プレイレポート
ネタバレありでお届けする,幕末マーダーミステリー「四つの眼窩」誌上リプレイ。未経験者にこそ知ってほしい,マダミスの魅力を徹底紹介
しかし,この「マーダーミステリー」を誌面で紹介するには,高いハードルがある。ジャンルの特性上,ネタバレに配慮しつつ面白さを伝えるのは,なかなかに困難なのだ。実際,4Gamerでも何度か記事を掲載しているが,いまいちプレイフィールが掴めないという読者も多いのではないだろうか。
そこで今回は,東京都内を中心にマーダーミステリー専門店を展開しているRabbitholeの協力のもと,ネタバレ全開の誌上リプレイをお届けしてみたい。プレイするタイトルは,幕末を舞台としたRabbitholeのオリジナルタイトル「維新奇談 四つの眼窩」(以下,四つの眼窩)だ。
正体隠匿のメカニクスを中心とした,いわゆる人狼系ゲームはやや苦手な筆者ではあるが,果たして無事に生還できるのか。また物語体験としてのマーダーミステリーを堪能して帰ることができるのか。
記事を読んでいるあなたも,ぜひ一緒に謎に挑んでみてほしい。
今,話題の“新ジャンル”「マーダーミステリー」を見逃すな! 「人狼」「脱出ゲーム」に続く,アナログゲームの新潮流を徹底解説
「マーダーミステリー」が今,熱い。その名のとおり,殺人事件を題材とした推理ゲームだが,これが現在,“新ジャンル”としてアナログゲームの界隈で大変な盛り上がりを見せているのだ。今回はこのマーダーミステリーを改めて紹介すると共に,その魅力に迫ってみたい。
Rabbithole公式サイト
※本稿には「四つの眼窩」のネタバレがあります。ここから先に進むと,以後このシナリオには参加できなくなるので,ご注意ください。
いざ物語の舞台へ
何にせよ,マーダーミステリーを遊ぶには,配役の分だけのプレイヤーが必要になる。そんなわけで,「四つの眼窩」をプレイすべく,某日,Rabbithole新宿店に7名のプレイヤーが集合した。
ゲームの開始前に,ゲームマスターから諸注意が提示される。その内容は以下のとおりだ。
- これは殺人事件を解き明かすゲームであり,犯人に限らず,誰でも嘘はついてよい。
- 全員に,主目的とサブの目的がある。サブの目的は,ゲーム進行によっては達成不能になることもあるが,できるだけ頑張ってほしい。
- 前半に2枚,後半に2枚のチップが各人に配られる。このチップを支払えば,テーブル上に伏せられた手がかりを入手して見ることができる。
なお同じマーダーミステリーでも,このあたりの細かいルールはタイトルごとに異なるようだ。これらは今回にのみ適用されるものと思ってほしい。
ルールを確認したところで,ゲームマスターによって配役の振り分けが始まる。振り分けの方法は,プレイヤーが自由に選べることもあるが,今回はゲームマスターの判断で,適した役が割り当てられることになった。今回の配役の男女比が5:2で,今回のプレイヤーも女性が2人(筆者含む)だったことから,性別を合わせる形で配役が決定。なるほど,ロールプレイ要素もあるので,確かにそのほうが演じやすいだろう。
配役に従い指定された席に座ると,目の前にはキャラクターの設定などが書かれた冊子――ハンドアウトと,先ほど案内のあったチップが2枚,そしてバインダーに綴じられたメモ紙が置かれている。マーダーミステリーは,まずこのハンドアウトを読み込むところからスタートする。
今回,ハンドアウトを読みこむために用意された時間は20分程度だ。ゲームマスターの号令を合図に,全員がハンドアウトを手に取ってページをめくり始める。
手がかりを得るために使うチップは,Rabbithole特製のカジノ風コインだ |
プレイ中に首からさげる名札と,自分用のハンドアウト。10ページある冊子にキャラクター設定などがぎっしり書かれている。その情報量に圧倒される |
ハンドアウトに書いてあったこと
事件のあらましはこうだ。
ときは幕末,黒船が来航したころ。飛騨の山奥にある寒村に3人の旅人がやってきた。その夜,村の屋敷では旅人をもてなす宴席が設けられたが,その場はなぜか険悪なムードになり,早々にお開きとなってしまう。しかし翌朝,そのうちの一人である忠兵衛が死体となって発見された。さらにその死に様は,まるでこの村の守り神“リョウメンスクナ”が下した祟りのようであった。いったい何が起きたのか?
