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ルール作りのキモは「メッセージ」。アナログゲーム開発のポイントが解説された「ゲーミファイ・ネットワーク 第4回勉強会」をレポート
このセミナーでは,ゲーミフィ・ジャパン 枢機卿 石神康秀氏が,企業研修などで活用されるアナログゲームを開発するうえでのポイントを紹介するセッションを行った。
石神氏は,「アナログゲーム編集者」として,カードゲームやボードゲームなどを作りたい人をサポートしている。具体的な仕事の内容は企画立案,構成やデザインの検討支援,印刷データや説明書の作成支援,販売やイベント企画の支援など,アナログゲームの企画から販売にいたるほとんどの工程におよぶ。
その中でもメインとなるのは,作者が作りたいゲームについて,それがきちんと受け手に伝わるように「説明可能にすること」,すなわち「作者のアイデア整理」だという。
そんな石神氏が携わってきたアナログゲームは90タイトル以上。その中で自身が作者として作ったのは14タイトルとのことである。
4Gamer読者には,ここ数年,テレビ番組などの一般メディアでアナログゲームが取り上げられる機会が増えたと感じる人もいるだろう。実際,アナログゲームの活用分野は拡大しており,企業内のコミュニケーションや,発達障害・視覚障害の人とのコミュニケーション,地方創生・地域活動のPR,防災・環境問題への啓蒙などで使われるようになっている。
そんな中で,石神氏は「正確なデータはないが」と前置きしつつ,アナログゲームを作りたい人も増加していることを指摘。例えば,アナログゲームイベント「ゲームマーケット」で発表される新作タイトルは,年間1000タイトルを超えているという。
また石神氏自身にも,個人や企業,NPO団体,学習塾などから,アナログゲーム制作に関する問い合わせが増えているそうだ。
しかし,そうはいっても“ゲーム”といえば,現在主流なのはどう考えてもデジタルゲームである。なぜ今,アナログゲームに注目する人が増えているのだろうか。
石神氏はアナログゲームが持つ特徴として,「(デジタルゲームよりも近い距離で)人と人が対面して行う」「紙だけでもゲームを構成できる,子どもにも作れる手軽さ」「プレイヤーのアクションや,ルールとしての表現の自由度」を挙げた。
とくに最後の「アクションや表現の自由度」については,トランプの七並べで重要なカードを出さずに流れを止めたり,その止めているプレイヤーをプレイヤー同士で「誰だ?」「お前だろ!」と表情を見ながら探り合ったりするような遊びや,さまざまななローカルルールの存在する大富豪が事例として示された。
そうしたアナログゲームの特徴を,石神氏は「デジタルゲームよりも,遊ぶ人の人間性が出やすい」とまとめ,だからこそ今の社会で注目されているとした。
また石神氏によると,アナログゲームが企業研修に採用されるのは,従来の研修の短所を補う側面があるからとのこと。
例えば座学形式の研修には,「伝わらない」「刺さらない」「行動が変わらない」という短所があり,研修後のアンケートに「ためになりました」と回答した受講者が,翌日には研修前と何ら変わりない行動を取ることも珍しくないそうだ。
一方,体験学習や反転学習,アクティブラーニングを採用した研修は,受講者が能動的に学ぶので効果が大きくなりやすいが,すべての受講者に同じ水準の学習効果を与えるためには,講師に一定以上の力量が求められるといった短所もある。
そこで,あらかじめルールが定められており,受講者全員に同じ体験を与えられるアナログゲームが,導入しやすい研修教材として注目されたわけである。
会場では,研修に採用されているアナログゲームの例として,発想力とチームビルディングが求められる「マシュマロチャレンジ」や,ビジネスシミュレーション系の「ザ・商社」「マネジメントゲーム」,災害対策の「クロスロード」「HUG」,そして各種のシリアスゲームなどの名前が挙がった。
石神氏は以上をまとめて,ゲーミファイ・ジャパンの勧める「アナログゲームを研修で使う3つの意義」を紹介。
