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日本のゲームがイギリスのゲーム文化に与えた影響と,BitSummitのこれからについてが語られたトークセッションをレポート
登壇したのは,ゲームクリエイターで現在は立命館大学映像学部教授の飯田和敏氏,英国ナショナル・ビデオゲーム・ミュージアム共同設立者のイアン・シモンズ氏,英国Bath Spa University教授のジェームス・ニューマン氏の3人。進行役を務めたのは,立命館大学映像学部教授の中村彰憲氏だ。
このトークセッションは,イギリスでもBitSummitと同じようなムーブメントが起きていることを伝えたいという,飯田氏の強い希望によって企画されたもの。当初のスピリッツを失わないまま大きく発展してきたBitSummitが,今後どのような形で展開していくべきかについて,その道で先を行くイギリスの事例からヒントを得たいというのが飯田氏の意図である。
最初のトピックとしてシモンズ氏が切り出したのは,ノッティンガムで2006年にスタートした「GameCity」というイベントについてだ。ゲームには,音や映像,文章や建築といった,さまざまな要素がある。これらをノッティンガムという1つの市に結び付け,街のあちこちでさまざまな催しを行うによってゲームというものを表現する,というのがこのイベントの目的であるとシモンズ氏は話す。
GameCityの活動を紹介する映像を披露したあと,シモンズ氏は,このイベントはゲームを知らない人達に,ゲームとは何かを伝えるための実験であると説明。GameCityの期間中,ノッティンガムの街全体で約5万人の人々が訪れるという。もちろん,この中には一般の観光客も含まれており,全体の80%がファミリー層である。その説明を聞いた飯田氏は,これによってゲームファンではない層にもゲームのリテラシーが浸透する効果が期待できると感想を述べ,新たな社会問題として注目されているゲーム依存症に対する,新しいコミュニティのあり方にもつながるとコメントした。
しかし,イベントは当然ながら期間が過ぎれば終了してしまう。そこで,ゲームへの興味を常に感じられる場所として,シモンズ氏がニューマン氏と共に2015年に設立したのが「ナショナル・ビデオゲーム・アーケード」である。2018年にノッティンガムからシェフィールドに移転し,「ナショナル・ビデオゲーム・ミュージアム」と名称を変えて運営されているこの“ゲーム博物館”では,歴史的に価値のあるゲームから最新ゲームまで,さまざまな展示を行い,それを体験することができる。
ナショナル・ビデオゲーム・ミュージアム公式サイト
さらに,本ミュージアムではただゲームを展示するだけでなく,ゲームカルチャー全体を展示することに力を入れており,開発者から提供してもらったゲームの開発資料も合わせて展示しているとニューマン氏は説明。展示物はこのほかにも,ファンが作った2次創作物まで含まれているという。
そうしたコレクションの中でも面白いものとしては,任天堂でファミコンやスーパーファミコンなどの開発に携わり,現在は立命館大学教授として教鞭をとる上村雅之氏のサインが入ったバズーカ型のスーパーファミコン用周辺機器「スーパースコープ」がある。また,ゲームを“開発”することも大切な体験であり,体感型のアトラクションを特別に開発して展示していたりもするそうだ。
飯田氏はゲームクリエイターの立場から,ゲームの原点とも呼べるような開発資料は,ゲーム完成後の開発者にとってあまり価値が感じられない,外に出すのが恥ずかしいもののように思えるとコメントしたが,シモンズ氏は,ゲームが人の手によって生み出されていることを示すために,それらは非常に大きな力を持っていると力説。行政なども含めて,正しいコミュニケーションをとるための“重力”を生み出すことが大切で,そのためにミュージアムの存在は非常に重要であると訴えた。
飯田氏から,京都そしてBitSummitはこれからどうなっていくべきかを問いかけられ,シモンズ氏はみんなで“外”に出ていこうと提案。ニューマン氏も,こうしたムーブメントをどんどん外へ広げていき,最終的にそれが京都市の一部となることが理想的であると語り,BitSummitをぜひイギリスに持ち込んでほしいと提案して,トークセッションを締めくくった。
BitSummit 7 Spirits公式サイト
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