まず登場するキャラクターについて説明していこう。
筆者が受け持つことになったのは,この寒村に住む34歳の女性「かえで」だ。
かえではリョウメンスクナの巫女であり,処女懐胎で男女の双子を産んだ……とされている。村人からは“お屋敷様”と呼ばれて崇められており,件の双子である娘「しじま」と息子「なぎ」と共に屋敷で暮らしている。
3人の旅人は,殺された人物が忠兵衛という名前で,残る2人はそれぞれ「総司」「春風」という。3人とも帯刀しており剣士だというが,春風は総司と忠兵衛の連れではなく,たまたまこの村で行き会っただけだそうだ。
旅人達は,昨日村に到着して宿をとっているが,この宿の主人は「彦作」と言い,かえでとは昔なじみだ。彼には「松助」という息子がおり,宴席の準備にも関わっていることから,この2人も今回の事件の容疑者に含まれている。
登場人物
- かえで:自分。34歳。忠兵衛のことは今でも好き。
- なぎ:15歳の息子。本当は村を訪れた金持ち夫婦の子。剣術に興味を示しているのが悩みの種。
- しじま:15歳の娘。かえでと忠兵衛の間の子。巫女の跡継ぎとして,強い信仰心を持つ。
- 総司:忠兵衛の後輩にあたる剣士。17歳。
- 春風:総司と忠兵衛とは別々に,村にやってきた。小柄で長刀を佩いた剣士。21歳。
- 彦作:登場人物の中では最年長の40歳。宿屋の主人で,16年前の事件の共謀相手。過去がバレないよう,忠兵衛を殺したがっている。
- 松助:彦作の息子。19歳。
- 忠兵衛(すでに死亡):16年前にかえでと恋愛し,刀を置いて出ていった。今回,総司と一緒に村に来た。39歳。
さて,ここからが核心――つまり,かえでが持つ秘匿情報だ。
殺された忠兵衛という剣士は,実はかえでがよく知る人物であった。ことの発端は16年前,かえでは村にやってきた旅人・忠兵衛と恋に落ちた。しかし彼は村に留まることはなく,「金に困ったら売れ」と言い残し,自分の刀を置き土産にして旅立ってしまう。娘であるしじまには伝えていないが,実は忠兵衛との間に生まれた子なのである。
一方で,なぎはかえでの実子ではない。同じ時期に,湯治(この村には炭酸泉がある)で村を訪れていた金持ち夫婦の子供である。この頃,村は飢饉に見舞われており,宿屋の主人である彦作は,村を救うために夫婦を殺し,金を奪ってしまった。かえでと彦作は話し合い,生まれたばかりだったこの夫婦の子供を引き取ることにした。そして父親のいないままに生まれた“神の双子”として,しじまとなぎを育てることとなった。
夫婦の死体は,彦作の手によって二面四臂の木乃伊(ミイラ)へと作り替えられ,この地方に伝わる神・リョウメンスクナのご神体として祀ることにした。忠兵衛が残した刀も,ご神刀ということになった。それからというもの,村は今に至るまで豊かな暮らしが続いている。リョウメンスクナのご加護だとして,かえでとその子供達は村人に崇められている。
かえでから見た事件のあらまし
つまり16年前の殺人について,彦作とかえでは共犯関係にある。しかし昨夜の忠兵衛殺しについて,かえでは犯人ではない。
事件の前夜,かえでは彦作に呼び出され,短刀で忠兵衛を殺すよう諭されている。曰く「16年前のことがバレると困る。あとで屋敷に忠兵衛が行くようにするから,この短刀で忠兵衛を殺せ」と。そのとおり忠兵衛は屋敷にやってきたが,かえでは殺すことができなかった。
結果,かえでは忠兵衛に過去の一部始終を告白。忠兵衛は「一緒に村を出て暮らそう」と言ってくれたが,巫女の立場であるかえではそれを決断できず,言い争ううちに,息子のなぎに見咎められ,忠兵衛は宿屋に帰ってしまった。
その後,屋敷で催された宴では,鳥肉に仕込んだ毒薬で彦作が忠兵衛を殺そうとするが,かえではそれに怒り,毒薬を取りあげたうえで鳥肉を捨てている。
その後も彦作は忠兵衛を酔い潰して殺そうと考えたようで,宴席を盛り上げるためにご神体であるリョウメンスクナのミイラを宴席で披露したが,忠兵衛は「こんなものがあるから!」と怒って木乃伊を袈裟斬りにしてしまう。結果,なぎは「忠兵衛はやっぱりひどい男だ」と憤慨し,かえでは怒ったふりをしつつ忠兵衛を宿に返すことで,宴をお開きとした(なお春風は,忠兵衛が「幕府に背く吉田某」を馬鹿にしたことで不機嫌になり,一足先に退席していた)。
