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日本における「Tencent Cloud」は,3年連続の急成長を目指す。AI活用のためのネットワーク最適化などにも言及がなされた「TENCENT CLOUD DAY JAPAN 2024」をレポート
本稿では,同カンファレンスの基調講演と,そのあとに行われたQ&Aセッションの模様をレポートする。
基調講演
こうした成長を受けて,2024年度は「先進のクラウドコンピューティングソリューションとイノベーション技術を提供して,さまざまな業界をエンパワーし,企業のDXを実現する」をミッションに掲げるという。
そのミッションを達成するべく掲げられた三つの目標も紹介された。一つめは「顧客のニーズに応え,常に最先端のプロダクトを提供」。二つめは「パートナー企業の導入を加速。パートナーと協力して,日本におけるTencent Cloudのエコシステムを強化」。そして三つめは「既存インダストリーの深掘りとAI,エンタープライズインダストリーのチャレンジといったことで新しい売上を創出し,マーケットシェアをさらに拡大させる」というものだ。
これらの目標を達成することにより,最終的に目指すのは「メジャー・パブリック・クラウドサービスプロバイダー」であると,Liu氏は語る。
次に,Tencent Cloudが持つ四つの特徴および優位性が紹介された。まず「顧客に寄り添うクラウド」に関しては,企画段階から営業チームやサービスアーキテクトによるコンサルティングを行い,どのようにTencent Cloudを活用するのか,どのように使えば目的を最短ルートで実現できるのかといった説明をするのだという。
ほかにもSlackなどのメッセージングアプリを活用し,顧客とエンジニア達がタイムリーにコミュニケーションを取ることによって,プロセスをスピーディーに進行することに努めているという。
また,運営フェーズにおいても,安定運用に至るまで定期的なフィードバックを通じて,サービスの最適化やブラッシュアップの手助けをすることにも言及がなされた。
二つめの「ゲームとエンタメのクラウド」に関しては,Tencentグループがもともと大手ゲーム企業であり,ゲームに関するノウハウが豊富であることが語られた。現在も「PUBG Mobile」「リーグ・オブ・レジェンド」「Honor of Kings」「NIKKE」といった大型タイトルをサポートしており,とくに大規模同時接続や迅速なシステム復旧が得意であるとの説明がなされた。また,ゲームに特化したPaaSが多いことも特徴である。
さらにAPAC地域ではオーディオ・ビデオ分野のカバー率はNo.1のライブ配信サービスであることや,次世代サービス向けの機能が多いことも紹介された。
三つめの「InboundとGo Chinaに強いクラウド」については,Tencentグループがさまざまなサービスを展開しており,かつ中国におけるシェアが高いことから,それらのエコシステムが莫大なユーザー数を誇っていることが紹介された。たとえばSNSの「WeChat」はMAUが13億弱に上るとのことで,それを活用してインバウンドや中国進出に関連するビジネスの手助けができるという。加えて,強力なデータ処理能力とグローバルネットワークの最適化により,スムーズなサービスを提供できることも言及された。
四つめの「経営に優しいクラウド」に関しては,業界標準またはそれ以上のレベルを保ちつつも,競合他社と比較してかなりリーズナブルで優位性のあるコストパフォーマンスを実現していることや,環境構築やマイグレーション作業のコストを削減するためのソリューションを提供していることが紹介された。
最後に,2024年度の日本における目標と戦略が紹介された。まず売上規模は,2023年と同じく80%以上の成長率を目指し,市場シェアをさらに拡大させていきたいとのこと。
具体的な戦略は三つあり,一つめは「プロダクト強化」を引き続き行い,Tencentグループの多彩なPaaSを活かして,ソリューション化およびエコシステムの構築を推進していくという。また自社開発の各ソリューションとプラットフォーム型ツールSaaS型サービスの開発・推進も行い,パートナーと共同で日本市場の拡大を目指すそうだ。
二つめは「チャンネルエコシステムの構築」で,Liu氏は「重要な戦略」とアピール。すなわち,連続して高成長を達成するには社内のリソースだけではカバーしきれない部分が出てくるため,パートナーの協力を得てチャンネル体制を安定させることが必要になるという。Liu氏は,「パートナー様にも利益とビジネスチャンスをしっかり供給して,新しいマーケットの成長ポイントを一緒に探していきたい」と話していた。
