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JASRAC「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」を公開。クリエイターを尊重し,文化芸術の発展が阻害されない音楽界へ
一方,音楽業界では日本音楽著作権協会(JASRAC)が2023年7月24日,「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」を公開した。
こちらは,7月5日開催の理事会での決議案をまとめた声明だ。
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あらかじめ要点をまとめると,下記となる。
※「音楽の話」もしくは「音楽のみならずの話」
・「創造性の尊重」
・「フリーライドへの懸念」
・「国境なきAIとの国際的調和」
・「クリエイターの声を丁寧に聞くこと」
そのうえで一つずつ追っていくと。
生成AIの開発・利用は、創造のサイクルとの調和の取れたものであれば、クリエイターにとっても、文化の発展にとっても有益なものとなり得ます。
しかし、クリエイターの生み出した文化的所産である著作物が生成AIによって人間とは桁違いの規模・スピードで際限なく学習利用され、その結果として著作物に代替し得るAI生成物が大量に流通することになれば、創造のサイクルが破壊され、文化芸術の持続的発展を阻害することが懸念されます。
調和が取れれば有益だが,「(クリエイターの著作物を学習した,創作者の代替に等しい)AI生成物の大量流通」が行われると,文化芸術の持続的発展が阻害される可能性がある。それが懸念だという。
続いて。
著作権法第30条の4の規定によって、営利目的の生成AI開発に伴う著作物利用についてまで原則として自由に行うことが認められるとすれば、多くのクリエイターの努力と才能と労力へのフリーライド(ただ乗り)を容認するものにほかならず、フェアではありません。
そのようなAI開発事業者によるフリーライドが日本においては容認されるとする見解が散見されるため、大きな懸念を抱かざるを得ません。
クリエイターの労力へのタダ乗りを容認する見解が散見されること,またそれを促すAI開発事業者に,大きな懸念があるという。
他意はなく,音楽コンテンツの厳格な門番として知られる団体だけに,この項における意志の強さは信頼できそうである。
続いて。
政府のAI戦略会議がいうとおり、「AIには国境はなく、国際的な流通が容易であり世界中に影響を及ぼし」ますので、「国際的に共通の大きな考え方・ルールの整合性」を確保していく必要があります。G7広島首脳コミュニケで掲げられた「責任あるAIの推進」、「透明性の促進」といった観点から様々な課題に対処すべきです。
生成AIの学習に伴う著作物の利用について、「著作物に表現された思想又は感情」の享受の目的がないという整理の下に著作権を制限する法的枠組みを持つ国はG7の中で日本だけであり、調和の観点から大きな懸念があります。
こちらは大きな枠組みと,そこに敷くべき前提ルールとあり,個々人への影響や具体例・具体性には乏しい。とはいえ,一地域のみならず全世界を見据えることで,建前でも本音でもさまざまな利を考えられる。
ただ,最後の一文で表明している懸念は,言ってしまえば「どうしようもない可能性がある」。そうした諦観に聞こえなくもない。
続いて。
上記1から3までのとおり、現状では、多くのクリエイターが生成AIについて懸念を抱いています。国内の議論を充実させ、国際的な調和を図るためには、クリエイターの意見を広く丁寧に聴くことが欠かせません。
そして、世界中のクリエイターが安心して創作活動に打ち込むことができるよう、その懸念の解消を図ることが文化芸術及びコンテンツビジネスの持続的発展のために必要です。
同団体からすればサウンドクリエイターのくくりであろうが,「議論を充実させ,調和を図るために,創作者の意見を聞く」とも「創作者の意見を聞いて,議論を充実させ,調和を図る」とも取れる。
同団体が具体的な施策を舵取りするわけではないだろうが,どの業界もAIに対してトップダウンか,ボトムアップか。スタートの違いで今後の潮流が変わりそうなところはある。いずれにせよ,クリエイターの声を聞くことには前向きと見ていいのだろう。
