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旧ソニーのPC部門を受け継いだ「VAIO株式会社」がスタート。「一点突破の発想と審美眼」を持つPC作りを目指す
VAIOといえば,ゲーマー向けに特化したPCこそなかったものの,薄型化や小型化を追求したノートPCや,ビデオカメラを内蔵したノートPCなど,独自色の強いPCを多数展開していたブランドだ。1.3kg程度の重量で単体GPUを搭載するノートPCを販売していたこともあり,筆者などは「たまに3DゲームもできるモバイルノートPC」として,VAIOを選んでいたこともある。4Gamer読者にもVAIOブランドのPCを持っていた,あるいは現在使っているという人はいるだろう。
そのVAIOが今後どうなるのかについて,気になっていたという人も少なくないのではないだろうか。
そして,2014年7月1日,事業譲渡されたPC部門は「VAIO株式会社」(以下,VAIO社)として新たな事業を開始するとともに,第1弾の製品となるノートPC計3製品を発表した。本稿では,同日に開かれた設立記者会見の内容をもとに,VAIO社が今後どのようなビジネスを展開していくのかについてレポートしたい。
新製品第1弾となるノートPC「VAIO Pro 11」(左)と「VAIO Pro 13」(右)。ただし,元はソニー時代から販売されていた製品なので,これ自体は目新しいものではない |
VAIOは今後もソニーストアで販売
当面は日本市場に集中
新しいVAIO社は,日本市場をターゲットにWindows搭載PCの開発と製造を行う。ソニー時代は世界市場でビジネスを展開していたが,新会社ではまず,日本市場でのビジネスに集中するとのことだ。VAIOのモバイルノートPCは米国でもパワーユーザーの間で人気があったので,ちょっと残念ではある。
本社が置かれるのは,「VAIOの里」とも呼ばれていた長野県安曇野市の工場だ。ここは,開発と製造に高度な技術を要するモバイルノートPCなどを担当していた工場で,ソニー時代からVAIOの開発部門と製造部門が集約されていた場所でもある。従業員は約240名。なお,製造は自社だけでなく,海外のODMメーカー(相手先ブランドでの製造請負メーカー)でも行われる。これもソニー時代と同様だ。
直販以外の販売方法も検討されており,今後は一部の量販店店頭で,VAIOの注文ができるコーナーを設置する予定もあるとのこと。ソニー時代にも,「VAIO OWNER MADE取扱店」という名称で,直販限定だったCTOモデルを注文できるコーナーを設置していた大手家電量販店があったので,新会社でも同様の仕組みを踏襲するのだろう。
なお,法人向けの営業は,販売パートナー企業4社を通じて全国4000店で行うとのことだ。
「本質+α」を突き詰めた製品開発に集中
ここでいう本質とは「PCの本質」を意味する。関取氏は,スマートフォンやタブレットが普及しても,「真剣に向き合う,生産性を上げる,何かを生み出す作業はPCの領域ではないか」と述べ,こうした道具としてのPCを突き詰めていくのが新会社のビジネスであるという考えを示した。
一方,VAIO社では集中と絞り込みを行い,「一点突破の発想と審美眼を併せ持つ,愛着を持って長く使っていただけるVAIO」(関取氏)を開発していくことを目指すのだそうだ。
さて,VAIOらしい付加価値といえば,ソニーが開発した技術を盛り込んだ独自のチップやソフトウェアの存在が思い浮かぶ。ソニーから分離されたことで,こうした差異化につながる技術が使えなくなるのではないか,という懸念を持つ人もいるだろう。これについて関取氏やVAIO社のスタッフは,従来VAIOに使っていたソニー製の差異化技術は,一定の条件下で今後も利用できると明言していた。
もちろん,これから先,ソニーが開発する技術はこの限りではないとのことだが,ソニー由来の技術や商標がいきなり使えなくなるということはないそうだ。
PCビジネスに詳しい人なら,規模が小さく日本市場だけに集中した会社となることで,CPUやメモリチップなど,PCを構成する部品の調達コストが上がり,製品価格が高くなってしまうのではないか,と考えるかもしれない。
質疑応答でこのことを問われた関取氏は,「調達はチャレンジポイント」であると認めたうえで,標準的な部品はODMメーカー側の調達力を活用することでコスト増を押さえられるとの考えを示した。その一方で,製品の差別化につながる部品には,コストをかけていくという。
コンセプトを具現化した新生VAIOが登場するのは年末〜来年以降?
現実的に考えれば,新生VAIOのコンセプトを体現した製品が登場するには,半年から1年程度はかかる。そして半年後である2014年末には,Intelの新しいモバイルCPUである「Core Mプロセッサ」が登場する予定だ(関連記事)。従来以上の低消費電力を謳うCore Mプロセッサを採用した魅力的なPCを実現できれば,VAIO社の先行きに対する懸念を払拭できるかもしれない。
幸いなことに,そうしたPCの開発を可能とする人材が,VAIO社には残っている。筆者は東京や安曇野で,VAIOの開発部隊を取材した経験が何度もあるのだが,そのときに取材対応していただいた開発部隊のキーパーソンを,会見に続いて行われた懇親会で何人も見かけることができた。根拠としては薄弱かもしれないが,「この人たちが残っているなら,新しいVAIOも大丈夫。面白い製品を作ってくれるだろう」と感じたのだ。
優秀な人材がいれば成功が約束されるほど,PCビジネスは生やさしいものではない。とはいえ,VAIOの個性的な製品群が,技術力とアイデアのある安曇野の人材によって実現されていたのも事実。ぜひともまた魅力的な製品を作り出して,「日本にはVAIOというイカすPCがあるのだ」ということを,世界に示してもらいたいし,そうした製品の中に,ゲーマーの選択肢に入ってくるような製品が出てくることを期待したいものだ。
記者会見で配られた名刺入れ(左)。VAIO Proを模したデザインで,内側には液晶パネルやキーボード,側面にはインタフェース類がレーザーで刻印されている(右)。VAIO社の製品というわけではないが,同社製品が持つ細部へのこだわりを表現したものといえよう |
VAIO 公式Webサイト
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