三つめは「技術革新と市場拡大へのフォーカス」で,AI技術を駆使して技術革新を進め,クラウド製品をさまざまな業界に適用していきたいと考えているとのこと。こちらもパートナーと協力し,新たな市場・業界への展開を図っていくという。
Tencent Cloud Vice PresidentのYachen Wang氏によるセッション「Astral Network-Tencent Cloud 大規模AIネットワークソリューション」では,同社が開発・運用しているAIハイパフォーマンスネットワークソリューション「Astral Network」が紹介された。
このソリューションは,AIの高い演算効率に対応するべく,従来のCPUベースではなくGPUベースによってデータセンターを構築していることや,AI学習をGPUサーバーでサポートするために,ネットワークの帯域幅や遅延,パケットロスを重視した設計になっていることなどが説明された。
Tencent Cloud Database General Manager 邹 鹏氏によるセッション「ベクトルデータベースから生成AIアプリケーションの高速化」では,画像やテキスト,音声,動画,3Dデータなどの非構造化データを,計算可能なデータに変換する同社の「ベクトルデータベース」(VDB)が紹介された。VDBではエンベディング技術の採用により,大規模言語モデル(LLM)エージェントを使って自然対話形式でデータの検索ができるとのこと。
Q&Aセッション
最初の質問は「日本で展開している競合他社と比較したとき,クラウドプロバイダーとしてのTencent Cloudの長所は何か」というもの。その回答として,まずリサーチ企業のGartnerによると,2023年度のTencent Cloudは世界のクラウドプロバイダーの中で第5位であることが示された。そうなるとTencent Cloudよりも評価の高い競合他社がいるわけだが,Yeung氏はTencentグループの強みはBtoCのビジネスで25年間の実績を持っていることであり,何十億というMAUに対してコンテンツを提供できると説明した。
またFrost & SullivanによりAPAC地域では第1位,Guinness World Recordsではデータベースプロセッシング分野で第1位と評価されていることも紹介された。
加えて,Tencent Cloudの主力となっているのがゲームであることが紹介され,それは日本市場でも同じであることも示された。ただ,Tencentグループがそもそもゲームを主軸としているため,ポートフォリオを増やすべく,中国でビジネスを展開しようとしているゲーム企業以外の企業──BMWやメルセデス・ベンツなどを支援していることも言及された。
「日本におけるTencent Cloudは2022年度に前年度100%以上,2023年度に80%以上成長したとのことだが,具体的な内容を教えてほしい」という質問には,「具体的な数字は控えるが」と前置きしつつ,「ただ言えることは,グローバルな市場の中で,日本はもっとも成長した国の一つ。そして2024年度も,この急ピッチな成長は継続していくと予想している」との回答がなされた。
「シリコンバレー,中国,日本という三つの市場の違いは」という質問には,「テクノロジーの観点からは,そこまで大きな違いはない」として,「非常に重要なのは,顧客とどのような信頼関係を構築するか。Tencentなら大丈夫だと思ってもらえることが重要」との回答が示された。また,そうした関係を構築するためには,素晴らしい製品を提供することと,なるべく早い段階からPoC(Proof of Concept,概念実証)を通じて顧客との関係性を高めていく必要があることにも言及された。
さらに欧米市場とアジア市場の違いとして,欧米では例えばWebサイトをクリックして簡単に手に入れられるようなソリューションを求めるのに対し,アジアではサービスプロバイダを早い段階から利用してクラウドを管理したい,アーキテクチャの設計を行いたいという傾向にあることが挙げられた。
セッションの最後,あらためてTencent CloudのAI展開について問われたYeung氏は,すでに中国では人口の95%が何らかの形で同社プロダクトのユーザーとなっていることを指摘。「データ分野においても,Tencentグループとパートナー企業のデータを使ってAIの学習を進め,AIソリューションのエンジンを構築し,世界に幅広く展開をしていく」と意気込みを見せていた。
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