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国内スマホゲーム隆盛の立役者・岡本吉起氏と森下一喜氏が,業界やゲーム開発のこだわりを語った「黒川塾 六十九」をレポート
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印刷2019/06/01 14:56

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国内スマホゲーム隆盛の立役者・岡本吉起氏と森下一喜氏が,業界やゲーム開発のこだわりを語った「黒川塾 六十九」をレポート

 トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾 六十九(69)」が,2019年5月31日に東京都内で開催された。このイベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が,ゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものである。

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黒川文雄氏
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 今回のテーマは,「『ここだけの話やで…』SNS投稿禁止Night」。登壇したのは,「ストリートファイターII」や「バイオハザード」などを世に送り出し,「モンスターストライク」の開発にも参加した岡本吉起氏と,「ラグナロクオンライン」や「パズル&ドラゴンズ」で知られるガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 CEOの森下一喜氏だ。

岡本吉起氏
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森下一喜氏
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 会場では,ゲームやゲーム業界に関するさまざまな話題が飛び出した。その大半は,“参加費”を支払い,“貴重な時間”を割いてまで会場に足を運んだ聴講者に向けた,まさに“ここだけの話”だったので,本稿では表に出しても差し支えないと思われる話題をいくつかピックアップしてレポートしよう。

 話題の1つは,岡本氏が2018年5月にマレーシアへ移住したことについて。現在,岡本氏は開発会社であるでらゲーの現地支社で40名以上の日本人スタッフとともにゲームを開発しているが,その理由は「スタッフに海外で戦ってほしかったから」とのこと。

 というのも,日本に来てバリバリ活躍している海外のゲームクリエイターは多いが,逆に日本を出て海外で成功しているゲームクリエイターは一握りだからだ。岡本氏は長らく日本のゲームクリエイターに対して「海外で成功してみせろ」と思っていたそうだが,2018年2月頃に「よく考えたらオレ自身が行ってない」と気づき,3月には一緒に仕事をしていたチームのメンバーに「行くよ」と声をかけ,5月にはほぼ全員がマレーシアに移住していたという。

 ある意味トップダウンというか体育会系のノリだが,それは森下氏も同じとのこと。森下氏は開発中のゲームの仕様を突然変更することもあるが,「ガンホーのスタッフは皆真面目なので,耐えてくれる」と語った。
 また,基本的にガンホーが開発するゲームは森下氏が企画に加わっているので,プロジェクトが途中で打ち切られることはほぼないのだが,稀にそうなった場合には素直にスタッフへ頭を下げるという。ただ,企画のストックはたくさんあるので,スタッフは休むことなく次のプロジェクトに関わることとなるそうだ。

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 岡本氏,森下氏,そして黒川氏が長らくゲームに携わってきたこともあり,最近のゲーム業界は行儀がよくなったという話題も。
 岡本氏は,そもそもアーケードゲームの時代は業界という意識がなく,大ヒットしたタイトーの「スペースインベーダー」を各社がコピーしたことから始まり,そのアレンジを重ねていった結果としてメーカーごとのオリジナルが生まれていったと話す。

 その状況は,コンシューマゲームが台頭し,問屋を通して流通するようになると多少緩和されるが,やがてフィーチャーフォン向けのゲームが登場すると,再びコピーが横行するようになった。すなわち,ストーリーやキャラクターこそ違えど,コアとなるシステムは何ら変わらないゲームが市場にあふれかえったのである。
 岡本氏は「真似してもいいという意識があるうちは,業界として成熟できていない。真似をする人達がメーカーを名乗り,市場のトップに立つのは気にくわない」と語った。

 そうしたコピーだらけの市場を再び変えたのが「パズル&ドラゴンズ」であり,以降のスマートフォンゲーム界隈はかなり業界然としてきたと語る岡本氏。その一方で「パズル&ドラゴンズ」のコピーも多少出回ったが,森下氏は「真似されるということは,ある意味魅力があるということ」と話していた。

 話題は,カプコンの名作アーケードゲーム「1942」にも及んだ。このタイトルは,アメリカ軍の戦闘機・P-38ライトニングを操作して日本海軍と戦うシューティングゲームだが,岡本氏によると「日本軍と戦う」という部分に対するクレームが少なからずあったという。
 また,P-38は陸軍機なので空母に離着陸できないという指摘もあるそうだが,岡本氏によると「最初は別の機体だったが,それだと敵機と見分けが付かなくなることがあった」と説明。
 さらにP-38が宙返り(Loop)できる回数が,ゲーム中では“R”の文字で示されているが,これは“L”にすると見栄えが悪いので変更したという経緯があるそうだ。

