業界動向
米国のモバイルゲーム市場は,日本と何が違う? JETRO主催のセミナーで米国のトレンドを聞いてきた
ゲーム企業を対象としたビジネスに関するセミナーであるため,ゲーマー向けの話題とは言い難いが,本稿では一般の読者にも興味深そうな,米国市場の現状とそれに向けた最適化などの話題を中心にレポートしよう。
米国では今どんなゲームが受けているのか?
Nakao氏の講演は基本的に,以下のテーマで構成されていた。
- 2012〜2013年にかけての米国ゲーム市場概況
- 米国ゲームのトレンドと特徴
- 日本のゲーム企業にとってのチャンス
Nakao氏が主に担当するのがモバイルゲーム分野であるため,話題もおのずから同分野が中心となるが,これから海外にビジネスチャンスを求めようという日本のゲーム企業にとっても,世界的なモバイル/タブレット向けゲームの広がりを考えれば,重要なのはこの分野であろう。それでは,順に説明していこう。
まず,米国ゲーム市場の概況で興味深い点としては,各種調査会社によるスマートフォンとモバイルゲームに関する数字だろう。たとえば,米国の携帯電話ユーザーは,すでに61%がスマートフォンを所有しており,そのうち53%がAndroid端末を,40%がiOS端末を所有しているとのことだ。また,携帯電話ユーザーの51%が,携帯電話でゲームを楽しんでおり,モバイルゲーム市場規模は2013年だけでも約17億ドル(約1700億円)に達しているという。
Nakao氏が直接言ったわけではないが,このように米国市場の扉は開かれているのだから,日本企業もチャンスを逃すな,ということだろう。
ゲームジャンル別の動向も,注目に値する話だ。こちらも2012年第1四半期から2013年第1四半期にかけての調査であるが,かつてはモバイルゲームで隆盛を誇った育成系シミュレーションが減少しているのに対して,スロットやトランプゲームといったカジノ系が大きく成長しているのだという。また,RPGもプラス2%と,堅調な成長を見せているそうだ。
ただし,人気ジャンルについてNakao氏は,「四半期単位で変わる」とも述べており,この傾向が年単位で続くとは限らない。後述するが,育成シミュレーションも人気アプリの上位にいるので,将来性が期待できないジャンルというわけではないという。
米国市場を狙うに当たって抑えるべきトレンド
グラフィックスの向上とタブレット対応は重要に
次なるテーマは,「米国ゲームのトレンドと特徴」だ。Nakao氏が挙げた最初のトレンドは「高品質化」。革新的な要素を取り入れた高品質なゲームは人気があるという。
その例に挙げられたのは,フィンランドのデベロッパ,Supercellが開発した農場育成シミュレーション「Hay Day」だ。同ゲームは,生産物を売り買いするシステムが,オークションサイト「eBay」のようなリアルタイムでの売り買い要素を取り入れていて,洗練されたゲーム内経済システムを備えている点が評価されているという。
こうしたプラットフォームを想定して,高品位な3Dグラフィックスや,3Dキャラクターのスムーズなアニメーションなど,据え置き型ゲーム機で確立された3Dグラフィックスのノウハウを,いかにモバイルに持ってくるかが重要になると,Nakao氏は述べる。
一方でそれは,モバイルゲームの開発コストも上がることを意味するわけで,小規模なデベロッパには挑戦しにくい分野が,モバイルゲームでも増えてくるのではないかと,筆者には思えた。
次に重要な米国のトレンドが,「タブレットを前提としてタッチに最適化されたユーザーインタフェース」を備えることだ。タブレット端末の普及が進まない日本にいると,なかなか実感しにくいところだが,米国ではAmazonの「Kindle Fire」シリーズやAppleの「iPad mini」といった,比較的低価格なタブレットが普及しているという話を聞くことも多い。モバイルゲームといっても,スマートフォンのサイズだけを考えていればいいわけではないようだ。
Nakao氏は,アクション性のあるゲームを例に挙げて,単にタッチ操作できるだけだったり,画面上の仮想ジョイスティックで操作するといった段階から離れて,ワンタッチでキャラクターが多彩に動くといった要素を取り入れたゲームが人気を呼んでいるという現状を示す。
そのうえでNakao氏は,すでにタブレット向けだけでリリースしているゲーム企業もあり,米国に進出する企業は,こうした先行者たちのゲームタイトルと戦わなくてはならないと,タブレット対応の重要性を強調した。
日本と米国でのモバイルゲーム全般の違いや,アートスタイルの違いといった話題にも触れられた。漫画やアニメ調のアートが広く受けいれられている日本に対して,米国は好まれるアートの傾向が異なるという話は,4Gamer読者も聞き飽きるほど聞いているとは思うし,日本のゲーム開発者にも理解が浸透しているだろう。
一方で,日本のフィーチャーフォンで流行したHTML(+Flash)ベースのゲームは,米国では主流ではなく,ユーザーインタフェース(以下,UI)や性能面に優れるiOSやAndroidのネイティブアプリが主流である点も,重要な違いだとNakao氏は述べる。
