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eスポーツを教育に組み込む意味とは。デジタル世代に向けた教育について語られたセッションをレポート
本稿では,ibMedia CEO兼Epulze COO フランク・シリフカ氏によるセッション「eスポーツと教育」をレポートする。
シリフカ氏は,1997年よりゲーム業界および展示会ビジネスに携わって来た人物だ。2000年よりeスポーツ業界に視野を広げ,2004年には業界初の国際ビジネスカンファレンス となったESCONFを開催。そして2012年にゲーム,eスポーツ,展示会業界専門のコンサルティング会社のibMediaを創設した。
シフリカ氏は,まずeスポーツファンの多くが若者であり,デジタル世代で,また世界中に存在することに言及し,そうした若い世代(ミレニアル世代)が台頭する時代のキーワードは「オンライン」「モバイル」「デジタル」であるとした。
例えばシンガポールは「SmartNation Singapore」を掲げ,国を挙げてデジタル化に取り組んでいる。またモバイル端末を使ったオンラインのキャッシュレス決済や,金融機関のデジタル化(FinTech)を推進している国も珍しくない。
一方,ミレニアル世代には特徴があるとシフリカ氏は指摘。まず彼らの中で「インフルエンサー」と呼ばれる人達は,動画配信という新しいフォーマットを用いて,何百万人ものフォロワーを獲得している。つまり,YouTuberやインフルエンサーなどミレニアル世代のスターは,デジタルの世界から誕生していると言える。
そのため企業も,ミレニアル世代の1日にゲームをプレイする時間がテレビ番組の視聴時間に近づきつつあることや,彼らがeスポーツを新しいスポーツだと認識していることなどを理解しなければ,適正なマーケティングができないというわけである。
また「ミレニアル世代にはオフラインはない」とシフリカ氏。これはミレニアル世代に限らず,今や多くの人が朝起きてSNSをチェックし,通勤や仕事の合間に誰かとチャットをし,休憩時間や帰宅後はストリーミングで動画を鑑賞したり,ゲームをプレイしたり……と,常にモバイル端末をオンラインで使っている状況を指した言葉である。
シフリカ氏は,もはや10代前半の若者達はリアルスポーツ選手を目指していないことや,ホリデーキャンプやワークショップといった伝統的な教育プログラムに対する関心を失っていることにも言及。社会のデジタル化や,若者達の興味・関心の変化を踏まえ,教育にもきちんとeスポーツを取り入れる必要があると語った。
それでは,eスポーツをどうやって教育に取り入れるのか。シフリカ氏は今後拡大していくeスポーツ産業には雇用の拡大が見込めるとし,まず人材を教育してトレーナーやコーチに認定するという人事面のサービスを挙げた。また,チームマネジメントやコーチング,イベント運用などを教えるeスポーツのカリキュラムの作成と学校への導入も当然考えられる。
さらにeスポーツがグローバルな存在であることから,そうしたサービスやカリキュラムもグローバルな考え方で展開する必要があると語った。
またシフリカ氏はeスポーツを教育に組み込むことのメリットとして,プレイヤーを筆頭にeスポーツにまつわる優秀な人材を生み出すこと以外にも,直接eスポーツと関係ない市場や企業にも戦略・戦術に長けた人材を送り出せることを挙げていた。
セッションの終盤では,学校教育とeスポーツに関する各国の取り組みも披露された。それによると,シンガポールのある学校では,学生達が大会を開催するために教師や父兄を説得するとき,IT教育やSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics。すなわち科学・技術・工学・数学)教育の一環であると説明したとのこと。また学生達がイベント運用や動画配信,SNSでの情報発信など,さまざまな役割を分担することにより,大会の運営には多くの人が関わることも学べたという。
また英国eスポーツ協会がイギリスのスポーツ機関であるAoC Sportと提携し,大学対抗のeスポーツリーグを開催した事例や,中国の大学でeスポーツのエコシステムにまつわるさまざまな職種について学べる講座が開設された事例も紹介された。
最後にシフリカ氏は,「eスポーツの教育はすでにいろんなレベルで始まっている」とし,「eスポーツ産業の拡大とともに,そうした教育もまた普及し始めている」と,まとめていた。
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