本件は音楽業界におけるAIへの見解だ。対してゲーム業界は構造的に,現状は各メーカーがそれぞれお気持ち表明するしかないだろう。許可や禁止の判断は,さらに上層のプラットフォーマーの見解が強そうであるが,彼らもまた新たに整備されゆく法を仰ぐか,もしくは同団体やCERO的な“AIレーティング団体”に仰ぐようになるだとか。
個人レベルでも団体レベルでも,考えても考えても悩みは尽きないが,こうして悩みを洗い出していくのも歩み寄りの一歩だろう。
「JASRAC」公式サイト
「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」を発表
一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、7月5日の理事会での決議に基づき、次のとおり「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」をまとめ、発表いたしました。
JASRACは、クリエイターが安心して創作に専念できるよう、創造のサイクルとの調和が取れたAI利活用の枠組みの実現に向けて検討や提言を行ってまいります。
1 人間の創造性を尊重し、創造のサイクルとの調和を図ることが必要です。
生成AIの開発・利用は、創造のサイクルとの調和の取れたものであれば、クリエイターにとっても、文化の発展にとっても有益なものとなり得ます。
しかし、クリエイターの生み出した文化的所産である著作物が生成AIによって人間とは桁違いの規模・スピードで際限なく学習利用され、その結果として著作物に代替し得るAI生成物が大量に流通することになれば、創造のサイクルが破壊され、文化芸術の持続的発展を阻害することが懸念されます。
2 フリーライドが容認されるとすればフェアではありません。
著作権法第30条の4の規定によって、営利目的の生成AI開発に伴う著作物利用についてまで原則として自由に行うことが認められるとすれば、多くのクリエイターの努力と才能と労力へのフリーライド(ただ乗り)を容認するものにほかならず、フェアではありません。
そのようなAI開発事業者によるフリーライドが日本においては容認されるとする見解が散見されるため、大きな懸念を抱かざるを得ません。
3 AIには国境がないので、国際的な調和を確保すべきです。
政府のAI戦略会議がいうとおり、「AIには国境はなく、国際的な流通が容易であり世界中に影響を及ぼし」ますので、「国際的に共通の大きな考え方・ルールの整合性」を確保していく必要があります。G7広島首脳コミュニケで掲げられた「責任あるAIの推進」、「透明性の促進」といった観点から様々な課題に対処すべきです。
生成AIの学習に伴う著作物の利用について、「著作物に表現された思想又は感情」の享受の目的がないという整理の下に著作権を制限する法的枠組みを持つ国はG7の中で日本だけであり、調和の観点から大きな懸念があります。
4 クリエイターの声を聴き、懸念の解消を図るべきです。
上記1から3までのとおり、現状では、多くのクリエイターが生成AIについて懸念を抱いています。
国内の議論を充実させ、国際的な調和を図るためには、クリエイターの意見を広く丁寧に聴くことが欠かせません。
そして、世界中のクリエイターが安心して創作活動に打ち込むことができるよう、その懸念の解消を図ることが文化芸術及びコンテンツビジネスの持続的発展のために必要です。
■一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)について
JASRACは作詞家、作曲家、音楽出版社等の権利者から音楽の著作権の管理委託を受け、音楽を利用する方々に利用を許諾し、その対価としてお支払いいただいた著作物使用料を著作権者に分配しています。1939年に国内初の著作権管理団体として設立され、80年以上にわたり、著作権管理のプロフェッショナルとして音楽文化の発展に向けた努力を続けています。
団体名:一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)
代表者:理事長 伊澤 一雅
本部所在地:東京都渋谷区上原3-6-12
設立:1939年11月18日
URL:https://www.jasrac.or.jp
事業内容:音楽の著作物の著作権に関する管理事業、音楽著作物に関する外国著作権管理団体等との連絡および著作権の相互保護、私的録音録画補償金に関する事業、著作権思想の普及事業、音楽著作権に関する調査研究、音楽文化の振興に資する事業
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