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[CEDEC 2022]キャラクターゲームに求められるUI作りとは? “キャラクターゲームのUI制作と大規模ローカライズ対応の全貌”レポート
原作の世界観表現と,ゲームUIとしての分かりやすさを両立する
ゲームのUIは,情報の分かりやすさや操作しやすさといった機能性が重要だ。分かりやすくて操作がスムーズだと,UIとしての評価も高い。その一方で,原作をゲーム化したキャラクターゲームとなると,原作らしさも求められる。フォントやUIの装飾が原作に基づいていたり,メニュー画面でキャラクターが動いたりというように,原作の世界観が表現されているとファンはグッとくるのだ。
しかし,UIとしての機能性の高さと世界観表現を両立させづらいこともある。機能性だけを目指すなら,背景もない真っ暗な画面で文字だけを取り扱うのがよいだろうが,キャラクターゲームとしては素っ気ない。世界観表現に偏重するのであれば,メニューを動かすたびにキャラクターが動いたり,しゃべったりすれば嬉しいはずだが,やり過ぎると軽さや分かりやすさが犠牲になりかねない。それでは,世界観表現と機能性,どちらを優先すべきなのか?
この難しいテーマについて,「NARUTO -ナルト- ナルティメットヒーロー」や「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」「ドラゴンボールZ KAKAROT」といったキャラクターゲームの開発で知られるサイバーコネクトツーで,UIを手がける安西氏が語るのが本講演だ。
安西氏は,キャラクターゲームのUIでサイバーコネクトツーが大切にしている点について,「情報を詰め込まない」「世界観を前面に」「ゲーム演出がUIにも影響」を挙げ,未発売のアクションゲームのUIを用いて解説を行った。
●情報を詰め込まない
リザルト画面ではキャラクターを前面に表示。キャラクターを楽しみつつ,次のバトルに臨めるようにした。コアなゲーム好きが求める「連続ヒット数」「投げ成功回数」といった詳細情報は,リザルト画面でボタンを押すと別画面で表示されるようにしている。原作の世界観を楽しめることを優先しつつ,リザルト画面としての機能性も両立しているわけだ。
●世界観を前面に
モード選択画面には3Dキャラクターを配し,プレイヤーが選択項目を切り替えるたびにポーズが切り替わるようにしている。メニューとしてのレスポンスは多少下がるのだが,ここでは世界観表現を優先している。なお,機能性と世界観表現のバランスはプロジェクトの性質次第とのこと。
●ゲーム演出がUIにも影響
同社が展開した著作権フリーのマスコットキャラ,「CCチュウ」(リンク)の動画における事例。主人公のCCチュウがバトルする際,画面には彼女の体力を示すゲーム風UIが出現する。CCチュウはピンチになると覚醒するのだが,その際にはポートレートも覚醒バージョンに差し替えられている。ゲームの演出がUIにも影響を及ぼしているわけだ。細かな変化ではあるのだが,ここまでこだわらないと演出意図が伝わらないだろうという考えによるものだという。
●公式動画
キャラクターゲームを買う原作ファンに合わせ,コアなゲーム好きが求める情報は別画面に置く。レスポンスよりも世界観表現を優先する。細かなところまでこだわり,ゲームの展開もUIに取り入れる。まさにキャラクターゲーム的なUIの作り方と言えるだろう。
キャラクターゲームを作るうえでは,原作の「版元」(権利を持つところ。漫画が原作なら出版社など)による監修が必要になる。デベロッパが良かれと考えて提案したことも,版元の判断によってはNGになることがある。そして,どういったところを気にするかは版元によって違うため,都度相談していくという。
あるゲームでは,画面装飾にキャラクターが弱点とする花が使われているということでNGが出た。もちろん,非・キャラクターゲームのUIなら何の花を使おうが問題ない。しかし,キャラクターゲームで原作の世界観を表現するうえでは差し障りがあるところというわけだ。
こうした事態が起こり得ることから,サイバーコネクトツーでは,事前にかなり細かいところまで調べたうえで版元へ相談するそうで,こういった部分は,キャラクターゲーム特有の事情と言えるだろう。また,キャラクター制作に当たっては,モデリング,ポージング,レタッチの各段階で版元に監修を依頼している。開発スタッフはもちろんのこと,版元にとっても負担になるのだが,細かなチェックがIPの価値を高めていくのだという。
ゲームUIを作るうえでは,プロデューサーやディレクターがプレイヤーのニーズを取り入れたうえでゲームの目的を整理する「企画」。ゲームデザイナー(プランナー)が目的を実現するために具体的な部分を決める「仕様」。そして,情報の整理やインタラクティブ要素,プレイヤーをどうナビゲートするかを落とし込む「デザイン」といった段階を経て,ビジュアルの制作が行われるという。
こう書くと,安西氏のようなUIアーティストが作業するのはデザインやビジュアル制作だけと思いがちだが,仕様の段階からゲームデザイナーに協力するのが重要だそうだ。よいUIを作るには情報を分かりやすく提示しなければならないが,それには情報を整理して分類し,優先度を付けていく必要があるし,ビジュアルを切り離すことはできない。UIアーティストからゲームデザイナーへアプローチしていき,早い段階で“画面がどのように遷移していくかのフロー”を作っておけば,大きな仕様変更も起こりにくくなるのだという。
6言語対応が今や15言語に。さらなる効率化が求められるローカライズ
続いてローカライズについてが語られた。ローカライズすべき言語は多くなっており,あるゲームのシリーズではかつて6言語で済んだものが,今や15言語になっていたりもするという。こうした状況下では作業の効率化が重要だ。
サイバーコネクトツーでは,まずローカライズすべき単語をデータベースに登録。翻訳作業が進む間に,日本語用のテクスチャを作成し,これをシステムで各言語用に自動複製させて仮テクスチャを作成しておく。そして翻訳が終わり次第,1文字ずつに分けられた文字素材を専用プラグインで整列させる……といった効率化が行われているという。今後も対応しなければならない言語は増えていくため,さらなる効率化を図りたいと安西氏は語っていた。
また,ローカライズの際にどのフォントを用いるかも大きなテーマだ。視認性や可読性を踏まえて選定を行い,翻訳スタッフに意見を求めることもあるという。意見の中には「新聞で使うようなフォントなので,ゲーム的ではない」というものもあったそうで,これも大切な情報と言えるだろう。
ローカライズといえば,話題になるのが“ある国ではOKだが,別の国ではNGになる”といった表現の問題だ。サイバーコネクトツーでもこうした問題には繰り返し直面しているが,その際に得られた知見を「ローカライズクイズ」という遊びのある形で共有する取り組みも行われているという。
“最後の砦”としての誇り
最後に安西氏は,UIアーティストとしての仕事について,最新技術を駆使するというよりは,泥臭い仕事であると語る。サイバーコネクトツーには「UIが最後の砦」という言葉があるそうで,これは仕様が分かりにくかったり,間違っていたりしても,一度UIとして作ってみないと分からないためで,そうした意味でUIは“砦”なのだという。
また,ゲームのほぼすべての画面にUIが関わっていることから,安西氏は「UI制作こそがゲーム制作の主役だ」という思いで開発を続けているのだと語った。
分かりやすさと世界観を両立しなければならないのがキャラクターゲームのUI。ターゲットとするユーザー層を見据えたうえで,ニーズに合わせたものを作っていくというわけで,ゲーム作りに携わる人なら身が引き締まるような気分になったのではないだろうか。
「CEDEC 2022」公式サイト
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