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Play by Mail文化のアーカイブ保存に関するセッションをレポート。ネット上に記録されていない,30年前の資料を集める課題とは
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印刷2022/01/31 14:01

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Play by Mail文化のアーカイブ保存に関するセッションをレポート。ネット上に記録されていない,30年前の資料を集める課題とは

 立命館大学ゲーム研究センターは2022年1月22日,「ゲームアーカイブ推進連絡協議会2021年度セミナー」をオンラインで開催した。ゲームアーカイブ推進連絡協議会は,ゲーム所蔵のノウハウ共有,データベースの活用などといった連携強化を目的に活動を行っている組織だ。
 本稿では,このセミナーで行われた,日本PBMアーカイブスの中津宗一郎氏によるセッション「郵便で行うPlay by Mailというゲームの資料保存について」の模様をレポートする。

日本PBMアーカイブスより「クレギオン」(左)と「蓬莱学園の冒険!」(右)
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そもそもPBMとはどんなゲームだったのか


 中津氏は,最初にPlay by Mail(以下,PBM)がどんなゲームであるかを紹介した。PBMは,1990年代前半に隆盛を極めたゲームで,数千人規模のプレイヤーが郵便を使って同時にプレイするRPGとのことだ。郵便を使って対戦するチェスなどもPBMと呼ばれるが,このセッションでは便宜上RPGのみに絞られている。

 プレイヤーは,自身のアクションを手紙やハガキに書いて運営団体に毎月送付することで,ゲーム内の世界でほかのプレイヤーと戦うなどの行動を取る。またプレイヤーはゲーム内で活躍する以外にも,同人誌を制作したりイラストを描いたりといったような,それぞれの目的を持って活動を行っていたそうだ。
 また運営団体からは,ゲーム内で流通している雑誌という設定で,会誌が送付されてきたという。

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 1か月単位で話が進み,それを踏まえて次のアクションを決めるとなると冗長な印象を受けるかもしれないが,進行の大枠は同じでも,プレイヤーごとに直面するイベントが異なるので,入手できる情報も異なる。そこで次の会誌を待つ間に,オフ会に参加してプレイヤー間で情報交換をしたり,図書館に出向いて情報を収集したりしていた。中には,複数のプレイヤーから収集した情報をまとめた同人誌を制作したプレイヤーもいたそうだ。

 一方,運営団体は,数千人のプレイヤーから寄せられたアクションを踏まえ,どんなストーリー進行にするのか,どんなイベントを発生させるのかを会議で決める。そして各プレイヤーに何が起きて,どんな状態になったとかという結果を小説形式で執筆し,「リアクション」という形で会誌とともにプレイヤーに発送する。
 このサイクルを全12回繰り返して,最終的にどんな結果になるのかを見届けるゲームが,1990年代に流行った主なPBMだ。

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 運営団体が多数のシナリオライターを起用したことにより,PBM界隈からは,のちのライトノベル作家が多数輩出された。中津氏が把握しているだけでも,30名以上がプロデビューしたそうだ。また運営団体は,スマートフォンゲームのシナリオ制作に業態を変えたところも多いという。
 一方プレイヤー側も,情報収集や同人誌制作などの能動的な行動を行っていたことから,エンターテイメント業界に就職した人が多くいたとのことだ。

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 PBMが輩出した人材の例としては,編集者になった中津氏自身や,SF作家の野尻抱介氏,ラノベ作家の築地俊彦氏,アニメーターのことぶきつかさ氏,そしてスクウェア・エニックスの齊藤陽介氏らの名前が挙がった。
 中津氏は以上を踏まえて,「郵便を使うという業態はほぼ見なくなったが,さまざまな人材を数多く輩出したことにより,PBMはエンターテイメントに関わる各業界を今なおつなげている」とまとめた。

