbox One S」の新機能は誰のためのもの?
MicrosoftのE3 2016特設ページ(英語)
4GamerのE3 2016記事一覧ページ
- 関連タイトル:
Xbox One本体
- この記事のURL:
キーワード
- Xbox One S 500GB Ultra HD ブルーレイ対応プレイヤー Minecraft 同梱版 (ZQ9-00068)
- ビデオゲーム
- 発売日:2017/01/26
- 価格:¥55,000円(Amazon) / 35980円(Yahoo)