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印刷2021/11/29 16:00

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[CEDEC+KYUSHU]マダミス,イマーシブシアター,謎解きゲーム。“体験型エンターテインメント”の現状を分析する講演をレポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」,初日となる2021年11月27日には「体験型エンターテインメントとは何か? 〜広がるゲーム的手法〜」と題した講演が行われた。マーダーミステリー(マダミス)やイマーシブシアター(体験型演劇),謎解きゲームといった新たなエンターテインメントの概要,ビデオゲームとの類似点などについて語られている。

エレメンツ ゲームデザイナーの石川淳一氏
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 本講演を行った石川淳一氏は,「天下統一」「大戦略」シリーズなどに携わった,業界歴35年以上を数えるゲームデザイナー。そんな石川氏が,近年話題を呼んでいるマーダーミステリーなど,ビデオゲーム以外のメディアを使ったインタラクティブ性のあるコンテンツを「体験型エンターテインメント」と分類し,ゲームデザイナーとしての視点から語るのが,講演の主旨である。

※ここでいうメディアは,マスコミではなく,CDや書籍といった「情報媒体」のこと。

 氏がいう「体験型エンターテインメント」とは謎解きやARG(Alternate Reality Game,代替現実ゲーム),マーダーミステリー,イマーシブシアター,人狼など,リアル空間や既存のメディアを使った,インタラクティブ性を持つ遊びのこと。日本でも話題のマーダーミステリーが中国で4万もの店舗を構え,2021年の売上が2735億円と予測されているなど,その市場規模は拡大しているという。理由としては,“パソコンや携帯電話の前で一日中過ごすようになったため,外出時には感覚に訴える冒険的な体験を求めるようになったから”“インタラクティブ性に優れたビデオゲームの発展により,他のエンターテインメントがこれからどうすべきかを模索したから”といった考察がされているという。

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 石川氏は体験型エンターテインメントを,今までになかった遊びを提案するARGや謎解きゲーム,マーダーミステリーなどを「新規型」と,演劇から発展したイマーシブシアターや,書籍にインタラクティブ性を持たせた体験型書籍といった既存メディアを工夫した「発展型」に大別。それぞれについて現状を分析した。

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謎解きゲーム


 リアル世界で手がかりを探して歩き回り,提示された謎を解いていく。この謎解きゲームは世界規模のコンテンツとなりつつあり,低年齢層にも広まっている。謎解きと体験を重視する2つの方向性を持ち,少人数でも作れることから尖った作品も登場。

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ARG(代替現実ゲーム)


 SNSやインターネットなど,実在するメディアを使って提供された情報をもとに,プレイヤーが行動する。普段使っているメディアを用いるため,フィクションとノンフィクションの境目が曖昧になるリアル感を与えられる。

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オンライン体験型イベント


 ネット上の動画から手がかりを探し,証拠をTwitterに提出することでエンディングが変わる「オンライン・パパラッチ 新郎失踪の真相を暴き出せ」や,実際にLINEでやりとりする「イキサキ探し」など,コロナ禍においてオンライン寄りのものが発展している。オンライン寄りのものは場所の制約を受けないのも大きく,言語の壁はあるものの,日本から海外公演に参加することもできる。

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マーダーミステリー


 日本では「マダミス」の愛称で呼ばれ,話題となりつつある。プレイヤーのそれぞれが,異なるバックボーンを持つ登場人物になりきり,調査を進めつつ,己の目的の完遂を目指す。パッケージが販売されるものや店舗で行われる公演への参加,オンライン対応など形態は様々。少人数で作れるため,実験的な作品も増えている。

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LARP


 ライブアクションロールプレイング。ライブRPGとも。プレイヤーが皆で集まり,仮装などリアルの身体による行動を伴うロールプレイを楽しもうというイベント。規模が大きいものは「ConQuest of Mythodea」のように1万人クラスのプレイヤーを集めることも。バトルやファンタジー色のないもの,無理に演技しなくても参加感を楽しめるものも登場している。

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イマーシブシアター


 体験型演劇。舞台と客席に区別がない,独特の空間で公演が進む。観客が自由に移動できたり,演者に話しかけることができたり,選ばれた1人が物語の一幕に参加するようなこともあり,通常の演劇とは一線を画する。実際の町工場のあちこちで9人のキャラクターが演技するのを自由に選んで見られる「スパイは3度,ベルを鳴らす」など,自分だけの体験ができるものの,その醍醐味は現場でしか味わえないため,参加機会が限られる弱点がある。

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xR系(AR,MR,SRなど)


 技術の力で現実世界と仮想世界を融合させた遊び。実際に徒歩で移動し,現実の地図を反映した仮想空間に出現するポケモンを捕まえる「ポケモンGO」や,現実を仮想空間化したミラーワールドなど。技術が重要になるだけに,ハードウェアの普及がキーとなる。

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物語系ボードゲーム


 物語的な体験を重視し,1回だけ遊べるボードゲーム。LINEを使った「シャーロック・ホームズの追悼」や,パッケージに封入されたコミックの登場人物が手に入れたのと同じボードゲームを遊んでいくことによって,謎が明らかになる「ザ・イニシアティブ」など。

