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「格安SIM」の現状と今後の展望がMVNO担当者から語られた,MMD研究所主催のイベント「MVNO3社に聞く,格安SIMの現状と未来」をレポート
このイベントでは,モバイル通信サービスを割安な料金で提供する,いわゆる「格安SIM」の現状や今後の展望について,提供事業者であるMVNO(Mobile Virtual Network Operator,仮想移動体通信事業者)から,エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ,ビッグローブ,ケイ・オプティコムの担当者が登壇し,パネルディスカッションを行った。
本稿では,イベントの模様をまとめてレポートしよう。
MMD研究所公式サイト
「OCN モバイル ONE」公式サイト
「BIGLOBE SIM」公式サイト
「mineo(マイネオ)」公式サイト
吉本氏は,現在の格安SIMには「まだ使っている人が少ない」「主なユーザー層は30〜40代のガジェット好き」「ヘビーユーザーはフィーチャーフォンで通話,格安SIMのスマートフォンでデータ通信といった2台持ちで運用している」といったイメージがあるのではないかと話す。
実際のところ,後述するパネルディスカッションでも同様の傾向にあるという話も出るのだが,最新調査によると,そうしたイメージを覆すような動きも出ているそうである。
これを年代別に見ると,年齢が若いほどスマートフォンの比率が高くなり,15〜19歳では9割超え,60歳未満のすべての年齢層で5割以上がスマートフォンをメイン端末として利用していることになる。
移動体通信事業者に関しては,通信回線網をはじめなどサービス提供に必要な設備をすべて自社で用意している,いわゆるキャリア3社(NTTドコモ,KDDI,ソフトバンク)の比率が9割以上を占めている。
格安SIMを提供するMVNO各社の合計は全体の3.9%だが,格安SIMをメイン端末として利用しているユーザーは,2014年10月のデータでは1.6%で,この1年で約2倍に増加している。
ただ,携帯電話を2台以上所有し,スマートフォンをサブ端末として利用しているケースもあるので,実際の利用率はもう少し高くなると吉本氏は補足していた。
年齢別に見ると,男性では20代が2.2倍,女性では40代が2.1倍と,先述した「30〜40代のガジェット好き」とは異なるユーザー層が増えてきている,と見ることもできる。
契約プランに関する調査からは,2013年はデータ通信のみのプランが9割超えだったが,2014年には4割近くが音声+データ通信プランになり,2015年には音声+データ通信プランが6割超えと,データ通信のみのプランを逆転している。
吉本氏はこの結果について,それまで2台持ちしていたユーザーがキャリア3社との契約を解除し,MVNOのサービスだけで運用するようになっているのかもしれないとの見解を示した。
詳細を知るにはさらなる調査が必要となるだろうが,今後普及率が上がれば,吉本氏が冒頭で述べた“MVNO利用者のイメージ”が覆される可能性もありそうである。
※参考:2015年10月スマートフォンの所有率は63.9%、昨年より4.9ポイント増(MMD研究所)
続くパネルディスカッションに登壇したのは,「OCN モバイル ONE」を提供するエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズの岡本健太郎氏,「BIGLOBE SIM」を提供するビッグローブの二宮可奈氏,「mineo」(マイネオ)を提供するケイ・オプティコムの津田和佳氏の3名だ。
テーマとなったのは,「格安SIMを使う人はどんな人か」「格安ケータイの端末はどう考えるか」「格安SIM人口拡大には何が必要か」「2016年はMVNOやケータイ市場,業界はどうなるか」の4つである。
岡本健太郎氏 (エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ ネットワークサービス部 販売推進部門 担当部長) |
二宮可奈氏 (ビッグローブ 第二営業本部 マネージャー) |
津田和佳氏 (ケイ・オプティコム モバイル事業戦略グループ グループマネージャー) |
「格安SIMを使う人はどんな人か」
最初のテーマは「格安SIMを使う人はどんな人か」というもの。
これについては,OCN モバイル ONE,mineo,BIGLOBE SIMいずれも,30〜40代の男性ユーザーが中心になるとのこと。契約もデータ通信のみというケースのほうが多く,以前の格安SIMユーザーのイメージから大きな変化はないという。
これは,格安SIMを“使える”人は,自分で情報を精査してサービスを選択したり,格安SIMを挿せる端末の仕組みを理解していたりと,いわゆるITリテラシーが高い層が中心になっている,というのが主な理由のようである。
ただ最近は,ユーザー層に変化の兆しが見えているようだ。
たとえばBIGLOBE SIMでは,40代女性の利用者が増えてきたり,50代以上のBIGLOBEの固定回線ユーザーが「安価で使えるならスマートフォンを試してみたい」という問い合わせをしてきたりするケースが増えているという。二宮氏はこれを,主婦層などが節約目的で検討を重ね,より割安なサービスとして格安SIMを選択しているのではないかと分析していた。