その夜,かえでは使わなかった短刀と取り上げた毒薬を彦作に返そうと思い,宿屋へ出かけた。しかし入口でなぜか全裸の総司に突然出くわして,びっくりして毒薬を落として屋敷に帰ってきてしまった。
そして夜が明けると,忠兵衛の死体が村の入口で発見される。リョウメンスクナの木乃伊と同じく,正面から袈裟斬りにされた姿で。刀は,鞘に納まったままであった。
……と,ここまでが大まかなハンドアウトの内容だ。筆者はかえでとしての役割を果たすため,シナリオを注意深く読み込んでいく。かえでとしての(そしてゲームとしての)目標は忠兵衛殺しの犯人を見つけることだが,16年前の村の出来事は隠さねばならない。犯人役でこそないが,これはなかなか大変なミッションではないだろうか。
宴の前にあった忠兵衛との密会は,なぎに目撃されているので今さら隠しようがない。どう言い訳すればいいだろうか。毒薬と短刀という“凶器”の存在も致命的だ。短刀はまだ持ったままだし,毒薬はどこかで落としてしまっている。対策を練らねば……などと考えをまとめているウチ,あっという間に制限時間いっぱいとなってしまった。
第一幕:いきなりの冷や汗
いよいよ本番,全員にオープニングシーンの台本が配られる。和風のBGMが雰囲気を盛り上げる中,参加者全員が朗読劇のように,代わる代わるセリフを読み上げていく。内容は,筆者ことかえでが昨晩の宴に参加した7人を集め,「犯人探しに協力してほしい」と呼びかけるもので,それは同時にこの中に犯人がいることを意味していた。
そしてゲームマスターの「Dive into Mystery……」のかけ声で,ゲームがスタートする。
オープニングシーンでは,春風が「自分が宴席を出て行ってから何があったのか?」と質問するところで終わっており,松助がそれを説明するところから前半戦が幕を開けた。
筆者としては,まず各人の昨夜の行動から洗うのかと思っていたら,皆どんどんチップを使って,場に伏せられた手がかりを確認していく流れになった。曰く,「推測だけでやりとりするより,なるべく確実な手がかりや情報を集めてから話したほうが効率がいい」とのこと。なるほど,確かにそうかもしれない。
夜に全裸で宿をうろついていた理由を総司に問いただしてみると,あれは湯あたりして倒れた総司を松助が自室で介抱し,その後に目を覚ました総司が,自分の部屋に戻るところだったらしい。松助の部屋には総司の着物が残されていたが,起きたときには1人だったので,そのまま全裸で戻って寝たのだそうだ。いちおう筋は通っている。
息子のなぎは,「母さん(かえで)はどうして宿屋に行ったの?」とさっそく質問してきたので,「彦作から護身用に借りた短刀を,返しに行ったのよ」と答えておく。彦作も「この不穏な世で久々の客だし,しかも3人とも刀を持っているのは怪しいのでお貸ししました」とフォローを入れてくれた。
すると,なぎは「昨夜,忠兵衛さんが屋敷に来て,母さんを連れ出そうとしていた」という話を始めてしまった。とっさに「忠兵衛さんとは初対面なのに,駆け落ちしようと言われて戸惑った」とごまかすが……
なぎ「本当に? 僕が聞いたのは,『あなたと一緒に行けないのが,私の罰です』とかいう返事だったけど,それっておかしくない?」
チッ……しっかり立ち聞きしてたのか。しかたがないので,「実は16年前に忠兵衛さんはこの村に来て,いろいろあって,私が振ったのです。その未練で,今回も押しかけて来たのでしょう」と嘘を修正することに。
しょっぱなから失敗したなー,と冷や汗をかきまくる中,さらに娘のしじまからも「本当のことを教えて」と“密談”で詰め寄られてしまった。
一方で,春風にも密談に呼ばれ,手がかりとして出てきた【白磁の小瓶】を見せられる。
春風「総司が言うには,昨夜宿屋であなたと出くわしたとき,落としていった小瓶らしいんだけど,これは何?」
中身が毒だというのは早晩バレることになるので,「短刀と一緒に彦作から借りた,しびれ薬です。忠兵衛さんが無理心中を強いてきた場合とか,いざというとき身を守るためのもの」と言い訳し,難を逃れる。