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体験型書籍


 リアルの証拠品を封入したミステリ本など,様々な試みが繰り返されてきた。読む順番で物語が変化する「N」。短編小説にYouTubeへのQRコードが記されており,物語とリンクした音を聞ける「聞こえる」など,現在も取り組みが続けられている。

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体験型映画・TV


 イギリスで話題の映画上映イベントであるシークレット・シネマでは,映画のセットを模した飾り付けをした会場で,上映とともに役者がパフォーマンスを行う。「ブレード・ランナー」の上映では,会場に雨が降りしきる中,参加者はレインコートと傘を装備して観賞。ゾンビのような感染者と生き残った人類を描く「28日後…」では感染者が観客を追いかけるなど,映画の世界に入ったような体験ができる。イギリスでは,「ブレード・ランナー」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など,シークレット・シネマで扱われた映画が週間興業ランキングに入るといった経済効果も。

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テーマパーク


 大阪のテーマパーク・USJに登場した「スーパー・ニンテンドー・ワールド」では,「スーパーマリオブラザーズ」の世界を再現し,リアル「マリオカート」体験ができるなど,没入感が重視されている。2022年にディズニーが開業する「Galactic Star Cruiser」は「スター・ウォーズ」をテーマとしたホテル。2名2泊約50万円と高価ながらも,“宇宙客船でのクルーズ”という設定の元,ライトセーバーの訓練など様々なアクティビティを楽しめる。専用施設を作れるため没入感は高まるが,コストも高くなることに。

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アトラクション/イベント


 “従来の受動型娯楽を参加型にするもの”,“イベントを能動的なものとするもの”の2系列が存在。前者は閉園後の遊園地を使い,観客がミッションに従って動き回るところにお化けが出現する能動的お化け屋敷「幽霊たちの結婚式〜闇に消えた先輩記者〜」など。後者は「ストリートファイター」展覧会「俺より強いやつらの世界展」における,画面の前で波動拳のポーズを取ると,画面内で波動拳が発射されるアトラクションなど。

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体験型アート


 インスタレーションなどにインタラクティブ性を持たせる取り組みも進む。ゲームブックを手に実際の町を歩く「演劇クエスト」や,既存の美術作品展示にナレーションで物語性を与える「THE FIRST CLASS」など。

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音楽系


 これまで音楽の世界観はアルバムによって表現されてきたが,1曲単位で配信される時代だけに,他メディアの力を借りた表現も進む。「ヨルシカ 盗作」では,CDに小説とカセットテープが付属。小説では曲の主人公である盗作家と少年の物語が描かれ,カセットには少年が弾いた曲が収録されており,CDとあわせて曲の世界観を表現している。

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 こうした体験型エンターテインメントの中で石川氏が注目するのは,舞台と客席の区別がない空間で展開する演劇であるイマーシブシアターだ。その理由は,ザッピング要素のあるアドベンチャーゲームと近い構造を持ち,インタラクティブ性がありつつも,参加者に知識や操作を求めないハードルの低さであるという。
 イマーシブシアターは演劇であるため,参加者のすることは追いかける役者を決めて鑑賞するだけでOKとハードルが低い。
 ビデオゲームでは,“どのコマンドを選ぶか”“どういった戦術を採るか”といった能動的な選択がストレスとなり,成果を得られることでカタルシスを得られる仕組みになっている。しかし,イマーシブシアターではその選択が“どの役者を追うか”“どの位置で見るか”といったライトな形になっており,前述した選択に伴うストレスを感じにくいにもかかわらず,インタラクティブ性は実現されている。
 また,他の形態と異なり,仮装やロールプレイ,謎解きなど,人によっては難しいと感じられる能動的な行為を求められないのもメリットといえるだろう。その一方で,選ばれた観客が招かれて演者とともに作業するなどして演劇に参加する「1on1」のように特別な体験も存在する。

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 一方,参加者は傍観者であるためビデオゲームと比べて没入感は弱い。また,観客が自由に移動していい形式の公演では物語が分かりにくくなる危険性も存在する,と石川氏は指摘する。前者に対してはイマーシブシアターにしてミッションや謎解きを入れたり,後者については観客のルートを固定する,1公演で複数回のループを行う,物語の概要が掴める主人公的な存在を設定するなどの対策も練られているという。

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 最後に石川氏は「体験型エンターテインメントの世界はこれからもまだまだ広がっていくと思います。皆さんも体験や制作をして知見を積み上げていきましょう」と講演を締めくくった。

 ビデオゲームの世界では当たり前に享受しているインタラクティブ性。これを他のメディアで実現するために様々な工夫が成されているということで,ビデオゲームを深く知る人にとっては新鮮な事例が挙げられた講演であると感じられた。
 ビデオゲーム制作にあたってこうした取り組みから学べることも少なくないだろう。こうした知見が,体験型エンターテインメントとビデオゲームの双方に良い影響をもたらすことを期待したい。

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