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eスポーツと数字の話 Round02:ゲームの人気を数字化する難しさと必要性
人気の本質が分からなければ、どの顧客に対して,どうやってアプローチすればいいのかは分かりません。そして「ゲームの人気」を指標化するということは,本質までも計測するということです。
ユーザーがゲームに関心を持ち,何らかの行動を行うことでユーザーとゲームの接点が発生します。ゲームをプレイする,SNSで情報を交換する,動画を視聴する,オフラインのイベントに参加するといった行動です。ユーザーが関心を持った結果として行われる行動を定量的に計測できれば,ゲームの人気を指標化することができます。
言うは易いのですが,実際に計測することはとても難しい。ゲームの動画は多様な配信プラットフォームに投稿されるので,すべての視聴者数をフェアに合算することは困難ですし,配信者の人気なのか,ゲームの人気なのかを区別するのも難しいのです。また,SNSによる拡散状況も余りにもスピードが速すぎてその全てを計測することはできません。
今のところ関心(=人気)の指標化に成功しているゲームマーケティング会社は国内・海外を問わずありません。
ゲームの人気とは
長い間,ゲームの人気を表す指標はパッケージソフトの販売本数でした。ゲームメディアが販売本数を集計してランキングをつくり,それを毎週発表します。例えば「ドラゴンクエスト」新作の販売本数が100万本を突破した,といったニュースが報道されることで,ゲームの人気に関する“世間のなんとなくの認識”が形成されていました。
パッケージソフトの流通が多くを占めていた時代には,販売本数だけが重要だったのですが,オンラインストアが広まるにつれ,ダウンロード数を加算する必要がでてきました。ソフト本体のみならず追加のダウンロードコンテンツや課金アイテムといった商品の重要さも増すこととなり,これらのデータも必要になってきます。
モバイルゲームをはじめとした長期運営を前提としたタイトルではアクティブユーザー数が重要になります。ダウンロード数,ユーザー登録数だけではなく,“実際にプレイしている”ユーザー数が多いタイトルが“本当に人気のある”タイトルなのです。
ゲームを使用した動画も日に日に増えています。人気配信者によるプレイ動画は何万人といったユーザーをひきつけます。ゲーム動画の視聴者数や視聴時間は,ゲームの人気を測るための重要な指標になりつつあります。
販売本数が人気を計るうえで大きな指標となるのは今も間違いないのですが,それだけでゲームの人気を計測する時代は終わろうとしています。ゲームというコンテンツが多様な形で流通し,ユーザーによって再生産・消費される現代では,あらゆるユーザーとゲーム間の接点を指標化し,人気を計測しなければなりません。
ユーザーの関心はすさまじい勢いで変化します。SNSが発達した現代においては,時間単位で関心の矛先が変わり,一夜にして話題の中心となるゲームもあれば,姿を消すゲームもあります。関心の指標は取引所の株価のように,リアルタイムに変動するものになるでしょう。
ゲームユーザーの総関心量の市場占有度が数値化され,ツイッターのトレンドのようなランキングが形成されるのです。そういうデータ分析ダッシュボードがあれば,一日中眺めていても楽しいですよね。
人気の指標の必要性
長々と指標の話をしてきましたが,ゲームがパッケージの販売のみならず,さまざまなコンテンツとして再生産されるなかで,ゲームの人気の指標が使用される機会は増えていくでしょう。例えばeスポーツというコンテンツです。ようやく連載の主題に戻ってきました。
eスポーツの大会を開催するにあたり,成否を決めるのは「採用するゲームの人気」です。タイトルにどれだけの“引き”があるのかを事前に調査する必要があります。
Wikipediaでゲームタイトルのページをみれば,国内とグローバルの販売本数くらいは記載されています。けれど,その数字だけを基準にしてゲームの“引き”を判断してしまっては,まともな大会を開催することはできません。
ゲームに対するユーザーの関心を分析し,大会との相性,配信プラットフォームとの相性といったことも加味しなければなりません。ひとくちにゲームの人気といっても,eスポーツに強いタイトル,ゲーム実況に強いタイトル,バラエティ番組に強いタイトルなど,それぞれに特徴があります。
より良いeスポーツイベントを実施するためには,ユーザーの関心やニーズを調べ,提供するものを選ばなければなりません。「人気の指標」があれば,それを分析することで,何が求められているのかを知ることができるでしょう。
繰り返しになりますが,ゲームの人気を正しく計測する指標は,現状,どんなゲームマーケティング会社からも提供されていません。そのため,ゲームの人気は担当者の経験と勘で測定され,eスポーツをはじめとするコンテンツが制作されているのです。博打に近い状況ですね。怖い怖い……。
筆者はいつかこの「指標の構築」という一大プロジェクトに取り組まなければならないと思っています。販売本数,動画視聴者数,SNSの拡散状況,大会の集客といったデータをかき集め,それにアルゴリズムを適用して……。
ゲームを用いたコンテンツを制作するには,制作に携わるあらゆる人たちをデータ用いて説得していかなければなりません。自分が愛するゲームで大会を開きたい,番組を制作したいといった時に,資金を提供する人を説得するのはデータです。自分が作った指標でこういう熱を持った人たちを支援できれば,ゲーム業界アナリスト冥利に尽きます。
1985年生まれ。ゲーム業界/eスポーツ業界のアナリスト。カドカワ株式会社にて,ゲーム業界のマーケティング分析業務に従事しているとき,総務省より公表されている「eスポーツ産業に関する調査研究報告書」を執筆したことをきっかけに,eスポーツ業界の専門家としてさまざまなレポートを発表。2019年4月よりフリーランスとして活動をはじめ,eスポーツ業界に関する記事執筆,コンサルティング,イベント・コンテンツのプロデュース業務を行っている。
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