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ヨコオタロウ流シナリオ作りの背骨は「自分へのダメ出し」。濃密なゲーム制作の知見が展開された「GFF AWARD 2023」トークショーレポート
シナリオ作りのこだわり,ヨコオタロウ流のプロットの作り方が明らかに
トークショーは松山 洋氏が聞き役を務め,3つのトークテーマに沿って進行した。「宇宙で2番目にダメなゲームの作り方 2023ver.」というタイトルとは裏腹に,ヨコオタロウ氏のシナリオ作りにおけるさまざまな知見が明かされた。
最初のテーマは,「ヨコオタロウの考える“面白いシナリオ”の定義は」。ヨコオ氏は前提として,ゲームの面白いシナリオは演出やキャラクターなどさまざまな要素が複合して生み出されるものであり,それらの要素のどこに好ましさや面白さを感じるかは人それぞれであると話す。
また,ヨコオ氏は,「どんな要素を出しても16%くらいの人は面白いと思わない」と独自の統計を披露する。例えば猫が死んでかわいそうという話を作るとして,84%の人はかわいそうと感じるが,残りの16%の人は何も感じない。むしろ「ざまあみろ」と思う人も2%ほどいるとのことだ。
つまり,かわいそうな猫を助けるゲームを作ったとして,いくらその後の展開が面白くなろうとも16%の人にとっては最初から合わないゲームになってしまうという。「話を面白くするテクニックはいろいろあるが,それらを使うたびに16%の人が削ぎ落されていくことを考えている」とヨコオ氏は語る。
ただヨコオ氏はこの問題に対して,「ショットガン戦法」と呼ぶ独自の解決法を提示する。先ほどの「猫が死んだらかわいそうな話」であれば,さらに「小さい女の子が死んだらかわいそう」「おばあちゃんが虐待されてかわいそう」といった,「世の中のかわいそうコレクション」を詰め込むことで,いずれかがプレイヤーに刺さることに期待するという。また,ショットガン戦法では,食い合わせが悪い要素を同時に使わないよう取捨選択の必要があるとのことだ。
ショットガン戦法に感心した松山氏が「そのような戦法はどこで学んだのか?」と聞くとヨコオ氏は,「アートディレクターからゲームディレクターに配置転換された際に,必要に迫られた結果として生まれたもの」と回答した。最初期は自分のシナリオを読んでも「なに言ってるかわかんねぇな」という状態だったが,わからない理由を直していったら自然と生まれたそうだ。
「自分で自分にダメ出ししながら作ってるってことか……」と松山氏がつぶやくと,ヨコオ氏はそれを拾い,「自分に自分のダメ出しをさせるのが,ぼくのシナリオ作りの背骨。ひたすらダメ出しをさせている」と話す。
また,スケジュールのなかにチューニング期間を盛り込んでいるのかという質問に対して,ヨコオ氏は否定したうえで「締め切りは破って,どれだけ逃げ切るか。その勝負」と力強くコメントする。「ディレクターや社長に怒られてもシナリオライターが書かなければ終わらないから,存分に遅れていい」と,確固たる信念を口にしていた。
ふたつめのテーマは,「これまで手掛けてきた作品のシナリオで大切にしてきたことは」。ここでは「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズや「ニーア」シリーズなどで,ヨコオ氏がシナリオを書く際に決めていたコンセプトが順に語られていった。
ヨコオ氏はゲームを作る際,「前と違う話を作る」ことをコンセプトに掲げて,シナリオやゲームデザインの制作に入っているという。「残虐な話を作る」と決めて「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズを生み出し,ヒットさせたヨコオ氏は,次に取りかかった「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」では,「悲しい話」をコンセプトに掲げて,またもや評価の高いシナリオを創出した。
さらに次の作品となる「NieR:Automata」は,「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」に連なるシリーズもので,「悲しい話を期待されている」と感じていたが,同じコンセプトを良しとせず,「変な話を作る」ことに注力したそうだ。