1つは,「チームや組織の人間性や考え方を分かりあえる」というもの。例えば同じチームのスタッフが,リアルで何かズルいことをしていると知ったら,「アイツは悪い奴だ」と思うだろう。しかし,先にゲームプレイを通じてそのスタッフの人間性を理解していれば「ああ,あいつはそういうヤツだ」と容認することができ,「お前,そういうところがよくないんだぞ」と指摘することも可能になるというのが,石神氏の見解だ(もちろん,ズルの程度にもよるが)。
2つめは,「ゲームに取り組むため,参加者の“自分で考える”ことが学びにつながる」。これは文字どおりで,能動的にゲームに参加し,勝利や成功のために考えることが刺激となり,受講者は学習していく。
3つめは,「リアルには簡単にできない成功・失敗の体験ができる」。これも文字どおりで,ゲーム上で「これをやったら死んでしまう」「こうなったら会社が倒産してしまう」という体験をしておくことで,リアルでは失敗しないように学習できる。逆にゲーム上で成功体験を繰り返すことで,リアルでも成功できるようになることもあるだろう。
セッションの終盤のテーマは,本題である「アナログゲームの作り方」だ。石神氏は,「ゲームを作ること=ルールを作ること」であることを指摘し,とくに自身のようにビジネスとしてやっている場合には,予算の都合もあるので「一定期間内にルールを作ること」が重要であるとした。
また,ゲーム(ルール)を作るうえでは,発想をもとにプロトタイプを作り,テストを繰り返して調整を重ね,完成度を高めていくという開発論がいくつもある。それを実践している作者もたくさんいるが,石神氏は自身の関わるアナログゲーム開発において,そうした手法は使わないという。
その理由は「何が正解か分からないから」「センスに頼ることになるから」とのことで,石神氏は「テストを重ねる開発論に基づいてゲームを作り,成功した作者にはそもそもセンスがある」と指摘した。
それでは石神氏はどうやってアナログゲームを開発しているかというと,「正解を先に決める」とのこと。そうすると途中で迷うことがなく,テストも確認するだけで済むのである。
具体的には,まず「何のゲームを作りたいか」を考える。次に,それを「メッセージ」として整理し,ひたすら深掘りしていく。そうやって本質を見極め,本当に伝えたいことを細かく分析し整理できれば,ゲームは自ずとできあがるというのが,石神氏の持論だ。
実際,石神氏はアナログゲーム編集者として作者と向かい合うとき,ひたすら「何を伝えたいのか」についてヒアリングし,整理していくそうだ。
そうやって整理されたメッセージは,ゲームという「有限の処理の可能性」の中から,必要なルールを選択させる。例えばほとんどのカードゲームでは,「もらったカードを使う」ことになるので,そのカードを場に出すのか,手元に留めるのかといったようにプレイヤーの行動は限定される。
またカードに書き込める情報も物理的に制限があるので,何を伝えるかは消去法で決まり,伝えたい内容だけを伝えられるようになる。
石神氏は,整理したメッセージは,そのようにゲーム化することによって,より深く強い主張として伝わり,ゲームを体験した人の感情や行動変容を生むとした。
さらに,そうやってメッセージ主導で作られたゲームは,作者自身の考える世界観や,伝えたい思いが十分に整理されてから作られているので,無駄がない。そのため,テストプレイは確認だけで済むことが多いのだという。結果として,「ビジネスとして,一定期間内に作る」という部分にも合致するというわけだ。
石神氏は,ゲーム開発においてゲームの作り方の次に重要な存在として,自身のような「編集者」を挙げた。作者が伝えたいメッセージは,作者自身で整理することが難しく,「他者に聞いてもらう」という過程が必要となるからだ。
その一方で編集者側には,作者のメッセージを理解するために本気で聞き,質問する姿勢が必要とのこと。また,作者に寄り添いはするが,絶対に共感はしないという姿勢も必要だという。これは,共感してしまうと作者のメッセージを他者として伝えることができなくなってしまうからだそうだ。
最後に石神氏は,「作者のメッセージを論理として整理すれば,ゲームは論理で構成されているものなので,そのままルールになります」とまとめ,セッションを締めくくった。
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