インタビュー
クロアチアで開催されるゲーム開発者向け技術カンファレンス,「Reboot Develop」とは?
このReboot Developは,GDCやCEDECよりも規模こそ小さいものの,始まって3年目にして急激に規模を拡大し,今では東欧地域における最も重要な技術カンファレンスとなっている。
東欧・ロシア圏はかねてよりPCゲームの開発が盛んな地域として知られているが,2016年のGDCではGame of the Yearをポーランドのデベロッパ,CD Projekt REDが開発した「The Witcher 3: Wild Hunt」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)が獲得するなど,その存在感を強めている(関連記事)。オンラインゲームにおける巨人の一つとなったWargaming.netもまた,この地域で生まれた企業だ。
その活気を裏付けるかのように,Reboot Develop 2016には多くの著名なゲーム開発者が登壇している(なかでも今年の目玉は,やはり「Doom」のジョン・ロメロ氏だろう)。実のところ世界中でゲーム開発者向けの技術カンファレンスは開催されているのだが,3日間でのべ70セッション以上が開催されるような規模のものとなると,それほど多くはない。
本稿では,一躍世界的なゲーム生産地へと躍り出た東欧における,新興カンファレンスの模様をお伝えしていきたい。
Reboot Develop 2016
Reboot Develop 2016主催者に聞く
Reboot Developを主催しているのは,クロアチアを中心とする旧ユーゴスラビア圏における最も大きなゲームメディアである「Reboot」誌だ。旧ユーゴスラビア圏における「ファミ通」的なポジションといったところか。
ゲームメディアが技術カンファレンスを主催するというのもなかなか異色だが,Reboot Developにはもう一つ顕著な特徴がある。普通,この手のカンファレンスと言えばコンベンションセンターで行われるものだが,Reboot Developはクロアチアのアドリア海沿岸に広がる由緒あるリゾート地で,高級リゾートホテルのカンファレンスセンターを使って開催されているのだ。
このようにユニークなカンファレンスを企画し,また成功させている背景には,何があるのだろうか。Reboot誌のManaging DirectorであるDamir Đurović氏に,Reboot誌やReboot Developの成り立ちから,これからのことなど,いろいろと聞いてみた。
メディアの空白地帯に生まれたReboot誌
4Gamer:
準備でお忙しい中,インタビューの時間をいただきありがとうございます。
さっそくですが,まずReboot誌の成り立ちから教えてください。
Reboot誌を立ち上げたのは4年前のことです。自分はかれこれ20年くらいゲーム・ジャーナリストとして活動してきたのですが,そこで培ったコネクションや知見などを活かして,自分が思う最高のゲームメディアを作りたかったんです。それを現在,旧ユーゴスラビア圏で販売しています。
4Gamer:
旧ユーゴスラビアには四つの言語があることで知られていますが,そのあたりは問題ないのでしょうか?
Đurović氏:
Rebootはクロアチア語で書かれていますが,旧ユーゴ圏ではクロアチア語が一種の共通語となっていたため,クロアチア語で発行するのがベストなんです。
4Gamer:
なるほど。ところで現代において,ゲームメディアを紙媒体で立ち上げるというのは,いささか珍しいように感じます。世界的に見てもゲームの情報はWebで,というのが主流ではないのでしょうか。
Đurović氏:
RebootにもWeb版はあります。が,Web版では基本的にデイリー・ニュースを流しているだけです。
私としては,Webでの記事展開は,どうしても軽いものにならざるを得ない側面があると感じています。端的に言って,長い記事は,それだけ読まれにくい傾向があったりします。
ですが紙媒体ですと,インタビューにしてもレビューにしても,もっと深いところまで踏み込んだコンテンツが提供できますし,読者もそれを高く評価してくれる傾向にあります。
4Gamer:
こんなに大きな技術カンファレンスを開催できるということは,Reboot誌は大きな成功を収めているのだろうと思うのですが,実際のところはいかがでしょうか?
Đurović氏:
ご想像の通り,Reboot誌は大きな成功を収めています。というのも,我々以前に,旧ユーゴ圏にはゲームメディアが存在しなかったんですね。現時点では旧ユーゴ圏での発行だけに留まっていますが,将来的にはより広い地域での販売も考えていますよ。
リラックスした環境でのユニークなカンファレンス
4Gamer:
続いてReboot Developについて聞かせてください。
このようなカンファレンスを開催しようと考えた理由は何でしょうか?
Đurović氏:
理由はさまざまですが,何よりもこの地域にゲーム開発者向けの技術カンファレンスが存在しなかったというのが大きいですね。ヨーロッパ全体でみればGDC Europeがありますが,それでも本家GDCに比べるといささか小規模です。
なので,ここは一つ自分達で技術カンファレンスを立ち上げようと思ったのが,きっかけですね。
4Gamer:
Reboot Developは今年で3年目になりますが,昨年も,一昨年も,アドリア海沿岸のリゾート地で,リゾートホテルを使って開催されています。これは技術カンファレンスとしては珍しいと思うのですが,なぜリゾートホテルを会場にしようと思ったのでしょう?
