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[CEDEC 2022]“スパコン”と“ゲーム技術”が作りだす新たな世界。「ゲームはスパコンの夢を見るか,スパコンはゲームの夢を見るか」レポート
かつてゲームが普及しだした頃のスパコン(スーパーコンピュータ)は,ハード,ソフトともに別世界の技術だった。しかし近年,ゲームに3DCGが導入され,さまざまなシミュレーションを行うようになり,また,スパコン側もGPU技術など,ゲームグラフィックス技術を採用し,それぞれが非常に近しい存在になりつつある。
本講演は,スパコン「富岳」や「TSUBAME」の経験をもとに,テレビゲームとスパコンの現状,そしてそれらが将来的に手を取り合い,新たな社会の発展につながっていく未来の可能性について言及するというものだ。
まず語られたのは,計算機(コンピュータ)がどういった歴史で成長してきたのか,そして現在どういった運用をされているのか,といった内容だ。
松岡氏によると,スパコンは最先端のテクノロジーを生み出す“ITの申し子”であり,かつては国家レベルで作られるものだったが,現在は民間企業も盛んにスパコンを制作し,産業・ものづくりのあらゆる分野で活躍しているとのこと。
現在,さまざまな活動を経て多くの経歴を持つ松岡氏だが,70年代にマイクロコンピュター(パソコン)が登場した頃は,ゲーム開発者として活動していたそうだ。その後研究者を志し,コンピュータ・ソフトウェアの研究を行ってきた。その基礎研究の多くは,現代のスパコンを含む高性能大規模システムに大きな影響を与えているという。
そこで,これからは並列処理の時代だと信念を持っていた松岡氏は,1990年代にクラスタ型の計算機を自身の研究室で自作し,スパコンの世界ランク入りを果たし,その実績から,「TSUBAME」の制作に携わることになったという。
しかし,まだまだスパコンの性能を向上させていかなければならない。そこで注目したのが,ゲーミングプラットフォームで進化していった“GPU”だ。もともとGPUは,スパコンのアーキテクチャを取り込み成長していったという面があり,それをもう一度スパコンに取り込むことで,さらなる性能アップが見込めるのではないかと考えたのだ。
これにより「TSUBAME」の性能向上に成功,2010年11月に稼働開始した「TSUBAME2.0」は,世界トップクラスのスパコンになったという。
そして,いよいよ話題は「富岳」へ。富岳は,スーパーコンピュータとして世界最高峰の性能と広い汎用性を持ち,さまざまな用途に用いられる。近年では新型コロナウイルスの飛沫拡散のシミュレーションを行い,病院や電車,飛行機など,あらゆる場面,状況での感染率を計測したそうだ。
これは,富岳のAIが,ただ単純に計算速度を求めたものではなく,物理シミュレーションや,ビッグデータ処理の計算に重きを置いた,デジタルツイン(現実の世界をコンピュータ上で再現する技術)のためのAIだからこそ,可能になっているという。
そんなスパコンが,どのようにしてゲームの世界と関わっていくのかというと,実は,PS5のコンソールとしての性能と,富岳に搭載されているノード1つの性能は,ほぼ同一なのだという。また,それぞれの時代における最先端のゲーミングプラットフォームと,スパコンのノードもまた,ほぼ同一の性能をしていたとのこと。
これは,ゲーム機もスパコンも,どちらも長期的に活躍できる最先端の技術を使用して作られているという点で,近しいものだからだ。
実際,最先端のゲーミング技術は,オムニバースやメタバースと呼ばれるデジタルツインの世界を作り上げており,これまでスパコンが計算してきたようなシミュレーションを行うことが可能だ。
例えばNVIDIAは,ゲーミングの技術を物理シミュレーションと融合させ,街1つをまるごと再現し,5Gの基地局を設置した場合,シグナルがどういった伝わり方をするのか,といったシミュレーション世界の設計を行っている。
松岡氏は,これまでAI,物理シミュレーション,ビッグデータを融合させてきたスパコンの技術に,さらにゲーミング技術が加わることで,より進化した世界が構築されることを期待しているのだという。そんな世界を,今この講演を見ている,次世代のエンジニアたちが作り上げるのを楽しみにしているとして,講演を締めくくった。
「CEDEC 2022」公式サイト
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