また,MobageやLINEといったゲームプラットフォーマーが,ゲームを提供する入口として機能している日本に対して,米国で入口となっているのは,OSプラットフォーマーの公式アプリストア――iOSならApp Store,AndroidならGoogle Playストア(加えてAmazon Appstore)――であるといった違いも指摘した。
米国市場と日本市場の違いについて述べたスライド2点。アートの違いは,よく語られるところだろう |
かいつまんで説明すると,成長しているRPG分野(とくにカードバトルRPGやアクションRPG)は,“剣と魔法とドラゴン”といった,オーソドックスなファンタジー要素を重視した,セミリアリスティックなアートのゲームがポピュラーであるという。
次に,米国では人気が上がり始めているハードコアゲーマー向けのゲーム,たとえばRTSなどでは,PCゲームのオンラインRPGのように,対象に応じてチャット先を切り替えたり,ゲーム内で仲間とメールをやり取りするといった,密なコミュニケーション要素を取り入れたゲームが好評であるそうだ。
また,日本のゲーマーにはあまり馴染みがないかもしれないが,Nakao氏が「Endless Runner」ジャンルと位置付けるアクションゲーム――LINEの「ウィンドランナー」や,Kilooの「Subway Surfers」が例に挙げられた――も,注目すべきジャンルの1つとして取り上げられた。このジャンルでは今後,3Dグラフィックスがより重視されるだろうという。3Dグラフィックスのアクションゲームを作り慣れたゲーム開発者には,チャンスがある分野かもしれない。
一方で,先の市場動向で成長ジャンルとされていたカジノ系について,Nakao氏は,「ライバルが多すぎる。すでにローカライズされたカジノゲームを持っているというのでない限り,私が日本の開発者なら,ここに焦点は当てないでしょう」と述べている。
Nakao氏がまとめた,米国進出を狙う日本企業に向けたジャンル別のポイントを列挙しよう。
- カードバトル:タイトルが多すぎて飽和している。しかし,それは成功しているジャンルということでもあり,米国に向けた最適化次第でチャンスはある。
- 次世代のRPG:カードバトルRPGの次に,アクションRPGの方向に行くのか,MOBA(Multiplayer Online Battle Arena)が流行するのかは分からないが,定番と言えるものがないので,逆に可能性のある分野だ。
- カジュアルゲーム:日本向けにすでに手がけているものがあれば,米国向けにアートや音楽を最適化したうえで挑戦を。
- Endless Runner:根強い人気があり,最適化次第でチャンスがある。
また,これらのほかにジャンルを問わないポイントとして,Nakao氏はFacebookやAppleの「Game Center」といったサービスのソーシャルグラフを取り込むことの重要性や,ある意味日本企業が得意でもある,ライブでのユーザー対応(イベント展開やサポートなど)が成功要因になると述べた。
そして,日本と異なるポイントとなるのが「スマートなユーザー獲得手段」であり,この点で米国でのパートナーとなるゲームパブリッシャを活用することが重要であるとして,次の講演者にバトンを引き継いだ。
単独で展開するよりも,適切なパブリシャを
パートナーにすることの重要性を主張
氏の講演は,ゲームにおける「スマートなユーザー獲得手段」がテーマだったのだが,その内容は,米国進出を検討する企業がパブリシャをパートナーにすべき理由を,「独自でやろうとすると,ユーザー獲得はこんなに大変ですよ」という事例を事細かに挙げて訴えるというものだった。率直に言えば,直接ビジネスを担当する人以外には,長いわりに面白い話ではないので,今回は割愛させていただく。
氏のポジションを考えれば,「パブリシャを活用したほうがいいですよ」という話になるのは当然ではあるが,米国で独自にビジネスを展開するためには,日本とは異なる広告展開やそれに携わるパートナー企業の見極めが重要であり,それには手間もコストもかかるというのは,確かにそのとおりだろう。適切なノウハウと実績のあるパブリシャを選んで,パートナーとするほうがリスクも少ないというのは,同意できる点だ。
JETROでは,このセミナーのように,中小ゲーム企業の海外進出を手助けするための事業を展開しており,東京ゲームショウ2013でも,商談会やセミナーを企画しているという。「海外に打って出たくはあるが,そのための注意点やパートナー選びをどうすればいいのか」と迷いのある企業は,こうした場を活用してみてはいかがだろうか。
JETROによるコンテンツ産業に向けたサービスの例(左)と,東京ゲームショウ2013で予定している商談会やセミナーのスケジュール。海外進出を検討している企業は,サポートを受けてみるのもアリだろう |
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