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上司が部下に能動的な活動を促すためのゲーミフィケーション事例を紹介した「eラーニングアワード 2021 フォーラム」のセッションをレポート
本稿では,最終日に行われたセッションの1つ,「【ゲーミフィケーショントラック2021】PM(プロジェクトマネジャー)のためのゲーミフィケーション〜部下を能動的に動かすための事例集〜」の模様をお伝えする。このセッションでは,企業で実践された部下の管理・育成におけるゲーミフィケーション活用事例が紹介された。登壇したのは,以下の4名である。
一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会 代表賢者Lv98
岸本好弘氏
モンスターラボ デジタルコンサルティング事業部
楮山花奈江氏
ウイングアーク1st カスタマーサクセス部 部長
小池尚樹氏
サンクスUP CEO
松山将三郎氏
コロナ禍により需要が増えたPMのためのゲーミフィケーション
岸本氏は最初に,企業におけるゲーミフィケーションを「業務にゲームの要素を導入し,人を楽しくやる気にさせること」であるとし,楽しいモチベーションテクノロジーであり,とくに若い世代との親和性が高いと説明。
日本ゲーミフィケーション協会が提唱する「ゲーミフィケーション6要素」のうち,「能動的な参加」を企業の業務に当てはめると,例えば上司が部下に「目標は決まっているが,それをどうやって実現するかは,一緒に考えよう」と提案したり,あるいは難度の異なる選択肢を用意して部下に選ばせたりするような事例が挙げられる。岸本氏は,そうすることで部下は上司から仕事を押しつけられたと感じなくなると語った。
同じく「達成可能な目標設定」は,部下に仕事を与える場合に,最初は簡単に乗り越えられそうなものにして,それを達成できたらより難しいものに挑戦させることを指す。これを実現するには,上司が部下をきちんと見ていることが必要だと岸本氏は説明。
また「称賛の演出」については「部下がうまくやったとき,ぜひ褒めてあげてください」,「即時フィードバック」については「部下が報告や相談しに来たとき,即座に対応してあげると彼らはワクワクする」と話していた。
「成長の可視化」は,与えた仕事を細かくパーツ分けし,部下がそれぞれを達成したときに例えば「これでレベル3に上がったね」といった表現をすることで,成長を感じさせるといいという。
そして「独自性の歓迎」に関しては,「ゴールは同じでも,独自性を奨励すると部下のモチベーションを維持しやすくなる」とのこと。
とくにここ最近は,コロナ禍の中でのテレワーク業務における部下やスタッフのモチベーション維持に悩んでいる上司やPMが増えており,日本ゲーミフィケーション協会にもさまざまな企業から問い合わせが寄せられているそうだ。
岸本氏は改めて「スタッフにワクワクと仕事をしてもらうための仕掛けとして,PMゲーミフィケーションを活用しましょう」と聴講者に呼びかけた。
IT企業の現役PMが語る ゲーミフィケーション活用事例
楮山氏はモンスターラボにて,ゲーミフィケーションを導入したデジタルプロダクト開発プロジェクトのPMを務めている。
プロダクトの開発現場では仕様変更,スケジュール遅延,認識齟齬によるやり直しなど常に想定外のことが発生し,ストレスも多いため,ゲーミフィケーションの導入によって業務を楽しく継続できるようにすることが必須とのこと。
今回は,あるプロジェクトの振り返りミーティング直前に楮山氏自身が閃いたという,「振り返り on ゲーミフケーション」の取り組みが紹介された。
1つめの取り組みは,「『冒険の書』を作る」というもの。これはプロジェクトを振り返って,スタッフ各自が印象に残った出来事を起承転結のあるストーリーに仕立て,互いに発表し合うという内容だ。
楮山氏によると,この事例はゲーミフィケーション6要素のうち「能動的な参加」と「成長の可視化」を導入しているとのこと。またメリットとしては,「ストーリーにすることで,楽しく振り返ることができる」「スタッフ各自にとって何が印象的だったかが分かる」「ほかのスタッフの冒険の書を聞くことで,『こんなこともあった!』を思い出せる」が挙げられた。
また楮山氏は,この事例のポイントとして「冒険の書」というワクワクするようなネーミングがよかったことや,楽しみながら振り返ることでツラかったことも経験として肯定できたことも挙げていた。
2つめの取り組みは,「『称号』を贈って讃え合う」というもの。これはスタッフで互いに自作の称号を贈り合い,ほかのスタッフからもらった称号のうち,各自が一番気に入ったものを選択するという内容だ。
楮山氏によると,この事例はゲーミフィケーション6要素のうち「独自性の歓迎」と「称賛の演出」を導入しているとのこと。またメリットとしては,「ライトにお互いを称賛し合える」「自分の働きがほかのスタッフからどう思われていたかが分かる」「気づかなかった能力を発見できる」「褒められることで次へのモチベーションが高まる」が挙げられた。
