インタビュー
なぜ今,人狼がブームなのか――人狼ゲームの魅力に迫る集中連載「特集:人狼」。第2回はキーマン達に聞く,流行のきっかけと広がりの理由
人狼は危険なゲーム?
4Gamer:
お客さんにアドバイスすることもあるとのお話ですが,ドイツゲームスペースでは,そういった戦術面での相談に乗るようなこともあるのですか?
児玉氏:
ええ。戦術的というか,楽しみ方のアドバイスをすることはあります。先日は常連の方から,「論破することに集中しちゃう人がいて空気が悪くなっちゃうんですけど,どうすればいいか」みたいな相談があって(笑)。これは永遠の課題ですね。
4Gamer:
そのときは,なんと答えたんでしょうか。
児玉氏:
あなたが主催者なら,「その言い方はみんなの空気が悪くなるのでやめてください」って言えばいいって答えました。ときどき熱くなってしまう人も中にはいて,そういう人をいさめるのも,主催者の努めだと思うんです。ベテランがディベートのテクニックで初心者を黙らせてしまったら,その人は人狼ゲームが嫌いになってしまうかもしれないわけですし。
4Gamer:
人狼ゲームに限らず,対戦形式のゲームに共通する課題ですね。ただ,人狼ゲームの場合は,議論がベースになっていることと,チーム戦であることで,その傾向が顕著になりやすいのかもしれない。
児玉氏:
そういう意味では,ちょっと危険な側面を持っているゲームではありますね。だからこそ,僕は上級者にこそ良いプレイヤーになって,まわりを楽しませるプレイをしてほしいと思っているんです。だから,常連さんには「昼に処刑されるのは,絶対に自分に責任があると思ってね」って良く言ってるんですけど……。
4Gamer:
もう少し詳しくお願いします。
児玉氏:
初心者に怖がられた結果処刑されたなら,それは自分のせい。上級者同士で疑われて処刑されたなら,もちろんそれは自分の説得力が足りなかったせい。「初心者は分かってないから俺に投票するんだ。こんなやつらとやりたくない!」って言い出しちゃうと,人狼ゲームは途端につまらなくなりますし,良いプレイヤーにはなれません。人のせいにするのは,すごく楽ですからね。
奥井氏:
おお。ドイツゲームスペースで,こんなに熱心な人狼教育が行われていたとは(笑)。
児玉氏:
勝っても負けても面白い人って,いるじゃないですか。負けてもカラっとしてたり,すごく悔しがるけどそれが嫌味じゃない人とか。そういう人がいると周りには,どんどん人が集まってくるわけです。ドイツゲームスペースに来る人達には,ぜひそういうプレイヤーを目指してほしいんです。
奥井氏:
ときどき見かける「戦犯」って言葉なんか,なかなかドキドキする言い回しですよね。笑って流せる友達関係ならいいけども,責任を追求しはじめると,ゲームではなくなってしまう可能性がある。それが怖くて,もうやりたくないって思ってしまう人も,少なからずいるみたいです。
4Gamer:
もちろんゲームなんだから,苦手な人が無理にプレイする必要はないんですけど。でも,最初でつまずいてしまったんだとしたら,確かにちょっともったいないかもしれない。
奥井氏:
「ワンナイト人狼」は,そういう人にこそプレイしてもらいたいんですよ。本家の人狼ゲームが重すぎると感じた人にも,これなら楽しめるって言ってもらえたことがあって,それがうれしいんですね。逆に「もの足りない,もっと推理したい」と感じる人も,もちろんいるわけですけど。
渡辺氏:
あくまロジカルな推理ゲームとして人狼を遊びたい人――とくにネット人狼出身のプレイヤーには,そう感じる方も多いかもしれませんね。論理ゲームとしてみると,確かに「ワンナイト人狼」は極端にヒントが少ない。でもフィジカルな人間観察もゲームの一要素として考えると,十分な情報量をもったゲームなんですよ。
■(コラム)カジュアルな人狼と,ガチな人狼
対談の中でも触れているように,遊ばれ方がさまざまなのが,人狼ゲームの大きな魅力の一つ。というわけで,実際に人狼ゲームが遊ばれている二つの現場にお邪魔して,その実態を取材してみた。