 クレームつながりでは,森下氏が「ラグナロクオンライン」でのエピソードで,不正を行ったプレイヤーのアカウントを停止すると,クレームを入れてくるプレイヤーも多いとのこと。中には自分が不正をしていないという主張を便箋5枚に書き綴ってきたプレイヤーもいた。

 岡本氏も「ログをチェックすれば,プレイヤーが何をやっていたかすべて分かる。ただ,それを開示してしまうと新たな不正のヒントを与えてしまうので,プレイヤーには絶対見せない」と話していた。

 ガンホーは,その「ラグナロクオンライン」(2002年に国内サービス開始)のヒットにより,急成長を遂げた。その結果森下氏は,「パズル&ドラゴンズ」の開発に着手するまで,社長として経営に専念せざるを得なくなったという。しかし自身に経営の才能がないことに気づき,「会社を作ったのはゲームが作りたかったからではないか」と一念発起して,以降3年間ゲーム開発に専念することを決断したとのこと。

 そこには「3年間,会社の決算が赤字になる」という意味も含まれていたのだが,2年めとなる2012年には「パズル&ドラゴンズ」が大ヒットし,ガンホーは再び大きく成長することとなったのである。

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 ゲーム開発におけるこだわりという話題では,岡本氏が「譲っていい部分と,絶対譲ってはいけない部分を分ける」と話す。
 具体的には,岡本氏は最初にゲームのゴールを決めて,逆算しながらゲームを作っていくとのこと。その中には「こんな社会現象を起こす」ということも含まれているのだとか。
 そして,少々遠回りになっても最初に決めたゴールに向かえるうちは,他者が出してくるアイデアや意見を取り入れたり譲歩したりするが,ゴールに向かわない,または向かえなくなるものはどんなに「面白くなる」とアピールされても絶対に断るという。この譲れない局面を,岡本氏は「関ヶ原」と呼んでいるそうだ。

 森下氏も,最終的にゲームがどのような形になり,どのように遊ばれるかをイメージしてコンセプトデザインを進めるという。加えて,時勢に合わせたテーマを決めるとのこと。
 例えば「パズル&ドラゴンズ」は,「(当時流行していた)ソーシャルゲームを駆逐しよう」というテーマのもと,「カジュアルなアクションゲーム」というコンセプトを掲げた。具体的には,「アクションゲームである以上,上手にコンボを決められるプレイヤーほど高い火力を出せる」と決め,それを開発初期から現在に至るまでずっとポリシーとして貫いているそうだ。
 ただ,長くサービスを続けているうちに,コンセプトがブレてくるプランナーもいるという。コンセプトがブレて迷走が始まってしまうと仕切り直しをするほかないが,森下氏によるとそれを避けるためには少人数で企画をしっかり固めるといいとのことである。

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 会場では,岡本氏と森下氏が聴講者からの質問に応える一幕も。人材採用に関する質問に対して,森下氏は学歴はほぼ考慮しないとし,「あとから,こんないい大学出身なんだと気づく」と回答。またガンホーは表向き新卒採用を行っていないが,「入社したいなら,新卒でも面接する」と話していた。
 また岡本氏も学歴は気にしないそうで,「面接で話してみて,地頭のよさでを採用を決める」とのこと。ただ,希望年収によっては不採用にすることもあるという。

 また,新しいプラットフォームが台頭したときに,ゲームのサービスをどうやって移行・継承するかという質問には,森下氏が「時代の流れの中で,どうやっていくか考える。やり続けないとどうしようもない」とし,「プラットフォームよりも,そのゲームが10年後の小学生に遊ばれているかどうかが重要」と回答。
 つまり,ファミコン時代に1作めがリリースされ,今でも続いている人気シリーズは確かにあるが,その実態はかつての子ども達が大人になっても遊び続けているケースがほとんどで,現役小中学生はバトルロイヤルゲームで遊んでいたりするわけである。森下氏は「どうやって10年後の小学生に『パズル&ドラゴンズ』を遊んでもらうかを,常に考え続けなければならない」と語った。

 一方,岡本氏は「ゲームを残すのは自分の仕事じゃない」「サッカーで言うならミッドフィルダーやディフェンダー,キーパーじゃなくてフォーワードでいさせてほしい」と話していた。

 最後の質問は,eスポーツをどう考えているかというもの。森下氏は,ガンホーでは「ラグナロクオンライン」のPvPチャンピオンシップなど,以前からゲームの大会に取り組んできたとし,「参加者や観戦者が面白ければいいのではないか」との見解を示した。
 岡本氏はeスポーツの台頭は大賛成と表明し,「ネガティブなワードと紐付けられることの多いゲームだが,eスポーツが世間に浸透すれば『ゲームのうまい人は格好いい』『ゲームがうまいと稼げる』というポジティブなステータスができる。僕はそうなるようバックアップしていく」と語った。

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