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[GDC 2019]Webサイトすら公開せず“広報費ゼロ”のままSteamでゲームを販売してみた――スイスの開発者が前代未聞の販売実験の結果を報告
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印刷2019/03/22 20:39

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[GDC 2019]Webサイトすら公開せず“広報費ゼロ”のままSteamでゲームを販売してみた――スイスの開発者が前代未聞の販売実験の結果を報告

画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2019]Webサイトすら公開せず“広報費ゼロ”のままSteamでゲームを販売してみた――スイスの開発者が前代未聞の販売実験の結果を報告
Patrick Seibert(パトリック・セイバート)氏
 Steamストアページの最適化やマーケティング,コミュニティ管理などを行う,スイスのToo Indie to Fail。その設立者であるPatrick Seibert(パトリック・セイバート)氏GDC 2019で,「Steamでのゼロマーケティング実験:誰にも報告することなくゲームをローンチしてみた」(The ZERO Marketing Experiment on Steam: Launching a Game Without Telling Anyone)という,実にキャッチーなセッションを行った。

 セイバート氏は,2014年にインディーズ同人誌を立ち上げたあと,Eat Create SleepというパブリッシャのPR兼コミュニティマネージャとして活動。ゲーム業界での経歴はまだ豊富とは言えないが,短い間に20作におよぶインディーズゲームの販売に関わる中で,自身もゲーム開発に乗り出し,2018年に独立して処女作をリリースした。当該ゲームはセイバート氏曰く「アマチュアに毛の生えた作品」くらいのデキだそうだが,そのリリース方法が面白い。セイバート氏はゲーム開発中,人に相談したりイベントに出展したりせず,Steamには偽名で登録。そして広告には意図的に予算も時間も注がないようにして,ひっそりとリリースしてみたのだそうだ。

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 具体的な作品については,今回のセッションで「Game A」とだけ紹介されており,セイバート氏の公式サイト(リンク)をチェックしても当該ゲームは「Secret」(秘密)としか記載されていない。ともあれ,ジャンルはパズルらしい。

 さて今回セイバート氏は,そんなGame Aの比較対象として,同じアマチュアレベル,かつ同時期にリリースされた,「公式サイト」ボタンをクリックすると開発者の個人ブログに行き着く程度の配慮しかない「Game B」と,おそらく自身がパブリッシングに関わったと思わる,それなりの広告予算が投入された「Game C」を選び,それらの販売状況をさまざまな角度でグラフ化した資料を基に講演を行った。実際には30作程度をチェックしたとのことだが,傾向に大きな違いはなかったという。
 以下,講演のスライドにセイバート氏のコメントを添える形で,その内容を解説していこう。

ローンチ前


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 それぞれのゲームの滑り出しを比較すると,Steamストアページに訪れる人の数にそれほど大きな違いはない。Game Cページへの訪問者が7日目に急に増えたのは,Facebookのグループページを公開したからであるという。


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 ページ公開直後4日間のインプレッション(Steam上で実際に表示された回数)は広報していないGame AとBにそれほど変化は見られないが,Cは上昇傾向にある。セイバート氏によると,インプレッションの88.5%はSteamディスカバリーキューの表示から辿ってくるものであるとのことで,広報をしていない場合のゲームでは,一定数の訪問者が“偶然”にゲームを見つけてクリックしているという状態になっているようだ。


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 Steamでのインプレッションは発売が迫るにつれていずれも上昇するのに対し,実際にストアページにやって来る人の数は,それぞれのゲームで大きな差はなかったという。発売前の98%のインプレッションは「Coming Soon」リストや検索結果から来るもので,小さなバナー領域でどれだけSteamユーザーの興味を惹きつけられるかによって大きな変化があるのかもしれないとセイバート氏は述べ,数少ないプレイヤーにさらに興味を持ってもらうためにもストアページはしっかりと作り込んでおくべきだと話していた。


ローンチ後1週間


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 ローンチ直後,予想どおり高いインプレッションを示していたGame Cだが,2日後にその数字が急落。2日目からインプレッションの数でGame Aが逆転する。


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 その違いは,ユーザーレビューが掲載されるかどうかで生まれると話すセイバート氏。良いレビューが掲載されるようになると,少なくとも数日はトレンド化する。
 しかし,それもローンチ直後だけの話で,その後は良いレビュー(オレンジ)であれ悪いレビュー(赤)であれ,訪問者数に大きな変化はない。


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 その状況は,1か月というスパンで見ても同じ。


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 ここで,「ローンチサイクル」をどれだけ回せるかが重要であるとセイバート氏は説明する。ゲームのローンチ直後は販売数が増えることからインプレッションが向上し,さらに多くの訪問者が訪れ,これがまたセールスにつながる。しかしGame A,B,Cはすべて,インプレッションからセールスへの転換比率を高められなかったために,次のサイクルへとつなげることができなかった。


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 Valveは,Steamディスカバリーキューへの表示についてかなりオープンにしており,販売本数やレビュー評価,セール中であるかどうかやプレイヤーの好みのジャンルであるかどうかによって掲載が決まるようだが,セイバート氏の提示した3つのゲームから言えることは,この実験が行われた1年ほど前の時点では,どんなゲームでも2日間ほどでその効力は消えていく。最近,Steamでのローンチと同時にいきなりセールが始まる新作が多いが,こうした機能への対応が大きな理由なのかもしれない。
 セイバート氏は,発売前からゲームに興味を示していたファンや,過去の作品で良いレビューを残したメディア,ゲーマーにアプローチしていくことも良い手法だと語っていた。


ローンチ後2か月目以降


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 レビューで良い評価を得たGame Aは,発売2か月目もそれなりのインプレッションを保っているが,レビューで評価をまったく得ていないGame Bと,広告予算がありながらも二ッチな層に向けたゲームだったGame Cは低迷。


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 そんな中でGame Cが5か月目に突然多くのインプレッションを獲得したのは,セールを実行したからだ。セールはゲームソフトの価値を低下させてしまい,一度販売価格を落としてしまうと元の価格には戻しにくいとされている。しかし「(値下げによる)さらなるセールス=さらなるレビュー」と考えると,前述のローンチサイクルの中にしっくりとハマるというのがセイバート氏の主張である。


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 セイバート氏は,実際にどのゲームのデータなのかは示さなかったが,ソフトの価格と販売本数で売り上げを求めた場合,セールされた状態のほうが収益は高いとしていた。


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 Game Aでは25%オフセールを2回,50%オフセールを1回行っているが,その収益にほとんど差はなかったという。つまり,ゲームの価格と収益性は独立したものである可能性が高いとみることもでき,セールを頻繁に行うと共に,50%以上の値下げにも臆してはいけないとセイバート氏は主張し,今回のセッションを締めくくった。

「Patrick Seibert - Too Indie to Fail」公式Webサイト


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