見つかる手がかりと進む推理
次々とやってくる密談を,筆者が冷や汗をかきつつやりすごす間にも,テーブルではたくさんの手がかりが公開され,推理が進んでいく。密談から帰ってきたら全然知らない話になっていて,「待って,今どうなってるの?」となることもしばしばだった。まるでミステリものの登場人物のムーブを,リアルで実践するかのようだ。
かえでは村で一番の権力者なので,もっと堂々と落ち着いてふるまうべきだと思うのだが,プレイヤーが不甲斐ないばかりにオロオロ状態である。
春風は宴席を出て宿に帰った後,差出人不明の【果たし状】を拾っていた。「今宵,村の入り口で待つ」と書かれていて,春風はきっと総司だろうと思ったが,関わり合いになりたくないので無視したという。
一方,総司は「果たし状なんて出していない」と言うが,「果たし状を無視するって,よくあることなんですか?」というなぎの質問には,総司は「まあ,弱ければ逃げるんじゃない?」と答え,春風を煽っている様子だった。
忠兵衛の死体からは,「積もる話がございます。今宵,村の入り口でお待ちいたしております」と書かれた【手紙】が見つかった。誰の筆跡かは分からないが,忠兵衛が書いたというよりは受け取ったもののように思える。この手紙で呼び出され,殺されたのだろうか。
また遺体の傍らに落ちていた【羽織】は屋敷で貸し出している男物で,返り血を浴びていたので,どうやら犯人が着ていたもののようだ。
忠兵衛の刀が抜かれていない点も論点となり,抜くこともさせずに斬ったとしたら剣士である総司か春風では? という話にはなったが,総司は「小瓶の毒薬でも使って忠兵衛をフラフラにしておけば,誰でも実行可能じゃない?」と反論していた。うーん,そうなのだろうか。
総司が言うには,この村に立ち寄ったのは忠兵衛の意志だそうで,来る前に土産として【かんざし】を買っていたという。次いで忠兵衛の遺体から,さらに日光東照宮の【御守り】が発見されると,しじまが「これは私のものです」と言い出した。
しじま「これは物心つく前から持っていたものです。忠兵衛さんが私にかんざしをくれたので,私も大切なものをお返ししようと思って……」
【御守り】がしじまの持ち物だというのは本当だ。16年前に忠兵衛が村を去るとき,刀と一緒に置いて行ったものを,私(かえで)がしじまに持たせたのだから。しかし,かんざしがしじまの手にあるというのは,少し不可解だ。忠兵衛は,しじまが自分の娘だと知っていたのか? 全然分からなくなってきた。
そうこうするうち,宿の裏手にある【井戸】がどこかにつながっているという情報が公開されてしまった。これこそ,村の掟で立ち入りが禁じられている洞窟に違いない。中に何があるのかは知らないが,村の秘密を守るのに必死なかえでとしては,あまり触れて欲しくない場所には違いない。
しかし彦作は,「井戸を降りるための【縄梯子】が自分の部屋にあるはずなので,誰か調べてください」となぜか積極的で,結局息子のなぎが井戸を降りて行ってしまった。
「掟があるから,洞窟に入ってはダメよ!」「洞窟より先に,調べたほうがいいところがまだいっぱいあるのでは?」などと皆に呼びかけてみるもあまり効果はなく,「そもそも春風さんは何のためにこの村へ来たんですか?」と話を逸らしてみても,「たまたま寄っただけ」と話が広がらない。洞窟に踏み入られるのは時間の問題だ。
前半戦の残り時間が尽きる直前になって彦作と密談する機会を得たので,後半戦に向けた作戦を練ることにする。彦作から提案されたのは,16年前の出来事はそろそろバレてしまうので,金持ち夫婦の夫のほうが毒でおかしくなり,妻を殺してしまったことにしよう,というものだった。
忠兵衛殺しの動機は十分な彦作ではあったが,ここは一蓮托生と思い,この作戦に乗ることにする。二人で話を合わせていけば,後半もなんとか乗り切れるかもしれない。……後から思い返せば,嘘をつくにあたって安心感が欲しかっただけのような気もする。
こうしてさまざまな不安を残しつつ,40分間の前半戦は終了となった。
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