なお津田氏は,格安SIMのサービスを選択する際に,ブランドや企業など知名度を重視する人が多いとコメント。mineoおよびケイ・オプティコムの場合,関西以外の地域での認知度がまだ高くなく,敬遠されることもあるので,今後はそれをどう乗り越えていくかを課題にしていると述べた。
「格安SIM人口拡大には何が必要か」
二宮氏によれば,BIGLOBE SIMでは,Webを中心とした認知度向上に努めていて,販売チャネルを今後増やしていく予定があるとのこと。また,「大容量」や「映像」といったキーワードを前面に打ち出し,20代など若い層にも積極的にアピールしていきたいと話していた。
mineoにおける認知度向上の取り組みとして,津田氏が挙げた例がテレビCMだ。mineoのテレビCMでは,幅広い層へのアピールを考えて,タレントのベッキーさんと有吉弘行さんを起用したそうである。しかし,「何のCMだか分からない」「何で安くなるのか分からない。怪しい」といった感想も多く,課題の残る結果となってしまったという。
これに関連して津田氏は,“格安”という言葉には「安かろう悪かろう」といったマイナスイメージも含まれるため,「格安SIM」ではない何か別の表現ができないか,模索している最中だと話していた。
そのほか津田氏は,mineoもWebでの販売が中心だが,認知度を上げるためには店頭販売も視野に入れる必要があると述べていた。ただ,店頭販売に取り組むとコストが跳ね上がるという課題が生じるため,現在はいろいろと検討している段階とのこと。
OCN モバイル ONEでは,ITリテラシーの高い人を取り込んでいくことに加え,タレントのマツコ・デラックスさんをイメージキャラクターに起用し,世間の認知度を上げてきたと岡本氏は説明。
今後は,格安SIMに興味があるがITリテラシーがそれほど高くない人へのアプローチを考えることが重要になるとし,やはりWebだけでなく,店頭など「リアルな場」での訴求が必要になると話していた。
「格安ケータイの端末はどう考えるか」
MVNO各社はSIMの単体販売だけでなく,端末とのセット販売も行っているが,競合他社やキャリアとの差別化を図るために,端末に“独自性”を持たせる必要はあると考えているのだろうか。
津田氏はまず,これまでmineoでは,端末の販売をあまり重視してこなかったと回答。というのも,mineoの利用者はITリテラシーの高いユーザーが中心だったため,格安SIMだけ契約して,端末はユーザー自身が調達するというケースが多かったからである。
格安SIM用端末の独自性については,あまり必要ないと津田氏自身は考えているとのこと。それよりも,ユーザーの好みやライフスタイルに合わせて端末と通信会社の組み合わせを選択できる,海外で提供されているようなサービスを日本でも展開するのが理想ではないかと持論を示した。
岡本氏と二宮氏も,ユーザーのニーズが多岐に及んでいるので,それに合わせたリーズナブルなセットを提供していくことが重要だとコメント。今後も,スマートフォンメーカー各社の端末に格安SIMをセットにする形で展開していく方針とのこと。
「2016年はMVNOやケータイ市場,業界はどうなるか」
最後のテーマは,「2016年はMVNOやケータイ市場,業界はどうなるか」というもの。ここでは,先に話題に上がったように,認知度の向上や新たなユーザー層の獲得,そして全体的なサービス品質の向上など,越えなければならないハードルが多いという話になった。
二宮氏は自身の希望として,格安SIMが業界的にも世間的にも盛り上がりつつある,現在の流れを止めたくないと話す。そのためにも,疑問やトラブルが生じたときに気軽にサポートを受けられる,キャリアのサービスのような体制を業界全体で整えなければならないだろうと述べた。
津田氏は,イベントと同日の10月19日に,総務省による会合「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース(第1回)」が実施されたことに触れ,認知度向上や普及への足がかりになってほしいと期待を寄せていた。
※参考:携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース(第1回)(総務省)
岡本氏は格安SIM市場について,何か特徴のあるサービスを提供していかないと,他サービスとの違いをユーザーに認識してもらえない段階に入っているとコメント。別サービスなどで多くの会員を抱えているや企業なら参入のチャンスはあるだろうが,今後は新規参入企業が減少していくだろうと,自身の見解を述べた。
また,ユーザーのニーズに適切に応えられるような体制を整えていかないと,パネルディスカッションに参加した3社を含めて市場全体の伸びが鈍化してしまう,そのため今後も検討を重ねなければならない,とまとめた。
イベント中でも話題に上がったが,安倍首相が,家庭内における情報通信費(主に携帯電話料金)の占める割合引き下げを検討するよう高市総務大臣に指示したことから,携帯電話の料金体系や提供条件などに関する議論が始まっている。
ご存じの読者も多いが,キャリアのSIMロック(キャリアの指定するSIMカードしか認識しない)端末のロック解除ができるようになったり,そもそも使用SIMに制限がない「SIMフリー端末」が販売されたりと,いわば格安SIMの利用を後押しする動きが出てきているわけだ。
格安SIMが今後スマートフォンユーザーにとって有力な選択肢となり得るのか,今後も注目していきたい。
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