まず最初に訪れたのは,女性誌の編集部で働いているあみんさんが,自宅に友達を招待して定期的に開いているという,比較的カジュアルな人狼会だ。会の発端は,あみんさんがボードゲームイベントで人狼ゲームを知り,もっと遊びたいと思ったからとのこと。アニソンのDJイベントなどの趣味を通じてできた友達が,さらに友達の友達を呼んで……といったつながりで,この日は20人前後の人が集まっていた。
女性達が部屋にぎゅっと集まって輪になり,和気あいあいとした雰囲気で進む人狼ゲーム。慣れている男性陣が,代わる代わるGMを担当してたのが印象的だ。また一戦終わるたびに,男性陣による戦術教室も開かれ,それを「なるほど〜」と感心しながら聞いている女性陣の姿は,ちょっと教室っぽくもある
男女比は2:1で女性が多く,今日が初めてという人狼初心者もいたのだが,あみんさんがお手製の役職説明書きを配ってフォロー。最初は少ない役職からスタートして,徐々に役職を増やしていくという感じで,チュートリアルを兼ねつつゲームが進行していく。
途中で脱落した人は,皆が持ち寄ったお菓子をつまみながら,ゲームと関係ないおしゃべりに興じたりしており,人狼ゲームはあくまで楽しい時間を共有し,仲良くなるためのツールといった感じ。
2つ目は,カジュアルな人狼とは対極に位置するということで,ドイツゲームスペース@Shibuyaの上級者向けルーム「極上人狼」を見学することに。こちらはこの日は男性7人,女性5人にスタッフ1人が加わっての,13名によるガチンコ対戦だ。
最初はオープンルール(死んだときに役職を公開する)かつ,さらに自分が死んだとき誰か1人を強制的に道連れにする役職が3人という,早回しで進むルールで1回遊んで肩慣らし。2戦目以降はクローズルール(死んだときに役職が公開されない)で,毎回少しずつ新しい役職を入れ替えながら対戦が進んでいく。
自分を占った占い師や,自分を守ったボディガードなどを殺してしまう「スーパー狂人」や,ボディガードと同じ役割だが,狼から村人を守ったら代わりにその狼を殺す「殺し屋」など,新たな役職が次々に入ることで戦略ががらりと変わり,ベテランプレイヤーも毎回新鮮に戦えるのが魅力なようだ。
薄暗く,雰囲気のある照明の中で,緊迫感のある戦いが繰り広げられる。ちなみに「極上人狼」では,夜のターンにテーブルをトントン叩くことは行われず,GMもこっそりレーザーポインターで指し示すだけなので,物音は一切立たない。その静寂が,緊張感をさらに演出する
全体としては非常に議論が活発で,状況とパターンの整理を担当する人が自然に発生し,二人以上が同時にしゃべらないところに,慣れを感じさせる。
占い師や霊媒師が名乗り出るときは,人狼の騙りを抑制するため,この回は「同時に手を挙げる方式」が使われるものの,ほぼ毎回二人以上が手を上げる(つまり誰かが嘘をついてる)ことに至っては,さすがというほかはないだろう。
ドイツゲームスペース@Shibuyaで使われている人狼カード。日々新しい役職が生まれ続けているという。組み合わせによって戦術が大きく変わるほか,全員が上級者であることを前提に議論が進むため,裏の裏をかくような戦略も考慮しなければならない
ブームを過ぎ,次代へ語り継がれていくゲームに
4Gamer:
ではここからは少し切り口を変えて,人狼ゲームの未来について,少しうかがっていければと思います。現在は,ブームといえるほどの盛り上がりとなっている人狼ですが,今後はどうなっていくと思われますか?
渡辺氏:
僕自身は,人狼「ブーム」についてはわりとフラットな気持ちというか,良いことでも悪いことでもないと思っています。すべてのブームには終わりがありますし,今後はだんだん落ち着いていくのではないでしょうか。
ただ,一度流行したものって,その後はむしろ人気も世評も落ちこんでしまうことが多いじゃないですか。なので,これ以上ブームを煽るような役割というのは,今後しばらくドロマイではやらないでおこうかな,と思っています。
4Gamer:
落ち着く,と言うと?
