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[GDC 2022]基本プレイ無料ゲームにおけるサブスクリプションの現状と可能性。調査会社のアナリストが語ったその未来像
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印刷2022/03/30 19:23

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[GDC 2022]基本プレイ無料ゲームにおけるサブスクリプションの現状と可能性。調査会社のアナリストが語ったその未来像

 近年ではXbox Game PassやPlayStatin Nowなど,ゲームにもサブスクリプション・モデルが採用されることが増えてきた。これは1か月ごとに決まった金額を支払うと,特定のリストに入っているゲームを好きなだけ遊べるというプランで,現代の音楽や映像業界においては中心的なビジネスモデルとなっている。
 またモバイルゲームの世界でも,サブスクリプション・モデルは急激に一般化が進んでいる。基本プレイ無料のゲームをプレイしていると,「このパックを購入すると,30日にわたって毎日◯◯個の課金石をログイン時に提供します」という商品を見ることは多いが,これも立派なサブスクリプション・モデルといえる。

 このようにもはやゲーム産業にとって検討が不可避となりつつあるサブスクリプション・モデルだが,GDC 2022では主に基本プレイ無料のゲームやクラウドゲームサービスなどにおけるサブスクリプション・モデルの現状と可能性についての講演が行われたので紹介しよう。登壇したのは調査会社であるOmdiaのSenior Analyst,George Jijiashvili氏だ。

OmdiaのSenior Analyst,George Jijiashvili氏
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ゲーム産業に普及するサブスクリプション・モデル


 Jijiashvili氏は,最初に現状ゲーム産業において存在するさまざまなサブスクリプション・モデルについて,その種類を大きく6つに分類して紹介した。

  1. さまざまな開発会社のゲームがプレイできるもの
  2. 1つの開発会社のゲームがプレイできるもの
  3. 通信キャリアやプロバイダがさまざまなゲームを提供するもの
  4. なんらか1本の運営型ゲーム
  5. 4.と同等だが,サービスの主体がゲームに限られないもの(いわゆるメタバース的なもの)
  6. ゲームを遊ぶのではなく,観戦するプラットフォーム

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 このように多岐にわたって発達したゲームのサブスクリプション・モデルだが,サブスクリプションが産業規模そのものを大きく発展させ,2025年には産業全体の85%を占めると予測される音楽や,同じく89%を占めると予測される映像に比べると,その普及は遅かった。実際,2010年代においては,ゲームのサブスクリプション・モデルはほぼ普及していなかったと言える。

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 この遅れについてJijiashvili氏は,5つの理由を指摘した。

  1. そもそも露出が少なすぎた
  2. プラットフォーム側に技術的な限界があった
  3. 全世界で見ると高速インターネット回線が普及していなかった
  4. 遊べるゲームのなかにAAAタイトルが少なかった
  5. DVDなどの物理媒体が強かった

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 だがこの5つの問題は,もはや解消している。サブスクリプション・モデルの普及のために大手プラットフォーマーが大きな資金を投入しているし,ネット環境も全体的に改善した。物理メディアはコンシューマゲームにおいては未だに強いが,モバイルやPCにおいてはダウンロード販売が基本となっている。パブリッシャにとっても,サブスクリプション・モデルは真剣に考慮すべき選択肢となったというわけだ。

 実際,ゲームにおけるサブスクリプション・モデルの利用者は急激に増大している。もちろんこれにはパンデミックの影響もあるが,Omdiaの調査(1万3000サンプル)によれば現代のゲーマーの5人に1人はなんらかのサブスクリプションを利用しているのだとか。
 ただし普及の度合いには国によって差が見られるのも事実で,例えば北米はとくに普及が進んでいるが,フランスやドイツでの普及は全世界標準から遅れており,これらの国における普及率はアメリカの半分程度となっている。

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モバイルゲームとサブスクリプション・モデル


 さて,普及をみせるサブスクリプション・モデルだが,現状で最も普及が進んでいるのはモバイルゲームの,とくに基本プレイ無料型のビジネスモデルを有する作品だ。実際にモバイルゲームの全世界セールスランキング(2021年)を見ると,ベスト15のうち9作品(60%)が「ゲーム内課金によるサブスクリプション」のオプションを有している。
 またサブスクリプション・モデルを採用しているゲームジャンルにも偏りが見られる。セールスランキング100位以内のデータを見ると,ゲームの「重さ」としてはミッドコアに分類されるゲームでの採用例が多く,ゲームジャンルとしてはRPGとストラテジーでの採用例で50%を超える。これは100位以内に存在するゲームの傾向を反映している側面も大きいが,一定レベルで「サブスクリプション・モデルとの相性」を示唆しているとも言える。

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 なお基本プレイ無料のモバイルゲームにおいて,サブスクリプションが唯一のマネタイズ・モデルかというと,そんなことはない。サブスクリプション・モデルを採用しているゲームを実際に見ても,ミッドコアのゲームにおいては,サブスクリプションとシーズンパスの併用が多いことが分かる。これがカジュアルゲーム(ハイパーカジュアル)になると傾向は大きく変わり,広告除去との併用が最も多くなる。

