連載
レトロンバーガー Order 4:チップチューンという格闘技を知っているか。「西武ロードリスト蘭のチップチューン地獄」で猫耳8bit女子高生が襲来編
レトロゲーム新時代を駆け抜けるシャカリキ連載企画「レトロンバーガー」。第4回は2018年11月にProgressive GamesからDLsite.comおよびBoothでリリースされた同人ゲーム「西武ロードリスト蘭のチップチューン地獄」を紹介します。
先週発表された「パンツァードラグーン」のリメイクなど“最新プラットフォームでの旧作展開”はいろいろありますが,実は“旧プラットフォームでの新作展開”を行っているインディーズの開発者もけっこうな数が存在します。本作もその1つで,ゲーム本編のデータ形式はnesファイル,つまりファミリーコンピュータ/Nintendo Entertainment System用ROMをイメージ化したものと同様の形式なので,ファミリーコンピュータアーキテクチャの環境でブートする必要があります(制作のProgressive GamesはNESエミュレータを推奨)。販売されているデータには,ゲーム本編のほかマニュアルのpdf,mp3形式のサウンドトラック,一部楽曲の演奏データ(mml形式
ゲーム内容は,アキハバラ高校に通う女子高生チップチューナー・西武ロードリスト蘭の戦いを描くビジュアルノベル。シナリオは同人らしいノリの軽さと多彩なパロディで“味付け濃いめ”なものの,ゲーム自体はシンプルなので,購入にあたっては「短編ビジュアルノベル付きのチップチューン系オリジナルアルバム」と認識したほうがいいかもしれません。ちなみにアルバムとして見ると,コリッコリに作り込まれたチップチューンミュージックが13曲,さらにボーナストラックが3つあり,そのうち2つはプログレアレンジ版と,けっこうなボリュームです。
主人公の西武ロードリスト蘭。3歳でメガデモ(※)を作り,1秒16連射でゲー△ボーイ(架空のゲーム機)に演奏データを打ち込む「マシンガンMML」が得意技という,筋金入りのチップチューナー |
蘭に弟子入りする長谷川ひまわり。爆死したり16連射でスイカを割ったりする |
企画やシナリオ,サウンドなどを手がけたのは,ゲームサウンドクリエイターとしても活躍するYS氏。イラストはハヤカワ文庫JA「裏世界ピクニック」のカバーアートなどを手がけているshirakaba氏が担当しており,同氏はゲーム終盤の戦闘曲も作曲しています。今回,せっかくなのでYS氏にインタビューしてみました。
4Gamer:
というわけで,よろしくお願いします。まず,本作がフィーチャーしている“チップチューン”について,詳しくない読者もいるかと思いますので説明をお願いします。
YS:
よろしくお願いします。世間で言われるチップチューンを簡単に説明するのは難しいですが,本作では「ゲーム音楽と打撃,投げ,関節技を組み合わせた総合格闘技」としています。
4Gamer:
サラッと言われましたが,PCエンジンを触ってみたいという人にPCエンジンパック付きのレーザーアクティブを送りつけることくらいにブッ飛んでますね。そういった部分も含め,本作は8bit同人ゲームの中でもユニークなタイトルだと思いますが,企画の発端はどのようなところだったのでしょうか。
YS:
もともとはCDの企画で,2013年にアルバム「Chiptune Hell」をリリースしています。このリリース後にチップチューンをテーマにした小説を書く機会と、実機でゲームを作る機会がありまして,そこで曲と絵,シナリオ,プログラムのノウハウと,JIS 第一・第二水準をカバーした日本語ビットマップフォント(k8x12)などのリソースがそろったので,「組み合わせればノベルゲームが作れるな」と思い至りました。このIPを育てて別ジャンルのゲーム制作や,ショートアニメなどのメディアミックスができればと考えています。
「Chiptune Hell」ダウンロードページ
4Gamer:
8bit同人ゲームは実機用ROMの制作を目指す人が多い印象ですが,なぜ本作はデータ専売となったのでしょう。
YS:
プログラム担当の門真なむ氏は,コロンバスサークルから発売された「8BIT MUSIC POWER」で実機用ROMカートリッジの制作に関わった経験がありました。そこでいろいろ苦労したという話を聞いていたので、今回はデータ専売で気楽に作ろうと最初から決めていました。ROMカートリッジで出してほしいという意見は国内外から届いているのですが、現状その予定はありません。
