テストレポート
「Xbox Series X」分解レポート。PS5とは別の方向性でコストのかかった内部構造をチェックしてみた
そこで本稿では,Xbox Series Xの本体に関する記事のトリを飾るものとして,お待ちかねの分解レポートをお届けしよう。
※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は4Gamerが入手した個体についてのものであって,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」ことを保証するものではありません。
背面パネルを開けて内部を確認
とはいえ,背面をパッと見ても,ネジ孔の類は見当たらない。背面パネルを開けるためのネジは,背面中央にあるライセンス表記や各種認証マークが描かれたシールと,背面下側中央,HDMI出力端子の下にあるシールで隠されているのだ。シールは,はがすと簡単には元に戻せないタイプなので,ユーザーがXbox Series Xの内部にアクセスしたことが,はがれたシールから分かるわけである。
なお,Xbox Series Xで使われていたネジは,すべてネジ孔が「*」型をしたいわゆるトルクスネジ(トルクスビス)で,ネジ孔のサイズはすべて共通だった。
背面パネルを外した状態が,以下の写真となる。上側にある黒い物は空冷ファンで,下側中央にある銀色の構造物は,メイン基板とサブ基板に挟まれた「センターシャシー」だ。センターシャシー左側には,SoC(System-on-a-Chip)用の大型ヒートシンクで,右側には電源ユニットと,写真では視認できないがBlu-rayドライブがある。
SoC用ヒートシンクの上下に空きがあるものの,ぎっしり詰まった内部という印象だ。
空冷ファンの側面には,Xboxを代表するキャラクターである「マスターチーフ」の顔が刻印されていた。Xbox One Sでも,内部にマスターチーフの刻印があったので,Xbox開発チームお気に入りのお遊びといったところだろうか。
Xbox Series Xの中心部に触れるためには,まだいくつものネジを外さなくてはならないが,空冷ファンだけは,ファン用の電源ケーブルを外すだけで簡単に取り外しが可能だ。
Xbox Series Xの冷却は,基本的に下側から新鮮な空気を吸い込んで,上側の空冷ファンで上に向かって排気するというシンプルな仕組みである。ファンの周囲を囲むフレームがかなり大きいので,ファン直径も大きく見えるのだが,簡単に測ってみたところ,直径は125mm前後で,市販のPC用120mm径空冷ファンと比べてもそれほど大きなものではなかった。
順序としては,筐体からセンターシャシーの基板に伸びているケーブルを外したうえで,Blu-rayドライブの後端側を覆うカバー,Blu-rayドライブから伸びるケーブルとドライブユニット本体,そしてセンターシャシーを含む主構造物を外すという流れだ。筆者は,スタンドの外し方が分からずに少々手間取ったが,主構造物を取り出すまでの手順に難しいところはないと感じた。
大きなセンターシャシーにゴムバンドでまとめたヒートシンクや電源ユニット
Xbox Series Xの筐体から取り出した主構造物を見ていこう。金属製(※素材は非公開,見た目はマグネシウム合金に似ている)で大きなセンターシャシーに,ヒートシンクと電源ユニットが固定されているので,手に持つとけっこう重さを感じる。
この構造物で面白いのは,写真を見ても分かるように,黒くて幅広なゴム製のバンドによって,ヒートシンクとセンターシャシー,電源ユニットを囲んで密着させていることだ。トルクスネジで締めるだけでは飽き足らず,ゴムバンドで圧迫することでもヒートシンクやセンターシャシーと基板類を密着させて,放熱効率を高めようということだろうか。
一方のLOTTEは,おそらく合成樹脂の大手メーカーであるLotte Chemicalのことだろう。Xbox Series Xの筐体ケースは,この両社が製造に関わっているのだろう。
ゴムバンドを外して,各パーツを見ていこう。まずセンターシャシー右側にある電源ユニットだが,PC用の小型電源ユニットであるTFX電源ユニットよりもさらに小さいものだ。ラベルに書かれたスペックを見る限り,定格出力は315Wで,PlayStation 5の内蔵電源ユニットが定格出力350Wであるのに比べると,35W低いことになる。
モジュール上にある認証ID「C3K1889」を米国連邦通信委員会(以下,FCC)のWebサイトで調べると,Microsoft製の「Dual
1つめの無線通信用モジュールが何かだが,Xbox One Sでも2つの無線通信用モジュールを備えていたことから推測するに,おそらくはゲームパッドとのワイヤレス通信を担当するものではないだろうか。Dual-bandとは,Bluetoothでも使われる2.4GHz帯と,Xbox Oneシリーズのゲームパッドが使っていた5GHz帯の周波数に対応するという意味であろう。
いよいよSoCとご対面
まずはメイン基板から見ていこう。メイン基板は,筐体内で右側面側にあり,巨大なヒートシンクと銅製の放熱プレートがガッチリと取り付けられている。かなり重量のある構造物なので,重さを量ってみたら約1255gもあった。
メイン基板の裏側には,アルミニウム合金製と思われる大きなカバーのほかに,ペースト状の熱伝導材が貼られた金属製のカバーが2つあるのが目を引く。
このうち,以下の写真で左側下寄りにあるのはXbox Series Xの内蔵SSDをカバーしているもので,左側上寄りにあるのは,拡張SSDである「Expansion Card」用のスロットだ。内蔵SSDはともかく,Expansion Card用スロットにまで熱伝導材を貼り付けてあるのは,少々驚いた。
このクランプを外すと,ヒートシンクをメイン基板から取り外せるようになり,いよいよSoCとご対面だ。
