イベント
「マイネット ゲームサービス カンファレンス 2016」レポート。成熟期に入ったスマートフォンゲーム市場で“ゲームサービス業”が新たなインフラへ
ここでは,同社代表取締役社長の上原 仁氏が,業界の現状について講演。さらに,gumi代表取締役副社長 COOの川本寛之氏,スクウェア・エニックス第8-12ビジネス・ディビジョン担当執行役員の渡辺泰仁氏,セガゲームス セガネットワークス カンパニーCOOの岩城 農氏を加えた4人による「スマホゲーム業界の今後を読む」と題したパネルディスカッションが行われた。本稿でその模様をレポートしよう。
成熟したスマホゲーム市場で“ゲームサービス業”が持つ重要性
まずは上原氏が登壇し,「スマホゲーム産業の構造変化とゲームサービス業の誕生」と題した基調講演を行った。
マイネットは,ゲームメーカーから権利を買い取っての運営に特化した会社で,現在「戦乱のサムライキングダム」「ドリランド 魔王軍vs勇者!」など,18本のゲームを運営している。マイネットが運営を行うこれらの事業を,代表取締役社長の上原 仁氏は“ゲームサービス業”と呼称する。
上原氏は,2015年が“いいものを出しても売れない「乱世」の市場”であったのに対し,2016年上半期は“いいものを出せば売れる「安全」の市場”になったと分析した。
成功パターンが確立しつつあるものの,市場規模自体は頭打ちとなっており,規模拡大よりも効率性,そして“合理的投資”が求められるようになりつつあるという。
市場規模がそうそう拡大しない中で利益を最大のものとするためには,ゲームをコンスタントに多く出し,手堅くヒットを狙っていくこと,出したゲームのヒット規模に合わせたリソース采配=“合理的投資”が必要になると上原氏は語った。
具体的に説明すると,大ヒットとなった作品は,もちろんそのまま運営して利益を創出。中ヒットなら,“ゲームサービス”に運営を任せ,スタッフ達には新作に取り組んでもらう。そして,残念ながらヒットしなかったものは損切りするということだ。
なぜこのように対応を分けるかというと,運営を続けるには人とお金が必要になるため。クリエイターの労力を運営という形で中ヒットの作品に使い続けるより,この経験を活かして次回作を作ってもらった方が効率は良いというわけだ。
マイネットは,メーカーからタイトルの権利を買い取り,リビルドした上で運営を行っているが,その中ではゲームのエンディングを提供することも行っていくという。運営型のゲームにおいて,サービス終了は避けられないもの。これを悲しい出来事と捉えるのではなく,プレイヤーと,最初に開発したクリエイターの双方が納得できるエンディングを提供していくことも“ゲームサービス業”ならではの付加価値であるという。
上原氏は,“ゲームサービス業”をゲーム産業のインフラとして発展させていき,プレイヤーやクリエイターなど,皆がハッピーになれる状態を作っていきたいと語り,基調講演を締めくくった。
続いては,上原氏にかわり,マイネットの執行役員 ゼネラルプロデューサーである西久保宣紀氏が登壇。ゲームサービスレーベル「PARADE」の発表と説明を行った。
といっても,同社の事業内容が変化するわけではない。メーカーからタイトルを買い取り,運営を行うという同社のサービスにPARADEというブランド名を付けたということだ。続々と笑顔の人が参加していくお祭りのパレードをイメージし,“長く,ワクワクする空間を提供する”という意図が込められているという。
PARADEでは,オンラインゲームの財産であるコミュニティの維持・発展を使命とし,収益性向上のためのリビルドや,独自のデータ分析によるデータドリブンな運営,相互送客ネットワーク「CroPro」によるローコストの集客,人気キャラを他タイトルへコラボするといった取り組みが行われていくという。
講演の最後では,再び上原氏が登壇し,「コミュニティをいかに守るかを使命とし“ゲームサービス”を続けていきたい」と挨拶して締めくくった。
スマートフォンゲーム業界のトップによるパネルディスカッション