4Gamer:
チップチューンの音楽シーンでは実機派かDAW(Digital Audio Workstation)用プラグイン派か,出力音声は素の発音かエフェクタを通すかなど,いろいろな流派があるようですが, どう思われますか。
YS:
「かっこよければ何でもあり」だと思っています。ゲーム内でも同じスタンスです。
4Gamer:
本作の登場キャラクターはそれぞれ異なる音源を使っている設定ですが,どのように選ばれたのでしょうか。
YS:
絵的に面白いものを選んでいます。主人公と対峙するのに発音数などが丁度良さそうなスペックを考慮してはいますが,重視しているのはどちらかと言えば見た目のインパクトです。
4Gamer:
主人公の西武ロードリスト蘭(SAVE,LOAD,LIST,RUN)という名前は,工学社刊行の「I/O」寄りなマイコン系の雰囲気がありますね。
YS:
その辺りの雑誌を読みながら考えた名前だったと思います。
4Gamer:
ゲームをプレイしていると,指をへし折られたり燃えカスにされたりして頻繁にゲームオーバーとなりましたが,何か元ネタがあるのでしょうか。
YS:
ビクター音楽産業(当時)刊行のPCエンジンCD-ROM2用ディスクマガジン「ウルトラボックス」第6号に収録されていた,衛藤ヒロユキ氏による「フラグの国のアリス」のシュールな世界観が好きで,あの時代のテイストを踏襲したアドベンチャーゲームを目指しました。ほかにも,ファミリーコンピュータ用ソフト「美味しんぼ 究極のメニュー三本勝負」の理不尽な選択肢とゲームオーバーも参考にしています。
4Gamer:
なるほど,アンキモアンキモアンキモと……。ところで主人公をはじめとする女性キャラクターは,猫耳付きヘッドフォン(一部犬耳)を装着していますが,このデザインを考案されたのはどなたですか。
YS:
キャラクターデザインのshirakaba氏が考えてくれました。作画の参考用にヘッドフォンの写真を送ったところ,返ってきたラフイラストに猫耳がついていまして,面白いのでそのまま採用して今に至ります。
蘭とひまわりを挑発して第15回天下一チップチューングランプリに誘う,ネ〇ジオポケット(架空のゲーム機)と喧嘩芸骨法を組み合わせたまったく新しい“ネ〇ジオ神拳”の使い手・新塩 百 |
ワンダース▽ン(架空のゲーム機)と擒拿術を組み合わせた“ワンダース▽ン水鳥拳”の使い手・山本十六や,中国製のレトロゲーム互換機を念力で操るイェンイェンなど,奇人変人……もとい強敵難敵が登場する |
4Gamer:
一部キャラクターボイスとして新谷真弓さんが参加されていますが,どういった経緯で起用されたのでしょう。
YS:
主人公は,新谷さんのようなハスキーな声で気だるそうに喋るイメージがあって,そういう演技ができる人を探したのですが見つからず,ダメモトで新谷さん本人にお願いしたところ,快諾していただけました。「彼氏彼女の事情」というアニメで新谷さんが演じた性格に難のある美少女(芝姫つばさ)が好きで,いつかこういう魅力的なキャラクターを自分の作品でも出したいと思っていました。
4Gamer:
いいですよね,アニメ版カレカノ。個人的には,新谷さんでガイナックスといえば「フリクリ」のハル子さんが印象的だったりもします。
YS:
フリクリにも多大な影響を受けています。もし,このゲームのアニメ化が実現したら,フリクリみたいな激しいアクションシーンを見てみたいです。
4Gamer:
チップチューンミュージックをBGMにした格闘アニメというのも斬新ですね……。今後の展開も期待しています。
といったようなノリで,傾向としては全力で「マニア向け」な本作ですが,逆に言えばチップチューンを好んだりするマニアにはグッサリ突き刺さる内容だったり,マニアな世界に踏み込んでみたい人にはオススメしてみたいタイトルだったりします。ちなみにDLsite.comでは半額セールが実施中です。
あ,現実のチップチューンは格闘技ではない,ステキな音楽の1ジャンルです。マニアックではあります。
Progressive Games 公式サイト
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