またこの事例では,オンラインホワイトボードツールなどを活用し,皆で下手なネーミングの称号を数多く書き出して,称号作りの心理的なハードルを下げることも重要だという。
ゲーミフィケーション研修の事例
企業向けソリューションなどの開発・販売を手がけるウイングアーク1stの小池氏は,自身が指導する少年サッカーチームや,社内で担当する部署の事例を紹介した。
サッカーには,ダブルタッチという基礎的なテクニックがあるのだが,小池氏によるとその練習は子ども達に不評だという。その理由を小池氏は,「単調な繰り返し」「難しい」「うまくできない」「目的を理解していない」 の4つの要素にあると分析した。
次に小池氏は,5点満点でダブルタッチの検定を実施。分析をもとに,ゲーミフィケーション6要素のうち「達成可能な目標設定」「称賛の演出」「即時フィードバック」「成長の可視化」を導入して,「形はともかく3回できたら5点」「やり方を覚えていたら3点」と設定したところ,5点を獲得して検定に合格した子ども達は非常に嬉しそうにしていたという。
その姿を見て,合格できなかったり,ダブルタッチのやり方を覚えていなかったりした子ども達も,自ら練習して何度も検定にチャレンジするようになり,結果として「能動的な参加」も実現できたそうだ。
またウイングアーク1stでは,2020年3月以降,コロナ禍によってテレワークを導入した。Slackやオンライン会議システム,バーチャルオフィスツールを活用することにより,テレワーク中のスタッフがきちんと業務をこなすという部分に不安な点はなかったとのこと。
しかし小池氏は,仕事中や休憩時間などのちょっとした雑談や立ち話がなくなったことにより,普段の自分の行いを見直したり,ほかのスタッフのやり方を真似たり,技術情報を交換したりする機会が失われたことが気がかりだったという。すなわち,会話を通じて生まれた思いつきから話が盛り上がり,「こうやったら実現できるのでは?」といったやり取りがなくなったというわけである。また,積極的にアクションを起こさないスタッフは,会社からの指示にただ従って仕事をこなすだけになってしまうのではないかという危惧もあったそうだ。
小池氏はそうした状況に,「部署の進化や変化が止まってしまうのでは」「新しいことをやってみようという機運が盛り上がらなくなるのでは」という危機感を抱き,自由な発想ができる空気感を醸成するべく岸本氏を講師に招き,自身が感銘を受けた日本ゲーミフィケーション協会のゲーミフィケーション研修を部署内で実施することにした。
その結果,部署内でゲーミフィケーションに関する理解が進み,ぜひ自身の業務や,それに取り組む姿勢にも取り入れたいというスタッフが続出したとのこと。
また重要なのは,研修の2か月後に振り返りとしてスタッフ各自のゲーミフィケーション事例の発表会を行うことだったという。仮にこの振り返りをやらなかったら,ゲーミフィケーションを実践していいのかどうか迷ったり,そもそも忘れてしまったりする恐れがあるそうだ。
毎日の楽しい雑談でいつの間にか目標達成。マンダラ式目標応援システム
サンクスUPの松山氏は,「マンダラチャート」にゲーミフィケーションを導入した「サンクスUP!型マンダラチャート」を紹介。
マンダラチャートは,9×9のマス目の中央に実現したい目標や解決したい課題を置き,その達成のために各マスにアイデアなどを書き込んでいくというもの。最近では大谷翔平選手が高校1年生のときに作ったマンダラチャートが有名だが,松山氏はこれについて「野球で大成功する」という1点集中型になっており,仮に成功できなかった場合のフォローを考えていない内容であると指摘した。
そもそもマンダラチャートは,人生の目標について「健康」「仕事」「経済」「家庭」「社会」「人格」「学習」「遊び」の観点からバランスよく考えるために,松村寧雄氏が開発した発想法である。松山氏によると大谷選手のマンダラチャートは1例でしかないので,それを真似するよりも,もっとバランスよく考えたほうが適しているケースも多いとのこと。そして,よりバランスのよいマンダラチャートを作るために,ゲーミフィケーション6要素を導入したサンクスUP!型マンダラチャートを考案したという。
サンクスUP!型マンダラチャートのポイントは,自分だけでマスを埋めることができなかった場合に,ほかの皆からアイデアを出してもらえるという点である(即時フィードバック)。そうやってマスが埋まったら,皆で「よかったね」と称賛を演出することも可能だ。
また目標は,もちろん自身が達成可能な設定にするわけだが,その実現のためにほかの皆が応援することにより,コミュニケーションの円滑化が図れるという。
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