Đurović氏:
我々はReboot Developを,ただのビジネス・カンファレンスにしたくなかったんです。参加者がリラックスでき,参加することそのものが楽しみになるような,そんなイベントにしたいと思っています。なので,由緒あるリゾート地の,最高のホテルを会場に選んでいます。
実際,参加者がリラックスできることには,重要な意味があります。Reboot DevelopにはB2Bコーナーも用意してありますが,そこでの商談なども,円滑に,かつ前向きに進む傾向があるんです。
もちろん,ほかのカンファレンスとの差別化を図ろうという理由も,あるにはあります(笑)。せっかく新しくカンファレンスを立ち上げるなら,ここでしか得られないユニークな体験が得られるカンファレンスにしたいですし,それをヨーロッパだけでなく世界的にアピールしたいとも思っていますので。
4Gamer:
ざっくりとした数字で構いませんので,参加者についても教えていただけませんか?
Đurović氏:
今年は84人の登壇者が世界中から集まり,ゲームスタジオ300社以上が参加しています。トータルで見ると,800人前後がカンファレンスの参加者ということになりますね。
4Gamer:
Reboot誌では,Reboot Develop以外にも大きなゲーム・イベントを開催しているようですが,そちらについても情報はありますか?
Đurović氏:
もちろん。我々は「Infogamer」というイベントも年末に開催します。これはGamescomのようなゲームショウだと考えてください。昨年は200社が出展し,5000人が来場しました。
Infogamerではただゲームを展示するだけでなく,インディーズゲームの出展や,e-Sportsイベント,あるいはゲーム関連グッズの販売など,多角的なイベントとして運営しています。こちらについても,Gamescomを目指して着実に育てていきたいですね。
この5年で急成長を遂げた東欧のゲーム産業
4Gamer:
Reboot関係の話題からは少しズレるのですが,東欧はいま,世界的なゲームの生産地として,熱い注目を集めています。その一方で,日本からですと,個別の現状はやや見えにくいのです。Đurović氏の目から見て,東欧のゲーム産業は,どのような状況と言えるでしょうか?
Đurović氏:
東欧のゲーム産業は,この5年で急激に成長しました。
例えばクロアチアですと,5年前にはゲーム開発会社は5社しかありませんでした。ですが今では45社に増えています。旧ユーゴ圏全体で見ると,20社だったのが,300社以上に増えているという状況です。まさに活況,と言えるかと思います。
また,東欧地域には,海外の大手デベロッパの下請けとして,高度な技術を提供する会社も多数存在します。というのも,人材の教育レベルが高く,質の良い作品を仕上げる能力を持ちながらも,日本やアメリカと比べて人件費が1/4〜1/3程度だからです。
4Gamer:
日本では現在,モバイルベースのカジュアルなゲームが強いですが,こちらではどのような状況でしょうか?
Đurović氏:
実に多彩,と言うしかないですね。コアゲームを作る会社もあれば,カジュアルゲームを作る会社もあります。
ただクロアチアに関していうと,面白いのは,制作会社がインディーズ的な立場を堅持することにあります。クロアチアから生まれて,世界的なヒットへと至ったゲームやサービスはいくつもあるのですが,彼らはそういった成功を収めても,小規模開発にこだわり続けています。
要は,作りたいものを作る,という意識が非常に高いんですね。
4Gamer:
ユーゴスラビア地域の人口は約2000万人と,東京都一つぶんくらいの市場になっていますが,クロアチアのデベロッパはやはり最初から世界市場を見込んでゲームを作っているのでしょうか?
Đurović氏:
そうですね。ですから,ゲームにしてもサービスにしても,最初から英語でリリースするのが一般的です。その後,うまく軌道にのればドイツ語版やフランス語版を作っていく,という感じでしょうか。
クロアチアでは,もちろんクロアチア語が母語ですが,ほぼすべてのクロアチア人が英語をある程度話せますし,読めます。ですから英語でゲームをリリースしても,クロアチアの市場がちゃんとキープできるというのは,非常に大きな強みですね。
4Gamer:
ああ,それは「英語なので星1」評価が横行する日本から見ると,非常に羨ましいですね……。
Đurović氏:
まったくです(苦笑)。
ともあれ,今はとても面白い時代になったと思います。
かつて,個人が事業を立ち上げるとか,国が産業を奨励するとなると,それは完全にハードウェアの問題でした。工場を建て,資源を確保し,製品を輸送しと,非常に「重い」インフラが不可欠だったんですよね。
ですが今は,PCと電力,インターネット回線,そして頭脳があれば,世界中どこにいても,新しい産業やムーブメントを起こせます。どこが成功するか分からないし,どこからでも新しい成功者が生まれてくる。大変にエキサイティングな時代ですね。
4Gamer:
同感です。では最後になりますが,4Gamer読者と日本のゲーム開発者に向けてメッセージを頂けますでしょうか。
私は日本がとても好きで,東京ゲームショウにも何度か足を運んでいます。日本のゲームが好きだし,日本の文化も大好きです。
ですから日本の皆様には,日本のすごいゲームを,もっと世界に発表していってほしいと思っています。また,大きなゲーム開発会社の作品だけでなく――もちろん私は大手デベロッパが制作した大作も好きですが――小さな会社や,あるいは個人制作の,オリジナリティにあふれた作品,新しい視点をもたらしてくれる作品に,大いに期待しています。
また,今年はReboot Developに日本から3人の登壇者を招待していますが,今後はもっと多くの登壇者をお迎えしたいと思っています。ぜひ,日本のゲーム産業が持つ優れた知見や経験を,この場でお話しいただけたらと思っています。
4Gamer:
お忙しい中,ありがとうございました。
Reboot Develop 2016
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