 その半面,PBMには後のネット社会で問題となる,さまざまな負の側面が先んじて発生したという。個人情報の漏洩や,女性プレイヤーに対するストーカー行為,偽情報を敵対勢力に流し混乱をさせるフェイクニュース,詐欺,運営団体の炎上,そして対人関係の疲れなど,今現在多くのインターネットユーザーが抱えているコミュニケーション上のトラブルと同じような問題に,当時のPBMプレイヤーは直面していたそうだ。

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日本PBMアーカイブスの活動内容と,直面した課題とは


 そんなPBMだが,上記のとおり最盛期は1990年代前半。インターネットが一般に普及する前だったため,その記録はほとんど残っていない。そこで中津氏ら有志が,PBMに関する資料のアーカイブを作るべく,2020年にNPO法人 日本PBMアーカイブスを設立した。

 PBMに関する資料は,会誌やリアクション,ストーリーをまとめたリプレイ,それらをベースにした小説など基本的に紙である。日本PBMアーカイブスでは,それらを収集することから活動を始めたとのこと。プレイヤー各自に送られたリアクションをまとめると,文庫本にして5〜6冊におよぶ文章量になるという。また,プレイヤーが個人的に製作した同人誌をどう扱うかも検討中だ。
 集めた資料はデジタル化を進めており,現在は当時もっとも有名だった遊演体のPBM「蓬莱学園の冒険!」からスタートし,次にホビー・データの「クレキオン」関連資料のアーカイブスを目指しているそうだ。

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 しかし資料収集には,さまざまな問題が生じているという。まず30年以上前の紙資料であるため,破棄されていたり,残っていても劣化していたりする。仮に回収できたとしても,その収納場所とデータ化の費用をどうするかという課題がある。

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 また,ほとんどの運営団体はすでに解散または倒産しているため,著作権の確認をする必要も生じる。とくに多くのシナリオライターが参加していたため,1人1人に確認を取る作業は手間がかかる。運営団体,シナリオライターともに連絡が付かないケースが多いとのこと。
 加えて,自転車操業だったため経営難に陥っていたり,人材流動が多い分野だったため人間関係のトラブルがあったり,ギャラに関するトラブルが生じていたりと,当時のことを「触れられたくない過去」と捉えて,日本PBMアーカイブスとの接触を忌避する関係者も少なからずいるという。

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 さらに,ゲーム自体がイベント性・当事者性の強いものだったため,PBMを知らない人にゲームの外側でのコミュニケーションなどの面白さを伝えるのが難しいことや,収集した資料に関する発表の許諾はほぼ得られたが,その費用をどうやって捻出するか,関係者が40代後半から50代前半と限られており,その高齢化にどう対応するか,デジタル化されたPBeMなどとどう連携するかといった課題もある。

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 そして,日本PBMアーカイブスの来期以降の運営費用をどのように集めるかという課題も生じている。PBMプレイヤーの中には,上記のとおりエンターテイメント業界で活躍している人材も多いが,彼らにカンパしてもらうにしても,有効なリターンとなる手段が今のところない。例えば,かつて発行された書籍などの復刻版や,「蓬莱学園の冒険!」をベースにした新作テーブルトークRPGを販売し,それらの版権管理料を運営費用に充てることも検討してはいるが,それらの費用をどうするか,旧著作権所有者との交渉をどうするかといった,即時に解決できない課題があるという。

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 中津氏は,日本PBMアーカイブスの活動について「資料を集めるという第一歩を踏み出した段階」とし,今後の課題として「学術的な意義を,いかに後代に伝えていくか」「収集が終わった資料を,どのように処理していくか」「継続的な運営をしていく上で,ゲームやラノベ,小説,漫画などとどのように連携していくのか」を挙げる。
 最後に「PBMの保存で得られた知見を,膨大なストーリーを持つスマートフォンゲームなどの保存に活かしていきたいと考えている」と述べて,セッションをまとめた。

日本PBMアーカイブス公式サイト

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