渡辺氏:
「実は俺あの遊び好きなんだ」「前にみんなでよくやったよね」みたいな感じで,人狼ゲームを皆なんとなく,常識として知っている,みたいな状態になるんじゃないでしょうか。もちろんこれはぜんぜん悪いことではなくて,そういった文化的下地があることで,次に生まれてくる新しい遊びだってきっとある。そういう意味では,長い目でゆっくり希望をもっているという感じですね。
真城氏:
私も,人狼ゲームは人間感情にすごく合致したゲームなので,短期的なブームではない,もっと普遍的な遊びとして定着していくことを願っています。それこそみんなでお酒を飲んだ後に「カラオケ行くか,人狼やるか」みたいな。
4Gamer:
ああ,「お正月に親戚が集まったので,じゃあ麻雀でもしようか」というように,人狼ゲームが遊ばれるようになると。
渡辺氏:
人狼ゲームが,麻雀やかるたのような日本の国民的アナログゲームになれるかというと,絶対不可能とまでは言いませんが,ハードルはかなり高いと思います。人狼ゲームとリアル脱出ゲームが,体験型の遊びとして似ているという話がさっきありましたが,あれはまだ,主催者側から“提供される”タイプの娯楽じゃないですか。
4Gamer:
それは確かに。
渡辺氏:
そういった構造の娯楽のほうが,広い層に受け入れられやすいのは確かで。その意味では,リアル脱出ゲームのほうが,国民的メジャーになる条件を備えていると思います。ただ,本や映画,テレビなんかと比べたときのゲームの強みって“受け身でない” “積極的に参加できる”娯楽という点なので,そもそもちょっと矛盾した話なんですけどね。
4Gamer:
人狼ゲームでアナログゲームを知った人達が,ほかのボードゲームに流れていくようなことは考えられませんか。
渡辺氏:
それももちろんあると思いますが,一気呵成にはいかないと思います。何かひとつの娯楽作品にハマった人が,そのジャンルを体系的に深掘りしていくような消費行動って,それなりにマニアックなことじゃないですか。例えば,今日デートで観た映画に感動したからといって,その監督やスタジオや脚本家の名前で関連作品を観ていくような人って,珍しいとまでは言わないですが,多数派ではないでしょう?
奥井氏:
クリエイター気質な人に限られるでしょうね。
渡辺氏:
だからドロマイとしては,人狼ブームからボードゲームブームへ,というダイレクトな流れは,そこまで期待していません。でも,もっと普遍的なところで「ゲームって面白い」「遊びって面白い」という,すごく当たり前の感覚を思い出すきっかけとしては,人狼ゲームはすごくいいと思うんです。
真城氏:
そこを思いだしたら,ぜひ“遊ぶための筋肉”を鍛え直してほしいですよね。大人はとくに,そこを怠けがちですから。
4Gamer:
ドロッセルマイヤーさんのワークショップでもおっしゃってましたが,“遊ぶための筋肉”というのは,いい言葉ですね。アナログゲームだけでなく,デジタルのゲームにも通じる視点だと思います。
渡辺氏:
ええ,デジタルゲームにだって“遊ぶための筋肉”は必要です。とくに日本のコンシューマゲームは,永らくそこを疎かにしてきてしまったように思うんです。同じ遊びをより豪華に繰り返すことに力を集中し,新しい遊びの発明を怠ってきてしまった。
4Gamer:
デジタルゲームにおけるキラーコンテンツは,日本では長らくRPGでしたから。RPGは,どちかといえば受け身の娯楽としての側面が強いように思います。
渡辺氏:
日本におけるRPGの普及には,もちろん功罪の両方があるはずで。
和製RPGの多くは,物語世界やキャラクターの魅力を主軸に作られていますから,まさに本を読むようにプレイできるんです。これはゲームシステムなんて得体の知れないものに比べて,よっぽど多くの人が興味をもてる形式ですし,それ自体数十年前の時点では新しい遊びの発明だったんです。ただその半面,ゲームが本来もっている双方向性というか”受け手もまた遊びの作り手である”という感覚が鈍って,作り手がひたすら受け手の欲望に応え続けるという構造ができてしまった。
児玉氏:
受け手側も作り手側も,筋力がなまっちゃったんですね。
渡辺氏:
そうです。だから僕ら遊びを作る側も,そろそろ鍛えなおさなきゃならないんですよ。
4Gamer:
RPGだって,いわゆる“やり込みプレイ”のような創造的な遊び方はありますし,海外におけるFPSも,一時期はストーリー重視だったこともあるので,一概には言えませんけど。でもおっしゃることはよく分かります。
児玉氏:
僕はゲームを作る側ではないのですが,広め手としての役割ってのも大きいと思っているんです。子供におもちゃを与えるときだって,例えばミニカーをぽいっと目の前に置いておくのと,一緒になって想像力を膨らまして,遊んでみるのとでは大きく違うじゃないですか。
4Gamer:
メンター(助言者)やコミュニティをどうやって作っていくかというのも,確かにこれまで疎かにされていた分野かと。
児玉氏:
受け手や作り手だけじゃなく,広め手にだって筋肉は必要なんです。だからこれを読んでる皆さんには,ぜひ筋肉を鍛えてもらって,広め手としても良いプレイヤーに育ってくれると嬉しいですね(笑)。
奥井氏:
僕も渡辺さんの話を聞いていて思い出したんですが,先日エッセン※に行ったんですよ。そこで外国人を相手に,自分のゲームのプレゼンをするわけなんですが,大抵「人狼でしょ? 何が新しいの?」って言われちゃって。つまり,人狼ゲームなんてもう,あって当たり前の世界なんです。
※ドイツのエッセンで毎年開催されている世界最大級のアナログゲームイベント「Spiel(シュピール)」のこと。ここでは昨年開催された「Spiel '13」を指している。
児玉氏:
エッセンは良いですよねえ。いい年した大人が,そのへんに座り込んでゲームしてるんだ。
奥井氏:
めちゃめちゃきれいな若いお姉さん達や家族連れが,ボードゲームを山のように抱えて歩いてるんですよね(笑)。
児玉氏:
子供からおじいちゃんまで,本当に楽しそうでね。僕自身,ボードゲームにマイナーなイメージが拭えないなかで見た光景だったので,軽くショックを受けました。
渡辺氏:
エッセンを実際に見ちゃうと,ボードゲーマーにとっての理想郷に見えちゃいますよね(笑)。でも,だからといって日本がドイツを追いかけなきゃならないかというと,そんなことはないと思う。日本独自のボードゲーム文化がかなり育ってきていて,例えばここまで爆発的な同人ボードゲームの盛り上がりというのは,日本独特のものなんですよ。
4Gamer:
日本の同人アナログゲームが,海外から注目されているという話は良く聞きますね(関連記事)。「ワンナイト人狼」も,結果として新しいものとして受け入れらたわけですし。
渡辺氏:
日本には,もともと同人誌という巨大なニッチ文化がありますから,インディーズで作品を作って発表する土壌が育っているんです。そこに従来からあったマンガやイラスト,小説,音楽といった表現の選択肢に,新しくボードゲームが加わった。じゃあ俺もゲームを作って見ようかなと,気軽に思える環境が整いつつあるわけです。
4Gamer:
そこが海外にはない,日本のボードゲームの強みだと。人狼ゲームの流行も,その中で育ってきた側面があるということですか。
渡辺氏:
どちらかというと逆で,今の人狼ゲームの流行が,日本のボードゲームの作り手を増やしたのは間違いないです。人狼ゲームは元がシンプルなだけに,アレンジもしやすいゲームですしね。一時期同人ゲーム界隈が人狼関連作品だらけになったのも,元々アナログゲームを作っていたコアな作家層とは別に,人狼をきっかけに「作ろう!」と思った新しい層が参加してくれたからだと思います。
奥井氏:
そう,僕が何を言いたかったかというと,そこなんです(笑)。アナログゲームって,もちろん提供されたときはルールが決まっているんですけど,ローカルルールという形なら,それを変えてしまうことは難しくない。自分で遊びが作れてしまう――川上さん流にいうとルールは超えられるんだってことを,自分の子供の世代に伝えたい。
4Gamer:
まさに,“遊ぶための筋肉”ですね。
奥井氏:
エッセンで誰もが人狼ゲームを知っているように,日本でもいずれそうなると思うんです。それはもちろん良いことではあるんですが,そのときにはもう,人狼ゲームはちっとも新しいものではなくなっているってことじゃないですか。つまり僕らより後の時代――僕等の子供達の時代には,新しい遊びは確実に減っているわけで。そこで工夫することを諦めない,ネットで調べただけで満足しない人間に育ってほしいんです。
児玉氏:
「人狼ブームはいつ終わるのか」って,僕もよく聞かれるんですけど,流行が去って誰も知らないようになるなんてことは,恐らくないと思っています。とてもよくできたシステムのゲームだし,思っているよりずっと奥が深いですから。ただ,その伝え方を間違ってしまうと,悲しいことになりかねない。だからもし可能であるなら,地方にも人狼ルームを作って,コミュニティをもっと広げて行きたいですね。仕事や年齢を問わないコミュニティって,日本ではけっこう希有だと思うので,ドイツゲームスペースがそのきっかけになってくれることを願ってますね。
4Gamer:
では,人狼ゲームをプレイしたことのない人は,ぜひ「ドイツゲームスペース@Shibuya」に体験しに来よう,ということで。お話は尽きない感じですが,残念ながら時間が来てしまいました。本日は皆さん,ありがとうございました!
人狼特集の最終回となる次回は,「論理ゲーム」としての人狼ゲームにフォーカスし,“勝つための人狼”として攻略記事をお届けする予定だ。初心者が覚えておくべきセオリーから,ネット人狼とリアル人狼の戦略の違いなどにも触れていく予定なので,もっと勝てるようになりたい! と思っている人は,ぜひ楽しみにしていてほしい。
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