企画記事
【夏休みの読みもの企画】ホラーゲームにてゾンビ以外のなにに追いかけられたら面白いか,日本の妖怪の中から考えてみた話
「死体が元気とはどういうことだ」とツッコミたくなる人もいるかもしれないが,[こちら]の企画にもあるように,“ゾンビもの”の日本国内での人気が高まっており,さらにゲームに登場するゾンビ自体も魅力を増してきている。
筆者のように「とどまることを知らないというのは,ゾンビの盛り上がりのことよ」とあらためて感じている人も少なくないはずだ。
来たるべきポストアポカリプスに備えよう! 最新ゾンビの傾向をゲームでチェックしてみた
「カメラを止めるな!」や「ゾンビランドサガ」などのヒットもあって,ゲームでもさらにゾンビの存在感が増しそうな気配。そこで,ここ1年ほどの間に発売されたゾンビ(っぽいキャラ)が登場するタイトルをプレイし,“今どきゾンビ”の傾向を探ってみた。
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ある日,とあるゾンビゲームをプレイしていたときのこと。子どものころからオカルトやミステリー,怪異,そして妖怪が好きな筆者に,「ゾンビは元気だなあ」と思うと同時に「日本の妖怪も負けていられないなあ」という気持ちが湧いてきた。
日本の妖怪がモチーフとなったキャラクターが登場する魅力的なゲームはたくさんあるが,近年のゾンビのインパクトにはかなわない。さらに最近人気の非対称型ホラー対戦ゲームでは,殺人鬼やクリーチャーが勢いを増している。そういった状況からも,「日本の妖怪も,もっとゲームで存在感を増していってくれたら嬉しいなあ」と思ったのだ。
そこで,ゾンビラッシュに負けない“妖怪ラッシュ”や西洋のクリーチャーとは違った形での“追いかけっこ映え”で,ゲームにおける日本の妖怪の存在感を増してくれるものはないか,昼休みにぼんやりと妄想……ではなく研究してみたので,その成果をお届けしよう。
牛鬼(うしおに / ぎゅうき)
さて,ひと言で日本の妖怪と言っても,姿かたちや出現する場所,時代によってさまざまだ。ひとくくりに語るのは難しいが,木の上から「どたっ」っと落ちてきて人を襲う釣瓶落とし(または釣瓶下ろし)や,夜の四つ辻などに現れ,どんどん大きくなって驚かす見越し入道のように,どちらかというと「追いかけてくるもの」というより「待ち構えているもの」というイメージが強いように思う。
夜道に人間のあとをついてくるべとべとさんという妖怪もいるが,これも「ついてこられてなんとなく不気味な気持ちになる」というくらいで,追いかけてきて襲うというものではない。
ゲームだと,コーエーテクモゲームスの「無双OROCHI」シリーズに登場する牛頭人体の同名キャラクターが有名だが(関連記事),ここで紹介するのは,主に近畿や中国地方,四国を中心に伝わる牛や蜘蛛の胴体で描かれる鬼で,海岸や淵といった水辺に現れては人間を襲って食い殺す,“名よりも見るはおそろし”(※1)な妖怪である。
ターゲットにされるとどこまでも追い回わされる。毒を吐きつけられる。影を舐められると病気になって取り殺される。濡女(ぬれおんな)(※2)とともに現れて罠に嵌めてくる……地方によってさまざまな伝承があり,人を助けたという話もあるものの,全体的にはともかくオソロシイ話ばかり。「ゲゲゲの鬼太郎」にも,鬼太郎が自身が退治した牛鬼に取り憑かれてしまうというものがあり,筆者は幼少期にTVアニメでこの話を観て,鬼太郎が牛鬼の姿に変わっていくシーンでぶるぶる震えたことを覚えている。
あの鬼太郎サンですらそんな目に合うわけで,牛鬼ならきっと西洋ゾンビやクリーチャーに負けないインパクトを与えてくれるに違いない。2〜3メートル以上はあるということなので,ワラワラ湧いてくるというより“デカくて凶悪な1体”が追いかけてくるというイメージだが,例えば水辺の妖怪たちが仕掛けてくる“ラッシュ”の中に現れたら,なんとも言えない絶望感を演出してくれるだろう。
※1 平安時代に書かれた随筆「枕草子」の一節より。民間伝承だけではなく,「吾妻鏡」や「太平記」といった有名な書物にも名前が出てくる牛鬼は,枕草子にて“名前以上に見たら恐いもの”の1つとしてその名が記されている
※2 人面蛇身の妖怪。人間に赤子を渡し,それを抱いたところで赤子を手から離れない石に変えて逃げられなくするという牛鬼の“サポート役”として現れることで知られる。これに似た磯女(いそおんな)という妖怪もおり,こちらは甲高い奇声を上げて髪の毛を絡ませ,人の生き血をすすってくる
七人同行(または七人みさき)
次に思い浮かんだのが,水木しげる先生が描いた絵を子供のころに見て恐怖に震えた七人同行だ。四国や中国地方に伝わる,その名にあるとおり7人で現れる集団亡霊で,似たような伝承に七人みさき,七人童子,七人同志などがある。
災害や事故の被害者,平家の落人,跡目騒動で切腹を命ぜられた長宗我部氏の家臣など,非業の死を遂げた者たちの死霊と言われており,そういった背景もあってこの世への怨念が強いのか,行き遭った者は取り殺されてしまう。
なにより恐ろしいのが,1人を取り殺すと7人の内の1人が成仏し,代わりに取り殺された者が死霊の1人となること。つまり全員が成仏して消えるということがなく,絶えず7人組のままその土地を徘徊し続けるのだ。
追いかける側が7人,追われる方は1人で,七人みさき側は全員で足並みを揃えて1人を追いかける。捕まった人は七人みさき側になり,七人みさきから1人は抜けて追いかけられる側になる。それが順繰りでぐるぐる続いて,制限時間内に一番長い時間逃げていた人が勝ち……みたいなシステムが作れたら,ちょっと変わった逃げる側 / 追いかける側の関係性が生まれるのではないかと思う。
基本的に姿が見えず,牛の股下から覗くと見えるとか,耳を動かすことができる人は見えるという話もあるので,これもスキルや特性に落とし込むと,さらなるスリルや戦術性が生まれるかもしれない。
カタキラウワとカタパグピンザ
2種類で同時に襲ってきたら……と想像が膨らんだのが,南国に伝わるカタキラウワとカタパグピンザだ。声に出して読んだときのリズム感も良い。
奄美大島に伝わるカタキラウワは,漢字で「片耳豚」と表記されるとおり片耳の無い豚の姿をした妖怪だ。奄美の島々には両耳がないミンキラウワ(耳無豚)や片目のないムィティチゴロ(片目豚)などの伝承もある。
股の下をくぐられると魂を抜かれる。つまり殺されてしまうと伝えられており,命が助かったとしても性機能不全になるという,それはそれで大変オソロシイ被害を及ぼす妖怪だ。
沖縄や鹿児島の島々で妖怪や悪霊の総称として語られるマジムンの中にも似た妖怪がおり,豚(ウワーグワー・マジムン)のほかにもハイハイで向かってくる人間の赤ちゃん(アカングワー・マジムン),一本足のアヒル(アフィラー・マジムン)などその姿もさまざまである。
不気味な姿の豚や赤ちゃん,アヒルがワラワラ湧いてきて股下を狙って突っ込んでくるというだけで絵的なインパクトも十分ではあるが,さらにここにカタパグピンザが加わったらよりスリリングになるだろう。
カタパグピンザ(片足ピンザ)とは,宮古島にあるガングリユマタ(ガングルユマタ)という四つ角に現れるという,一本脚,もしくは一本の足がかけた3本脚の山羊の姿をした妖怪だ。こちらは股下をくぐられるのではなく,頭上を跨がれたり飛び越えられたりすると命を奪われてしまう。
真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY【悪魔全書】
— 『真・女神転生』シリーズ公式 (@megaten_atlus) July 28, 2017
今回の悪魔は…
?カタキラウワ?
#メガテン #DSJ #悪魔全書
25周年記念パック予約受付中!⇒https://t.co/7MisKBQfVs
2017年10月26日発売! pic.twitter.com/QRJ4W5Zb5x
「真・女神転生デビルサマナー」や「真・女神転生IV」などで,悪魔(仲魔)として登場するカタキラウワ。決してメジャーではない妖怪だと思うが,これを登場させているのはさすが“メガテン”といったところだ
※リンクは,シリーズ公式Twitter(@megaten_atlus)の「真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY」に関するツイート
この2種類が一緒になって襲ってくる妖怪ラッシュは,プレイヤーとして楽しめるのはもちろん“配信映え”するものにもなるのではないかと考えた。
内股,または足をクロスした状態でカタキラウワの股くぐりを防ぎながら,頭上を飛び越えようとするカタパグピンザを交わしたり足を踏みつけてジャンプできないようにしたりしながら戦う。もしくは逃げる……ゾンビモノには「シリアスな状況だけどなんだか笑える」という魅力を持つ作品も多いが,そういったものにも近い要素があるし,なにより実況が盛り上がりそうだ。
問題点としては“真っすぐしか進めない”という話があるところだが,映画やゲームなどで多く取り上げられ続けたことで,走ったり登ったり,飛んだり跳ねたりという進化を遂げた(?)ゾンビのように,フィーチャーされることでゆくゆくは曲がったり立ち止まったりできるようになるのではないだろうか。
河童(カッパ)
かくいう筆者も大好きな妖怪なので,ユーモラスなデザインで描かれた大小さまざまな河童が,近年のゾンビゲームのようにワラワラ湧いて“カッパラッシュ”を仕掛けてくるのを想像するだけでワクワクする。
さてカッパラッシュといっても,実際に河童が大勢で襲ってくることがあるのか気になる人もいるだろう。有名なところだと,その名のとおり9千という数の河童を率いたという九州の九千坊(くせんぼう)や,利根川を中心に関八州の河童を統べていたという雌の河童の禰々子(ねねこ。同じ読みで弥々子とも表記される)という親分河童の話があるように,河童は家族や社会集団で行動する妖怪であるようだ。
大軍勢で人間と戦ったという話はあまり聞かないが,複数人(匹?)で行動し,田畑を荒らしたり家畜にいたずらしたりという話はけっこう多い。そういった意味ではカッパラッシュも不自然なものではないと思うが,しかし筆者はここで「では,河童側に人間を大勢で襲う理由はあるのか」という面が気になってしまった。
河童は,尻子玉を抜いたり水の中に引き込んで人や家畜を死に至らしめることはあるが,前述のとおり河童独自の社会を構築しているため,人間社会と程よい距離感を保っている印象もあって,積極的に人間を襲おうとはしない気がする。実際に,人間に助けられた河童が畑仕事を手伝ってくれたという話は多く,ある種の契約を結んで魚を定期便のように届けてくれたという話もあるのだ。
さまざまな文献をみると,逆に河童の方が人間からひどい目に合わされたという話も多い。有名なものだと,加藤清正が小姓を九千坊(またはその配下)に川に引き込まれて殺されたことに怒って河童討伐に動くという話だ。
この討伐というのが,あまたの高僧を集めその仏力によって河童の領域を封じ,川に毒を流し,そして河童が苦手とする猿の軍団をけしかけるという,「最初にやっちゃったのは河童なのだがそれにしても……」という手段だったのである。結果,九千坊は僧を介して清正に詫びを入れ,配下たちとその地を去ったのだが,ここでもやはり講和による解決を選択したというところで好戦的な妖怪ではないと感じる。
……むむむ,なんだか地味というか,こじんまりとした内容になりそうだがしかし,河童は季節によって山に移り住んで山童(やまわろ,やまわらわ)になるという話もある。この要素を取り入れて,春夏は河童が出る水辺,秋冬は山童が出る山中という具合に異なるマップを用意することでゲーム性は広がるはずだ。
4種の妖怪を通じて“(妄想の)和妖怪ホラーアクション”を語ってみたが,いかがだろうか。自分でも「いかがだろうかって言われても困る」と思わなくもないが,ともあれ日本にはまだまだ紹介しきれないほど個性的な妖怪が存在し,ゲームでの活躍が期待できるものもたくさんいるのだ。
そもそも妖怪とは,説明のつかないもののほか,まつろわぬもの(敵対勢力)や渡来人,自然現象などが背景にあるものが多く,そして神様に近い存在でもある。なので,“畏れ”という意識が大事になるが,こういった思いを込めつつ独創的なアイデアを持ったゲームがたくさん生まれると,ゲーマーとしても妖怪好きとしても嬉しい限りだ。
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