続いては,gumi代表取締役副社長 COOの川本寛之氏,スクウェア・エニックス第8-12ビジネス・ディビジョン担当執行役員の渡辺泰仁氏,セガゲームス セガネットワークス カンパニーCOOの岩城 農氏が登場。上原氏をモデレーターとして「スマホゲーム業界の今後を読む」と題したパネルディスカッションがスタートした。
まずテーマとなったのが,「16年上半期の各社の戦略・成果の振り返り」だ。
川本氏は,ネイティブシフトを早く進め,さらに海外へ展開してきたものの,かなり厳しい時期が続いていたと語った。しかし,現在はこうした時期に開発を続けて来た作品が次々と当たり,ヒット率が上がっているという。開発では大幅な作り直しも必要となり,一時は赤字になったものの,こうしたクリエイティビティを許容したことが現在のヒットにつながったのではないかと語った。
渡辺氏が16年上半期に注目したのは「グリムノーツ」(iOS / Android)。「思いつく限りのことを全てやった」というマーケティングがヒットにつながったと分析した。ヒット作のチームは精度の高いもの作りができるようになってきているが,こうした作品の良さとゲーム内の盛り上がりを,外へとどう伝えていくかもテーマであると考えているという。
岩城氏は,現在のスマートフォンゲーム市場が成熟・細分化していると考えているそうだ。そんな中,氏が所属するセガネットワークス カンパニーでは海外進出を積極的に行っているのだが,敢えて海外を意識した作品作りはせず,プランナーが想像できる顧客(日本人プレイヤー)を意識して面白いゲームを作ることを奨励しているという。こうして作られた作品をいかに多くの人へ届けるかは,開発ではなくビジネス側の仕事である,という意識で仕事を進めているとのこと。
続いてのテーマは「今後一年の市場見通しと,その中での戦い方」。
川本氏は,成熟した市場ではメガヒットが生まれることは少ないとし,シェアの奪い合いが続く中,かけたコストを確実に回収することが大事であると考え,“選択と集中”を行っていると語った。
これまでは他社タイトルを海外展開するパブリッシング事業も行っていたが,ローカライズやアップデート,運営などの手間を考え,今後の海外展開は自社開発のタイトルに限ったものにしていくとのこと。
渡辺氏によると,スクウェア・エニックスでは各ディビジョンがそれぞれの知見と戦略を持っているという伝統があるという。そうした環境からは多くのヒットが出る一方,ヒットに至らなかったものも多いとのこと。ヒットの精度を上げるため,今後は各ディビジョンの戦略を整理・検証していくという。
岩城氏は,開発陣の能力を生かすことが良いもの作りにつながる,という考えのもとでしっかりと開発をしていく一方,ゲームの売り方や届け方などでチャレンジをしていきたいと語った。中でも注目しているのが新興国市場で,高品質な日本のコンテンツを届けるというテーマを追求していくとのこと。
そして,「ここから一年の事業抱負」には「今まで開発してきたゲームを世に出し,ヒット作の利益最大化をしつつ,海外展開も行いたい。VR事業への種まきもしっかりと行っていきたい」(川本氏)「チームごとの知見を共有することにより,事業全体で高みに登ることができればと思っている」(渡辺氏)「世界観の伝え方,コンテンツのパッケージングの仕方など,お客様に面白がってもらえるチャレンジをしたい」(岩城氏)と,それぞれに抱負が語られた。
最後に聴衆から「スマートフォンゲーム市場で合従連衡が起こるのか?」という質問が投げかけられた。
川本氏は,おそらく一定の合併は起こるものの,これまでにもgumiが国内外のスタジオやチームを子会社化してきた事例から考えると,投資対効果はあまり高くないのではないかと考えているという。合従連衡の目的は開発力強化と収益力アップだが,開発力に関しては人材が辞めるというリスクが存在する。収益はいつか下がっていくものだが,合併時の買値はこれを上回るものになり,バランスが取れない事例があるとのことだ。
岩城氏は,合従連衡の際にスタジオごとの独自色を保てるかが重要であると考えているという。ゲームは人が作るものなので,合併したからといって上意下達するのではなく,互いのことを考えた“くっつき方”ができればいいのではないかと語った。
- この記事のURL: