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「eスポーツを活用した地域活性化」とは? NTT東日本とNTTe-Sportsによる基調講演をレポート
このセミナーは,主に地域や自治体の活性化や,教育へのeスポーツ活用に取り組む担当者に向け,eスポーツとはなにか,そしてeスポーツやICTを推進することの意義を伝えるもの。会場ではNTT東日本とNTTe-Sportsによる基調講演,有識者によるパネルディスカッション,実際のeスポーツの様子を伝えるデモンストレーションなどが行われた。本稿では,その基調講演の内容についてお伝えしていこう。
セミナーは,NTT東日本神奈川事業部長の中西裕信氏による「地域活性化に向けたNTT東日本の取り組み」と題した講演から始まった。
氏はまず,NTT東日本がICT(情報通信技術)やIoT(機器やセンサーをインターネットで接続,生産現場などを制御する技術)を用い,少子高齢化による人手不足,遊休施設の活用,地域の企業や産業の効率化などに取り組んできた事例を紹介。コンサルティングやソリューション提供(課題解決)をNTT東日本が取りまとめつつ,各地域で展開するベンチャー企業と協力して事業を進めてきたという。
また,NTTグループが今年開催される東京オリンピックの通信ネットワークや警備システムを提供し,さらに聖火リレーの終着地でのイベントを主催するなど,イベントのインフラ構築や運営に関する能力をアピール。そして1月31日に立ち上げた新会社・NTTe-Sportsとともに,eスポーツイベントの開催や,教育分野などで地域に貢献していくとした。
中西氏は,「我々のグループ会社とビジネスパートナーの商材を組み合わせれば,解決できない事はほぼありません。問題をワンストップで解決すべく動きますので,どんどんご相談ください」と語り,講演を締めくくった。
続いて,NTT東日本営業戦略推進室担当課長であり,先日NTTe-Sportsの副社長に就任した影澤潤一氏による講演「eスポーツとは? eスポーツによる地域活性化について」が行われた。
影澤氏は,自身がこの事業に取り組むことになった理由を「長年格闘ゲームのコミュニティで活動し,大会を運営していたことが会社側に発覚したため」と説明。そしてeスポーツの市場規模のデータや,自身が主催している「Fighter's Crossover -AKIBA-」,先日開催された「EVO Japan 2020」などの例を挙げ,eスポーツの推進が10代から30代の若い世代に強く訴える施策であることを示した。
また,昨年の茨城国体の一環としてeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」が行われたことで,eスポーツの広い世代への認知も高まっていることも付け加える。
そして「C4LAN」に代表されるような,プレイヤー発のコミュニティ活動を支えることで,「参加者全員が主役となるような盛り上がりを生みだす」ことこそが最も重要であり,それは既存のスポーツのイベントとなんら変わらない点であることを訴えた。
続けて,eスポーツ市場の抱える課題として,いまだスポンサー収入やゲームメーカーの広報費に頼る割合が多い「いびつな市場構造」であることを指摘。放映権ビジネスやチケット収入,グッズ収入等をいかに伸ばしていくかが課題だと語った。
こうしてeスポーツに関する「現実」を伝えたうえで,影澤氏は「eスポーツは地域活性化の手段のひとつ」であると定義する。eスポーツはすべての問題を解決する万能薬ではなく,eスポーツを用いて,どのように問題解決に取り組むかがポイントなのだという。
たとえば観光地の知名度をアップし,人を呼ぶのであれば定期的に大会を招くだけでも効果を期待できるだろう。また,すでにアニメやゲーム産業との親和性の高い地域であれば,関連企業の誘致などの相乗効果を生むこともできるはずだ。イベント会場には遊休施設を使用すれば,リソースの有効活用にもなる。
一方,医療や老人福祉,リハビリの一環としてeスポーツを活用したり,世代間の交流を促進するためのコミュニケーションツールとしての使い方も考えられる。ちなみに,どんな社内イベントを行っても若手の参加率が低かった企業が,ことeスポーツに関しては一定の効果を得ることができた例もあるという(これはNTT東日本自身のことでもあるのだろう)。
影澤氏は最後に「eスポーツの浸透や普及はすでに進んでいるできごと。オリンピックへの展望や地域からの期待も大きい」とまとめながらも,「ただ,すべての問題にeスポーツが有効とは限らないので,その場合はNTTグループ全体で取り組ませてください」と,講演を締めくくった。
eスポーツを推進するメリットだけではなく,eスポーツが抱える問題についても率直に伝えていた今回の講演。結局のところ,地域の活性化も,eスポーツの振興も,現在抱える問題を正確にフィードバックして,さらなる取り組みを継続することでしか実現しえないものなのだろう。
NTTやNTTe-Sportsは,そのための強力な手段となるICTとIoTの提供や,イベント開催への協力を行うことはできるものの,主体となるべきはやはり各地域や,プレイヤーのコミュニティなのである。ただ両者は互いに持たないものを持っているわけで,そこを補いあえば目的の達成に近づけるかもしれない。
地域活性を目指す取り組みには長い期間が必要だと思われるが,もし地域に根差したコミュニティが育っていけば,その影響は一過性のものではなくなり,その地域に根付いた文化や産業に成長していくことも期待できるはずだ。
地方の活性化とeスポーツの振興。そのどちらの当事者にとっても,今回の講演は大きなヒントとなりえるものだったのではないだろうか。
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