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[CEDEC+KYUSHU]キャラクターボイスの立ち会い収録とリモート収録の違いとは。ガンバリオンの事例が語られたセッションをレポート
もはやゲームでは欠かせない存在となったキャラクターボイス。そんな音声収録の現場でも近年では,リモートでの収録が珍しくなくなってきているという。今回のセッションでは,ガンバリオンでサウンドエンジニアとして活躍する廣瀬祐一氏が登壇し,実際に行ったリモート収録の事例を解説しながら,収録を行った際の機材やソフトの紹介,現場の立ち会い収録とリモート収録の違い,リモート収録の注意点などを紹介した。
廣瀬氏はゲームの音声収録は大まかに「下準備」「収録」の2つに分かれると語る。まず,「下準備」の段階では,台本やキャラクタープロフィールなどの資料の作成,シナリオ担当者とのキャラクターイメージのすり合わせ,収録スタジオのスタッフと音声収録の順番調整などを行う。
この「下準備」の段階だと,収録が立ち会いでもリモートでもさほど作業に違いはない。リモート収録の場合に,収録音声を中継するハードやソフトを用意したり,モニタリング環境を整えたりする必要がある程度だという。
実際の「収録」では,立ち会いとリモートで作業内容に大きな違いが出てくる。
立ち会いの収録では,演者に良いパフォーマンスで演じてもらうために,様子を観察しながら休憩を入れたり,演者と打ち合わせしてキャラクター像を固めていったりする。
当然のことながらリモート収録では,現場収録のように演者とのコミュニケーションが密に取れるわけではないし,遠隔での音声モニターもすんなりとはいかない。うまくいくかどうかは下準備やリモート環境の構築に左右されるそうで,廣瀬氏はガンバリオンが過去に行った事例を上げながら,それぞれで得た学びや反省点を語った。
1つ目の事例は,2018年に行ったアニメIPのオープンワールドゲームの収録だ。ここでは廣瀬氏が東京の収録スタジオから状況を中継し,福岡のディレクターにリモートで音声を聞かせながらディレクションを行うという形で行われた。
スタジオで収録した音声のみをFaceTimeを通して中継確認できるようにし,コミュニケーションツールとしてSkypeのボイスチャットとテキストチャットを用意していたそうだ。
廣瀬氏は,この収録には機材の検討期間があまりなかったと語っていたが,結果的にリモートでも演技が問題なく聞き分けられ,ディレクションも出せるレベルの音質だったという。
一方,コミュニケーション面では大きく課題が残ったと廣瀬氏は語る。今回の収録では,福岡のディレクターと東京の収録スタジオの間に中継担当として廣瀬氏が入っていた。それにより福岡からの指示や判断を,廣瀬氏が聞いてから収録スタジオ側に伝えていたそうで,これによりコミュニケーションにかなりの時間を割かれてしまったそうだ。
これについて廣瀬氏は,「リモート収録で高音質な音声を届けることしか頭になく,コミュニケーションまで気を配れなかった」「社内の音や映像が入るとほかのプロジェクトの守秘義務に抵触するかもしれないという配慮が進行に影響を与えてしまった」とし,ディレクション側の音声を直接現場につなぐことの大切さや,中継をモニターする場所を専用に確保することの必要性を学んだと語っていた。
続いては,2021年に行われたガンバリオンがパブリッシングするタイトルにおける事例が紹介された。コロナ禍によってリモートで行うことになったこの収録では,リモートレコーディングシステムのVST Connect SEとVST Connect Performerを使って,映像と音声による中継を行い,リモートでディレクションを行ったという。
また,中継をモニターできる場所を用意し,トラブルがあったときの接続手段としてZoomによるビデオ会話も準備するなど,以前の収録以上に準備を入念に行ったそうだ。
結果として,音声のモニタリングは問題なく進んだが,新たな問題として中継ソフトウエアの設定が複雑であったことが挙げられた。今回はリモート収録側のスタジオが慣れていたため,環境構築ができたものの,設定の複雑さがスタジオ側に負担となる懸念があると,廣瀬氏は語っていた。
さらに,収録時間がタイトになること,現場との相互共有コミュニケーションが求められることも懸念点としてあげられていた。
以上を踏まえて,2022年に行った追加収録では,VST Connect SEではなく,Audiomoversの「LISTENTO」を使用してのリモート収録が行われた。
LISTENTOは,DAW(Digital Audio Workstation)からの音声を直接ストリーミング出力できる音源送受信サービスで,モニター側はWebブラウザを開いて接続するだけという導入のしやすさがVST Connect SEとの違いである。これにより,設定の複雑さが解消され,導入の負担を減らすことができたのだという。
以上の事例を総括して廣瀬氏は,実際の収録の進行の手順などはほぼ変わらないとしつつも,リモート収録に立ち会うためのクローズドな環境の構築が必要であり,不測の事態に備えたサブ回線の用意などの事前準備が,現場の立ち会い収録よりも大事になると語っていた。
さらに,リモート収録は演者とのコミュニケーションの機会が現場の立ち会い収録より減ってしまうことを指摘し,オリジナルキャラクターなどを“土台”から作る場合は,立ち会い収録が好ましいとした。そして,演じるキャラクター像が固まっている場合に,コストのかからないリモート収録を行うといった使い分けが大切だとし,講演をまとめた。
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