プラットフォームがスマートフォンに移った「SINoALICE」では,「ソーシャルゲームのシナリオは読まない」というヨコオ氏自身の経験と,「そんな人間が自分の書いたシナリオだけは読んでほしいと思うのは傲慢。耐え難い」という矜持から,「1タップで飛ばせるシナリオ」――つまり1ページで完結するシナリオを積み重ねていったという。
しかし「NieR Re[in]carnation」では,1ページで完結するシナリオは制作側からNGが出てしまったようで,代案として,フィールドを歩いている際に発生する会話でストーリーが進んでいく「移動していたら話が終わる」形式にシナリオを落とし込んでいったそうだ。
続いて話題に挙がったのは,ヨコオ氏がゲームシナリオを手がけた作品としては直近の作品である,「Voice of Card」シリーズ。こちらはシナリオよりゲームデザインに合わせて作ったタイトルのようで,「ボイスドラマCDにインターフェースを付け加えたらどうなるだろう」という発想から制作が始まったという。そこから「ドラゴンの島」「できそこないの巫女」「囚われの魔物」の3作が生まれたそうだ。
ヨコオ氏は,「シナリオより体験が大事。その体験を毎回違うものにしたい」と常々考えているという。そのため,自分の作品群に対し語られる「ヨコオテイスト」という評価は,「自分の芸風の狭さ」によるものとし,あまりいいことだとは思っていないと話す。さらに「できれば毎回まったく違ったものを楽しんでもらえるようになりたい」と続け,ふたつめのコーナーを締めくくった。
最後のテーマは,「ヨコオタロウ流のゲームシナリオの書き方は」。ここでは「”覚醒”というタイトルのバトルゲームを作って」というオーダーがあったと仮定して,松山氏とヨコオ氏が協力してプロットを練り上げていく過程が見られた。
今回のプロット作りは,ヨコオ氏の普段の制作方法にのっとった,一度面白いと思ったアイデアの面白くないところを探して直すことを永遠にくり返すという,「自己否定」による制作手順によって進められた。
松山氏の出したアイデアにヨコオ氏が真逆ともいえる要素を加え,プロットに厚みを持たせていく方法で進行することになると,「チュートリアルを兼ねたキャッチーなゲームの入口」の設定のアイデア出しから始まり,主人公の目的や伝えたいテーマなどが矢継ぎ早に決まっていった。
しかし松山氏がゲームのテーマを「愛」にすると言うと,ヨコオ氏は「今回は否定を重ねる役割なので……」と前置きしつつ,「ありきたりすぎてつまらない。テーマとして語られると,うすら寒いと思う人もいる」と断言する。そして,テーマが愛だった場合に乗れない人たちを「言いくるめる」解決策として,表向きのテーマに「だましあい,人間の欲望に勝利する知性」を設定し,真のテーマとして「愛」を持ってくることが提案された。
表向きのテーマが決まると,松山氏のアイデア出しに加えてヨコオ氏の筆も乗ってきて,プロットはどんどん固まっていく。十数分という時間制限があるなか,真のテーマである愛を表現するためのエンディング,ステージボスの特徴やステージ序盤の構成,主人公や周りの登場人物の設定,主人公は相手が持つなんらかの力を奪って強くなっていくというゲームシステムなどが次々と決まり,最終的には画像のようなプロットが出来上がった。
すべてのトークテーマを消化し終了の時間が迫ると,コーナーを締めくくるために「未来のクリエイターへのメッセージ」を送ってほしいとヨコオ氏にリクエストが入る。
ヨコオ氏は配信を見ている層を若手クリエイター,学生と仮定したうえで,「29歳以下は経験がないから間違っていることがいっぱいある。30歳以上はこれまでの人生を肯定したいがために,正しくないのに延々自分が正しかったということを説明する。だから誰の言うことも信じなくても大丈夫だよって言いたいです!」という,ヨコオ氏らしさを感じられるエールが送られ,トークショーは終了した。
「福岡ゲームコンテスト GFF AWARD 2023」公式サイト
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