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クラウドゲームサービスとサブスクリプション・モデル


 もう一つ,近年において注目すべきなのはクラウドゲームサービスだろう。これが再びの盛り上がりを見せつつあるのには,Xbox Game Passなどのサブスクリプション・モデルの浸透が影響しているのは明らかだ。
 とはいうものの,クラウドゲームもまた,サブスクリプション・モデル同様,さまざまな種別がある。まずJijiashvili氏は,現在稼働してるクラウドゲーミングを「ざっくりとした分け方にはなるが」と前置きしつつ,大きく4つに分類した。

  1. AAAタイトルやさまざまなインディーズゲームなどが遊べるサービス
  2. カジュアルゲームを遊べるサービス
  3. クラウドPCを提供するサービス
  4. ある特定のゲームをクラウドで提供するサービス

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 このうち基本プレイ無料のゲームは2.と3.の領域においてチャンスがある,とJijiashvili氏は指摘する。
 この指摘は,少なからぬ人にとって違和感のあるものではないだろうか。ハイパーカジュアルのような,ゲーム本体も軽ければ容量も小さいゲームを,わざわざクラウドゲーミングでプレイすることなどあり得ないのでは? という疑念は,真っ当だと感じられる。
 だが実際には「たくさんのゲームを,その場ですぐに遊べる」ことには大きな優位があり,例えば中国市場では,この優位が大きな効果を発揮しているという。ちなみにこの点には筆者がかつてドイツで聴講したクラウドゲームサービス関係の講演でも指摘されており,「カジュアルゲームをクラウドで」という流れは(コアゲーマーからは非常に見えにくいが)かなり大きな流れとして存在しているようである。「カジュアルなゲームを,パワフルなクラウドPCで遊ぶ」人は,相当数が存在するのだ。

 またモバイルゲームを新興国市場に浸透させるにあたって,モバイルのクラウドゲームサービスは有効であるとJijiashvili氏は語った。新興国で普及しているスマートフォンはスペックが低いものが多く,この市場でハイエンドなモバイルゲームを普及させるにはクラウドゲーミング技術のほうが望ましいというわけだ。
 新興国においてもインターネット回線の強度は上がっており,クラウドゲーミングが普及する可能性は高まっているとJijiashvili氏は予測する。クラウドを通すことで,2025年には120億台を超えるデバイスがゲームが遊べる端末として世界に存在していると予測されていることと相まって,「非ゲーマーにこそクラウドゲーミングは普及していく」という傾向は,見逃せないトレンドになり得るだろう。
 ただしクラウドゲームサービスの市場構造は恐ろしく複雑な状況を呈しており,利用者のニーズの多様化も著しいことには注意が必要だろう。

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サブスクリプションは銀の弾丸ではない


 最後にサブスクリプション・モデルが実際にどれくらいデベロッパに受け入れられているかをJijiashvili氏は示した。
 現時点では,サブスクリプション・モデルを採用している作品がゲーム全体に占める割合は6%程度とまだまだ低いのが実情ではある。しかし現在に至り,ゲームのマネタイズ・モデルは,例えば「パッケージを売った収益が,そのゲームのすべての収益」といった単一のモデルを利用するだけでは収まらなくなっている。
 パッケージゲームであればDLCやシーズンパス,モバイルであればゲーム内課金によるガチャや広告除去など,さまざまな収益化手段を複合的に利用するのが現代のゲーム・ビジネスだ。サブスクリプション・モデルはその「複数のマネタイズ手段の1つ」になろうとしている。
 また2020年には,「サブスクリプション・モデルが導入されるとゲームの価値が下がる」と考えていた開発者(GDCに参加し,アンケート調査に解答した人)は56%であったのに対し,2021年には47%に低下している。まさに2020年と2021年はその変化の分水嶺であったというわけだ(もちろんそこにはXbox Game PassやGoogle Playにおけるサブスクリプション・モデルの普及といった背景もある)。

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 そのうえで,とくに基本プレイ無料ゲームにおいては,サブスクリプションをほかのマネタイズ・モデルと併用することで,可能性を最大化できるとJijiashvili氏は指摘した。つまり,最初は「無料で遊んでみた」プレイヤーが,まずは「少額のゲーム内課金」を行い,それから「シーズンパス」を購入し,最終的に「サブスクリプション購入」に至る……という流れが,マネタイズではベストな選択肢となり得るというわけだ。

 従って基本無料ゲームでサブスクリプション・モデルを導入する場合は,この4段階すべてのプレイヤーを幸福にする施策を打たなくては,長期にわたってサブスクリプションを維持してくれるプレイヤーを確保できない。
 「サブスクリプション・モデルはゲームにとって銀の弾丸ではない」というJijiashvili氏の指摘は,非常に説得力のあるものと言えるだろう。

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「Game Developers Conference 2022」公式サイト

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