SoCの表面は,PC用CPUでおなじみのグリスでヒートシンクに貼り付けられている。グリスを除去して半導体ダイを直接見られるようにすると,Xboxのシンボルマークの右に,「PROJECT SCARLETT」の刻印があった。「Project Scarlett」とは,Xbox Series Xの開発コードネームである。
ダイ自体は22×16.3mmほどで,面積は358.6mm2になる。
SoCの周囲には,メモリチップが3個,4個,3個と計10個並んでいる。これらはMicron Technology(以下,Micron)製のGDDR6メモリチップで,容量は総容量は16GBだ。メモリチップの表面にある刻印を眺めていると,「D9WZX」と書かれたメモリチップが6個,「D9WCW」が4個あることに気付いた。
MicronのWebサイトで調べると,前者は「MT61K512M32KPA-14:B」という容量16Gbit(2GB)のメモリチップで,後者は「MT61K256M32JE-14:A」という容量8Gbit(1GB)のメモリチップであることが分かる。つまり,2GB×6と1GB×4で,合計16GBのメインメモリを構成しているわけだ。単純に考えると,2GB×8で16GBを構成するほうがシンプルではないかと思うのだが,メモリインタフェースの幅(※320bit)を広げることによる性能面での利点を取ったのだろう。
SSDを取り外すと,裏面にはWestern Digitalの社名と「SN530」の型番が書かれたシールがあった。型番で調べると,Western DigitalがPC用に展開しているPCI Express 3.0 x4対応のSSDであることが分かる。PS5の内蔵SSDが,12チャンネルという特殊な仕様の高速コントローラを使っているのに比べると,実にごく普通のSSDだ。スペック的にも逐次読み出し速度は最大2400MB/s,逐次書き込み速度は最大1950MB/sなので,PC用としてもそれほど高速ではない。
汎用SSDを使い,インタフェースもPC用と同じとなれば,「ユーザーによるSSDの交換も可能なのではないか」と思う人もいるだろう。ただ,Xbox Series XのSSDスロットは,「M.2 2230」と呼ばれる非常に小さいタイプのSSDにしか対応しないサイズだ。M.2 2230対応でストレージ容量が1TBを超えるSSDは,まだ存在しないようなので,容量の大きなSSDに交換したくても,現状では不可能だ。
将来的に,M.2 2230対応で容量2TBクラスのSSDが登場する日も来るかもしれないが,かなり高価なものになるのは確実であるうえ,そもそも,Xbox Series X内蔵SSDの中身を他のSSDにコピーできるかどうかも分からない。分解すると製品保証が失われることも考慮すると,ユーザーによる内蔵SSDの交換は,考えないほうが良さそうだと思う。
サブ基板のチップセットはXbox One用の改良版?
サブ基板で目を引くのは,背面側に並んだインタフェース類と,Xboxのシンボルマークが刻印された大きめのチップだ。
有線LANやUSBといったインタフェース類は,Xbox Series XでもXbox Oneシリーズから大きな変化がないため,小改良で十分に対応できるということなのだろう。
PS5に比べるとシンプルな構成だが,コストは相応にかかった構造だ
さて,駆け足だがXbox Series Xの内部を見てきた。途中で苦戦したところもあったが,基本的には分解も組み立ても比較的容易であったと思う。
一通り分解しての印象だが,Xbox Series Xは,公式の分解動画で見たPS5とは,かなり方向性が異なる機械だなと感じた。
PS5は,サブ基板を使わずにマザーボード1枚に集約していることや,フラッシュメモリチップをマザーボードに直付けしていること,SoCの熱伝導材に液体金属を利用する点など,極めて独自性の高い構成を採用している。これは,設計や部材に相応のコストがかかるものの,高い性能を実現できる利点があるという。
一方のXbox Series Xは,PS5ほど独自性のある構成ではなかった。メイン基板やサブ基板以外にも細かい基板を複数使った構成は,既存のXbox Oneシリーズを継承したものであり,SSDやSoCの熱伝導材も特殊なものではない。素性の知れたパーツを組み合わせて,手堅く作ったゲーム機と言えるだろうか。
ただ,Xbox Series Xも,内部のコストはかなりかかっていると感じた。ネジの本数だけでも驚くほど多く,ヒートシンクやセンターシャシー以外にも,ケーブル類を覆ったり,基板を保護したりする金属製のカバーを複数使っている。これらはトータルでのコストを高める要因のはずだ。Blu-rayドライブからの振動を抑制するためか,ほかの部品との接触部分にスポンジを付けた小さな金属製パーツを取り付けているところもあり,ていねいな作りだなと思う半面,別部品を使う必要があるのだろうかと首をひねる面もある。
あくまでも推測だが,Xbox Series Xの世代が進むに従って,これらの金属製カバーやパーツ類は,センターシャシーやそれ以外の部品に統合されていくのではないだろうか。それにより,ゲーム機全体での製品コストを下げることも可能になるだろう。
PS5の作り込みとは異なる方向性ではあるが,Xbox Series Xもまた,500ドル程度という価格面の制限があるなかで,最大限に性能とコストのバランスを取ろうとしていることが,今回の分解でよく理解できた。
最後に,分解したXbox Series Xは,組み立て直して無事に起動したことを報告しておく。……ネジが2本余ったのは見なかったことにしたい。
Xbox Series X/S本体 公式Webサイト
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